

通勤手当を130万円の計算から除いている方は、今すぐ扶養を外れているかもしれません。
被扶養者の収入確認は「何か問題があったときだけ」と思っている方は少なくありませんが、実は保険者側には定期的な確認義務があります。厚生労働省の2020年4月の通知(令和2年4月10日付事務連絡)では、「認定後、少なくとも年1回は保険者において被扶養者に係る確認を行うことが望ましい」と明記されています。年1回が基本です。
全国健康保険協会(協会けんぽ)では、毎年10月下旬から順次、各事業所に「被扶養者状況リスト」を送付し、被扶養者資格の再確認を実施しています。2025年度(令和7年度)の提出期限は2025年12月12日でした。企業側は被保険者(従業員)を通じ、被扶養者が現在も要件を満たしているかを確認し、結果をリストに記入して返送する流れになっています。
再確認の対象者は、すべての被扶養者ではありません。効率的な運用のため、以下のように絞り込まれています。
- 他の健康保険に重複加入している可能性が高い方
- 同居要件のある続柄なのに別居している可能性が高い方
- 前年の課税収入額が130万円(60歳以上は180万円)を超過している方(18歳未満・直近認定者を除く)
対象者がいない事業所にはリスト自体が届きません。年1回の確認が最低ラインです。
なお、年1回の定期確認とは別に、収入超過や就職・結婚などの異動事由が発生した際は、事由発生後すみやかに「被扶養者(異動)届」を提出することも求められています。定期確認の時期を待たずに動く必要があります。
健康保険組合(健保組合)では、確認のタイミングや提出期限が協会けんぽとは異なります。勤務先が健保組合に加入している場合は、組合のウェブサイトや人事部門に確認するのが確実です。
参考:協会けんぽ被扶養者資格再確認の詳細スケジュールや提出書類については公式ページで案内されています。
収入確認のタイミングが分かっても、「いつからいつまでの収入を見るのか」を誤解している方が非常に多いです。これが大きな落とし穴になっています。
所得税法では収入を「その年の1月1日から12月31日」という暦年で判断します。一方、健康保険の被扶養者認定における年間収入の判定は「認定を申請した時点から向こう1年間の収入見込み額」です。つまり、カレンダーの年度とは関係なく判断されます。
例えば、7月に就職した配偶者を扶養から外す手続きをする場面を考えてみましょう。その際の年間収入は「7月から翌6月まで」の見込み額で判断されることになります。「今年の残り5か月だけ計算して130万円に収まればいい」という発想は誤りです。
では、実際に収入の見込みをどう計算するのでしょうか。厚生労働省の通知(令和2年4月10日付)では、次のように整理されています。
| 収入の種類 | 判定に使う書類・考え方 |
|---|---|
| 給与収入 | 給与明細書・雇用契約書などから、直近3か月の収入を4倍して年収換算 |
| 事業収入 | 確定申告書・収支内訳書(過去3年分)から、年間売上−必要経費で算出 |
| 公的年金 | 年金改定通知書・年金振込通知書の受給額 |
| 雇用保険(失業給付) | 雇用保険受給資格者証の基本手当日額で判断 |
給与収入の場合は「前年の年収」と「直近3か月の収入×4(年収換算)」の両方を確認し、いずれも130万円未満であれば今後も130万円未満と判断する方法が広く用いられています。直近3か月の収入が重要です。
一時的に月収が108,333円を超えた月があっても、「今後も継続してその収入が続く見込みでない」と判断できる場合は、すぐに扶養取消とはならない場合もあります。ただし、この判断は保険者が総合的に行うものであり、認定を継続できる保証はありません。
参考:厚生労働省による「被扶養者の収入の確認における留意点」は以下から確認できます。
厚生労働省「被扶養者の収入の確認における留意点について(令和2年4月10日)」
収入確認のタイミングを正しく理解しても、「何を収入に含めるか」を間違えると意味がありません。ここが最もミスが多いポイントです。
