

繰越期間が10年あっても、帳簿を7年で捨てると控除が全額アウトになります。
「赤字の年は法人税がゼロになる」——これは正しいです。問題は、翌年以降の黒字をどう処理するかです。繰越欠損金の制度は、赤字が出た事業年度の欠損金を翌年度以降に繰り越し、将来の黒字所得と相殺することで課税所得を減らせる仕組みです。つまり、今期の赤字を"将来の節税資産"として積み立てておける制度といえます。
具体的なイメージとして、2025年度に1,000万円の赤字が出たとします。2026年度に1,500万円の黒字が出た場合、繰越欠損金がなければ1,500万円に対して法人税がかかります。しかし繰越欠損金を適用すれば課税所得は1,500万円 − 1,000万円 = 500万円に圧縮されます。法定実効税率を約34%と仮定すれば、340万円の節税効果が生まれる計算です。これは使えますね。
制度の正式名称は「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」(法人税法第57条)です。青色申告が前提条件になっているため、白色申告のみの法人は適用外となります。白色申告でも利益は発生しますが、過去の赤字を使う権利がない——これは大きなデメリットになり得ます。
さらに押さえておきたいのは「損金算入の順序」です。複数の事業年度にわたって欠損金がある場合は、必ず最も古い事業年度の欠損金から順番に控除されます。この順序は法令で定められており、任意に選ぶことはできません。古い欠損金ほど期限切れが近いため、自動的に優先消化される仕組みになっています。
つまり、繰越欠損金はただ持っているだけでなく、発生年度・金額・残存期間を正確に把握したうえで計画的に活用することが必要です。
参考:国税庁タックスアンサーによる欠損金繰越控除の公式解説ページ
No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除 - 国税庁
繰越期間に関して「10年」という数字を知っている方は多い一方で、「いつから10年になったのか」を正確に把握している方は少ないです。この点を曖昧にしたまま申告すると、欠損金の残存期間の計算を誤るリスクがあります。
繰越期間の変遷を整理すると次のとおりです。
| 適用対象の欠損金発生年度 | 繰越期間 |
|---|---|
| 平成20年4月1日以後終了事業年度〜(平成23年12月税制改正) | 9年間 |
| 平成30年4月1日以後開始事業年度〜(平成28年度税制改正) | 10年間 |
それ以前は7年間しか繰り越せませんでした。つまり、7年→9年→10年と段階的に延長されてきた経緯があります。現行の10年は「平成30年4月1日以後に開始した事業年度」で発生した欠損金に適用されます。平成30年4月1日以前に発生したものは9年ルールが残るため、注意が必要です。
繰越期間の起算点についても整理しておきます。起算点は「欠損金が発生した事業年度の終了日の翌日」です。3月決算法人の場合、例えば2025年3月期(2024年4月〜2025年3月)に発生した欠損金は、2025年4月1日が起算日となり、2035年3月期まで使えます。これが原則です。
10年という期間は体感では長く感じられますが、連続して黒字を出せない企業や、業績回復が遅れた企業にとっては意外と短い時間です。厳しいところですね。
また、繰越期間は「使えば短くなる」のではなく、発生年度から一律にカウントダウンされます。欠損金を使っていない年でも時計は進んでいます。利益が出なかった年も期限は確実に近づいているわけです。
参考:繰越欠損金の期間変遷と控除条件について詳細をまとめたページ
青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除について - 山田パートナーズ税理士法人
繰越欠損金を実際に控除するには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。これを一つでも欠くと、控除の権利を失います。
ここで多くの人が見落とす落とし穴が「帳簿保存期間」です。税法の原則的な帳簿保存期間は7年間とされています。そのため「7年保存すればOK」という認識で帳簿を廃棄してしまうケースがあります。しかし繰越欠損金を利用する場合、10年間の保存が義務付けられています。7年で帳簿を処分した場合、税務調査でその年度の欠損金の実在性が確認できなくなり、控除が否認されるリスクがあります。
