

支給日が土日に当たっても、翌月曜日に払えば問題ないと思っていたあなた、その認識だと役員賞与が全額損金不算入になって法人税が数十万〜数百万円単位で増える可能性があります。
法人が役員に賞与を支給するとき、通常は損金(経費)として認められません。これは、役員が会社の利益状況を把握した上で自由に賞与を設定できてしまうと、決算直前に利益操作が行われる恐れがあるからです。
そこで活用されるのが「事前確定届出給与」という制度です。これは、賞与を支給する前に「いつ・誰に・いくら支払うか」を株主総会等で決議し、その内容を所定の期限内に税務署へ届け出ることで、役員賞与を損金算入できるようにする仕組みです。
損金算入できるかどうかの違いは非常に大きいです。たとえば、役員賞与を300万円支給するとして、損金算入できなければその300万円はそのまま課税対象となり、法人税率30%で約90万円もの税負担が余分に生じます。逆に、適切に届け出て損金算入できれば、その90万円をそのまま節税できるわけです。
損金算入が原則です。ただし、届出書の提出期限・支給日・支給金額のすべてが一致していなければ、この制度の恩恵は受けられません。
参考:事前確定届出給与制度の法的根拠と国税庁の届出書式について詳細が確認できます。
事前確定届出給与の提出期限は、以下の2つのうち「いずれか早い日」です。
これが基本のルールです。
| 区分 | 提出期限の計算方法 |
|---|---|
| 原則① | 株主総会等で決議をした日(または職務執行開始日)から1か月を経過する日 |
| 原則② | 会計期間の開始の日から4か月を経過する日 |
たとえば、4月1日を会計期間の開始日とする3月決算法人が5月10日に株主総会で決議した場合を考えてみましょう。
- 原則① → 5月10日から1か月後 → 6月10日
- 原則② → 4月1日から4か月後 → 8月1日
この場合、「いずれか早い日」である6月10日が提出期限です。
6月10日が原則です。
注意すべきは「1か月を経過する日」という表現です。これは国税通則法第10条第1項によって、初日(決議日)を算入せず翌日から起算して1か月後の前日、と計算します。5月10日の翌日(5月11日)を起算として1か月後(6月11日)の前日が6月10日、つまり6月10日が期限となる計算です。「経過する日」と「経過した日」は法律上異なる概念であり、1日の差が生じることに注意が必要です。
参考:届出期限の計算例や提出の流れについてみずほ銀行が詳しくまとめています。
みずほ銀行「事前確定届出給与の届出期限は?手順や記載方法も解説」
届出の提出期限が土曜日・日曜日・祝日に重なった場合、その期限は「翌営業日」へ自動的に繰り越されます。これは国税通則法第10条第2項に定められた明確なルールです。
> 「国税に関する法律に定める申告、申請、請求、届出その他書類の提出等について、その期限が日曜日・祝日その他一般の休日又は政令で定める日に当たるときは、これらの翌日をその期限とみなす」
土曜日は「政令で定める日」に該当するため、土曜日・日曜日ともに翌月曜日が提出期限です。
祝日の場合はその翌日が提出期限となります。
具体的な例で確認しましょう。事業年度が4月1日始まりの法人で、株主総会決議日が5月1日だった場合、1か月後は6月1日が提出期限です。しかし6月1日が日曜日なら、翌月曜日の6月2日まで提出すれば有効です。
これは「少し得した」気分になれる規定ではあるものの、気の緩みは禁物です。翌営業日が期限だという認識を持ちつつも、できるだけ余裕をもって提出することが実務上の鉄則です。
年末年始については特別な注意が必要です。行政機関の休日に関する法律により、12月29日から翌年1月3日まで税務署は閉庁しています。この期間に提出期限が重なる場合は、1月4日(またはその翌営業日)が期限となります。
会社を設立した初年度(新設法人)については、通常とは異なる特別な提出期限が定められています。原則の「株主総会から1か月・期首から4か月」という計算ではなく、「設立の日から2か月を経過する日まで」が提出期限です。
たとえば1月15日に会社を設立した場合、2か月後の3月15日が提出期限となります。会社の設立直後は登記や各種手続きに追われることが多く、気づいたときには期限が迫っていた、というケースが実務では後を絶ちません。
