

配当控除を使えば確定申告するたびに損をする人がいます。
配当控除は、株式の配当金に生じる「二重課税」を調整するために設けられた税額控除制度です。企業が稼いだ利益には、まず法人税が課税されます。その課税後の残りから株主へ配当金が支払われますが、今度は受け取った株主側にも所得税・住民税がかかります。つまり、同じお金に対して「法人税」と「所得税」の2回課税が行われるわけです。
これが二重課税の構造です。
この不公平を緩和するために、確定申告で「総合課税」を選択した際に、配当金額の一定割合を所得税額や住民税額から直接差し引ける制度が配当控除です。課税所得が1,000万円以下であれば、株式の配当所得に対して所得税は10%・住民税は2.8%が控除されます。
たとえば、配当所得が年間50万円あり、課税所得全体が600万円の場合を考えてみましょう。この場合の所得税の配当控除額は「50万円 × 10% = 5万円」となり、計算された所得税額から5万円が直接差し引かれます。税率に乗じる前の課税所得から引く「所得控除」と異なり、税額から直接引ける点が配当控除の大きな特徴です。これは使えそうです。
配当控除は、所得控除ではなく「税額控除」です。
税額控除は、課税所得 × 税率で計算した後の税額から直接差し引くため、同じ金額でも所得控除より節税効果が大きくなります。たとえば課税所得300万円・税率20%のケースで15万円の控除がある場合、所得控除なら「(300万円−15万円) × 20% = 57万円」ですが、税額控除なら「300万円 × 20% − 15万円 = 45万円」と、より多くの税金が減ります。
国税庁「No.1250 配当所得があるとき(配当控除)」|配当控除の計算式・控除率の公式情報
配当控除はすべての配当金に適用されるわけではありません。対象かどうかを確認することが重要です。国内法人からの配当には法人税が課されているため、二重課税の調整が必要となり、配当控除の対象となります。一方、国内で法人税が課されていない所得には調整の必要がないとみなされ、配当控除の対象外となります。
対象になる主な配当金は次のとおりです。
- 国内上場株式の配当金(確定申告で総合課税を選択した場合)
- 非上場株式の配当金(総合課税)
- 国内の証券投資信託の収益分配金(ただし控除率は株式配当より低い)
一方、対象外となる主なものは以下です。
- J-REIT(国内不動産投資信託)の分配金
- 外国株式・外国ETFの配当金
- 申告不要制度を選択したもの
- 申告分離課税制度を選択したもの
J-REITが対象外になる理由は少し意外です。J-REITは利益の90%以上を投資家に分配することで、法人段階での課税が事実上免除される仕組みになっているためです。二重課税が起きていないので、調整のための配当控除は適用されないのです。
外国株式も同様に、国内の法人税と二重課税の問題が生じないため対象外となります。つまり、人気の高い米国株の配当金でいくら総合課税を選んで確定申告しても、配当控除は一切受けられません。対象外の銘柄が条件です。
また、投資信託の場合は控除率が株式と異なります。証券投資信託の収益分配金の控除率は所得税5%・住民税1.4%(課税所得1,000万円以下の場合)です。株式配当の半分の控除率となります。これは投資信託が株式だけで運用されているわけではないためです。
楽天証券「税制と確定申告」|REIT・外国株が配当控除の対象外であることを確認できるページ
配当控除を使って本当に得になるかどうかは、課税所得の金額によって大きく変わります。ここが最も重要なポイントです。
まず、確定申告で総合課税を選ぶと、配当所得は給与所得や事業所得と合算され、累進課税(所得が高いほど税率が上がる仕組み)が適用されます。申告不要制度・申告分離課税での税率は一律20.315%(所得税15.315%・住民税5%)です。
総合課税での実効税率は、「(所得税率 - 配当控除率10%) × 1.021 + (住民税10% - 配当控除率2.8%)」という式で計算されます。課税所得330万円〜695万円未満の所得税率は20%なので、計算すると実効税率は約17.4%です。この17.4%は申告不要の20.315%より低いため、総合課税の方が有利となります。
一方、課税所得695万円〜900万円の所得税率は23%となるため、計算すると実効税率は約20.5%となります。これは申告不要の20.315%をわずかに超えるレベルです。
結論は「課税所得695万円未満なら配当控除が有利」です。
具体例を挙げると、課税所得600万円・配当所得50万円のケースでは、申告不要制度なら50万円 × 20.315% = 約10万1,575円の税額に対し、総合課税・配当控除適用後は50万円 × 17.4% = 約8万7,000円となり、差し引き約1万4,000円以上の節税になります。
