
2024年11月1日から、日本年金機構はマイナンバーを活用した行政機関間の情報連携を強化し、老齢年金の請求手続きにおいて添付する戸籍謄本または抄本が原則不要となりました。この制度変更により、年金請求者の負担が大幅に軽減されることになります。
対象となる範囲は以下の通りです。
ただし、それ以外の身分関係の確認については、原則として引き続き添付書類が必要となります。また、出生を契機とする届出については、戸籍関係情報の反映に時間を要するため、引き続き添付書類が必要となる場合があります。
この変更により、これまで戸籍謄本の取得にかかっていた 手数料450円 と市役所等への往復時間、交通費が不要となり、年金請求者の経済的・時間的負担が軽減されます。
障害年金請求においても同様の省略が適用され、子の加算(障害基礎年金)や配偶者加給の加算(障害厚生年金)が行われる障害年金請求では、戸籍謄本の添付が不要になります。
年金請求時に必要となる戸籍関係書類について、具体的な内容を確認していきましょう。
基本的に必要な書類:
配偶者や子がいる場合に必要な書類:
戸籍謄本と戸籍抄本の違い:
戸籍謄本(戸籍全部記載事項証明書)は、戸籍の全てをそのまま転写した証明書であり、戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)は戸籍に記載されている一部の方を証明するものです。紙で管理されている戸籍は戸籍謄本・戸籍抄本、電子化されている戸籍は戸籍全部記載事項証明書・戸籍個人事項証明書と呼ばれます。
添付書類の有効期間:
マイナンバーを活用した情報連携システムにより、年金請求手続きが大幅に簡素化されています。
マイナンバー登録による省略可能書類:
情報連携の仕組み:
年金請求書にマイナンバーを記入することで、日本年金機構が行政機関間の情報連携を通じて必要な情報を取得できるようになります。これにより、申請者が個別に書類を準備する必要がなくなります。
注意事項:
おおむね5年以内に年収が850万円未満となる見込みがある場合:
生計維持関係にある方の収入について、現在の年収が850万円以上であっても、おおむね5年以内に年収が850万円未満となる見込みがある場合は、「退職年齢が確認できる勤務先の就業規則のコピー」等の追加書類が必要です。
年金請求における戸籍関係書類の取扱いには、過去に重要な問題がありました。
過去の問題事例:
2011年に総務省が取り上げた事案では、国民年金法施行規則では 戸籍抄本 の添付で十分とされていたにもかかわらず、年金事務所の窓口では業務処理マニュアルに基づき「夫婦の身分関係を確認するためには戸籍謄本が必要である」と説明し、請求者から戸籍抄本が提出された場合でも戸籍謄本の出し直しを求めていました。
総務省のあっせん内容:
厚生労働省に対して、請求者の負担軽減を図るとともに、業務の統一的かつ明確な取扱いを期する観点から、以下の改正を求めました。
改善効果:
このあっせんにより、年金機構のパンフレットの表記どおり戸籍抄本(手数料450円)を提出すれば、改めて市役所等に出向いて戸籍謄本の出し直しや夫婦両方となる戸籍抄本の追加提出を求められることがなくなり、交通費+手数料450円の追加負担 と 往復に要する時間コスト の軽減が図られました。
現在の状況:
現在では、マイナンバーの活用により、これらの書類自体の添付が省略できるようになり、さらなる負担軽減が実現されています。
年金請求手続きにおける戸籍謄本の取扱いは、デジタル政府の推進とともに大きく変化しています。
デジタル化推進の背景:
政府のデジタル・ガバメント実行計画に基づき、行政手続きの ワンスオンリー原則(一度提出した情報は再提出不要)の実現が進められています。年金分野においても、この原則に基づいた手続き簡素化が段階的に実施されています。
今後予想される変化:
国際比較からの示唆:
潜在的な課題と対策:
システム障害時の対応策:
デジタル化が進む中で、システム障害や情報連携エラーが発生した場合の バックアップ手続き の整備が重要です。紙媒体での手続きも並行して維持することで、確実な年金給付を保障する必要があります。
プライバシー保護の強化:
マイナンバーを活用した情報連携の拡大に伴い、個人情報の適切な管理と サイバーセキュリティ対策 の強化が不可欠です。
高齢者への配慮:
デジタル化の恩恵を全ての年金受給者が享受できるよう、デジタルデバイド対策 として、年金事務所での対面サポートや電話相談体制の充実も重要な課題です。
今回の戸籍謄本添付省略は、年金手続きの DX(デジタルトランスフォーメーション) の重要な第一歩と位置づけられます。今後も継続的な制度改善により、より利用しやすい年金制度の実現が期待されています。