たったの2か月しかありません。
これは一般法人に比べて大幅に短い期限です。
設立直後から役員賞与を計画している経営者は、設立と同時に税理士と相談してスケジュールを立てることが重要です。
一度届け出た事前確定届出給与の内容は、原則として変更できません。ただし、例外的に2つのケースで変更届出が認められています。
臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更(例:取締役から代表取締役への昇格など)や、職務内容の重大な変更等のやむを得ない事情が生じた場合です。この場合、臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日が変更届の提出期限です。
業績悪化改定事由とは、経営状況が著しく悪化したため、当初予定していた役員賞与の支給が困難になった場合です。この場合は、業績悪化を理由に株主総会等で変更を決議した日から1か月以内が提出期限となります。
どちらの場合も、期限の起算点が「事由が生じた日」または「決議した日」になる点に注意しましょう。臨時改定事由がある場合は1か月以内が条件です。
ここが最もトラブルが多い落とし穴です。「届出の提出期限が土日なら翌営業日に繰り越せる」という便利なルールを、支給日にも当てはめてしまうミスが多発しています。
しかし結論は明確です。届け出た支給日が土日であっても、土日に支払わなければ損金算入の要件を満たしません。
これはなぜでしょうか。法人税法第34条の要件は「所定の時期に確定した額の金銭を支給する」ことです。「所定の時期」とは届出書に明記した日付そのものを指すため、土日であってもその日に払えなければ要件不充足となります。
税理士法人優和(木村税理士)の見解でも、「届け出た日が土日であった場合でも土日に支給することが、損金算入の要件となる。金融機関からの振込みができないといった事情は加味してくれない」と明言されています。
実務上の対策として重要なのは、届出書を作成・記入する段階で支給日の曜日を必ず確認することです。もし支給日が土日・祝日に当たることがわかっていれば、届出書の段階で支給日を前日(平日)に設定すれば問題ありません。
支給日は前日設定が原則です。
なお、手元現金での支給であれば土日でも対応できる場合がありますが、一般的には銀行振込みでの支払証拠を残すことが強く推奨されます。ネットバンキングを保有している場合は、休日でも振込が可能なため、土日支給日の問題を解消できます。
事前確定届出給与は、届出内容どおりに完璧に実行されて初めて損金算入が認められます。ズレが許されないのは日付だけでなく、金額も同様です。
注意すべき典型的なミス3パターンを確認しましょう。
| ミスの種類 | 結果 |
|---|---|
| 支給日が届出と1日でも異なる | 支給額の全額が損金不算入 |
| 支給金額が届出より1円でも多い・少ない | 支給額の全額が損金不算入 |
| 届出書の提出期限を1日でも過ぎた | 届出自体が無効となり全額損金不算入 |
特に金額については、「超過した分だけ損金不算入になる」と誤解している方が多いです。しかし法人税法基本通達9-2-14では、届出額と実際支給額が異なる場合は「原則として、その支給額の全額が損金不算入となる」と明記されています。
痛いですね。1円の違いでも数十万〜数百万円の役員賞与が全額否認される可能性があるのです。
この制度には「うっかり忘れていた」「忙しかった」といった事情への救済措置が一切ありません。期限の延長も、災害等の特殊な事情を除き不可能です。国税庁の令和5年度データによれば、法人1件あたりの税務調査における平均追徴額は550万円に達しており、役員賞与の処理ミスはその主要な原因の一つです。
参考:支給日のズレが生じた場合の法的解釈と実務上の対応策について詳しく解説されています。
土日・祝日が連続する長期連休の前後は、提出期限の計算が複雑になりやすい時期です。特に以下の3つのシーズンには細心の注意が必要です。
年末年始(12月29日〜1月3日):この期間は「行政機関の休日に関する法律」により税務署が完全閉庁しています。提出期限がこの期間に重なると、1月4日以降(1月4日自体も土日の場合はさらに翌営業日)が提出期限となります。
