棚卸資産の評価方法の届出と選び方・変更手続きの注意点

棚卸資産の評価方法の届出と選び方・変更手続きの注意点

棚卸資産の評価方法の届出:選び方・期限・変更手続きの完全ガイド

届出を一度出しても、3年以内に変更しようとすると税務署に却下されることがあります。


📋 この記事の3つのポイント
届出期限は「確定申告書の提出期限まで」

法人・個人ともに、事業開始年度の確定申告書提出期限が届出のタイムリミット。期限を過ぎると自動的に「最終仕入原価法」が適用されます。

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評価方法で利益額が大きく変わる

同じ在庫でも、先入先出法・総平均法・最終仕入原価法では期末評価額が数万円以上ずれることがあり、納税額にも直接影響します。

⚠️
変更には「3年以上の継続適用」が原則必要

一度届け出た評価方法は3年間変更できないのが原則。変更時には「変更承認申請書」の提出と税務署の承認が必須です。


棚卸資産の評価方法の届出とは何か:基本の仕組みを理解する


棚卸資産の評価方法の届出とは、商品・製品・原材料などの在庫(棚卸資産)を期末にいくらで評価するかの「ルール」を、税務署に事前に申告する手続きです。売上原価は「期首在庫+仕入額-期末在庫」で計算されるため、期末在庫の評価額が変わると、利益額が変わり、そのまま法人税・所得税の納税額にも直結します。


たとえば、仕入値が上昇している局面では、先入先出法を使うと期末在庫が高く評価されて利益が多く出ます。一方、総平均法では期中の平均単価が使われるため、先入先出法より低い評価になります。同じ在庫を持っていても、評価方法次第で「利益が多い会社」「利益が少ない会社」に見え方が変わるのです。


税法上、届出がない場合は自動的に「最終仕入原価法(法定評価方法)」が適用されます。これは会計の世界では正式な方法として認められていないため、上場企業など財務諸表の信頼性が求められる場面では問題になることがあります。つまり法定評価方法が必ずしも自社に最適とは限りません。


評価方法の選択肢は大きく分けて「原価法」と「低価法」の2種類です。原価法はさらに個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法の6つに分かれます。どれを選ぶかで、期間損益が変わることを覚えておきましょう。


参考:国税庁による届出書の公式案内はこちらで確認できます。届出書の様式PDFも配布されています。


国税庁|C1-25 棚卸資産の評価方法の届出(法人)


棚卸資産の評価方法の届出の期限:法人・個人それぞれの違い

届出の期限は、法人と個人事業主で少し異なります。共通しているのは「事業を始めた年度の確定申告書提出期限まで」という点です。ただし、ひとつひとつのケースで期限の日付が変わるため注意が必要です。
























区分 具体例 届出期限
個人事業主 2025年10月に開業 2026年3月15日まで(確定申告書提出期限)
法人(12月決算) 2025年10月に設立 2026年2月28日まで(確定申告書提出期限)
公益法人等 新たに収益事業を開始 収益事業開始年度の確定申告書提出期限まで


法人の場合は、事業年度終了から2か月以内が申告期限のため、個人の3月15日より前に期限が来ることがほとんどです。これが実務でよく見落とされるポイントです。


届出を提出しないと、自動的に最終仕入原価法が適用されます。届出を忘れたままでも税務処理自体はできますが、自社の業態に合わない評価方法が強制される可能性があります。期限を過ぎた後に「やっぱり変えたい」となると、変更承認申請書という別の手続きが必要になり、さらに3年間の継続使用実績も求められます。期限内の届出が原則です。


なお、届出書は書面(PDF印刷して持参または郵送)またはe-Taxによる電子申請のどちらでも提出できます。e-Taxを初めて利用する場合は利用者識別番号の取得が別途必要なため、余裕を持って準備しましょう。


参考:個人事業主向けの届出手続きの詳細は国税庁のこちらのページで確認できます。


国税庁|A1-18 所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続(個人)