ただし、この695万円という数字はあくまで目安です。
課税所得の計算には、医療費控除・扶養控除などの所得控除が反映された後の金額を使います。給与が多くても各種控除が多ければ課税所得が低くなり、配当控除が有利になるケースもあります。実際の判断には必ず試算が必要です。
freee「配当控除とは?確定申告すべきケースや計算シミュレーションもわかりやすく」|実効税率の計算表と具体的シミュレーションが掲載
配当控除は節税に有効な制度ですが、使い方を誤ると税負担が増えたり、思わぬところでお金を失う可能性があります。意外ですね。主なデメリットを順番に整理します。
【デメリット①】高所得者は税率が上がって逆効果になる
課税所得が695万円を超えている人が総合課税を選ぶと、配当所得が他の所得と合算されて累進課税の高い税率が適用されます。課税所得900万円超で税率33%、1,800万円超で40%、4,000万円超では45%と、どんどん上がっていきます。配当控除の恩恵より税率上昇の影響の方が大きくなり、申告不要のまま20.315%で済ませた方が得になります。
【デメリット②】国民健康保険料が翌年に跳ね上がる
総合課税を選んで配当所得を合算すると、合計所得金額が増加します。自営業者や個人事業主が加入する国民健康保険料は合計所得金額をもとに算定されるため、配当を申告したことで翌年度の保険料が大幅に上がるケースがあります。
【デメリット③】各種控除や給付の資格を失う可能性がある
合計所得金額の増加は、配偶者控除・扶養控除・住民税の非課税判定など、さまざまな制度に影響を与えます。たとえば、配偶者控除は配偶者の合計所得金額が48万円超になると適用外となります。介護サービスの自己負担割合の判定にも所得が関係しており、総合課税で配当を申告したことで福祉サービスの費用が増えてしまうケースも否定できません。
【デメリット④】配当控除と損益通算は同時に使えない
総合課税(配当控除)と申告分離課税(損益通算)は、どちらか一方しか選べません。株式の売却損が出ている年に配当控除を選ぶと、損益通算のメリットが消えてしまいます。損失が大きい年は損益通算の方が有利です。厳しいところですね。
これらのデメリットを踏まえると、配当控除を検討するタイミングでは、税金だけでなく社会保険料・各種控除への影響も合わせてシミュレーションすることが大切です。特定口座(源泉徴収あり)を使っていて所得が複雑な場合は、税理士に相談して試算を依頼する(相談費用の目安:5,000円〜3万円程度)方法も一つの選択肢です。
M&Aラボ「配当控除とは?計算法やデメリット、住民税、確定申告が必要かを解説」|デメリットと各種制度への影響が詳しく解説されています
配当控除を実際に受けるには、確定申告書の正しい箇所に記入する必要があります。手順は以下のとおりです。
【STEP1】必要書類を準備する
証券会社から送付される「配当金の支払通知書」または「年間取引報告書」を用意します。特定口座(源泉徴収あり)でも、配当控除を申告する場合は書類が必要です。
【STEP2】確定申告書第一表・第二表に記入する
総合課税で申告する場合の記入箇所は次のとおりです。
| 申告書の種類 | 記入箇所 |
|---|---|
| 第一表 | ①「収入金額」の「配当」欄 ②「所得金額」の「配当」欄 ③「税額の計算」の「配当控除」欄 |
| 第二表 | ①「所得の内訳」欄 ②「住民税・事業税に関する事項」の「配当控除額」欄 |
【STEP3】配当控除額を計算して転記する
課税所得が1,000万円以下の場合は「配当所得 × 10%(所得税)」と「配当所得 × 2.8%(住民税)」を計算します。計算した金額をそれぞれ第一表と第二表の所定の欄に記入します。
計算は手間がかかります。
国税庁の確定申告書等作成コーナー(e-Tax)を使えば、金額を入力するだけで配当控除額が自動計算されます。ミスなく申告できる上、スマートフォンからも操作可能で、税務署へ行く必要もありません。申告期限は原則として翌年の3月15日(還付申告の場合は1月1日から5年間)が条件です。
確定申告の手間を減らしたい場合は、e-Tax対応の確定申告ソフトの活用が選択肢になります。freee確定申告やマネーフォワード クラウド確定申告などのクラウド型サービスは月額980円〜1,480円程度から利用でき、配当控除の計算も自動で対応しています。まず1つ試してみることをお勧めします。
国税庁 確定申告書等作成コーナー「配当控除とは」|配当控除の計算式と申告書への記入方法の公式案内
国税庁「申告書第一表・第二表【令和6年分用】」|配当控除を記入する申告書の実物PDF

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