

年金をもらっている親でも、年収168万円以下なら扶養に入れて最大58万円を丸ごと控除できます。
老人扶養控除とは、70歳以上の親族を扶養に入れることで、納税者本人の課税所得を減らし所得税・住民税を節税できる制度です。まず「老人扶養親族」と認められるための条件を整理しましょう。
国税庁が定める要件は4つあります。①配偶者以外の親族(6親等以内の血族・3親等以内の姻族)または里子・養護委託老人であること、②納税者と生計を一にしていること、③その年の合計所得金額が58万円以下(2025年12月施行・令和7年分から適用)であること、④青色申告の事業専従者として給与を受けていないこと、です。
「合計所得が58万円以下」という数字だけを見ると高いハードルに感じるかもしれません。しかし実際の年金収入とは異なる点が重要です。
公的年金には「公的年金等控除」が適用されます。65歳以上で年金収入が330万円未満の場合、控除額は110万円と定められています。つまり計算式は次のようになります。
| 年齢 | 年金収入の上限(目安) | 計算式 |
|---|---|---|
| 65歳未満 | 118万円以下 | 118万円 − 控除60万円 = 所得58万円 |
| 65歳以上(70歳以上含む) | 168万円以下 | 168万円 − 控除110万円 = 所得58万円 |
168万円という金額は、月額に直すと約14万円です。国民年金と厚生年金を合わせた平均的な年金額(厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」で厚生年金受給者の平均月額は約14.4万円)と近い水準であり、多くの親が対象になりえます。これが条件の基本です。
なお、2025年(令和7年)の税制改正で所得要件が従来の「48万円以下」から「58万円以下」に引き上げられました。これにより年金収入168万円(65歳以上)まで対象に拡大され、改正前より多くの親を扶養に入れられるようになりました。この変更点はかなり実務に影響します。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(国税庁)
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
「老人扶養親族」と認定されても、控除額は一律ではありません。同居しているかどうかで10万円の差が生じます。これが見落とされがちなポイントです。
| 区分 | 所得税控除額 | 住民税控除額 |
|---|---|---|
| 同居老親等(直系尊属で常に同居) | 58万円 | 45万円 |
| 同居老親等以外(別居) | 48万円 | 38万円 |
| 一般の扶養控除(70歳未満) | 38万円 | 33万円 |
「同居老親等」に該当するには、納税者本人または配偶者の直系尊属(父母・祖父母など)であり、常に同居していることが条件です。祖父母の場合も対象に含まれます。
年収600万円の方が同居老親等として58万円の控除を適用した場合、所得税率20%で計算すると、所得税だけで約11.6万円の節税が見込めます。別居(48万円控除)との差額は年間約2万円になります。決して小さくない金額です。
ただし「同居」の定義には注意が必要です。重要な例外が2つあります。
1つ目は、病気の治療で長期入院している場合です。結果として1年以上にわたっても「同居」とみなして差し支えないとされています(国税庁タックスアンサー)。
2つ目は、老人ホーム等へ入所している場合です。この場合は老人ホームが居所とみなされ、「同居」には該当しません。たとえ以前は一緒に住んでいたとしても、老人ホームへの入所時点で「同居老親等」の区分から外れ、控除額は58万円→48万円に下がります。この違いを知らずに年末調整を誤って申告している方は少なくありません。
参考:No.1182 高齢者を扶養している人が受けられる配偶者控除や扶養控除(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1182.htm
老人扶養控除を活用する上で、もう一段深く理解しておくべき点があります。それが「遺族年金は所得に含まれない」という事実と、「障害者控除との併用」です。
遺族年金は非課税所得のため、合計所得に算入されません。 夫に先立たれた70歳以上の母親が遺族厚生年金を受け取っている場合、その金額は所得の計算に含めなくてよいのです。たとえ遺族年金が年間120万円あっても、他に老齢年金が168万円以下であれば扶養条件を満たしえます。
「母親はたくさん年金をもらっているから扶養に入れられない」と最初から諦めている方は、この点を今一度確認することをおすすめします。
