

給与が年間65万円以上あると、この特例が丸ごとゼロ円になります。
「家内労働者等の必要経費の特例」とは、実際にかかった経費が少なくても、最低65万円(令和6年分までは55万円)を必要経費として認めてもらえる制度です。これは租税特別措置法第27条に定められた制度で、会社員に適用される「給与所得控除」とバランスをとるために設けられました。
パートやアルバイトとして働く人には最低55万円(令和7年度以降は65万円)の給与所得控除が自動的に適用されます。しかし、内職や特定の在宅ワーカーは雑所得や事業所得として申告するため、同様の控除が受けられません。そこで、実態として給与に近い働き方をしている人を救済するために、この特例が設けられています。
お得な制度です。
令和7年分からは最低保障額が65万円に引き上げられたため、例えば年収が100万円の場合でも、課税対象となる所得は100万円−65万円(特例)−95万円(基礎控除)=0円となり、所得税が一切かかりません。令和6年分まで(55万円特例+48万円基礎控除)では合計103万円までが非課税でしたが、令和7年分以降は160万円以下であれば本人に所得税が課されない計算になります。
これは大きな改正です。
なお、特例が使える所得は「事業所得」または「雑所得(業務・その他)」のいずれかに限られます。公的年金等に係る雑所得には適用されない点には注意が必要です。また、特例で認められる必要経費の額は、収入金額を上限とします。収入が30万円しかない場合は、最大でも30万円までしか必要経費として計上できません。
参考:国税庁による家内労働者等の必要経費の特例の詳細(令和7年4月1日現在の最新法令に対応)
国税庁 No.1810 家内労働者等の必要経費の特例
特例が適用される「家内労働者等」の範囲は、意外と限定的です。具体的には以下の職種が対象となります。
- 家内労働法に規定する家内労働者(自宅で部品加工・縫製などを行う内職者)
- 生命保険会社の外交員
- 新聞代・公共料金などの集金人
- 電力量計の検針人
- ヤクルトレディ、シルバー人材センターを通じて収入を得る人
- 特定の1社または数社から継続して仕事を受注しているフリーランスや在宅ワーカー
キーワードは「特定の者に対して継続的に」という部分です。つまり、仕事の依頼先が特定のクライアント1社(または数社)に絞られていることが条件となります。
一方、次のような場合は対象外です。
- 不特定多数のクライアントから仕事を受注するフリーランス(クラウドワークスやランサーズなど)
- 自宅でピアノ教室・学習塾などを開いて不特定多数の生徒を募集している人
- 家族以外の従業員を雇用している事業者
- 物品販売や運送を主業とする者
例えば、クラウドワークスで複数のクライアントから仕事を受けている場合は「不特定多数」に該当するため特例の対象外となります。一方、特定の1社と継続的な業務委託契約を結んで在宅作業をしている場合は、対象になる可能性があります。
自分が対象かどうかは判断が必要です。
対象かどうか迷う場合は、国税庁の「自営型テレワーカーのための税務基礎知識」ページや、最寄りの税務署・国税局電話相談センターで確認することをおすすめします。判断を誤ったまま申告すると、後から修正申告が必要になり余計な手間がかかります。
参考:厚生労働省が提供する自営型テレワーカー向けの税務基礎知識(家内労働者等の特例の適用範囲についても詳しく解説)
厚生労働省 自営型テレワーカーのための税務基礎知識「確定申告」
e-Taxで家内労働者等の特例を適用する場合、所得の種類によって入力方法が異なります。ここを間違えると特例が正しく反映されないため、注意が必要です。
🔷 事業所得として申告する場合
青色申告決算書または収支内訳書を作成して事業所得を申告するケースです。青色申告決算書の必要経費欄の「任意科目」に「家内労働者等の特例」と入力し、そこに特例適用後の必要経費の額を入力します。実際の経費の合計が10万円だったとしても、65万円を必要経費として入力する形になります。
また、収支内訳書の「所得金額」欄(㉑欄)、または青色申告決算書の「青色申告特別控除前の所得金額」欄(㊸欄)には、金額の頭部に「㊕」と記載することが必要です。これが特例適用を申告書上で示すサインになります。
🔷 雑所得として申告する場合
雑所得(業務・その他)として申告する方は、入力画面の「必要経費」の欄に特例適用後の金額を入力します。さらに、支払者の氏名または名称欄の末尾に「(措法27)」と入力してください。この記載が特例の根拠条文を示す役割を果たします。
