

「業績連動給与を導入すれば、中小企業でも役員報酬を柔軟に経費にできる」と思っていたなら、今すぐその認識を修正しないと、税務調査で数百万円単位の追徴課税を受けるリスクがあります。
業績連動給与とは、会社の利益・株価・売上高などの業績指標を基礎として、役員への支給額が変動する報酬形態のことです。「会社が儲かったら役員報酬を増やし、業績が落ちたら減らせる」という柔軟性が特徴で、大企業では広く採用されています。
法人税法(法法34条)では、役員に支払う給与は原則として損金に算入されません。ただし「①定期同額給与」「②事前確定届出給与」「③業績連動給与」の3種類のいずれかに該当する場合に限り、損金算入が認められます。
これが基本です。
重要なのはここからです。③の業績連動給与については、法人税法施行令69条に損金算入できる主体が明確に定められており、「同族会社は原則として対象外」とされています。つまり、社長が株の過半数を持つ典型的な中小企業のオーナー会社では、役員への業績連動給与を導入しても税務上は損金として認められないのです。
なぜ同族会社が除外されているのでしょうか。それは、同族会社では役員が自分自身の報酬を自由に決定できるため、業績指標を操作して利益調整を行うリスクが高いと税法上みなされているためです。こうした「恣意的な利益操作の防止」が、同族会社への適用を制限する理由です。
つまり業績連動給与は、基本的に上場企業など有価証券報告書を提出している法人向けの制度です。
これが原則です。
参考:国税庁タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
「うちの会社は同族会社なの?」と疑問に思う経営者もいるでしょう。法人税法上の同族会社とは、上位3グループの株主(個人・法人含む)が発行済株式の50%超を保有する会社のことです。
中小企業の大部分では、社長とその家族・親族だけで発行済株式の過半数を保有しているため、ほぼ自動的に「同族会社」に該当します。国税庁の統計でも、法人の約90%以上が同族会社であるとされています。
ただし例外があります。同族会社であっても、「非同族会社(上場企業など)の完全子会社」である場合は業績連動給与の損金算入が認められます。たとえば、大企業の100%子会社として設立した会社であれば、その子会社自体が同族会社の形をとっていても適用可能というケースです。
しかし、一般的なオーナー経営の中小企業でこのケースに該当することはまれです。実務上は「中小企業の役員への業績連動給与は損金算入不可」と理解しておくのが安全です。
| 会社の分類 | 業績連動給与の損金算入 | 主な該当例 |
|---|---|---|
| 非同族会社 | ✅ 認められる | 上場企業、公開会社 |
| 非同族会社の完全子会社(同族会社) | ✅ 認められる | 大企業の100%子会社 |
| 一般的な中小同族会社 | ❌ 認められない | オーナー経営の中小企業 |
業績連動給与が使えない中小企業の役員報酬は、現実的にどうすればよいのでしょうか。
まず柱となるのが「定期同額給与」です。
定期同額給与とは、毎月同一の金額を支給し続ける役員報酬のことで、損金算入の要件として最も基本的な形態です。ポイントは「事業年度内に原則として金額を変更しない」こと。期中に増額・減額した場合は、その変更前後の一方が損金不算入になるリスクがあります。
変更が認められるのは以下の3つのケースに限られています。
「業績が伸びたから今期途中に報酬を増やしたい」というケースは、原則として認められません。期中に安易に増額すると、変更後の報酬が全額損金不算入となる可能性があります。
これは痛いところです。
したがって、中小企業の役員報酬は期初に翌1年間の業績見込みを慎重に検討したうえで、「適切な金額」を設定することが基本です。設定が難しいと感じるなら、税理士と年間の事業計画を共有しながら報酬額を決定するのが最善の方法です。
中小企業が業績連動給与の代わりに役員賞与を活用する方法として、「事前確定届出給与」があります。これが中小企業にとって最も有力な節税手段のひとつです。
事前確定届出給与とは、支給時期・支給金額をあらかじめ税務署に届け出ることで、役員賞与を損金に算入できる制度です。届出の期限は「株主総会等の決議日から1か月以内」または「会計期間開始の日から4か月以内」のうち、いずれか早い日です。
