

別荘の売却損は損益通算できません。
所得税の損益通算とは、一定の所得区分で発生した損失(赤字)を他の所得区分の利益(黒字)から差し引くことができる制度です。複数の収入源を持つ納税者にとって、損失を有効活用して課税所得を減らし、税負担を軽減する重要な仕組みといえます。
参考)損益通算とは?対象となる所得から確定申告のやり方までわかりや…
損益通算の対象となる所得は以下の4つに限定されています。
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覚え方として「ふじさんじょう(不・事・山・譲)」という語呂合わせが実務でよく使われます。これら4つの所得区分で損失が発生した場合に限り、給与所得や配当所得など他の黒字所得と相殺できるということです。
一方、利子所得、配当所得、給与所得、退職所得、一時所得、雑所得の6つの所得区分で損失が生じても、他の所得との損益通算はできません。つまり原則としてこれらの所得内で赤字が出ても税金の計算上は考慮されないことになります。
参考)https://www.jaifa.or.jp/present/serial/tax_course_2022_07/
なお損益通算とは別に「内部通算」という概念があり、同じ所得区分内でのプラスとマイナスの相殺はすべての所得で可能です。たとえば株式の売買で一方の銘柄で損失、もう一方で利益が出た場合、同じ譲渡所得内での内部通算は認められます。
損益通算の計算には法律で定められた順序があり、正しい手順で進めることが重要です。税務担当者として申告書をチェックする際、この順序を理解していないとミスを見逃すリスクがあります。
参考)損益通算の計算方法・順序とは?確定申告で申請するメリット・デ…
損益通算の基本的な流れは次の通りです。
参考)損益通算・繰越控除でできる節税対策|基本から実践まで徹底解説…
ステップ1:各所得金額の計算
まず各所得区分ごとに所得金額を算出します。必要経費や特別控除を差し引いた後の金額です。
ステップ2:経常所得グループでの通算
不動産所得・事業所得・給与所得・雑所得を経常所得グループとして扱い、このグループ内で損益通算を行います。たとえば不動産所得で損失が出ている場合、給与所得の黒字から差し引きます。
ステップ3:譲渡・一時所得グループでの通算
譲渡所得(総合課税分)や一時所得がある場合、これらのグループで損益を調整します。
ステップ4:山林・退職所得での通算
最後に山林所得と退職所得の損益を通算します。山林所得には50万円の特別控除があり、控除後の金額で通算を行います。
この順序は所得税法で厳密に定められているため、恣意的に変更することはできません。
具体例として、不動産所得が-100万円、事業所得が-50万円、給与所得が800万円の場合を考えます。まず経常所得グループ内で通算すると、800万円-100万円-50万円=650万円が課税対象となります。
損益通算を行った後も控除しきれない損失が残る場合、これを「純損失」と呼びます。純損失は青色申告者であれば翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の所得から控除できる「繰越控除」の対象となります。つまり今年赤字でも来年以降の黒字と相殺できるということですね。
参考)投資で損をした時に税金を取り戻す「損益通算」と「損失の繰越控…
損益通算の対象となる4つの所得であっても、すべての損失が無条件で通算できるわけではありません。税務実務で最も注意が必要なのが、この「例外」のケースです。
参考)https://www.freee.co.jp/kb/kb-kakuteishinkoku/accounting-software-self-employment/
土地・建物の譲渡損失は原則通算不可
土地や建物などの不動産を譲渡して損失が生じた場合、原則として他の所得との損益通算はできません。不動産は分離課税の対象であり、同じ土地・建物の譲渡所得内でのみ通算が認められます。
参考)損益通算とは?できる所得とケース別の損益通算方法をわかりやす…
ただし「例外の例外」として、自宅(居住用財産)を売却して損失が出た場合は、一定の要件を満たせば他の所得との損益通算が可能です。具体的にはマイホームを買い換えた場合や、住宅ローンが残っている状態で売却した場合などが該当します。冒頭で述べた「別荘の売却損は損益通算できない」というのは、居住用でない不動産には救済措置が適用されないためです。
