

解約返戻金の利益が50万円以下でも、あなたは住民税の申告が別途必要になる場合があります。
終身保険を中途解約すると、それまで積み上げた保険料の一部が「解約返戻金」として戻ってきます。問題は、この戻ってきたお金が必ずしも「ただの返金」ではないという点です。受け取った金額が、それまで支払った保険料の総額を上回っていれば、その差益に対して税金が発生します。
かかる税金の種類は、誰が保険料を負担し、誰が解約返戻金を受け取るかという契約の構造で決まります。原則として下表の通りです。
| 保険料負担者(契約者) | 受取人 | 課税される税金 |
|---|---|---|
| 本人 | 本人 | 所得税・住民税 |
| 夫(妻) | 妻(夫)・子など | 贈与税 |
所得税が課税される場合、解約返戻金の受け取り方がさらに税区分を分けます。一括で受け取れば「一時所得」、年金形式で受け取れば「雑所得」として申告します。それぞれ計算式が異なるため、受け取り前に確認しておくことが大切です。
注意が必要なのが「名義と実際の負担者が違う」ケースです。たとえば夫が保険料を実質負担していても、契約名義が妻になっているケースがあります。この場合、解約時に妻が受け取った返戻金は、夫から妻への贈与とみなされ、贈与税の対象になります。贈与税は所得税と異なり、払込保険料を差し引けないため、税負担が一気に重くなる可能性があります。結論は「契約名義と保険料負担者は一致させておく」が原則です。
参考:解約返戻金に係る税金の種類と課税条件(国税庁)
No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき|国税庁
一時所得として申告する場合の計算式は次の通りです。
$$\text{一時所得} = \text{解約返戻金} - \text{支払保険料の総額} - 50\text{万円(特別控除)}$$
さらに、この一時所得の1/2だけが課税所得として他の所得と合算されます。つまり実際の税負担は「利益の半分」に税率をかけた金額です。これは一時所得に認められた大きな優遇措置です。
具体的な数字で確認してみましょう。
| ケース | 解約返戻金 | 払込保険料合計 | 一時所得 | 課税所得(1/2) |
|---|---|---|---|---|
| ケース① | 150万円 | 120万円 | △20万円(非課税) | 0円 |
| ケース② | 200万円 | 100万円 | 50万円 | 25万円 |
| ケース③ | 300万円 | 200万円 | 50万円 | 25万円 |
| ケース④ | 500万円 | 300万円 | 150万円 | 75万円 |
ケース①は解約返戻金から払込保険料を引いた差益が30万円で、そこから50万円の特別控除を引くとマイナスになるため、税金はゼロです。ケース②・③のように差益が50万円ちょうどの場合も、控除後の一時所得がゼロになるため課税されません。課税が始まるのは差益が50万円を超えた部分からです。
給与所得者の場合、確定申告が必要になるのは「給与・退職所得以外の所得が年間20万円超」という基準があります。この20万円は「課税所得(1/2後)」を指すため、逆算すると差益が90万円以下であれば確定申告不要(他の一時所得がなければ)ということになります。これは意外と高いラインです。
ただし「申告不要」と「住民税も不要」は別の話です。所得税の申告が不要でも、住民税は市区町村への申告が必要になることがあります。これが見落とされやすい落とし穴です。
参考:一時所得の計算方法と申告条件(国税庁)
No.1903 給与所得者に生命保険の満期返戻金などの一時所得があった場合の課税の特例|国税庁
「解約返戻金を受け取ったら絶対に確定申告が必要」と思っている方は多いですが、実際には申告不要のケースも少なくありません。条件を整理しておきましょう。
確定申告が不要になる主なパターンは次の通りです。
- 💡 払込保険料>解約返戻金:差益がマイナスのため、所得税も贈与税も発生しない
- 💡 差益が50万円以下(他の一時所得と合算して):特別控除の範囲内で非課税
- 💡 給与所得者で差益が90万円以下:1/2後の課税所得が20万円以下になるため申告不要
- 💡 金融類似商品として源泉徴収済み:保険会社が天引きしており手続き完了