まず、通勤手当(交通費)について。所得税の計算では、公共交通機関利用なら月15万円まで非課税として扱われます。しかし健康保険の被扶養者認定では、通勤手当は全額が収入として算入されます。これが意外ですね。
具体例で考えてみましょう。時給1,200円で月80時間勤務(月収96,000円)、通勤手当が月15,000円のパート従業員がいるとします。
- 給与のみで計算:96,000円 × 12か月 = 115万2,000円(130万円未満 → 扶養OK)
- 通勤手当を加算:(96,000円 + 15,000円)× 12か月 = 133万2,000円(130万円超 → 扶養NG)
計算の仕方次第で、判定結果が真逆になります。通勤手当の見落としは痛いですね。
次に、雇用保険(失業給付)について。退職後に失業手当を受け取っている間も「収入」と見なされます。注意が必要な基準は「基本手当日額3,612円」です。この金額を年換算すると130万円(3,612円 × 30日 × 12か月)になるため、日額が3,612円以上の場合は扶養に入ることができません。失業中でも扶養に入れない可能性があります。
失業手当の受給が終わった後は、再び扶養に入れる可能性があります。受給終了後、速やかに扶養追加の手続きをすることでさかのぼっての認定が認められるケースもあります(保険者によって異なります)。
さらに、収入として算入される範囲には以下も含まれます。
| 収入の種類 | 具体例 | 扶養判定に含む? |
|---|---|---|
| 通勤手当 | 電車・バス代、ガソリン代など | ✅ 全額含む |
| 雇用保険の失業給付 | 基本手当、傷病手当(労災) | ✅ 含む |
| 公的年金 | 老齢・遺族・障害年金 | ✅ 含む |
| 株式の配当金 | 継続的な受取配当 | ✅ 継続性があれば含む |
| 不動産収入 | 賃貸料収入 | ✅ 含む |
| 一時所得 | 宝くじ・競馬の払戻金 | ❌ 継続性がないため除く |
| 雇用保険の就職促進給付 | 再就職手当など | ❌ 基本的に除く |
収入の種類は意外と広いということですね。健康保険の収入基準は「生活を維持できるかどうか」を見るものであるため、所得税の課税・非課税の区分とは基準が異なる点がポイントです。
参考:日本電気健康保険組合の収入確認ページは、収入の種類ごとに必要書類がわかりやすく整理されています。
日本電気健康保険組合「被扶養者の収入確認(収入の考え方)について」
2026年(令和8年)4月1日から、健康保険の被扶養者認定における収入確認の方法が大きく変わりました。「130万円の壁」に関わる重要な制度改正です。
これまでの仕組みでは、過去の給与明細・課税証明書などを総合的に参照しながら「今後1年間の収入見込み」を判定していました。そのため、繁忙期に残業が増えて月収が10万8,333円を超えると「年収換算すると130万円超になるかもしれない」として扶養から外れるリスクが生じていました。多くのパート・アルバイト労働者が「働き控え」を続けてきた原因の一つです。
新ルールの核心は、「労働条件通知書(雇用契約書)に記載された賃金から年間収入見込みを算出する」という点にあります。つまり、契約に定められた通常の給与・所定労働時間から計算した年間収入が130万円未満であれば、原則として被扶養者として認められるようになりました。
| 項目 | 旧ルール(〜2026年3月) | 新ルール(2026年4月〜) |
|---|---|---|
| 収入の判定方法 | 過去・現在・将来の見込みを総合判断 | 労働条件通知書の記載賃金で判断 |
| 残業代の扱い | 実績・見込みを収入に算入 | 契約に規定のない残業代は原則除く |
| 一時的な収入超過 | 130万円超で即扶養取消リスクあり | 社会通念上妥当な範囲なら取消不要 |
| 必要書類 | 収入証明書・課税(非課税)証明書等 | 労働条件通知書+「給与収入のみ」申立書 |
重要な注意点が3つあります。