参考)https://www.jaifa.or.jp/present/serial/tax_course_2022_08/
株式等の譲渡損失も通算制限あり
上場株式や非上場株式などの譲渡で損失が生じた場合も、申告分離課税の対象となるため他の所得との損益通算はできません。
株の損失は株の利益とのみ相殺可能です。
ただし上場株式については、配当所得を申告分離課税として申告すれば、配当所得と譲渡損失を損益通算できる特例があります。さらに控除しきれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越して将来の株式譲渡益や配当所得と相殺できます。この繰越控除を適用するには毎年連続して確定申告を行う必要があります。
生活に通常必要でない資産の損失
ゴルフ会員権、別荘、貴金属、書画骨董などの「生活に通常必要でない資産」の譲渡損失も、他の所得との損益通算は認められません。なお2004年4月1日以降、ゴルフ会員権の売却損による損益通算は廃止されました。それ以前は通算可能でしたが、制度変更により現在は認められていません。
参考)総合課税の損益通算とは?仕組みと注意点をわかりやすく解説
これらの例外を把握せずに申告書を作成すると、後から税務署の指摘を受け、修正申告や追徴課税につながります。
意外ですね。
損益通算を効果的に活用することで、納税者の税負担を大きく軽減できます。税務担当者として押さえておくべき実務上のポイントをいくつか紹介します。
青色申告の活用で繰越控除を最大化
個人事業主や不動産賃貸業を営む納税者に対しては、青色申告を推奨することが節税の第一歩です。青色申告者であれば、損益通算後も残った純損失を翌年以降3年間繰り越せる繰越控除が利用できます。事業初年度で大きな設備投資をした場合など、この制度が大きな効果を発揮します。
白色申告者でも一定の繰越控除は認められますが、変動所得や被災事業用資産の損失など限定的です。青色申告承認申請書は、適用を受けようとする年の3月15日まで(新規開業の場合は開業から2か月以内)に提出が必要なため、早めの手続きが重要です。
マイホーム売却損の特例活用
住宅を売却して損失が生じた場合、居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例を検討します。
この特例には以下の2パターンがあります。
参考)住まいの税金 住宅を売却する時の税金|マンション売却・購入・…
いずれも適用要件(所有期間5年超、居住用であることなど)を満たす必要がありますが、給与所得など他の所得から最大3年間にわたり損失を控除できるため、節税効果は極めて大きいです。たとえば給与所得800万円の方が3,200万円の譲渡損失を出した場合、売却年の所得税はゼロとなり、源泉徴収された税金が全額還付されます。翌年以降も残りの損失を繰り越して控除できます。
参考)【三井のリハウス】売る方|譲渡所得の計算方法 - 居住用財産…
この特例は住宅ローン控除と併用可能ですが、損益通算を適用している期間中は住宅ローン控除が使えず、損失を使い切った翌年から住宅ローン控除を適用する形になります。
株式投資の損失管理
複数の証券会社で取引をしている納税者の場合、損益通算により税金の還付を受けられる可能性があります。A証券で利益が出て源泉徴収されていても、B証券で損失があれば確定申告により相殺でき、払いすぎた税金が戻ってきます。
複数口座の損益を確認することが大切です。
参考)株の損益通算とは?損失・利益の確定申告のやり方をわかりやすく…
NISA口座での損失は損益通算の対象外であり、繰越控除もできません。非課税で得た利益に対する代償として、損失も税務上は考慮されないということですね。NISA口座と課税口座の使い分けを適切にアドバイスすることも税務担当者の役割です。
損益通算を適用するためには、原則として確定申告が必要です。給与所得者であっても、不動産所得や事業所得で損失が生じた場合は自ら申告しなければ損益通算の適用を受けられません。
必要な申告書類
基本となるのは確定申告書第一表と第二表です。第一表の「所得金額等」欄で各所得を記入すると、合計欄で自動的に損益通算が行われる仕組みになっています。
