

外国税額控除を申告するだけで、住民税が翌年に数万円単位で跳ね上がることがある。
外国税額控除は、海外投資で生じた「二重課税」を解消するために設けられた制度です。米国株の配当金を例に挙げると、受け取った配当にはまず米国側で10%(日米租税条約適用後)の税金が引かれ、さらに日本側でも所得税15%・住民税5%(合計20.315%)が課されます。同じ所得に2カ国分の税金がかかる、これが二重課税です。
この問題を解消するために、外国で納めた税金の一部を日本の所得税額から差し引く制度が外国税額控除です。控除できる上限は「その年の所得税額×(国外所得金額÷所得総額)」という計算式で決まります。つまり、外国に払った税額をそのまま全額戻してもらえるわけではありません。
たとえば、所得税額が50万円、所得総額500万円、国外所得が100万円の場合、控除限度額は以下のとおりです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 所得税額 | 50万円 |
| 国外所得割合 | 100万円 ÷ 500万円 = 20% |
| 所得税の控除限度額 | 50万円 × 20% = 10万円 |
| 住民税の控除限度額 | 10万円 × 30% = 3万円 |
所得税で控除しきれなかった外国所得税は、住民税からも控除できます。住民税の控除限度額は「所得税の控除限度額×30%」が上限です。この30%は道府県民税(12%)と市区町村民税(18%)の合計で、政令指定都市に住む場合は道府県民税6%・市区町村民税24%となります。
住民税からも控除できるのはいいことですね。ただ、ここに大きな落とし穴が隠れています。制度を利用するためには必ず確定申告が必要で、その申告行為自体が住民税や社会保険料の算定に影響を与えるのです。
参考:外国税額控除の控除限度額の計算方法(国税庁公式ページ)
国税庁「No.1240 居住者に係る外国税額控除」
外国税額控除を使うには確定申告が必須です。この申告をすることで、住民税の税額計算に使われる「合計所得金額」に配当所得などが算入されます。ここが住民税上昇の核心部分です。
2022年度の税制改正により、2023年分(2024年度住民税)から「所得税と住民税の課税方式統一」が施行されました。それ以前は、所得税では総合課税を選んで外国税額控除を適用しつつ、住民税は「申告不要制度」を選んで合計所得金額への算入を回避するという二刀流の戦略が使えました。つまり、所得税で税金を取り戻しながら、住民税や社会保険料への影響をゼロに抑えることができたのです。
この選択肢はもはや使えません。
2023年分以降は所得税と住民税で必ず同じ課税方式を選ばなければなりません。外国税額控除のために総合課税か申告分離課税を選んで確定申告すると、住民税も同じ扱いになります。その結果、配当所得が合計所得金額に算入され、以下のような連鎖的な影響が発生します。
国民健康保険料が増えるという点が特に重要です。外国税額控除で所得税から2万円を取り戻したとしても、国保料が翌年に2万円以上増えれば、トータルで損することになります。これが「住民税が上がる」問題の本質です。
参考:課税方式統一の廃止影響についての詳細解説
freee「住民税の申告不要制度とは?所得税と異なる課税方式の選択が廃止された影響を解説」
実際にどれくらい住民税や国民健康保険料が増えるのか、具体的な数字で見てみましょう。ここが最も知らないと損するポイントです。
たとえば、給与所得者ではなく個人事業主として活動しており、米国株の配当金を年間50万円受け取っているケースを想定します。特定口座(源泉徴収あり)では申告不要を選べば合計所得金額に影響しませんが、外国税額控除を受けるために申告分離課税を選んで確定申告した場合、この50万円が合計所得金額に加算されます。
| 項目 | 申告不要(確定申告しない) | 申告分離課税で確定申告あり |
|---|---|---|
| 合計所得金額への算入 | なし | あり(+50万円) |
| 住民税(所得割)の増加 | なし | +約5万円(税率10%) |
| 国保料の増加(目安) | なし | +数万円〜10万円程度(自治体による) |
| 外国税額控除で戻る所得税 | なし | +約5万円(米国源泉税10%分) |
結論は単純ではありません。外国税額控除で約5万円を取り戻せても、住民税増加分と国保料増加分を合算すると、ケースによっては取り戻し額を超えてしまいます。
