

住民票を日本に残したまま確定申告すると、本来払わなくていい住民税10%を追加で課税される可能性があります。
「海外に住んでいるから日本の税金は関係ない」と考えている方は少なくありません。しかし、日本の所得税法では、国内源泉所得がある非居住者は確定申告が必要です。これが基本です。
国内源泉所得とは、日本国内を発生源とする所得のことです。具体的には次のようなケースが該当します。
- 🏠 日本にある不動産の賃貸収入(家賃・地代など)
- 📈 日本に上場している株式の売却益
- 🏗️ 日本にある不動産の売却益
- 💼 日本国内の法人から受け取る役員報酬
一方、海外で得た給与や事業収入は課税対象外です。課税されるのは日本国内で発生した所得のみ、ということです。
ただし、「租税条約」がある相手国との関係では話が変わります。日本は70か国以上と租税条約を締結しており、条約の内容によっては国内源泉所得であっても課税が免除・軽減されるケースがあります。相手国との条約内容は国税庁のウェブサイトで確認できます。確認は必須です。
また、非居住者と居住者の区分は「出国日」を境として変わります。1月1日から出国日までは居住者として全所得が課税対象、出国日の翌日以降は非居住者として国内源泉所得のみが課税対象になります。年の途中で海外赴任した場合、この切り替えを申告書上で正確に反映しなければなりません。
参考:国税庁「No.2875 居住者と非居住者の区分」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2875.htm
ここが最も多くの人が迷うポイントです。
確定申告書の「住所欄」には、本人の海外住所を記入します。「納税管理人の住所を書けばいい」と思いがちですが、それは誤りです。本人の実際の居住地(海外の住所)を第一表に記載し、その下または余白部分に「納税管理人:氏名・住所」を連記するのが正しい書き方です。
氏名欄については、「〇〇(本人氏名) 納税管理人 △△(納税管理人氏名)」という形式で記載します。税務署によっては様式を指定している場合もあるため、事前に所轄税務署に確認するとより安心です。
ただし、不動産所得がある場合など、申告書の「住所」には不動産の所在地住所を書くパターンもあります。これは納税地がどこになるかによって異なります。
| 記載欄 | 記載内容 |
|---|---|
| 住所欄 | 本人の海外住所(現在の居住地) |
| 氏名欄 | 本人氏名+「納税管理人」+管理人氏名 |
| 1月1日の住所 | 1月1日時点の実際の住所(海外赴任中なら海外住所) |
| 納税地 | 不動産所在地 or 納税管理人届を提出した税務署の管轄 |
もう一点、見落としやすい注意点があります。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」は非居住者の申告書作成に対応していません。意外ですね。このコーナーを使って申告書を作成してしまうと、居住者として扱われ、基礎控除が本来より多く計算された誤った申告書が出来上がります。その結果、後日修正申告が必要になるケースがあります。痛いですね。
申告書は手書きまたは税理士の使用する申告ソフトで作成し、紙で税務署へ提出するのが原則です。
参考:国税庁「確定申告書等の様式・手引き等」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/syotoku/index.htm
日本の所得控除は全部で15種類あります。しかし非居住者が年間を通じて海外に居住している場合、使えるのはたった3種類です。
✅ 使える所得控除(3種類)
- 雑損控除(国内にある資産から生じた損失のみ)
- 寄附金控除
- 基礎控除(58万円。居住者の最大68万円より低い)
❌ 使えない所得控除(代表例)
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 配偶者控除・扶養控除
- 障害者控除
- 住宅ローン控除(転勤特例を除く)
この制限は非常に大きいです。たとえば日本に扶養家族がいる場合でも、非居住者期間中は扶養控除が一切使えません。居住者であれば1人あたり38万〜63万円の控除が受けられるところ、それがゼロになります。
基礎控除についても注意が必要です。令和7年分から居住者の基礎控除は所得に応じて最大68万円に引き上げられましたが、令和6年12月31日以前に国外転出した非居住者はこの引き上げ分の恩恵を受けられず、58万円のままとなります。控除額に10万円の差が生じますね。
年の途中に出国した場合はやや異なります。居住者期間中(1月1日〜出国日)については通常の所得控除が適用されます。ただし、配偶者控除や扶養控除の判定基準は「出国前に納税管理人の届出をしたか否か」によって12月31日時点または出国日時点に変わりますので、届出のタイミングが重要です。これが条件です。
参考:国税庁「No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1926.htm
知らないと損する話です。非居住者が日本国内の不動産を法人や個人事業主に貸し付けた場合、賃料の支払者が家賃の20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)を源泉徴収して納付する義務を負います。
つまり、月20万円の家賃収入があれば、毎月約4万円が自動的に差し引かれて振り込まれる計算です。年間では約48万円もの税金が先取りされています。