一方で給与所得がある場合は計算が異なります。年金と給与の両方がある場合には、所得金額調整控除(最大10万円)が適用されますが、それでも収入が一定以上になると扶養条件から外れます。
次に障害者控除との併用について触れます。老人扶養親族が障害者でもある場合、老人扶養控除と障害者控除を同時に申告できます。
| 区分 | 老人扶養控除(別居)との合計控除額 | 老人扶養控除(同居)との合計控除額 |
|---|---|---|
| 一般障害者(控除27万円) | 75万円 | 85万円 |
| 特別障害者(控除40万円) | 88万円 | 98万円 |
| 同居特別障害者(控除75万円) | ― | 133万円 |
たとえば認知症で要介護認定を受け「特別障害者」に該当する70歳以上の親と同居している場合、老人扶養控除58万円+特別障害者控除40万円=最大98万円が所得から控除されます。税率が20%なら約19.6万円の節税です。これは使えそうです。
要介護認定を受けていても「特別障害者」と認定されるためには、障害者手帳の取得または市区町村への申請が必要なケースもありますので、担当のケアマネジャーや自治体窓口に相談することが近道です。
参考:No.1180 扶養控除(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
老人扶養控除による節税メリットは明確です。しかし、知らないと損するデメリットも存在します。特に介護保険料と介護サービス費用への影響は、節税効果を帳消しにする可能性があるため要注意です。
まず介護保険料について確認します。65歳以上の方の介護保険料は、本人と世帯の住民税課税状況をもとに自治体が段階的に設定します。親が住民税非課税の場合、減額措置が適用され保険料が低く抑えられていることがあります。
ところが子が親と同居して世帯を同じくすると、子が住民税の課税対象であれば親も「住民税課税世帯」として扱われ、保険料の軽減が外れることがあります。
東京都の実例で確認してみましょう。75歳以上の親が単身で年金収入150万円の場合、後期高齢者医療保険料は減額対象となり年間約13,900円です。しかし、子と同居した場合は子の年収が加算されて保険料が大幅に上がるケースがあります。
介護サービスの自己負担割合(1〜3割)は本人と世帯内65歳以上の収入で決まるため、子が65歳未満であれば直接の影響はないケースもあります。しかし高額介護サービス費の自己負担上限額は世帯全体の所得に連動します。月2〜3万円規模での出費増になることもあります。厳しいところですね。
節税効果と介護コスト増加のバランスを事前に把握することが大切です。シミュレーションの手順は次のとおりです。
自治体の相談窓口や無料のFP(ファイナンシャルプランナー)相談を使ってトータルコストを比較することで、正確な判断ができます。
参考:75歳以上の親の介護保険料と扶養の関係(公的保険アドバイザー 前田菜緒氏)
https://siaa.or.jp/column/95
複数の兄弟が遠方の親に仕送りをしている家庭では、「自分も扶養に入れていい?」と考えることがあるでしょう。しかし結論からいうと、同一人物を2人以上の扶養者がそれぞれ扶養控除の対象とすることはできません。これが原則です。
国税庁のQ&Aにも明確に記載されています。たとえ兄弟が均等に仕送りしている場合でも、扶養控除を受けられるのはそのうちの1人だけです。どの兄弟の扶養として申告するかは、兄弟間で話し合って決めます。重複して申告した場合には、申告のやり直しと追徴課税が発生します。
さらに見逃せないのが、令和8年(2026年)からの「二重扶養」対策の強化です。これまでは市区町村をまたぐ住民税の扶養申告の照合が不十分で、同じ親族を複数の人が扶養に申告していても発覚しにくい状況がありました。
しかし令和8年分の住民税から、自治体をまたいだ情報連携が強化され、二重扶養の検出が格段に容易になりました。発覚した場合は、住民税の追徴・還付が発生します。意図せず重複申告してしまっていた場合でも、修正の手間とペナルティリスクが生じます。
また、扶養の選択は年ごとに変更が可能です。たとえば昨年はAが申告し、今年からBが申告することもできます。兄弟間で節税メリットが最大になるよう、所得税率が高い側が扶養に入れるのが基本的に合理的です。
参考:兄弟で扶養している場合の扶養控除(国税庁 Q&A)
https://www.keisan.nta.go.jp/r2yokuaru/cat2/cat22/cat22b/cid028.html
参考:令和8年から「二重扶養」問題に本格対応(税理士法人SAH)
https://www.sah-cpa.com/post/nijuu-fuyou-system-2026

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