国外転出時課税と相続で知らないと損する完全ガイド

国外転出時課税と相続で知らないと損する完全ガイド

国外転出時課税と相続の仕組みと対策を徹底解説

株を一株も売っていないのに、亡くなった親の所得税が数百万円発生することがあります。


この記事でわかること
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国外転出時課税が相続に適用される条件

被相続人が時価1億円以上の有価証券等を保有し、相続人の1人でも海外在住であれば課税対象になります。

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準確定申告と納税猶予の仕組み

相続開始を知った翌日から4か月以内が申告期限。知らないまま期限を過ぎると納税猶予も受けられなくなります。

課税を取り消せる条件と対策

5年以内に全相続人が帰国・資産を保有継続していれば課税取消しが可能。生前の遺言書作成で課税回避できるケースもあります。


国外転出時課税の相続への適用とはどういう制度か


「国外転出時課税制度」という名前を聞くと、海外に移住する人だけが関係するルールだと思いがちです。しかし実際には、日本国内で生涯を終えた方の相続においても発動することがある制度です。これを知らないまま相続手続きを進めると、後になって多額の税金を追加で払う羽目になりかねません。


この制度は、平成27年(2015年)7月1日以降の相続等から適用されています。制度の根拠は所得税法第60条の3です。


仕組みをごく簡単に説明します。日本居住者(被相続人)が時価1億円以上の有価証券等を保有した状態で亡くなり、その資産を海外に居住する相続人が引き継ぐ場合、その資産は「相続時に時価で売却された」とみなされます。そして、その含み益に対して被相続人の所得税が課税される、というルールです。つまり、株式などを実際には一切売却していなくても「売ったことにする」課税が発生します。痛いですね。








場面 課税の名称 課税される人
本人が海外移住 国外転出時課税 本人(出国者)
非居住者へ贈与 国外転出(贈与)時課税 贈与者
非居住者へ相続 国外転出(相続)時課税 被相続人(準確定申告で処理)


相続の場面では、被相続人はすでに亡くなっているため、納税義務者は被相続人です。しかし実際には相続人が準確定申告を通じて手続きを行い、被相続人の未払い税金として納税します。つまり、相続人は「引き継いだ税負担」も一緒に受け取ることになります。結論は、相続と所得税が同時発生するということです。


この制度が適用される代表的なケースは次のとおりです。


- 子どもの1人が海外移住しており、親(日本在住)が上場株式を大量に保有している
- 事業承継した非上場株式の評価額が1億円を超えており、海外在住の兄弟が相続人にいる
- NISA口座に含む有価証券の合計額が1億円を超えており、配偶者が外国人居住者


最後のNISAについては意外と盲点です。NISA口座内の有価証券も制度の対象資産に含まれます。「NISAは非課税だから大丈夫」と思っている方は要注意です。


参考:国税庁による制度の詳細な解説はこちら(根拠条文・手続様式)
国税庁「No.1468 相続又は遺贈により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例(国外転出(相続)時課税)」


国外転出時課税の相続における対象者と1億円判定の落とし穴

制度の対象者は、次の2つをどちらも満たす被相続人です。


- 相続開始の時点で、対象資産の合計時価が1億円以上であること
- 原則として、相続開始日前10年以内に、国内在住期間が5年を超えていること


ここで「自分の親の株式は相続税評価額で8,000万円だから大丈夫」と判断する方がいます。これは大きな落とし穴です。


国外転出時課税における1億円の判定は、相続税評価額(財産評価基本通達ベース)ではなく、いわゆる「小会社方式(所得税基本通達59-6)」によって評価した価額で行います。特に非上場株式を保有する被相続人の場合、相続税評価額では8,000万円でも、小会社方式で評価すると1億円を超えるケースが十分にあり得ます。1億円が基準です。


実際にあった盲点事例を見てみましょう。











項目 内容
被相続人 勇退退職後・無職・自社株100%保有(大会社)
相続税評価額 約8,000万円
小会社方式評価額 1億円超(類似株価100%基準のため)
相続人 長男(日本在住)・長女(非居住者)
遺言 なし
結果 準確定申告期限(4か月)内に分割未了のため、長女の法定相続分相当の株式に課税発生


この事例では、長女は最終的に株式を一切取得せず預金だけを相続しましたが、準確定申告期限内に遺産分割協議が確定していなかったため、いったん法定相続分に従って課税が発生しました。意外ですね。後で更正の請求をすれば取り戻せますが、手間とコストがかかります。


対象資産の具体的な範囲も確認しておきましょう。


- 🟢 対象になるもの:上場株式・非上場株式、投資信託、NISA口座内の有価証券、米国株などの外国株式、匿名組合の出資持分、未決済の信用取引・デリバティブ取引
- 🔴 対象にならないもの:現金・預貯金、不動産、暗号資産(現時点)、債券(公社債)のうち譲渡所得が非課税のもの


