移動平均法と簿記の仕組みを基礎から実務まで解説

移動平均法と簿記の仕組みを基礎から実務まで解説

移動平均法と簿記の基本から実務の注意点まで完全解説

移動平均法の単価を1円でも間違えると、その後の決算数値がすべて崩れます。


📋 この記事の3つのポイント
📦
移動平均法とは何か

商品を仕入れるたびに平均単価を再計算して棚卸資産を評価する方法。リアルタイムで原価を把握できるのが最大の特徴です。

🧮
計算方法と商品有高帳への記入ルール

公式は「(受入金額+在庫金額)÷(受入数量+在庫数量)」。払出欄には売価ではなく原価を書くのが鉄則です。

⚠️
税務上の届出と評価方法の変更ルール

採用する評価方法は税務署への届出が必要。無届けなら最終仕入原価法が自動適用され、変更には原則3年以上の継続使用が条件です。


移動平均法とは何か:簿記における棚卸資産評価の基本


移動平均法とは、商品や原材料を仕入れるたびにその時点の在庫と合算し、平均単価を都度算出する棚卸資産の評価方法です。簿記3級・2級でも出題される論点であり、企業の実務でも広く採用されています。


棚卸資産とは、いわゆる「在庫」のことです。小売業が販売目的で仕入れた商品、製造業が製品を作るために仕入れた原材料、これらがすべて棚卸資産に該当します。この在庫の「単価をどう決めるか」が、売上原価の計算に直結します。つまり、棚卸資産の評価が正確でなければ、利益の数字も信頼できません。


評価方法 計算タイミング 特徴
移動平均法 仕入れのたび(都度) リアルタイムで単価を把握できる
総平均法 一定期間ごと(月・年) 計算の手間が少ない、期中管理は不可
先入先出法 出庫のたび 古い商品から先に出たと仮定して計算
最終仕入原価法 期末(届出なしの場合の法定方法) 期末の直前仕入価格で一括評価


移動平均法の最大のメリットは、期中のどの時点でも現在の棚卸資産の評価額が把握できる点です。これはいいことですね。経営判断や財務分析をリアルタイムで行いたい企業にとって、非常に有用な手法といえます。


一方で、「仕入れのたびに計算する」という特性上、取り扱う商品の種類が多かったり、仕入れの頻度が高かったりすると、担当者の事務負担は相当なものになります。移動平均法は手間との引き換えが条件です。


参考:棚卸資産評価方法の基礎について、国税庁の公式ページで詳細を確認できます。


国税庁|棚卸資産の評価方法の届出(C1-25)


移動平均法の計算式と商品有高帳への正しい記入方法

移動平均法の計算式は、次の1本を覚えれば十分です。


$$平均単価 = \frac{受入棚卸資産取得原価 + 在庫棚卸資産金額}{受入棚卸資産数量 + 在庫棚卸資産数量}$$


具体例で確認しましょう。以下のような仕入状況を想定します。


  • 4月1日(期首):商品Aの残高 単価200円 × 10個 = 2,000円
  • 4月10日:商品Aを単価230円で20個仕入れ
  • 4月15日:商品Aを15個販売
  • 4月30日:商品Aを単価220円で30個仕入れ


まず4月10日の仕入れ時に平均単価を計算します。


$$平均単価 = \frac{230円 \times 20個 + 200円 \times 10個}{20個 + 10個} = \frac{4{,}600 + 2{,}000}{30} = 220円$$


この時点での残高は「220円 × 30個 = 6,600円」です。


次に4月15日に15個を売上します。在庫は 30個 − 15個 = 15個に減り、残高は「220円 × 15個 = 3,300円」となります。


4月30日に再び仕入れが発生するため、もう一度計算します。


$$平均単価 = \frac{220円 \times 30個 + 3{,}300円}{30個 + 15個} = \frac{6{,}600 + 3{,}300}{45} = 220円$$