国保料の影響は自治体によって異なり、所得割・均等割の算定方式が市区町村ごとに違うため、一概に「損」とは言い切れません。ただし、国保の所得割率は全国平均でおよそ6〜10%程度であるため、配当所得50万円が算入されると年間3万〜5万円の保険料増加につながることがあります。
つまり外国税額控除の得失は、「戻る税金>増える住民税+増える社会保険料」かどうかで決まります。これが条件です。
外国税額控除をすべきかどうかを判断する前に確認したいのが、自分の加入する健康保険の種類です。会社員など社会保険(協会けんぽ・組合健保)の加入者は、配当所得が国保料に影響しないケースが多いため、外国税額控除のメリットが比較的大きくなります。一方、個人事業主や一定の状況にある退職者で国民健康保険に加入している人は、特に慎重なシミュレーションが必要です。
参考:外国税額控除の還付計算と住民税への影響の詳細
マネーイズム「外国の配当金を受けた人などは要注意!外国税額控除について詳しく解説」
外国税額控除を申告すべきかどうかは、年収・加入保険・家族構成によって答えが変わります。一般論だけでは判断できません。
ひとつの目安として、課税所得金額が695万円未満かどうかが分岐点のひとつになります。配当所得を総合課税で申告した場合、所得税の税率は累進税率です。課税所得695万円未満であれば所得税率20%に配当控除10%を引いた実質10%となり、申告分離課税の15%より低くなります。住民税は10%ですが配当控除2.8%を引いて実質7.2%。所得税と合計すると17.2%となり、申告不要時の一律20.315%より低くなるため、総合課税が有利な計算になります。
ただし、これはあくまで税率だけの比較です。社会保険料や扶養控除への影響を加味すると、課税所得695万円未満でも「申告しない方が得」になるケースは十分あります。
| 条件 | 外国税額控除の申告 | 主な判断ポイント |
|---|---|---|
| 会社員(社保加入) | ✅ 比較的有利 | 国保料への影響なし。税額控除のメリットが大きい |
| 個人事業主(国保加入) | ⚠️ 要シミュレーション | 国保料増加が控除メリットを超えることも |
| 扶養家族がいる | ⚠️ 要注意 | 配偶者・扶養控除の基準(48万円)を超えると控除消失のリスク |
| NISA口座の配当のみ | ❌ 対象外 | 日本側非課税のため二重課税が成立せず控除不可 |
NISAだけは例外です。NISA口座で受け取った配当金は日本の所得税・住民税が非課税のため、外国の税金しかかかっておらず「二重課税」の状態ではありません。そのため、NISAの配当には外国税額控除を適用できない点に注意が必要です。新NISAで米国株ETFを保有している方はよく勘違いされますが、外国で引かれた10%の源泉税は戻ってきません。
判断に迷う場合、税理士や確定申告の相談窓口を活用することをおすすめします。確定申告ソフトのfreeeやマネーフォワードクラウドでは、複数の課税方式でのシミュレーション機能が整っており、自分で試算するのに役立ちます。
あまり知られていない視点を一つ紹介します。外国税額控除には「3年間の繰越制度」があり、これを上手く活用することで、住民税・社会保険料への影響を最小化しながらトータル得する戦略が取れます。
外国税額控除の控除限度額を超えて外国で納付した税額がある場合、余った控除額は翌年以降3年間繰り越せます。また逆に、その年に控除限度額に「余裕」がある場合(外国税が少なかった場合)も、過去3年分の超過税額に充てることができます。
この繰越ルールをどう活用するかというと、たとえば特定の年に配当所得が少なく合計所得金額が低い年(国保料への影響が小さい年)に申告をまとめてズラすことが考えられます。ただし、こうした申告タイミングの工夫は課税方式の変更を修正申告や更正の請求でやり直すことはできないため、申告前に十分に計画することが必要です。これは必須です。
さらに重要な知識として、住民税の外国税額控除は「所得税で控除しきれなかった分だけ」が対象です。つまり、所得税の控除で外国税が全額回収できてしまう場合、住民税からの追加控除は発生しません。控除が住民税に波及するのは、あくまで所得税の控除限度額を超えた外国税がある場合に限られます。
繰越制度の詳細確認はこちら
国税庁「No.1240 居住者に係る外国税額控除」(繰越控除の仕組みも記載)
計算が複雑で不安な場合は、税務署の確定申告相談会場や、無料相談窓口を活用する方法があります。申告シーズン(2月16日〜3月15日)は税務署での相談が可能なので、事前に確認したい事項をメモしてから訪問すると効率的です。まず自分の国保加入有無と配当所得額を確認する、これだけで判断の第一歩になります。