この源泉徴収は一種の「仮払い」です。確定申告で実際の不動産所得(家賃収入−必要経費)を計算し直すと、実際の税額が源泉徴収額よりも少ない場合は還付が受けられます。
具体例を挙げます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年間家賃収入 | 240万円 |
| 源泉徴収額(20.42%) | 約49万円 |
| 必要経費(修繕費・管理費など) | 200万円 |
| 不動産所得 | 40万円 |
| 基礎控除(58万円)適用後の課税所得 | 0円(所得控除が所得を上回る) |
| 実際の税額 | 0円 |
| 還付金額 | 約49万円 |
この場合、確定申告をすれば49万円が返ってきます。申告しなければ丸々損です。
申告書の書き方としては、第二表の「源泉徴収税額等の内訳」に、支払者名・収入金額・源泉徴収税額を記載します。必要経費の計算に当たっては減価償却費・固定資産税・管理委託手数料・修繕費・損害保険料などが計上できます。これは使えそうです。
なお、個人から不動産を借りる場合(例:サラリーマン個人が居住用に借りる場合)は、賃借人に源泉徴収義務はありません。源泉徴収されていないケースもあるので、まず賃借人の属性を確認しましょう。
参考:国税庁「No.2880 源泉徴収を要する非居住者等の所得の範囲」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2880.htm
納税管理人とは、海外に住む非居住者に代わって、確定申告書の提出・税金の納付・還付金の受け取りなどを行う代理人のことです。原則として確定申告が必要な場合、納税管理人の選任は必須です。
納税管理人になれる人の条件は「日本に住所または居所がある個人または法人」です。家族・親族・友人・税理士・税理士法人などが一般的です。特別な資格は不要です。
「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」の書き方の手順は以下の通りです。
1. 提出先税務署名を記入(不動産がある場合はその所在地の税務署)
2. 納税者本人(非居住者)の氏名・海外住所・マイナンバーを記入
3. 納税管理人の氏名・住所・マイナンバーを記入
4. 選任の年月日・選任理由を記入(「海外転出のため」など)
5. 提出者(納税管理人)が署名・押印
届出は出国前に提出するのが原則です。出国後に届出をしていない状態で国内源泉所得が生じてしまうと、手続きが煩雑になります。納税管理人の選任は出国前に必ず終わらせておきましょう。これが基本です。
固定資産税の納税管理人は別途、不動産のある市区町村へ申請が必要です。所得税の納税管理人と混同しやすいので注意してください。この届出を怠ると、固定資産税の滞納により不動産が差し押さえられるリスクもあります。
e-Taxは使えるのかどうかについても整理しておきます。令和6年5月27日以降、国外転出時の手続きをすることでマイナンバーカードを海外でも継続利用できるようになりました。これにより、非居住者本人がe-Taxで申告できるケースも増えています。ただし、税理士以外の納税管理人が代理で申告する場合は、引き続きe-Taxは利用できず紙提出が必要です。申告形態によって異なる点に注意が必要です。
📮 海外から申告書を郵送する場合は、確定申告書は「信書」に該当するため、FedExなどの民間国際宅配便ではなく、国際郵便(郵便物・第一種)で送付しなければなりません。国際宅配便で送ると正式な提出と認められないリスクがあります。これは意外ですね。
参考:国税庁「No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1923.htm
これは検索上位の記事にはほとんど書かれていない、独自視点の重要情報です。
株式や投資信託などの有価証券を保有している方が海外へ転出する場合、「国外転出時課税制度(出国税)」が適用される可能性があります。対象になる条件は次の通りです。
- 出国時に保有する有価証券等の時価合計が1億円以上
- 出国日前10年以内に日本に5年超居住している
この条件に当てはまる場合、実際に株を売却していなくても、出国日時点の時価で売却したとみなして含み益に課税されます。これが確定申告書への記載を必要とします。
金融資産が1億円規模になると、含み益への課税額は数百万円〜数千万円になることもあります。出国前に確定申告(準確定申告)を行い、この課税を申告書に反映しなければなりません。申告期限は出国日までです。
ただし、5年以内に帰国した場合は税金の取り消しを申請できる「納税猶予制度」があります。猶予期間は最長10年です。猶予を受けるには担保の提供が必要なため、事前に税理士への相談が不可欠です。
金融資産を積み上げてきた投資家にとっては、海外移住を検討する前にこの制度を把握しておくことが非常に重要です。知らずに出国してしまうと、申告漏れで加算税・延滞税が発生するリスクがあります。
| 資産規模 | 対象の有無 | 必要な申告 |
|---|---|---|
| 1億円未満 | 対象外 | 通常の確定申告(または不要) |
| 1億円以上 | 対象あり | 出国前の準確定申告(国外転出時課税の申告書記載が必要) |
投資信託・株式・デリバティブ取引(未決済)・匿名組合出資なども対象資産に含まれます。これだけ覚えておけばOKです。
参考:国税庁「No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1478.htm