ゴールデンウィーク(4月下旬〜5月上旬):3月決算法人の多くは、この時期に株主総会を開催します。決議日から1か月後の提出期限がGW明けに重なることが多く、連休中に「あと何日あるか」を誤認してしまうケースがあります。
シルバーウィーク(9月中旬):祝日が連続するため、提出期限の翌営業日がどの日になるか特定しにくい時期です。
これらの期間は、通常よりも2〜3日前倒しで書類作成を完了させるスケジュール管理が、実務上の安全策です。翌営業日まで引き伸ばさないことが、最大のリスク回避策です。
事前確定届出給与の届出書はe-Tax(国税電子申告・納税システム)でも提出できます。e-Taxを使う場合、システムは24時間365日稼働しているため、土日・深夜であっても送信操作自体は可能です。
ただし注意すべき点があります。e-Taxで送信した日付が「提出日」とみなされます。提出期限の翌日(月曜日)の深夜0時1分に送信しても、すでに期限を過ぎていれば無効です。
これは使えそうです。
一方で、土日が期限の場合に翌月曜日の営業時間外(例えば深夜)に送信しても、「翌営業日」扱いが適用されるため有効です。ただし、e-Taxのシステムメンテナンス日程と重なる可能性もゼロではないため、前日(金曜日)中の送信が最も安全な選択です。
e-Taxを利用する場合、送信日の記録をスクリーンショット等で保存しておくことを推奨します。万が一の税務調査の際に、期限内提出の証拠として活用できます。
参考:e-Taxを使った事前確定届出給与の届出手順について解説されています。
税理士法人サポートリンク「事前確定届出給与の提出期限|税金の知識」
事前確定届出給与の提出期限の計算に使われる「1か月を経過する日」という表現は、一見シンプルに見えて、実は法律上の細かいルールがあります。これを誤解すると、正確な期限より1日ズレてしまいます。
国税通則法第10条第1項に基づく計算方法は次のとおりです。
具体的に計算してみましょう。決議日が9月25日の場合、起算日は9月26日です。1か月後の同日(10月26日)の前日は10月25日。
つまり提出期限は10月25日です。
ここで注意が必要なのは、「1か月を経過した日」と「1か月を経過する日」の違いです。
- 「経過する日」 → 10月25日(期間が終わろうとしている日、まだ終わっていない)
- 「経過した日」 → 10月26日(期間がすでに終わった後の日)
条文では「経過する日」と書かれているため、正しい提出期限は10月25日となります。
税理士でも間違えやすいポイントです。
1日の差が命取りです。
参考:「経過する日」の具体的な計算事例と税務署への届出期限の注意点が分かりやすく解説されています。
税理士・小山俊郎氏「事前確定届出給与|たった1日のズレで経費にならない?」
事前確定届出給与の届出書を提出する前に、以下のチェックポイントをすべて確認することが、リスクゼロで制度を活用するための必須作業です。
このリストを使えるようにしておくと、手続きのミスを大幅に減らせます。特に「支給日の曜日確認」は最も見落としやすい項目のため、届出書の最終確認ステップとして必ず行うよう習慣化しましょう。
原則として、届出日と実際の支給日が一致しなければ損金不算入になります。しかし実務上は、ごく限られた条件下で「個別に判断される余地がある」とされています。
倉敷市のタナベ会計事務所の解説によれば、支給日のズレが生じた原因として次のような事情がある場合は、税務署との相談余地が生じうるとされています。
ただし、この「相談余地」は限定的であり、複数期にわたってズレが生じている場合には弁解の余地はないとされています。また、「資金繰りの問題」は基本的に認められません。
法人税法では「所定の時期に支払う」という要件について「時期」という国語上の解釈(一定の幅を持つ期間)を根拠に争われたケースもありますが、裁判例や税務実務上の大勢は「届出書記載の支給日そのものに払う」が求められています。
これは独自視点の補足として重要なポイントですが、「ズレても何とかなる」という甘い認識は絶対に持たないでください。個別に税務署と相談できる可能性があるにしても、追徴課税・加算税のリスクを抱えた状態で経営することになります。
よくある疑問に対して、実務上の正確な回答をまとめます。
Q1. 提出期限の計算上の日が日曜日でした。月曜日に郵送しても大丈夫ですか?