帳簿の保存期間の起算点は「帳簿を作成した日」ではありません。正しくは「その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日」から数えます。この点は正確に理解しておきましょう。
電子帳簿保存法(電帳法)への対応が進んでいる場合は、電子データとして保管する方法もあります。一方で、紙の帳簿を長期間保管するのは物理的なスペースの問題もあります。10年保存を確実に実施するためには、会計ソフトのクラウド保管機能や電子帳簿保存の仕組みを活用することが現実的な対策です。
繰越欠損金の適用を検討するなら、まず自社の申告状況と帳簿保管状況を確認するのが最初の一手です。
参考:帳簿書類等の保存期間についての国税庁公式解説
No.5930 帳簿書類等の保存期間 - 国税庁
多くの方が「赤字の全額を将来の黒字から引ける」と思い込んでいます。これが当てはまるのは中小法人等に限った話で、大企業にはまったく別のルールが存在します。この違いを知らずにいると、節税計画が大きく狂います。
現行の控除限度額は次のとおりです。
| 法人の区分 | 控除限度額 |
|---|---|
| 中小法人等(資本金1億円以下等) | 課税所得の全額(100%) |
| 大企業(平成30年4月1日以後開始事業年度) | 課税所得の50% |
大企業の50%制限の意味を具体的に見てみましょう。繰越欠損金が800万円、当期の課税所得が1,000万円の大企業の場合、控除できる上限は1,000万円×50%=500万円です。800万円の欠損金をすべて使いたくても、この年度では500万円しか控除できず、残り300万円は翌年度以降に繰り越すことになります。
しかも10年の時計は止まりません。うまく使いきれなければ期限切れで消えてしまいます。
中小法人等かどうかの判定には、資本金の額だけでなく「大企業グループの100%子会社かどうか」も関係します。資本金が1億円以下であっても、資本金5億円以上の大法人に発行済株式の全部を保有されている子会社は、中小法人等に該当しません。この点を見落とし、「うちは資本金1億円以下だから全額控除できる」と誤って申告するケースは税務リスクになりえます。
自社が中小法人等に該当するかは税理士との確認が確実です。
参考:中小企業税制における控除限度額の取り扱いを記載した経済産業省パンフレット
中小企業税制(令和7年度版)- 経済産業省
10年の繰越期間を過ぎた欠損金は、そのまま消滅します。過去の赤字がどれだけ大きくても、活用できなかった分は二度と使えません。これが繰越欠損金の最大のデメリットです。
例えば、2015年度に5,000万円の赤字が出た法人が、その後9年間ほぼ赤字続きで、2025年度に初めて3,000万円の黒字を出したとします。しかしこの時点では2015年度分の欠損金はほぼ期限切れになっていることがあり、5,000万円のうち相殺できる金額が限られる可能性があります。痛いですね。
このリスクを回避するために、実務上は以下の管理が有効です。
また、組織再編(合併・会社分割・事業譲渡など)を行う場合は、繰越欠損金の引き継ぎに厳格な制限がかかります。合併で吸収した赤字会社の欠損金を節税目的で引き継ぐことを税務当局は問題視しており、事業継続要件や従業者引継要件などを満たさなければ引き継ぎが認められません。M&Aを検討している場合は専門家への相談が必須です。
さらに、中小企業向けには「繰戻し還付」という別の制度も存在します。これは欠損金が発生した事業年度の前年度に黒字があった場合、前年に納付した法人税の一部還付を請求できる制度です。10年先まで待たずに現金として還付を受けられる可能性があるため、キャッシュフローを重視する企業には有力な選択肢です。
繰越欠損金を最大限に活かすためには、節税の仕組みを「制度として知る」だけでなく、「いつ・いくら・どの順番で使うか」という計画的な管理が不可欠です。制度を知っていても使いきれなければ、本来得られたはずの節税効果がゼロになります。
参考:繰越欠損金の期限切れ対策と繰戻し還付の活用方法を解説したページ
繰越欠損金で節税効果を最大化するには?仕組み・使えないケースなど詳しく解説 - 小谷野税理士法人