①新ルールは「給与収入のみ」の人が対象です。 老齢年金・遺族年金・障害年金など年金収入がある場合、自営業・フリーランスの事業収入がある場合、不動産収入・副業収入がある場合は、引き続き従来の方法で判定されます。給与収入のみが条件です。
②通勤手当は新ルールでも全額収入に含まれます。 この点は2026年4月以降も変わりません。労働条件通知書に記載された通勤手当の金額を必ず加算して計算する必要があります。
③既に扶養に入っている人への適用は翌年度の確認から。 新ルールは2026年4月1日以降の認定から適用されます。現在扶養に入っている方へは、多くの保険者が年末(10〜12月ごろ)に行う年1回の被扶養者確認(検認)から適用される見込みです。
新ルールを活用する場面では、扶養家族側が就労先から「労働条件通知書のコピー」を取得して会社の人事部門に提出する、という手続きの流れが標準的になります。手元に通知書がない方は今すぐ雇用先に請求しましょう。
参考:日本年金機構の公式ページで、新ルールの概要と手続き方法を確認できます。
日本年金機構「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」
収入確認のタイミングや計算方法を理解したら、次は「自分が対象となる収入基準はいくらか」を正確に把握することが大切です。一律130万円と思いがちですが、対象者によって基準が異なります。
収入基準は以下の通りです。
| 対象者 | 年収基準 | 月換算 |
|---|---|---|
| 一般の方(75歳未満) | 130万円未満 | 108,334円未満 |
| 60歳以上または障害年金受給者 | 180万円未満 | 150,000円未満 |
| 19歳以上23歳未満(配偶者を除く)※ | 150万円未満 | 125,000円未満 |
※令和7年10月1日以降の取り扱い。12月31日時点の年齢で判定。
大学生や専門学校生の子どもがいる家庭では、アルバイト収入が150万円基準に変わっている点を見落としやすいです。子どもの年齢と基準額の変化には注意が必要ですね。
また、同居・別居の状況によっても要件が変わります。被保険者と同居している場合は「被扶養者の年収が130万円未満かつ被保険者の年収の2分の1未満」であることが条件です。別居の場合は「年収130万円未満かつ被保険者からの仕送り額より少ないこと」が加わります。
ここで、あまり語られない独自の視点として「収入管理カレンダー」の活用をご紹介します。扶養内で働きたい方にとって、年に一度の再確認を待って動くのでは遅すぎる場面があります。実収入が毎月積み上がる中で、「いつ130万円に到達するか」をリアルタイムで把握しておく考え方です。
具体的な管理例をご紹介します。
- 📌 毎月の記録項目:給与総支給額(通勤手当を含む)、雇用保険の受給額(受給中の場合)、副業・雑収入(あれば)
- 📌 月次チェックポイント:今月末時点の累計収入 ÷ 経過月数 × 12 = 年収換算額
- 📌 アラートの設定目安:月次換算で年収90万円を超えた時点で意識スタート、100万円超で就労先と相談開始
累計収入をExcelや家計管理アプリで記録するだけで十分です。「家計簿アプリ」の収入欄を活用している方であれば、そのまま流用できます。月次でチェックする習慣が最大の防衛策です。
収入が月末に予想外に増えた場合でも、翌月の調整で対応できるケースがあります。ただし、扶養要件を意図的に下回らせるための「無断欠勤や労働時間の急激な削減」は雇用契約上の問題を引き起こす可能性があるため、勤務シフトの調整は雇用主への事前相談を前提にしましょう。
自分の状況や収入種類が複雑で判断に迷う場合は、社会保険労務士(社労士)への相談が有効です。スポットでの相談は1回あたり数千円〜1万円程度で受け付けている事務所も多く、扶養判定の誤りによる遡及喪失リスクを考えれば費用対効果は高いと言えます。必要に応じて専門家を活用しましょう。
参考:被扶養者の収入基準の詳細と年齢別の取り扱いについては、厚生労働省・日本年金機構の情報を合わせて確認することをおすすめします。