

妻を年金受取人に指定しただけで、受取初年度に631万円の贈与税が発生した事例があります。
個人年金保険に関わる税金は、「誰が保険料を払い、誰が年金を受け取るか」という契約形態と、「一括で受け取るか、年金で受け取るか」という受取方法の組み合わせで決まります。大きく分けると、所得税(雑所得または一時所得)・贈与税・相続税の3種類が関係してきます。
まず最も基本的なケースとして、契約者(保険料を負担した人)と年金受取人が同一人物である場合を確認しましょう。この場合、毎年分割で年金を受け取ると「雑所得」として所得税・住民税の対象となります。一方、満期時に一括で受け取ると「一時所得」として扱われます。雑所得と一時所得では計算方法が異なるため、どちらで受け取るかによって最終的な手取り額が変わります。
次に、契約者と年金受取人が別人の場合です。これが最も注意が必要なパターンです。受取を開始した初年度に「年金受給権の評価額」に対して贈与税が課され、2年目以降は雑所得として所得税が課税されます。つまり同じ契約でも、受取人を誰にするかで、税の種類がガラリと変わるわけです。
| 契約形態 | 受取方法 | 税金の種類 |
|---|---|---|
| 契約者=受取人 | 年金(分割) | 雑所得(所得税・住民税) |
| 契約者=受取人 | 一括 | 一時所得(所得税・住民税) |
| 契約者≠受取人 | 年金(分割) | 初年度:贈与税/2年目以降:雑所得 |
| 契約者≠受取人 | 一括 | 贈与税 |
雑所得と一時所得のどちらが有利かは、受け取る金額や他の所得水準によっても変わります。ただし一般的に、一時所得には「50万円の特別控除」と「課税対象額を1/2にする」という2段階の優遇措置があるため、利益部分が大きい場合は一時所得のほうが有利になるケースが多い点は押さえておきましょう。
実際の数字で計算の流れを確認してみましょう。以下の条件を例に解説します。
【パターン①】年金で受け取る場合(雑所得)
雑所得の計算式は「総収入金額 − 必要経費」です。必要経費は「年金受取額(年額)×(払込保険料の合計額 ÷ 年金の総支給見込額)」で求めます。
この例では、必要経費の割合は 1,800万円 ÷ 1,890万円 = 約0.953…となり、小数点第3位以下を切り上げて0.96として計算します。したがって、必要経費は 189万円 × 0.96 = 181.44万円です。雑所得の金額は 189万円 − 181.44万円 = 7.56万円となります。
つまり、年間189万円受け取っても課税対象となる雑所得はわずか7.56万円ということですね。この雑所得は給与など他の所得と合算して税率が決まります(総合課税)。
【パターン②】一括で受け取る場合(一時所得)
一時所得の計算式は「総収入金額 − 収入を得るために支出した金額 − 特別控除50万円」で、さらに課税対象となるのはその1/2です。
この例では、1,872万円 − 1,800万円 − 50万円 = 22万円となります。課税対象はその1/2で11万円です。一括受取の場合は1回きりの課税となり、負担感は年金受取より低く抑えられます。
なお、雑所得の金額が25万円以上になる場合、保険会社が「雑所得 × 10.21%」を源泉徴収します。ただしこれは仮払いに過ぎず、確定申告で精算が必要です。源泉徴収されたから申告不要、というわけではありません。
国税庁の公式解説でも、計算方法や源泉徴収の仕組みが詳しく掲載されています。
国税庁 タックスアンサー|No.1610 保険契約者(保険料の負担者)である本人が支払を受ける個人年金(国税庁公式・令和7年4月1日現在)
金融に関心がある人でも見落としやすいのが、「契約者と年金受取人が違う場合の贈与税リスク」です。例えば、夫が保険料を払い、妻を年金受取人に指定しているケースがこれにあたります。
贈与税の計算式は「年金受給権評価額 − 基礎控除110万円」で、税率は課税価格によって段階的に決まります。仮に年金受給権評価額が1,872万円の場合、課税価格は 1,872万円 − 110万円 = 1,762万円です。この課税価格が1,500万円超3,000万円以下の場合、税率は50%・控除額250万円なので、贈与税は 1,762万円 × 50% − 250万円 = 631万円にのぼります。
631万円という数字は、東京23区の平均的なサラリーマンの年収に近い額です。これが受取初年度に一度に発生するわけですから、準備なしではかなりの打撃になります。
回避策は明確で、原則として「契約者=年金受取人」にしておくことが最善です。すでに異なる設定になっている場合でも、年金受取開始前であれば変更が可能なケースがあります。保険会社に問い合わせて、受取人を契約者本人に変更する手続きを確認するのが最初のアクションです。
また、どうしても受取人を別の人にする必要がある場合、毎年の年間受取額を110万円以下に設定するという方法も存在します。贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、これを超えなければ課税を避けられます。ただしこれは契約設計に関わる話なので、新規加入時の検討段階で押さえておく知識です。