このケースでは単価が変わりませんでしたが、仕入価格が変動する場面では毎回異なる単価が算出されます。


商品有高帳への記入では、払出欄(売上欄)の「単価」は売価ではなく仕入原価を記入します。これが基本です。簿記の試験でも実務でも、ここを売価で書いてしまうミスが非常に多いため、特に注意してください。払出金額=売上原価、これだけ覚えておけばOKです。


参考:商品有高帳の記入例と注意点について詳しく解説されています。


弥生|商品有高帳とは?記入方法や移動平均法、先入先出法などを解説


移動平均法と先入先出法の違いが生む利益の差:簿記3級でも問われる論点

移動平均法と先入先出法は、どちらも商品有高帳に使える払出単価の計算方法ですが、採用する方法によって売上原価の金額が変わります。結論は「どちらが正しい」ではなく「どちらを選ぶか」です。


例として、先ほどの事例で売上高を12,330円と仮定した場合の比較を見てみましょう。


評価方法 売上高 売上原価 売上総利益
先入先出法 12,330円 8,280円 4,050円
移動平均法 12,330円 8,320円 4,010円


同じ売上高・同じ仕入れでも、評価方法の違いで売上総利益に40円の差が出ます。40円という数字は小さく見えるかもしれませんが、実際のビジネスでは扱う商品が何千・何万点にもなるため、この差は法人税額にも影響するほど拡大することがあります。これは使えそうです。


物価が上昇している局面では、先入先出法は「古い(安い)原価で売上原価を計算する」ため利益が大きく出やすく、移動平均法は「直近の平均単価を使う」ため利益の数字が安定しやすい傾向があります。どちらの手法が有利かは景気や物価の動向にも左右されるため、一概にはいえません。


簿記2級では、財務諸表を作成する過程で商品有高帳から単価を求めるパターンが出題されます。単価の算出をひとつ間違えると、それ以降の数字がすべてズレるため、試験本番では検算を怠らないことが重要です。


参考:先入先出法との違いと利益への影響について、図解つきで解説されています。


こたか簿記|商品有高帳の先入先出法と移動平均法について(簿記3級)


移動平均法と総平均法の選び方:実務での使い分けと税務上の注意点

移動平均法と総平均法はどちらも「平均原価法」に分類されますが、計算のタイミングが根本的に異なります。移動平均法が仕入れのたびに計算するのに対し、総平均法は一会計期間(月・年)をまとめて計算します。


総平均法の計算式は次のとおりです。


$$総平均単価 = \frac{期首棚卸資産金額 + 当期仕入総額}{期首棚卸資産数量 + 当期仕入総数量}$$


総平均法は、期末に一度だけ計算すればよいため事務負担が格段に少なくなります。厳しいところですね、というのは移動平均法の方で、仕入れ件数が多い企業では担当者の計算量が膨大になります。


実務上での選び方のポイントは以下のとおりです。


  • 📦 移動平均法が向く企業:仕入れ頻度が少なく、リアルタイムの原価把握が経営上重要な企業(高単価商品を扱う卸売業、貴金属業など)
  • 📋 総平均法が向く企業:仕入れ品目・回数が多く、事務効率を優先したい企業(食品製造業、アパレル業など)


税務上の届出が必須である点は見落とされがちです。 棚卸資産の評価方法を決めたら、法人設立後の最初の確定申告書の提出期限までに、所轄の税務署へ「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出しなければなりません。この届出を怠ると、評価方法が自動的に「最終仕入原価法(期末の直前単価で評価)」として適用されます。


移動平均法を採用したい場合は税務署への届出が条件です。また、いったん選択した評価方法を変更するためには、原則として3年以上の継続使用が必要で、かつ「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を税務署長に提出して承認を得ることが求められます(法人税基本通達5–2–13)。単なる節税目的や利益調整目的では変更が認められないため、注意が必要です。