棚卸資産の評価方法の種類と選び方:利益への影響を数字で比較する

評価方法の違いが、実際の決算数字にどれほどの差をもたらすのか、具体的な数字で確認しましょう。


たとえば、以下のような仕入れと販売がある第1期の会社を想定します。



  • 📦 9月仕入:300個 × @300円 = 90,000円

  • 📦 12月仕入:500個 × @400円 = 200,000円

  • 🛒 12月末売上:200個(期末残高600個)


この条件で、各評価方法ごとの期末在庫額と売上総利益を計算すると以下のようになります。



























評価方法 期末在庫評価額 売上原価 売上総利益
先入先出法 230,000円 60,000円 40,000円
総平均法 217,500円 72,500円 27,500円
最終仕入原価法 240,000円 50,000円


同じ在庫・同じ売上なのに、売上総利益が27,500円〜50,000円まで変わります。差額は22,500円です。これは法人税率(中小企業の軽減税率15%)で計算すると、約3,375円の税額差になります。在庫規模が大きくなればなるほど、この差は数十万円・数百万円単位に広がります。


結論は、評価方法の選択は税額設計そのものです。業種別のおすすめの目安は次のとおりです。



  • 🏠 個別管理できる商品(不動産・美術品など)→ 個別法

  • 🛍️ 商品数が多い小売業 → 売価還元法

  • 📊 価格変動が少ない製造業・卸売業 → 総平均法 or 移動平均法

  • 📝 経理の手間を最小限にしたい中小企業 → 最終仕入原価法(法定方法)

  • 💹 在庫の時価下落リスクが高い業界 → 低価法


低価法を選ぶと、取得原価よりも期末の時価が下がった場合に差額を「商品評価損」として費用計上でき、節税効果が得られます。たとえば、原価法での評価額が100万円でも、時価が70万円に下落していれば、差額の30万円を損金算入できます。仕入値よりも市場価格が下がりやすい商品を扱う事業では、強力な節税手段になります。


参考:各評価方法の特徴と仕訳方法について詳しく解説されています。


Jinjer|低価法とは?メリット・デメリットや仕訳について解説


棚卸資産の評価方法の届出を出さなかった場合のリスク:青色申告取消の可能性も

「届出を出し忘れても最終仕入原価法が使えるなら問題ないのでは?」と思う方もいるでしょう。これは半分正解です。しかし、届出を出した後に別の方法で評価していた場合は、話がまったく別になります。


たとえば「総平均法」の届出を出した会社が、変更手続きを踏まずに「先入先出法」で申告した場合、税務調査で発覚すると「最終仕入原価法」に基づいて更正処分される可能性があります。これは「届出した方法でも届出していない方法でもない評価」が適用されるという、当初の意図とはまったく異なる結果を招きます。


さらに深刻なのは青色申告の取消リスクです。国税庁の事務運営指針では、「選定した評価方法による評価額で行われていない場合」が青色申告の承認取消事由のひとつとして明記されています。青色申告を取り消されると、青色申告特別控除(最大65万円)が使えなくなり、欠損金の繰越控除(最大10年)も失います。税務上の優遇措置が一気に消えてしまうのです。


厳しいところですね。


ただし、「総平均法の届出をしている会社が変更手続きなしで最終仕入原価法を使って申告した場合」は、法的には適法ではありませんが、結果的に認められるケースもあります。これは最終仕入原価法が法定評価方法だからです。しかし、このような処理は青色申告取消リスクが残るため、税理士への相談を推奨します。


届出をしていない状態から評価方法を選びたくなった場合は、「変更承認申請書」を所轄税務署に提出します。この場合も3年間の継続使用原則が適用されます。届出なし=最終仕入原価法を3年以上使っているとみなされるため、3年以上経過していれば変更申請が通りやすくなります。


参考:届出をせず違う評価方法で処理した場合のリスクについて、税理士による解説記事です。


棚卸資産の評価方法の変更手続き:3年ルールと変更承認申請書の提出期限

一度選んだ評価方法は、原則として3年以上継続して使用しなければ変更できません。この「相当期間」は法人税基本通達によって3年と定められています。変更したい場合は「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を所轄税務署長に提出し、承認を得る必要があります。