はい、大丈夫です。国税通則法第10条第2項により、提出期限が日曜日に当たる場合は翌月曜日が期限となります。ただし郵送の場合は消印ではなく税務署の受領日が基準となる場合があるため、窓口持参またはe-Tax送信が確実です。
Q2. 届出書に記入した支給日が土曜日になっていました。翌月曜日に振り込んでもOKですか?
原則としてNGです。支給日には届出書記載の土曜日に払う必要があります。翌月曜日払いは「届出どおりの支給」にならないため、損金不算入になる可能性があります。届出書の段階で前日(金曜日)に支給日を設定し直すのが正解です。
Q3. 新設法人ですが、設立から何か月以内に提出すればよいですか?
設立日から2か月以内が提出期限です。一般法人より短いため、設立後の早期対応が必須です。
Q4. 臨時改定事由が発生しました。変更届の期限はいつですか?
臨時改定事由が発生した日から1か月以内が提出期限です。事由発生から期限まで1か月しかないため、速やかに税理士に相談することが重要です。
Q5. 届出書の提出期限は守ったが、支給日に数日遅れて支払った。どうなりますか?
支給日が届出書と異なるため、原則として全額損金不算入です。提出期限を守っても、実際の支給がズレれば意味がありません。
この点は非常に混同されやすいです。
事前確定届出給与の提出期限は「株主総会決議日から1か月」と「会計期間開始日から4か月」のうち「いずれか早い日」です。この「どちらか早い日」という判断ミスが、意外に多くの会社で起きています。
例えば4月1日始まりの法人が7月10日に株主総会を開いた場合を見てみましょう。
- 株主総会から1か月後 → 8月10日
- 期首から4か月後 → 8月1日
「どちらか早い日」は8月1日です。ところが、「株主総会後1か月だから8月10日まで大丈夫」と誤解して8月5日に提出した場合、すでに8月1日の期限を超えているため届出は無効になります。
これは期首から4か月後が条件です。特に株主総会を遅めに開催する会社では、期首4か月のラインを常に意識する必要があります。カレンダーに「期首+4か月の日」を必ず書き込んでおくことを強くお勧めします。
事前確定届出給与の提出期限ミスは、多くの場合「カレンダー確認の怠り」が原因です。期限管理の失敗は税務リスクに直結するため、デジタルツールの活用が近年注目されています。
具体的には、以下のような使い方が実務で有効です。
弥生会計・freee・マネーフォワードクラウドなどのクラウド会計ソフトも、役員報酬管理機能を充実させてきており、提出期限のアラート機能を備えているサービスも増えています。事前確定届出給与の管理を手動で行うことに不安を感じているなら、これらのサービスの活用を検討する価値があります。
税理士との顧問契約がある場合は、毎年の株主総会の日程確定と同時に「事前確定届出給与の提出期限確認」を議題に入れることを習慣化させると、ミスを大幅に減らせます。
顧問契約なら安心です。
この記事で解説してきた最大のポイントを一言でまとめると、「届出の提出期限は土日なら翌営業日に繰り越せるが、支給日は土日でも届出書どおりに払わなければならない」という、正反対の扱いになっている点です。
この非対称性を正確に理解していない場合、正しいつもりで手続きをしていても、役員賞与が全額損金不算入になるリスクを抱え続けることになります。
| 事項 | 土日が当たった場合の扱い |
|---|---|
| 届出書の提出期限 | ✅ 翌営業日まで延長OK(国税通則法第10条第2項) |
| 役員賞与の支給日 | ❌ 翌営業日払いはNG。届出書記載の日に払う必要がある |
実務上のベストプラクティスは明確です。届出書を記入する段階で、支給日の曜日を確認し、土日・祝日なら前日の平日に設定することです。そして提出期限については、土日に重なっても翌営業日が使えるという「安心バッファ」はありますが、それに頼らず余裕をもって期限内に提出するスケジュール管理が最善策です。
事前確定届出給与は、正しく使えば役員賞与を全額損金算入できる強力な節税ツールです。制度の細部をしっかり理解して、毎期確実に活用していきましょう。