参考:評価方法の変更に関する手続きと「相当期間」の解釈について詳しく解説されています。


神戸FAS合同会社|棚卸資産の評価方法を変更するには


移動平均法が簿記試験に出る理由と、金融実務への応用:独自視点の解説

移動平均法は簿記検定の試験問題として登場しますが、そもそもなぜこの手法が教育課程で重視されているのか、金融の視点から少し深堀りしてみましょう。


移動平均という考え方は、株式投資信託の分析でも「移動平均線」として使われています。株価の移動平均線は、過去N日分の終値の平均を毎日更新して折れ線グラフにしたものです。これはまさに、簿記の移動平均法と同じ発想です。「直近のデータを加えるたびに平均値を更新する」という仕組みが共通しています。


つまり、移動平均法という会計手法を理解することは、金融市場の分析ツールである移動平均線の考え方も同時に学んでいることになります。これは使えそうです。


  • 📈 株式分析の移動平均線:過去N日の株価平均を更新し続け、トレンドを可視化する
  • 📦 簿記の移動平均法:仕入れのたびに在庫の平均単価を更新し続け、原価を正確に算出する


どちらも「データが加わるたびに平均を更新する」という点で同一の数理的発想に基づいています。


また、暗号資産(仮想通貨)の会計処理においても、移動平均法は重要です。法人が暗号資産を売却する際の譲渡原価の算定は、棚卸資産の評価方法に準じる形で移動平均法または総平均法が使われます。届出をしなかった場合の法定方法は移動平均法が自動適用されるため、仮想通貨投資を法人で行う場合は特に覚えておくべき知識です。


移動平均法が基本です。株式投資や仮想通貨に興味がある金融リテラシーの高い人にとって、簿記における移動平均法の理解は、会計の枠をはるかに超えた実用的な武器になるといえるでしょう。


参考:弥生の公式解説ページでは、移動平均法と棚卸資産評価の全体像が体系的にまとめられています。


弥生|移動平均法とは?計算方法や総平均法との違い、メリットなどを解説


移動平均法で起きやすい計算ミスと防ぎ方:簿記試験・実務での注意ポイント

移動平均法は計算のロジックを理解しても、実際に帳簿を記入すると思わぬミスが出やすい手法です。典型的なミスのパターンと、その対策を整理しておきましょう。


ミス① 払出欄に売価を書いてしまう


商品有高帳の「払出(売上)」欄に記入する単価・金額は、あくまで「仕入原価」です。問題文や実務の帳票には売価が記載されていることが多いため、それをそのまま写してしまうケースが後を絶ちません。売価ではなく原価が原則です。


ミス② 仕入れのたびに計算しない(更新漏れ)


移動平均法では、仕入れが発生するたびに平均単価を再計算しなければなりません。「前回の単価をそのまま使えばいい」と思い込んで更新を怠ると、次の払出・仕入の計算にも連鎖してズレが積み重なります。痛いですね。


ミス③ 売上があった後の残高数量を誤って次の計算に持ち込む


在庫数量は「仕入れで増加・売上で減少」します。売上があった後の正しい残高数量を次の仕入れ時の計算に使わないと、平均単価の分母が狂い、以降のすべての数値がおかしくなります。残高数量の管理が条件です。


ミスの種類 原因 防ぎ方
払出に売価を記入 問題文の売価と混同 「払出=原価」と意識して記入前に確認
平均単価の更新漏れ 前回単価をそのまま流用 仕入れの行には必ず再計算チェックを入れる
残高数量の誤り 売上後の数量更新を忘れる 売上の行を記入したら残高欄を必ず確認


実務では、会計ソフトや在庫管理システムが自動で移動平均単価を計算・更新してくれます。これは使えそうです。たとえば弥生会計や freee などのクラウド会計ソフトを使うと、仕入・売上の入力に連動して商品有高帳が自動作成されるため、計算ミスのリスクを大幅に下げることができます。


ただし、簿記試験では手書きで帳簿を記入する問題が出題されます。ソフトに頼れない試験本番に備えて、問題を繰り返し解いて手計算を確実に習得しておく必要があります。何度も問題を解くのが基本です。


参考:簿記3級・2級の移動平均法の試験対策については、CPAラーニングの解説記事が詳しくまとめられています。


CPAラーニング|移動平均法の評価方法を解説!商品有高帳がわかれば簿記3級も怖くない




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