変更承認申請書の提出期限は、法人と個人で異なります。



  • 📋 個人事業主:変更しようとする年の3月15日まで

  • 📋 法人:変更しようとする事業年度の開始日の前日まで


法人の場合は特に注意が必要です。たとえば12月決算の会社が2026年1月から評価方法を変更したい場合、申請期限は2025年12月31日になります。「年が変わってから準備すればいい」と思っていると手遅れになります。


3年以上の継続使用を前提としているだけでなく、変更には「合理的な理由」も求められます。たとえば、グループ会社間で会計方針を統一するため、事業の実態により近い評価方法に統一するため、などが合理的理由として認められやすいケースです。一方、「税負担を減らすためだけ」という理由は認められません。合理的な理由が必要です。


もし申請が却下された場合は、税務署から通知が届きます。承認された場合は通知またはみなし承認(一定期間経過後に異議がなければ承認とみなす)で確定します。申請が通らなかった年度に強引に別の評価方法を使ってしまうと、税務調査で不正経理と判断されるリスクがあります。


なお、設立第1期においては例外的な取り扱いがあります。設立時に届出を出した後でも、第1期の申告書提出期限内であり、変更後の評価方法を第1期の申告で採用していれば、当初の届出書からの変更が認められています。これは「最初の届出を出したが、実際に帳簿を締めてみたら別の方法の方が合っていた」というケースに対応した救済措置です。これは知っておくと便利です。


参考:評価方法の変更期限と申請書の記載例が詳しくまとめられています。


濱田会計事務所|棚卸資産の評価方法・固定資産の減価償却方法は変更できる?


棚卸資産の評価方法の届出で損をしないための独自視点:「後入先出法」はもう使えない

金融や会計に詳しい読者の中には、「後入先出法(LIFO)」という評価方法を聞いたことがある方もいるでしょう。後入先出法は、直近に仕入れたものから先に売れたと仮定する方法です。仕入れ価格が上昇している局面では、高い原価が先に費用化されるため、利益が圧縮でき節税になりやすい特徴があります。


しかし、後入先出法は2010年度の税制改正により、税法上の選択肢から廃止されています。それ以前に同方法を使用していた会社も、現在は使用不可です。これは意外ですね。


国際会計基準(IFRS)においても後入先出法は2005年に廃止されており、現在では日本の税法・会計基準のどちらでも認められていません。もし古い税務資料や書籍で後入先出法を見かけても、今は使えないと認識しておく必要があります。


同様に、「単純平均法」も税法上は認められていません。単純平均法とは仕入価格の単純な算術平均を取る方法ですが、現在は選択できる原価法の6つの中に含まれていないため注意が必要です。


現在、税法上で使える原価法は以下の6種類のみです。



  • ✅ 個別法

  • ✅ 先入先出法

  • ✅ 総平均法

  • ✅ 移動平均法

  • ✅ 最終仕入原価法

  • ✅ 売価還元法


6種類が原則です。低価法はこれらのいずれかひとつと組み合わせて届け出る方式になります。低価法を選ぶ場合は、「先入先出法による低価法」「総平均法による低価法」のように、原価法の算定方式をセットで指定して届け出なければなりません。


この組み合わせ方を知らないまま「低価法で届け出ます」とだけ書いた届出書を提出しても不完全とみなされるリスクがあります。届出書の記入時は国税庁の記載例を必ず確認してから作成することを強くおすすめします。届出書の作成に不安がある場合、税理士への相談が最も確実です。顧問税理士がいない場合は、最初の決算期限が近づく前に税理士検索サービスなどで専門家を見つけておくとよいでしょう。


参考:国税庁による法人税の棚卸資産評価に関する基本通達が確認できます。


国税庁|法人税基本通達5-2-4(評価方法の変更申請における相当期間)




1 Q&A棚卸資産の会計実務 (【現場の疑問に答える会計シリーズ】)