この制度の最大の注意点は、届け出た金額・支給日を1円でも・1日でも違えると、全額損金不算入になることです。「業績が想定より悪かったから今年の賞与を減らした」という場合も、届出内容と異なれば損金として認められません。
実際に想定されるシミュレーションを見てみましょう。毎月の役員報酬が100万円(年間1,200万円)の役員が、社会保険料の節約も兼ねて月額10万円+年間賞与1,080万円(事前確定届出給与)の設計に変更した場合、年間の社会保険料は約340万円から約120万円に圧縮されるため、差額の約220万円が手元に残る計算になります。
これは使えそうです。ただし、資金繰りと税務署への届出管理を厳密に行う必要があります。
税理士との連携が不可欠な制度と言えます。
参考:事前確定届出給与の概要と手続き(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
「役員への業績連動給与は難しい」という話が続きましたが、視点を変えると中小企業にとって大きなチャンスがあります。それは「従業員(一般社員)への業績連動型賞与」は、法人税法上の役員給与の制限を受けないという点です。
従業員賞与は、支給した期に損金として計上できます。ただし決算賞与を未払い計上で損金にするには、「全員への個別通知・期末日翌日から1か月以内の支払・損金経理」という3要件を満たす必要があります。
これが条件です。
業績連動型賞与の設計方法としては、一般的に以下のいずれかの指標が使われます。
いずれを選ぶ場合も、「なぜこの金額なのか」を従業員に説明できる根拠を整備しておくことが、モチベーション管理の観点から重要です。
従業員への業績連動型賞与を活用する場合、見逃せないのが「賃上げ促進税制」との組み合わせです。
これは知っていると得する情報です。
賃上げ促進税制とは、青色申告を提出している中小企業が前年度より給与等の支給総額を増加させた場合に、その増加額の一定割合を法人税から直接控除できる制度です。2025年度時点での中小企業向け控除率は以下のとおりです。
| 要件(賃上げ率) | 税額控除率 |
|---|---|
| 雇用者給与等支給額 1.5%以上増加 | 15%(基本) |
| さらに2.5%以上増加した場合の上乗せ | +15% |
| 教育訓練費増加の上乗せ | +10% |
| 子育てや女性活躍支援の認定を受けた場合 | +5% |
| 最大合計 | 45% |
業績連動型賞与を導入して従業員の給与総額が増加すれば、この賃上げ促進税制の適用要件を満たしやすくなります。たとえば、業績が好調な年に経常利益の10%を賞与原資として全従業員に支給し、前年比で給与総額が2.5%以上増加した場合、増加額の30%(基本15%+上乗せ15%)を法人税から控除できます。
仮に賃上げ増加額が500万円であれば、150万円が法人税から直接引かれる計算です(法人税額の20%が上限)。損金算入による節税効果に加え、税額控除という二重の恩恵を受けられます。
参考:中小企業向け賃上げ促進税制の概要(中小企業庁)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai.html
「業績が上がったから今期は役員報酬を増やそう」という感覚で中途改定を行うと、どうなるでしょうか。
税務調査のリスクが一気に高まります。
定期同額給与の期中改定が否認された場合、変更後に支払った全額が損金不算入となります。たとえば、10月に月額報酬を50万円から80万円に増額し、3月末決算まで6か月間支払い続けた場合、80万円×6か月=480万円が損金不算入になる計算です。法人税率を30%と仮定すると、約144万円の追加納税が発生します。
また、業績連動給与の要件を満たさないまま「業績連動」と称して役員給与を変動支給した場合も同様に全額損金不算入となり、さらに役員賞与としての認定から源泉所得税の不足額も追徴される二重リスクがあります。
税務調査において役員報酬は必ずチェックされる項目です。
特に以下の3点は要注意です。
特に3点目の「不相当に高額」は、法人税法34条2項に基づく「過大役員給与の否認」につながります。同業他社や会社規模と比較して著しく高い役員報酬は、過大な部分が損金不算入とされます。資本金2,000万円未満の中小企業の役員報酬の平均は約634万円(国税庁統計)であることを参考に、適正水準を検討しましょう。
業績連動の考え方を中小企業が実務で活かす最も現実的な方法のひとつが「決算賞与」の活用です。決算賞与とは、決算期末近くに業績が確定した段階で従業員に臨時支給する賞与で、業績連動型賞与の一種です。