個人年金保険を払い込んでいる期間中は、「個人年金保険料控除」を利用して所得税・住民税を減らすことができます。これは多くの人が活用していますが、実は控除を受けるための条件を満たしていない契約も存在します。
個人年金保険料控除の適用を受けるには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
上記の条件を満たす必要があるのは、「個人年金保険料税制適格特約」が付加されている契約に限られます。この特約が付いていない場合、個人年金保険料控除ではなく「一般生命保険料控除」の対象となります。一般生命保険料控除は他の生命保険と枠を共有するため、すでに終身保険などに加入している場合は控除の恩恵が目減りする可能性があります。
また、変額個人年金保険も同様に「一般生命保険料控除」の対象となり、個人年金保険料控除の対象にはなりません。これは意外ですね。
控除の上限は、2012年1月1日以降の新契約の場合、所得税で最大4万円、住民税で最大2.8万円です。年間保険料が8万円以上であれば上限まで控除を受けられます。仮に所得税率が20%の場合、4万円の控除で年間8,000円の所得税が減ります。30年間払い続けると単純計算で24万円の節税効果になるため、長期的に見ると大きなメリットです。
控除を確実に受けるには、毎年10月〜11月頃に保険会社から送られてくる「控除証明書」を年末調整または確定申告で提出することが条件です。証明書を紛失した場合は再発行が可能なので、早めに保険会社へ連絡しましょう。
個人年金保険の雑所得が年間20万円以下であれば「確定申告は不要」という認識を持っている人は多いでしょう。これは所得税に関しては正しいルールです。ただし、この「20万円ルール」は所得税の申告に限った話であり、住民税の申告は別途必要という点が見落とされがちです。
給与所得者の場合、個人年金保険から受け取る雑所得を含む「給与所得・退職所得以外の所得の合計」が20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要です。しかし住民税は国税ではなく地方税であり、別のルールが適用されます。つまり所得税の確定申告をしなかった場合でも、市区町村への住民税申告は原則として必要になります。
申告が必要なのに行わないと、後日自治体から「住民税の申告をしてください」という通知が届く場合があります。最悪の場合、延滞税や過少申告加算税が発生することもあります。申告自体は市区町村の窓口で行えますし、郵送・オンラインでも対応しています。
一方、所得税の確定申告を行った場合は、その情報が市区町村にも共有されるため、住民税の申告は不要になります。結論として、確定申告をしておくのが最もシンプルで安全な対応です。
なお、公的年金の収入金額が400万円以下で、かつ個人年金保険などの雑所得が20万円以下の場合は、所得税の確定申告は不要です。この条件を両方満たす場合でも、住民税の申告については自治体のルールを確認する必要があります。
生命保険文化センター|保険金や年金を受け取っても所得税の申告が不要な場合とは?(住民税の申告義務について解説)
個人年金保険を途中解約した場合に受け取る「解約返戻金」にも税金がかかります。原則として一時所得として扱われ、計算方法は一括受取時と同じです。「解約返戻金 − 払込保険料総額 − 特別控除50万円」の金額の1/2が課税対象になります。
差益が50万円以下であれば一時所得の課税対象額はゼロになるため、実質的に税金はかかりません。これが条件です。
ただし、一時払い契約の場合には注意が必要です。一時払個人年金保険や変額個人年金保険(確定年金)を契約日から5年以内に解約した場合は、「金融類似商品」とみなされ、通常の一時所得とは異なる課税方式が適用されます。この場合、解約返戻金と払込保険料の差額に対して一律20.315%の源泉分離課税がかかります。
源泉分離課税とは、他の所得とは分離して課税される方式で、確定申告は不要になります。ただし税率が一律20.315%と固定されているため、所得が少なく通常の税率が低い人にとっては不利になる場合もあります。
また、変額個人年金保険の据置期間中に積立金の一部を引き出す場合も、契約から5年以内の引出金は同様に源泉分離課税の対象になります。一時払い変額年金を活用している場合は、この5年という縛りを念頭に置いておくことが重要です。
解約のタイミングや課税方式について詳しくは、国税庁の「No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき」も参考になります。
国税庁 タックスアンサー|No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき(満期・解約返戻金の課税関係を解説)