

基礎控除を「全員もらえる控除」だと思っているあなた、年収2,500万円超では控除額がゼロになり税負担が一気に跳ね上がります。
基礎控除とは、所得税や住民税を計算するときに、すべての納税者の所得から無条件に差し引ける金額のことです。日本の憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に基づき、1947年から続く歴史ある制度でもあります。
所得税の計算式は、大まかに「収入 → 所得 → 課税所得 → 税額」という順で進みます。基礎控除は「所得から課税所得を求めるとき」に引く数字であり、これが大きいほど課税所得が少なくなり、最終的に払う税金が減ります。つまり基礎控除が基本です。
たとえば年収400万円の会社員を例にとると、給与所得控除を差し引いた所得が約267万円。そこからさらに基礎控除58万円(2025年改正後)を引くと課税所得は約209万円となり、税率10%で計算した場合の所得税額は大きく変わります。
控除が1円も使えなかった場合と比べると、基礎控除58万円の効果だけで5万8,000円前後の節税になる計算です。これは使えそうです。
重要なのは、基礎控除はあくまで「所得控除」の一種だという点です。税金を直接減らす「税額控除」とは別物で、課税の土台となる所得金額を圧縮する役割を担っています。所得控除は全部で16種類あり、基礎控除はそのなかで最も基本的なものです。
参考:国税庁による所得控除の基本的な解説ページ
国税庁「所得税のしくみ」(公式)
2025年(令和7年)の税制改正で、所得税の基礎控除額が大きく見直されました。従来は合計所得金額2,400万円以下であれば一律48万円でしたが、改正後は所得の段階に応じて控除額が細かく設定されています。
改正のポイントは、年間の合計所得金額が132万円以下の人に適用される基礎控除95万円(恒久措置)が新設されたことです。47万円もの大幅アップは、物価上昇や最低賃金引き上げに伴う就業調整対策として導入されました。
| 合計所得金額 | 所得税の基礎控除額 | 住民税の基礎控除額 |
|:---|:---:|:---:|
| 132万円以下 | 95万円 | 43万円 |
| 132万円超〜336万円以下 | 88万円(※) | 43万円 |
| 336万円超〜489万円以下 | 68万円(※) | 43万円 |
| 489万円超〜665万円以下 | 63万円(※) | 43万円 |
| 665万円超〜2,350万円以下 | 58万円 | 43万円 |
| 2,350万円超〜2,400万円以下 | 48万円 | 29万円 |
| 2,400万円超〜2,450万円以下 | 32万円 | 15万円 |
| 2,450万円超〜2,500万円以下 | 16万円 | 0円 |
| 2,500万円超 | 0円(控除なし) | 0円 |
(※)合計所得132万円超〜655万円以下の段階的加算は令和7年・8年分の時限措置。令和9年分からは一律58万円になる予定です。
この表には一つ大きな落とし穴があります。住民税の基礎控除は今回の改正でも43万円で据え置きのままです。所得税の基礎控除が最大95万円に上がったからといって、住民税も同じだと誤解すると計算が大きくズレます。
給与のみの収入で年収200万円以下の場合、基礎控除95万円と改正後の給与所得控除65万円を合わせると合計160万円となり、所得税は発生しません。これがいわゆる「160万円の壁」です。ただし、あくまで所得税ゼロの話であり、住民税はこの収入水準でも発生する点に注意が必要です。
参考:令和7年度税制改正の詳細は国税庁の公式ページで確認できます。
国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」(公式)
「基礎控除」と「給与所得控除」は名前が似ているため混同されがちですが、別物です。両者の違いをひとことで言うと、給与所得控除は会社員・パート・アルバイト専用のサラリーマン特権であり、基礎控除はすべての納税者に共通するものです。
給与所得控除は、給与収入から差し引かれる「みなし経費」のようなものです。収入が多いほど控除額も大きくなり、収入850万円超であれば195万円もの控除が受けられます。個人事業主には給与所得控除が適用されませんが、実際の必要経費を別途差し引ける仕組みになっています。
所得税の計算における引き算の順序は以下のとおりです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 収入金額 | 年間の給与・事業収入など |
| ② 給与所得控除(会社員のみ) | 収入額に応じた一定額を差し引く |
| ③ 所得金額(①−②) | 会社員の「所得」が確定する |