決算賞与の最大のメリットは、その期に損金として計上できることで法人税の節税効果が得られる点です。業績が好調で利益が見込み以上に出た場合、決算直前に決算賞与を決定・通知することで利益を圧縮できます。
ただし未払い計上で損金にするには3つの要件を満たす必要があります。①各人別・全員への同時通知、②翌事業年度開始から1か月以内の支払、③当期の損金経理です。
この3要件がすべて必要です。
1つでも欠けると損金になるのは支払時の期になります。
業績連動型賞与として従業員全員に公平に支給することは、モチベーション管理にも直結します。「会社の利益が自分の賞与に直結する」という実感は、従業員の経営参画意識を高め、離職率の低下にも貢献するという調査結果もあります。
参考:決算賞与の損金算入要件(国税庁タックスアンサー No.5350)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5350.htm
「業績が良かったら増やせばいい」という発想が税務上通用しない中小企業では、逆に「期初に業績を精緻に予測して役員報酬を設定する」というアプローチが欠かせません。これを「業績見込み逆算型」の報酬設計と呼ぶことができます。
具体的なステップは次の通りです。まず年間の事業計画をもとに経常利益の見込みを試算します。次に法人税と所得税の最適なバランスを計算し、役員報酬を高くすることで法人税を下げるか、役員報酬を低く抑えて法人内に利益を留保するかの損益分岐点を確認します。そして期初の定時株主総会でその金額を決議し、以降1年間は原則として変更しません。
特に注目すべき指標として「役員報酬の売上高比率」があります。
売上規模別の目安は以下のとおりです。
| 売上規模 | 役員報酬の売上高比率の目安 |
|---|---|
| 500万円以下 | 12〜20%程度 |
| 500万〜1,000万円 | 9〜15%程度 |
| 1,000万〜3,000万円 | 7〜11%程度 |
| 3,000万〜5,000万円 | 6〜10%程度 |
この比率を大幅に超える場合は、税務調査で「不相当に高額な役員報酬」と判断されるリスクが高まります。一般的な相場感として、売上の3〜10%・年間利益の20%以内というラインが実務上の目安とされています。
業績が良い年に役員として享受できる還元を設計したい場合は、役員報酬単体の増額ではなく、事前確定届出給与による役員賞与の活用、退職金積み立て、法人保険の活用など、複数の手段を組み合わせることが実務的な解決策です。
ここでは、実際に多くの中小企業経営者が陥りやすい誤解をまとめます。
知らないと損する情報です。
誤解①「業績が良ければ期中でも役員報酬を増やせる」
→ 定期同額給与の期中改定は原則不可。増額した場合、変更後に支払った金額が全額損金不算入になります。毎月50万円を80万円に増額し半年続けた場合、180万円が損金から外れるリスクがあります。
誤解②「役員賞与はどうせ経費にならないから出しても節税にならない」
→ 事前確定届出給与として届け出れば、役員賞与も損金算入可能。毎月の役員報酬を抑えて賞与に振り向けることで、年間220万円規模の社会保険料節約にもなります。
誤解③「従業員への業績連動型賞与は税務上複雑で使いにくい」
→ 従業員への賞与は役員給与のような複雑な制限がなく、当期に支払えばそのまま損金。決算賞与の3要件を守れば未払い計上でも損金算入可能です。
誤解④「赤字なら賃上げ促進税制は使えない」
→ 2024年改正以降、赤字でも適用可能な「繰越税額控除」制度が設けられており、翌期以降に控除できる仕組みになっています。(ただし申告が必要なため、顧問税理士への確認が必要です。)
誤解⑤「業績連動型賞与を導入すると業績の数字を従業員に公開しなければならない」
→ 従業員への開示は法的な義務ではありませんが、売上総利益(粗利)ベースの指標にするなど、全損益計算書を開示しなくてもルール化できる設計もあります。
透明性と情報管理のバランスが重要です。
これらの誤解を一つでも持っていた場合は、すぐに顧問税理士に現状の役員報酬設計を確認することを強くおすすめします。役員報酬の設計ミスは、年間で数十万円〜数百万円単位の税務リスクに直結します。
参考:中小企業の役員報酬の決め方と注意点(弥生株式会社)
https://www.yayoi-kk.co.jp/kigyo/oyakudachi/yakuinhoshu/
十分な情報が集まりました。
記事を生成します。