🔷 確定申告書第二表への記載
所得の種類を問わず、確定申告書第二表の「特例適用条文等」欄に「措法27」と記入することが必要です。この記載が抜けると、税務署側で特例適用の確認ができなくなる場合があります。
「措法27」は必須です。
🔷 計算書の添付が必要なケース
事業所得と雑所得の両方がある場合、または給与収入がある場合は、「家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受ける場合の必要経費の額の計算書」の作成・添付が求められます。この計算書は国税庁ウェブサイトから無料でダウンロードできます。
参考:国税庁 確定申告書等作成コーナーにおける家内労働者等の特例の入力方法(事業所得・雑所得別の具体的な入力手順が図解で掲載)
国税庁 家内労働者等の必要経費の特例の適用を受けるための入力方法
家内労働者等の特例で最も注意が必要なのが、給与収入との組み合わせです。副業として内職や在宅ワークをしている会社員や、パートと兼業している方は特に確認が必要です。
ルールは次の通りです。給与収入が年間65万円以上ある場合、この特例は一切使えません。給与所得控除額が既に65万円以上あるため、両者を合算すると65万円を超えてしまうからです。
給与がある場合の計算式は次の通りです。
$$特例による必要経費の上限 = 65万円 - 給与所得控除額$$
例えば、給与収入が年40万円の場合、給与所得控除額は40万円(収入金額そのもの)となるため、特例として使える必要経費は最大25万円(65万円−40万円)となります。実際の経費が10万円でも、25万円と比較して高い方を必要経費とするため、この場合は25万円が必要経費として認められます。
これは使えそうです。
逆に、給与収入が年65万円以上になった途端に特例は丸ごとゼロになります。例えば、年収70万円のパート収入があり、内職で30万円の報酬を得ている場合、内職分の必要経費の特例は適用されません。実際にかかった経費のみで申告することになります。
このような状況での損益計算は複雑になりがちです。「家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受ける場合の必要経費の額の計算書」を活用することで、自分がいくらの経費を計上できるか正確に把握できます。国税庁のウェブサイトから様式をダウンロードして手元で計算してみることをおすすめします。
参考:国税庁による家内労働者等の特例の計算例(給与収入と内職収入の両方がある場合のQ&A形式の解説)
国税庁 No.1810 家内労働者等の必要経費の特例(Q&A)
あまり知られていない事実として、「家内労働者等の特例」と「青色申告特別控除」は同時に使えます。この二つを上手く組み合わせることで、所得をより大きく圧縮することが可能です。
青色申告特別控除は、一定の要件を満たして青色申告をした場合に受けられる控除で、最大65万円の控除が可能です。65万円控除を受けるためには、複式簿記での記帳、貸借対照表の添付、そしてe-Taxによる電子申告(または優良な電子帳簿の保存)が必要です。
つまり、両者を組み合わせると理論上は次のようになります。
$$令和7年分以降の最大控除 = 65万円(特例)+ 65万円(青色申告特別控除)= 130万円$$
例えば、年収200万円の家内労働者が青色申告と特例を両方活用すれば、所得金額は200万円−130万円(特例+青色)−95万円(基礎控除)=△25万円となり、課税所得をゼロにできます。これは、年収200万円規模であっても所得税がかからない可能性があるということです。
節税効果は大きいですね。
ただし、青色申告特別控除の65万円を受けるには、e-Taxで申告することが要件の一つになっています。紙での申告の場合は最大55万円控除にとどまります。つまり、家内労働者等の特例と最大控除の組み合わせを実現するためにも、e-Taxの活用は不可欠といえます。
申告の際の注意点として、青色申告決算書の「㊸ 青色申告特別控除前の所得金額」欄には特例適用後の所得金額を記載し、頭部に「㊕」と記入します。さらに確定申告書第二表の「特例適用条文等」欄に「措法27」と記載することも忘れてはなりません。このダブルチェックが適切な申告の鍵になります。
参考:家内労働者等の特例と青色申告特別控除の併用について、元国税専門官の税理士が詳しく解説(令和7年度改正対応済み)
イナステラ総合会計事務所 家内労働者等の特例と青色申告は併用できる?仕組みと注意点を徹底解説