| ④ 各種所得控除(基礎控除・医療費控除など) | 個人の事情に応じた控除を差し引く |
| ⑤ 課税所得金額(③−④) | この金額に税率をかける |
| ⑥ 所得税額 | ⑤ × 税率(5〜45%) |
給与所得控除は②の段階で働き、基礎控除は④の段階で働きます。別の段階で機能するため、会社員は両方の恩恵を受けることができます。これが「103万円の壁」「160万円の壁」が生まれる仕組みの根拠です。
個人事業主の場合、②の給与所得控除はありませんが、④の段階で基礎控除に加えて青色申告特別控除(最大65万円)も適用できます。この2つは別枠で足し合わせられるため、事業所得から必要経費・青色申告特別控除・基礎控除をすべて差し引いた結果、課税所得がゼロになるケースも出てきます。
基礎控除が原則です。それ以外の控除は条件を満たした人だけに適用されます。
参考:所得控除の種類全体像については弥生の解説記事が詳しくまとめられています。
弥生「基礎控除とは?制度の意義や適用させる方法をわかりやすく解説」
基礎控除を受けるための手続きは、働き方によって異なります。会社員・パート・アルバイトの方は年末調整で対応でき、個人事業主やフリーランスの方は確定申告で手続きを行います。
会社員の場合、毎年10〜11月ごろに勤務先から配布される「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に、合計所得金額の見積額を記入するだけです。記入を忘れると年末調整で基礎控除が適用されず、本来より多くの所得税を支払う可能性があります。痛いですね。
確定申告の場合は、申告書の基礎控除欄に控除額が反映されます。e-Taxを使えば自動計算されるため、特別な計算作業は不要です。2025年分(令和7年分)の確定申告は、2026年2月16日〜3月16日が提出期間でした。
🔔 年末調整と確定申告の両方が必要なケース
- 副業で年間20万円超の所得がある給与所得者
- 医療費控除や初年度の住宅ローン控除を受けたい人
- 2か所以上から給与を受け取っている人
副業収入がある場合、特に注意が必要です。年末調整では本業の給与だけをもとに基礎控除額が計算されますが、確定申告では副業を含む合計所得金額で基礎控除額が判定されます。副業収入が多くなると控除額が下がる段階があるため、年末調整の数値と確定申告の数値が一致しないケースも出てきます。確定申告で正しく申告することが条件です。
たとえば、本業の給与収入が300万円で年末調整の基礎控除は88万円だったとしても、副業で200万円の給与収入があれば合計所得金額が変わり、正しい基礎控除額は68万円になる場合があります(令和7・8年分の時限措置の場合)。このように年末調整だけで完結させてしまうと、確定申告で正しい税額に修正する必要が生じます。
金融商品を活用している人が意外と見落としがちなのが、基礎控除の「合計所得金額への組み込まれ方」です。株式や投資信託で利益が出た場合、通常は特定口座(源泉徴収あり)を利用することで確定申告不要にできます。ただし、この場合の譲渡益や配当は「確定申告しない限り合計所得金額に含まれない」という仕組みになっています。
これは一見便利なようですが、実は基礎控除を含む各種控除の判定にも影響します。たとえば、配偶者控除や扶養控除、ひとり親控除などは「合計所得金額」で判定されるため、特定口座の申告不要を選択すると、それらの控除が適用されるかどうかの判断にその投資収益が含まれなくなります。
つまり、こういうことですね。特定口座の「申告不要」を選ぶことで、配偶者の「合計所得金額133万円以下」という要件をクリアしやすくなるケースがある反面、あえて確定申告して配当や譲渡益を申告したほうが節税になるケースもあります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)との組み合わせも重要です。iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除になるため、基礎控除と合算して課税所得をさらに圧縮できます。年間最大276,000円(会社員の場合)の掛金が全額控除されるため、基礎控除58万円と合わせると課税所得を大幅に削減できます。
また、NISAは非課税投資枠のため、NISA口座の運用益は所得に含まれません。NISAで運用しながら、iDeCoと基礎控除を組み合わせて課税所得を最小化するという戦略は、金融リテラシーのある人ほど活用しやすいアプローチです。これは使えそうです。
投資をしている人が特定口座の設定や申告方法を見直したい場合、証券会社のマイページで「申告不要制度の適用有無」を確認するのが最初のステップです。設定一つで確定申告の手間や税額に大きな差が出ることがあります。
参考:iDeCoと所得控除の関係については国税庁のページで詳しく確認できます。