譲渡所得がある場合は確定申告書第三表(分離課税用)も必要です。株式の譲渡損失と配当所得を損益通算する場合や、不動産の譲渡所得がある場合に使用します。
上場株式等の譲渡損失の繰越控除を適用する場合は「令和◯年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」の提出が必須です。この付表には前年からの繰越損失額や当年の損益通算の内訳を詳細に記載します。
参考)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2020/pdf/003.pdf
記載時の注意点
確定申告書第一表では、各所得の「収入金額等」と「所得金額」を正確に区別して記入します。株式の譲渡所得の場合、「収入金額等」欄には記入せず、「所得金額」の「分離(6)」欄に第三表からの転記額を記入する点に注意が必要です。
損益通算の計算は確定申告書上で自動的に行われますが、事前に計算シートで通算後の所得金額を確認しておくと、記入ミスを防げます。
繰越控除を適用する場合は、翌年以降も連続して確定申告を行わなければ控除の権利が消滅します。たとえ当年に所得がなくても申告を継続する必要があるため、納税者への説明が重要です。
忘れると損しますね。
帳簿や証憑の保存義務
損益通算を適用する場合、損失の根拠となる帳簿書類や証憑(領収書、契約書など)の保存が必須です。税務調査が入った際に損失の実在性を証明できなければ、損益通算が否認され追徴課税を受ける可能性があります。
青色申告者の場合は帳簿書類の保存期間は原則7年、白色申告者でも5年の保存が求められます。デジタルデータでの保存も可能ですが、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
国税庁のウェブサイトでは損益通算に関する詳細な情報と計算例が公開されており、実務の参考になります。
国税庁「No.2250 損益通算」では、損益通算の基本ルールと例外について図解付きで解説されています
税務調査で損益通算が争点となるケースは少なくありません。税務署側がチェックする主なポイントを理解しておくことで、申告書作成時のミスを防ぎ、クライアントを守ることができます。
損失の実在性と事業性の判断
不動産所得や事業所得で損失を計上している場合、その損失が実際に発生したものか、事業として成立しているかが厳しく問われます。特に副業として始めた事業で継続的に赤字が続いている場合、「事業所得ではなく雑所得ではないか」と指摘される可能性があります。
雑所得では損益通算ができないため、この区分判定は極めて重要です。事業性の判断基準として、事業規模、継続性、営利性、労力の程度などが総合的に考慮されます。帳簿をしっかり作成し、事業計画を明確にしておくことが対策になります。
土地・建物の取得費や譲渡費用の妥当性
不動産の譲渡所得で損失を計上する場合、取得費や譲渡費用が適切に計算されているかがチェックされます。特に相続した不動産など、取得時の資料が不明確な場合に概算取得費(譲渡価額の5%)を使うと、本来の損失額が正確に反映されないことがあります。
できる限り実額で計算することが基本です。
生活費との区分
不動産所得や事業所得の必要経費として計上した支出が、実際には家事費(生活費)に該当しないかも重要な確認ポイントです。自宅兼事務所の場合の光熱費や通信費、車両費などは、事業用と家事用の按分計算が適切に行われているかが問われます。
按分根拠を明確に説明できる資料(使用時間の記録、面積比など)を保存しておくことで、税務調査時のトラブルを回避できます。
これが条件です。
繰越控除の連続性
株式の譲渡損失など繰越控除を適用している場合、毎年連続して確定申告を行っているかが確認されます。1年でも申告を怠ると、それ以降の繰越控除が使えなくなるため、納税者への注意喚起が必要です。
また繰越中の損失額が毎年正確に引き継がれているか、計算ミスがないかもチェック対象となります。前年の申告書控えを確認しながら作成することが大切です。
損益通算は納税者の権利として認められた制度ですが、適用要件や例外ルールが複雑なため、税務担当者としての正確な知識と丁寧な書類作成が求められます。適切に活用すれば大きな節税効果を生みますが、誤った適用は後の追徴課税リスクにつながるため、慎重な判断が必要です。