現金や不動産は対象外です。これは条件の1つです。したがって、相続財産が不動産と預金だけの方は本制度の課税は発生しません。しかし、有価証券を1億円以上持つ方が増えている現代では、多くの資産家がこの制度の射程内に入ります。


参考:非上場株式の評価方法と盲点について専門家が解説しています
税理士向け専門ブログ「国外転出時課税の盲点」(税務調査対策を中心とした税理士向けサービス KACHIEL)


国外転出時課税の相続で準確定申告が必要になるタイミングと手続き

制度が適用された場合、相続人は「準確定申告」を通じて被相続人の所得税を申告・納税する必要があります。期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。通常の相続税申告(10か月以内)より大幅に短い点に注意が必要です。これは必須です。


手続きの流れを整理すると以下のようになります。


1. 被相続人の保有する有価証券等の時価合計を確認する
2. 相続人のうち非居住者(海外在住者)がいるかを確認する
3. 対象者に該当する場合、4か月以内に準確定申告を準備する
4. 遺産分割が未確定の場合は、法定相続分で仮申告する
5. その後、遺産分割が確定したら4か月以内に修正申告または更正の請求を行う


遺産分割が完了していない状態での申告になるケースも多く、その場合は「法定相続分で非居住者が取得したとみなして」申告します。つまり、実際には非居住者が資産を取得しなくても、分割協議が未確定であれば課税が先に発動する構造です。


後から遺産分割が確定し、非居住者への資産移転がなかったと判明した場合には、更正の請求(税額を減らす手続き)を行うことができます。ただしこの場合も、確定から4か月という期限があります。4か月は短いですね。


納税の金額感についてもイメージしておきましょう。例えば取得価額500万円の株式が相続開始時に時価3,000万円になっていた場合、含み益は2,500万円です。この2,500万円に対して所得税(15.315%)が課税されると、約382万円の税負担が発生します。これに復興特別所得税も加わります。実際の売却益がゼロでも、382万円の税金を現金で準備しなければならないケースも起こりえます。


所得税の計算が大まかに想定できたら、納税資金の確保も計画の一部です。株式等の現物しか手元にない場合、その売却が必要になることもあります。ただし、後述する納税猶予を利用できれば、すぐに全額を準備しなくてよい場合があります。


参考:チェスター相続税実務研究所による遺産未分割での実務解説


国外転出時課税の相続で使える納税猶予と課税取消しの条件

本制度の最大の救済措置が「納税猶予」と「課税取消し」です。これを使えるかどうかで、実質的な負担が大きく変わります。これは使えそうです。


納税猶予の仕組み


一定の手続きを踏むことで、相続開始から5年間、所得税の納税を猶予してもらうことができます。さらに期限延長の届け出をすれば、最長10年間まで延長可能です。


ただし猶予を受けるためには、準確定申告の提出期限(4か月以内)までに以下の要件を満たす必要があります。


- 対象資産を相続した非居住者の相続人等の全員が、連署で「納税管理人の届出書」を提出すること
- 準確定申告書に猶予を希望する旨を記載し、所定の書類を添付すること
- 猶予される所得税額と利子税に見合う担保(不動産・有価証券・金銭など)を提供すること


さらに猶予期間中は、毎年12月31日に保有している対象資産の状況を確認し、翌年3月15日までに「継続適用届出書」を税務署に提出しなければなりません。この届出を1回でも怠ると、猶予が全額確定してしまいます。注意が必要なところです。


課税取消しの条件


相続開始から5年以内(猶予延長時は10年以内)に、次のいずれかの事由が生じた場合、課税を取り消してゼロにできます。


- 非居住者であった相続人等の全員が帰国し、かつ相続した対象資産を引き続き保有していた場合
- 相続した対象資産を、日本在住の居住者に贈与した場合
- 非居住者の相続人等が亡くなり、その後の相続人等が全員日本居住者になった場合


この取消しは、帰国日や贈与日から4か月以内に更正の請求をすることが条件です。これも期限があります。


下記の表で猶予と取消しの主要ポイントを整理しています。









項目 納税猶予 課税取消し
期間 最長10年(5年+延長5年) 相続開始から5年(延長時10年)以内
条件 担保提供+毎年の継続届出 全相続人の帰国または国内移転
手続き期限 準確定申告期限(4か月)まで 帰国等の日から4か月以内
効果 納税を先送り 課税そのものがなかったことに


課税取消しが実現すれば、所得税を一円も払わなくてよいことになります。これは大きなメリットです。将来的な子どもの帰国や、資産の国内居住者への贈与が見込まれる場合には、税理士と相談のうえ猶予を活用しつつ取消しを目指す戦略が有効です。


参考:国税庁による納税猶予・課税取消しの要件の詳細
国税庁「No.1468 相続又は遺贈により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例」