ただし、例外が2つあります。一つ目は、もともと2か所以上から給与をもらっているなど、別の理由で確定申告義務がある人は、解約返戻金の利益額に関係なく全額を申告しなければなりません。二つ目が前述の住民税の問題です。所得税で「20万円以下だから申告しなかった」場合でも、住民税は申告義務が残ります。無申告のまま放置すると、後から市区町村より申告を求められる場合があります。
また、ふるさと納税をしている方は要注意です。ふるさと納税の返礼品の価値も「一時所得」として合算されます。仮に解約返戻金の差益が40万円で、ふるさと納税の返礼品の価値が20万円あれば、合計60万円となり50万円の特別控除を超えて課税対象になります。別々に考えて「どちらも大丈夫」と思っていても、合算すると申告が必要になるパターンです。
参考:解約返戻金の確定申告が必要・不要の判定(税理士法人)
解約返戻金は確定申告が不要?必要・不要をケース別に解説|小谷野税理士法人
「どうせバレないだろう」と考えて申告しなかった場合のリスクは、思った以上に深刻です。これが原則です。
保険会社は、解約返戻金が一時金払いで100万円超(年金払いは20万円超)の場合、税務署に「支払調書」を提出する義務があります。支払調書には、受取人の氏名・住所・マイナンバー・受取金額・支払保険料総額などが詳細に記載されています。つまり税務署はすでに情報を把握しているのです。
申告しなかった場合のペナルティは以下のようになります。
- ⚠️ 無申告加算税:本来の税額に15〜20%が上乗せ
- ⚠️ 延滞税:納税期限からの日数に応じて年2.4〜8.7%が加算(2026年現在)
- ⚠️ 重加算税:意図的な隠蔽があった場合は35〜40%の重いペナルティ
さらに2018年(平成30年)以降、支払調書の提出範囲が拡大されました。契約者の死亡による名義変更があった保険契約も、解約返戻金相当額が100万円以下でも支払調書の提出が必要になっています。以前より税務署への情報提供が格段に増えている状況です。
申告漏れを防ぐためには、解約の翌年の確定申告期間(2月16日〜3月15日)に余裕を持って手続きする習慣が重要です。保険会社から届く「解約返戻金の支払証明書」は、確定申告書の作成に必要な書類なので、届いたらすぐに保管しておきましょう。
参考:確定申告を忘れた場合のペナルティと対処法(国税庁)
No.2024 確定申告を忘れたとき|国税庁
解約返戻金の税負担を正しく理解しておくと、適法な範囲で税金を抑えることが可能です。いくつかの知識を覚えておくだけで、手取りを増やせる可能性があります。
①解約のタイミングを分散させる
同じ年に複数の保険を解約すると、それぞれの差益が合算されて特別控除50万円を超えやすくなります。解約を翌年にずらすだけで、50万円の特別控除を2年分使えます。たとえば差益が各50万円の保険が2本あれば、同じ年に解約すると課税されますが、1年ずつ解約すれば双方とも非課税です。
②ふるさと納税の返礼品と同じ年に解約しない
ふるさと納税の返礼品は「一時所得」に合算されます。保険の差益が30万円あって、返礼品の価値が25万円ある年に解約すると合計55万円となり、課税ラインを超えてしまいます。返礼品が多い年は、解約を避けるか差益を小さく調整するのが有効です。
③一括受け取りか年金受け取りかを検討する
一括受け取りは「一時所得」で50万円控除+1/2課税という優遇があります。一方、年金形式の受け取りは「雑所得」となり控除がありません。ただし他の収入が少ない年(退職後など)に年金形式で受け取ると、所得税率が低く抑えられる場合もあります。自分の所得状況と照らし合わせて、どちらが有利かを試算することが大切です。
④外貨建て終身保険は為替差益にも課税される
外貨建て終身保険を解約した場合、円換算した解約返戻金に対して課税されます。為替が大きく動いた年は、円安による「見かけ上の利益」が膨らんで課税額が増えることがあります。解約のタイミングは金利だけでなく、為替レートも含めて判断しましょう。
節税の具体的な計算は個人の所得状況によって大きく変わります。差益が大きくなりそうな場合は、FP(ファイナンシャルプランナー)や税理士に事前相談することで、より精度の高いシミュレーションが可能です。
参考:一時所得の節税と外貨建て保険の税務処理(国税庁タックスアンサー)
No.1490 一時所得|国税庁