
法定相続分どおりに遺産を分割する場合、法律上は遺産分割協議書の作成は義務ではありません 。しかし、実際の相続手続きでは、たとえ法定相続分での分割であっても協議書を作成することが強く推奨されます 。
参考)法定相続分で分ける場合も遺産分割協議書は作るべきか?
その理由として、相続人全員が法定相続分での分割に合意していることを証明する書面として機能することが挙げられます。遺産分割協議書には相続人全員が署名捺印(実印)をするため、法定相続分で分割したことに相続人全員が納得している証拠となります 。
また、後日「言った言わない」のトラブルを回避する効果もあります 。相続手続きが終わった後に相続人間で意見の相違が生じた場合でも、書面として残された協議内容が紛争解決の重要な根拠となります。
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法定相続分は民法第900条で定められており、相続人の組み合わせによって割合が決まります 。配偶者と子が相続人の場合は各1/2、配偶者と直系尊属(父母)の場合は配偶者2/3・直系尊属1/3、配偶者と兄弟姉妹の場合は配偶者3/4・兄弟姉妹1/4となります 。
参考)https://ac-souzoku.jp/inheritance/partition-estate/3040/
具体例として、被相続人に配偶者と子2人がいる場合、課税遺産総額1億円なら配偶者が5,000万円、子供は各2,500万円ずつが法定相続分となります 。同様に配偶者と父母が相続人で課税遺産総額6,000万円の場合、配偶者は4,000万円、父母は残りの2,000万円を等分することになります 。
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注意すべき点として、特別受益や寄与分がある場合は、これらを考慮した「具体的相続分」の計算が必要です 。計算式は「みなし相続財産額×法定相続分=一応の相続分」「一応の相続分+寄与分-特別受益=具体的相続分」となります 。
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遺産分割協議書作成の流れは、まず相続人の確定から始まります。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取得して、法定相続人全員を特定する必要があります 。この段階で認知した子や養子も相続人となるため、漏れがないよう注意が必要です。
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次に相続財産の確定を行います。現金・預金・不動産といったプラス財産だけでなく、借入金・ローンといったマイナス財産も含めてすべて把握し、財産目録を作成します 。この際、遺言書の有無も必ず確認してください 。
参考)遺産分割協議書とは?作成の流れや手続きをくわしく解説
協議書の記載内容は、被相続人の最後の住所・死亡日・氏名、相続人全員が分割方法について合意している旨、分割する相続財産の具体的内容、相続人全員の住所・氏名・実印による押印が必要です 。書式に決まりはなく、パソコンでも手書きでも作成可能ですが、法定相続人の住所・氏名は自署することが重要です 。
参考)遺産分割協議書作成の目的は?流れと注意点を解説
銀行での相続手続きでは、遺産分割協議書は必須ではありません 。各銀行には所定の相続手続き用紙があり、これに全員が署名押印して必要な添付書類を提出すれば手続きが可能です 。
参考)銀行の相続手続きに、遺産分割協議書は必要?
一般的な金融機関手続きで必要となる書類は以下のとおりです。
参考)相続に必要な書類
参考)銀行相続の必要書類とは?一目でわかるイラスト付き【状況別に解…
ただし、複数の金融機関で手続きを行う場合、各機関ごとに書類を準備する必要があるため、遺産分割協議書があると手続きがスムーズになります 。また、証券会社での銘柄移管手続きでは、協議書がないと別途書類への署名捺印が必要になり、結果的に書類のやり取りが増える傾向にあります。
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法定相続分での分割であっても、特別受益や寄与分がある場合は注意が必要です。特別受益とは、一部の相続人が被相続人から生前贈与や遺贈で受け取った利益のことで、これを相続財産の前渡しとみなして調整を行います 。
参考)特別受益と寄与分 - みとみらい法律事務所
寄与分は、被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人がいる場合に、その貢献度に応じて相続分を増やす制度です 。2021年の民法改正により、相続開始から10年を経過した後は、家庭裁判所の審判手続きにおいて特別受益や寄与分の主張が制限されることになりました 。
参考)特別受益者・相続分と寄与分|ベリーベスト法律事務所
興味深い判例として、相続分の譲渡も特別受益に該当するという最高裁判決があります 。共同相続人間で相続分の譲渡がされた場合、譲渡を受けた相続人は従前の相続分と譲渡分を合計した相続分に相当する価額の分配を求めることができるとされています 。
参考)相続分譲渡も特別受益に該当する判決が出ました!
これらの制度は相続人間の公平を図るためのものですが、複雑な計算が必要となるため、該当する場合は専門家への相談が重要です。