国外転出時課税と相続税の二重課税問題と減額措置

国外転出(相続)時課税が発動すると、相続税との関係で二重課税が問題になることがあります。これは見落とされがちな論点です。


まず整理しましょう。被相続人の所得税(準確定申告で課税)は、相続税の計算上は「被相続人の未払い税金(債務)」として相続財産から控除できます。つまり、所得税が増えると、相続税の課税対象となる財産が減る仕組みになっています。これで所得税と相続税の二重課税の一部は回避されます。これは知っていると得する仕組みです。


一方で、非居住者である相続人がその資産を現地で売却した場合、居住地国でもキャピタルゲイン課税が発生します。こちらは日本の所得税(国外転出時課税)との本当の二重課税問題です。この場合には、外国税額控除の適用を受けることで二重課税の調整が可能です。外国で納めた所得税を一定の控除限度額の範囲内で、日本側の税額から差し引けます。


また、株価が下落した場合の減額措置も用意されています。次のいずれかに該当する場合、所得税を再計算(減額)できます。


- 納税猶予期間中に対象資産を売却し、そのときの価額が相続開始時(みなし売却価額)より下落していた場合
- 納税猶予期間の満了日において、対象資産の価額が相続開始時より下落していた場合


例えば、相続開始時に1株5,000円で評価された株式が、5年後の猶予満了時に1株2,000円に下落していた場合、2,000円ベースで再計算できます。この減額措置を適用するためにも、売却や期間満了から4か月以内に更正の請求が必要です。減額措置が条件です。


このように、国外転出時課税は課税される一方で、適切に手続きすれば大幅に負担を減らせる余地が複数あります。しかし全ての手続きに「4か月」という共通の期限がついており、期限を逃すと救済を受けられません。


制度の複雑さを考えると、適用可能性がある方(海外在住の相続人がいる方)は、相続が発生した段階ですぐに国際税務を専門とする税理士に相談することが最善の行動です。三井住友銀行や税理士法人レガシィ、税理士法人チェスターなどの専門機関は国際相続への対応実績を公開していますので、参考にするとよいでしょう。


参考:外国税額控除の仕組みと国際相続における二重課税対策
三井住友銀行「外国税額控除とは?海外資産の相続で発生する二重課税を防ぐ方法」


国外転出時課税と相続の生前対策:遺言書と資産管理の独自視点

多くの解説記事では「相続後の手続き」ばかりが取り上げられますが、実は最も効果的な対策は「被相続人が生きているうちの準備」です。これが本制度における最大の独自視点です。


まず最も直接的な対策は「遺言書の作成」です。遺言書で対象資産を海外在住の相続人ではなく、日本在住の相続人に割り当てることを明記しておけば、非居住者が相続対象資産を取得するという前提条件が崩れます。つまり国外転出時課税自体が発動しません。先に挙げた非上場株式の事例では、遺言さえあれば課税を回避できた可能性が高いです。遺言書が原則です。


次に有効な手段として、子どもが海外移住する前に有価証券を整理・分散しておくことが挙げられます。対象資産の時価合計が1億円未満であれば制度は発動しないためです。ただし、この場合は意図的な租税回避とみなされないよう、税理士の指導のもとで進める必要があります。


さらに見落とされがちな観点として、非上場株式の評価方式の違いがあります。相続税評価額(財産評価基本通達)と所得税評価額(小会社方式)が異なることはすでに述べましたが、被相続人の生前のうちに「小会社方式で評価した場合の株価試算」を税理士に依頼し、1億円超になるリスクを把握しておくことが大切です。把握しているだけで全然違います。


最後に、投資ポートフォリオ全体の見直しも検討に値します。含み益が極端に大きい銘柄を一部利確しておくことで、みなし売却時の所得税負担を圧縮できます。ただし、実売却では当然に譲渡所得税が発生しますので、どちらが有利かは個別のシミュレーションが必要です。


生前対策のポイントをまとめると次のとおりです。


- ✅ 遺言書で対象資産を日本在住の相続人に割り当てる
- ✅ 子どもの海外移住前に有価証券の整理・圧縮を検討する
- ✅ 小会社方式による非上場株式の価額試算を税理士に依頼する
- ✅ 含み益の大きい銘柄の一部利確を検討する(効果とコストを比較)
- ✅ 海外在住の相続人がいる家族は、早い段階で国際税務の専門家に相談する


制度の名称に「転出」という言葉が入っているため、「自分が海外に移住しなければ関係ない」と思い込んでいる方は少なくありません。しかし現実には、お子さんやご兄弟が1人でも海外に在住していれば、あなた自身の資産が制度の対象になる可能性があります。金融資産を1億円以上持つ方は特に、本記事を機に専門家へ相談することをおすすめします。


参考:国際相続と国外転出時課税の関係を税理士法人が総合解説
三井住友銀行「国外転出時課税制度(出国税)とは?海外移住・贈与・相続への適用と対策」




国外転出時課税の実務