

申告を5年間ずっと忘れると、取り戻せる税金が最大35万円以上になることも。
寡婦(かふ)控除とは、夫と離婚または死別した後に再婚していない女性が、一定の要件を満たすことで受けられる所得控除の制度です。所得控除とは、税金を計算するときの「課税対象となる所得金額」を減らす仕組みのことで、控除額が大きいほど税負担が軽くなります。
寡婦控除の控除額は、所得税で27万円、住民税で26万円です。これが課税所得から差し引かれることで、実際に支払う税金が減ります。
たとえば、所得税率が5%の方であれば「27万円 × 5% = 1万3,500円」の所得税が減額されます。住民税は税率10%で計算するため「26万円 × 10% = 2万6,000円」の減額になります。つまり、この2つを合算すると年間で約4万円前後の節税が可能です。
所得税率が10%や20%の方なら節税効果はさらに大きくなります。所得税率が10%であれば「27万円 × 10% = 2万7,000円」で、住民税と合計すると約5万3,000円の節税になる計算です。
つまり4万〜7万円、節税できます。
制度の歴史的背景として、寡婦控除は夫との離別・死別後に経済的に苦しくなりやすい女性を支援するために設けられた優遇税制です。2020年(令和2年)の税制改正では、男性版にあたる「寡夫控除」が廃止され、代わりに性別を問わない「ひとり親控除」が新設されました。現在は「寡婦控除」は女性限定、子を持つひとり親全般には「ひとり親控除」と、二本立ての構造になっています。
なお、寡婦控除は年末調整または確定申告で自分から申告しない限り、自動的には適用されません。これが後述する「申告忘れ」問題の根本原因でもあります。
国税庁:No.1170 寡婦控除(令和7年4月1日現在の法令等に基づく公式情報)
寡婦控除を受けるには、申告する年の12月31日時点で、次の要件をすべて満たしていることが必要です。
1つ目の条件は「ひとり親控除の対象に該当しない」ことです。ひとり親控除と寡婦控除は併用できず、両方の要件を満たす場合はひとり親控除が優先されます。ひとり親控除の控除額は所得税35万円・住民税30万円と、寡婦控除より高いため、子を持つひとり親はまずひとり親控除を確認するほうが有利です。
2つ目の条件は「合計所得金額が500万円以下」であることです。給与収入のみの場合、目安として年収約678万円以下がこの基準に相当します。遺族年金などの非課税所得はこの合計所得金額に含まれない点も重要です。
3つ目の条件は「夫と離婚または死別し、再婚していない」ことです。ここでいう「夫」は民法上の婚姻関係にあった人に限られます。内縁関係を解消しただけでは寡婦控除の対象になりません。また、「再婚していない」には法律婚だけでなく、事実婚状態にある場合も含めて判断されます。
4つ目の条件は「離婚の場合は扶養親族がいる」ことです。これが見落としやすいポイントです。夫と死別した場合は扶養親族の有無は問いませんが、離婚した場合は扶養親族がいることが必須要件になります。たとえば離婚後に子ではなく高齢の親を扶養している場合でも、その親の合計所得が58万円以下(2024年分までは48万円以下)で生計を一にしていれば、扶養親族として認められます。
扶養親族が重要な条件です。
注意点として、同居が必須というわけではありません。別居していても仕送りなど生活費を継続的に負担していれば「生計を一にしている」と認められます。書類上の住所が違っても実質的に扶養しているなら、適用要件を満たせる可能性があります。
弥生:寡婦控除の要件・ひとり親控除との違い・申告方法(2025年12月更新の詳細解説)
「ひとり親控除」は2020年に新設された比較的新しい制度で、寡婦控除と混同されやすいです。両者の違いを正確に理解することは、正しい申告と最大限の節税のために不可欠です。
最も大きな違いは控除額です。
| 項目 | 寡婦控除 | ひとり親控除 |
|------|----------|-------------|
| 対象性別 | 女性のみ | 男女不問 |
| 婚姻歴 | 離婚または死別が必要 | 未婚でも可 |
| 扶養要件 | 離婚は扶養親族必須、死別は不問 | 所定の子がいること(必須) |
| 合計所得 | 500万円以下 | 500万円以下(改正予定あり) |
| 所得税控除額 | 27万円 | 35万円 |
| 住民税控除額 | 26万円 | 30万円 |
ひとり親控除のほうが控除額は大きいです。
ひとり親控除が優遇されている理由のひとつは、「未婚のひとり親」を救済するためです。2020年改正以前は、婚姻歴のない未婚のひとり親は寡婦(寡夫)控除を受けられず、制度上の不公平が生じていました。この問題を解消するために、性別・婚姻歴を問わない「ひとり親控除」が新設されたのです。
つまり、子を持ち所得500万円以下のひとり親であれば、まずひとり親控除を検討するのが基本です。寡婦控除は「ひとり親控除の対象にならない離婚・死別経験のある女性」を主なターゲットとした制度と考えると整理しやすくなります。
また、2026年分(所得税)から、ひとり親控除はさらに改正される予定です。対象所得上限が1,000万円以下に拡大され、控除額も所得税38万円・住民税33万円に引き上げられることが決まっています。この改正後は寡婦控除との差がさらに広がるため、自分がどちらの対象になるかの確認がより重要になります。
freee:ひとり親控除と寡婦控除の違い・申請方法(2025年12月更新)
ここが、金融に関心のある方にとって最も「知らないと損する」ポイントです。
寡婦控除は自動で適用されるものではありません。毎年の年末調整または確定申告で、自分から「寡婦控除を適用する」と申告して初めて効力が発生します。申告しなかった年は控除ゼロです。
「でも過去に申告し忘れていたかも……」という場合でも、あきらめる必要はありません。税法では、払いすぎた税金を取り戻す手続きとして「還付申告」および「更正の請求」が認められています。これを使えば、過去5年分までさかのぼって申告できます。
たとえば、今年(2026年)に気づいたとすれば、2021年分(令和3年分)まで遡って還付申告が可能です。5年間申告し忘れていた場合、毎年4〜7万円の節税ができるとすれば、単純計算で最大35万円前後が戻ってくる可能性があります。
これは使えそうです。
ただし、5年の期限を1日でも過ぎると権利は消滅します。「あとで気づけば取り返せる」という状況にはタイムリミットがあることを覚えておきましょう。
実際に過去分を申告する場合の手順は以下の通りです。
申告書類の作成が不安な方には、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」の利用が便利です。ガイドに沿って入力するだけで申告書が自動作成されます。
freee:確定申告を過去分でさかのぼって申告する方法(5年の期限・必要書類を解説)
寡婦控除の効果は、単なる「控除額27万円」にとどまりません。収入水準によっては、住民税そのものがゼロになる場合があります。
税法では、「障害者・未成年者・寡婦・ひとり親」に該当し、かつ前年の合計所得金額が135万円以下の場合、住民税が非課税になると定められています。給与収入のみで換算すると、年収204万4,000円未満がこの目安です。
住民税が非課税になると、どんな恩恵があるのでしょうか?
つまり住民税非課税になると、税金だけでなく社会保険や教育・医療など複数の場面で連鎖的な恩恵があります。寡婦控除を申告することで年収200万円前後の方が住民税非課税の「ライン」を下回るケースもゼロではありません。
ただし、住民税非課税の判定基準は自治体ごとに一部異なります。正確な基準は居住地の市区町村に問い合わせるか、自治体のウェブサイトで確認することをおすすめします。
住民税非課税の基準に注意が必要です。
なお、年金収入のみの寡婦の場合は、年収245万円以下で住民税非課税になるケースがあります。給与収入と年金収入では計算式が異なるため、自分の収入の種類に合った基準で確認しましょう。
マネーエリア:寡婦控除で住民税が非課税になる年収の目安・計算例をわかりやすく解説
寡婦控除を実際に申告する方法は、大きく分けて「年末調整」と「確定申告」の2つです。どちらで申告するかは、主に雇用形態によって決まります。
年末調整で申告する場合(会社員・パート勤務の方向け)
毎年秋ごろに勤め先から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を使います。手順は次の通りです。
記入自体はチェックを入れるだけです。ただし「ひとり親控除」と「寡婦控除」のどちらが適用されるかの判断は自分で行う必要があります。判断を誤るとどちらも適用されない、または有利な控除を見逃すことになります。
確定申告で申告する場合(フリーランス・個人事業主・複数収入がある方向け)
確定申告書の第一表と第二表への記入が必要です。
提出方法はe-Tax(電子申告)、郵送、窓口への持参の3種類です。e-Taxは24時間申告可能で最も手軽です。
確定申告が初めての方には、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」の利用が便利です。画面の質問に答えるだけで自動的に申告書が作成されるため、複雑な記入作業を省けます。また、freee確定申告やマネーフォワード クラウド確定申告などのクラウド会計ソフトも、控除の自動計算と書類作成に対応しています。
提出期限は翌年の2月16日から3月15日です。
国税庁:確定申告書等作成コーナー(e-Tax対応・無料で申告書を自動作成できる)