

役員報酬を期中に1円でも増額すると、増額分が全額損金にならず税金が増えます。
定期同額給与とは、法人が役員に対して「1ヶ月以下の一定期間ごとに、同額を支給する給与」のことです。国税庁のタックスアンサー(No.5211)では、支給時期が一定であり、かつその事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものを定期同額給与と定義しています。
わかりやすく言えば、「毎月25日に50万円を支払う」と決めたら、その事業年度が終わるまで原則としてその金額・日付を守り続ける給与のことです。一般の従業員の月給と形は似ていますが、役員報酬には法人税法第34条による厳格なルールが課せられており、要件を満たさない部分は損金(経費)に算入できません。
損金にならないと何が困るのでしょうか? 経費に算入できなければ、その分だけ会社の課税所得が増え、法人税の負担が大きくなります。たとえば月額20万円の増額分が4ヶ月間認められない場合、80万円(20万円×4ヶ月)が損金不算入となり、法人税率を約30%と仮定すると約24万円の税負担増が生じる計算です。これは使えそうです。
損金算入が認められる役員報酬の種類は、定期同額給与のほかに「事前確定届出給与」と「業績連動給与」の3種類があります。中小企業の多くは定期同額給与を採用しているため、このルールを正確に理解しておくことが、節税対策の第一歩になります。
| 種類 | 概要 | 届出 |
|---|---|---|
| ✅ 定期同額給与 | 毎月決まった日に同額を支給 | 不要 |
| 📝 事前確定届出給与 | 特定の日に確定額を支給(賞与など) | 税務署への事前届出が必要 |
| 📊 業績連動給与 | 利益・株価等の指標に連動して算定 | 主に上場企業が対象 |
なお、定期同額給与は税務署への事前届出が不要という点も重要です。要件さえ満たせば自動的に損金算入が認められます。手続きの煩雑さという面では最もシンプルな方法といえます。
参考:国税庁タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(令和7年4月1日現在)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
定期同額給与として損金算入するためには、国税庁が定める要件を正確に理解しておく必要があります。結論は3つの要件です。それぞれ見ていきましょう。
① 支給時期が一定で、支給額が同額であること
毎月同じ日(例:毎月25日)に、同じ金額(例:50万円)を支給し続けることが基本です。支給日が銀行の休業日などで1〜2日ずれる程度は問題ありません。ただし、ある月だけ60万円に増えたり、40万円に減ったりすると、変動した部分が損金不算入となります。
また、「支給額から源泉所得税・社会保険料等を控除した手取り額が同額」でも要件を満たします。これは控除額の変動があっても総支給額が変わらなければ問題ないということです。厳しいところですね。
② 要件を満たす改定であること
金額の変更(改定)がある場合でも、以下のいずれかに該当すれば損金算入が認められます。
| 改定の種類 | 要件 | 増額/減額 |
|---|---|---|
| 📅 通常改定 | 事業年度開始から3ヶ月以内の改定 | 増額・減額とも可 |
| 🔄 臨時改定 | 役員の職制変更・職務内容の重大な変更 | 増額・減額とも可 |
| 📉 業績悪化改定 | 経営状況の著しい悪化によるやむを得ない改定 | 減額のみ |
③ 継続的に供与される経済的利益で、毎月おおむね一定であること
現金の支給に限らず、役員社宅の家賃負担、生命保険料の会社負担、低利息での貸付など「経済的利益」を継続的に与える場合も、その額が毎月おおむね一定であれば定期同額給与として扱われます。これは意外と見落とされがちな要件です。
参考:国税庁 役員給与に関するQ&A(平成24年4月改訂)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf
金融や税務に関心がある方なら「役員報酬は期のはじめに決める」という知識は持っているかもしれません。しかし、この「3ヶ月ルール」の正確な意味を理解していないと、想定外の税負担を招くことがあります。
通常改定:事業年度開始から3ヶ月以内が原則
国税庁の定めによれば、定期同額給与の改定は「事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3ヶ月を経過する日まで」に行うことが必要です。3月決算の会社であれば、4月1日〜6月30日が改定の許容期間です。7月1日以降に増額した場合は、増額分がその期の末まで損金不算入となります。
たとえば3月決算の会社で月額50万円の役員報酬を、10月(事業年度開始から7ヶ月目)に70万円へ増額した場合を考えてみましょう。増額した20万円×3月末までの6ヶ月分=120万円が損金不算入です。法人税率30%で計算すると、約36万円の税負担増になります。痛いですね。
臨時改定:役員の地位や職務内容に重大な変更があった場合
代表取締役への昇格、病気・ケガによる職務遂行不能、会社合併による職務内容の大幅変更といった「臨時改定事由」があれば、期の途中でも報酬の増減改定が認められます。この場合は増額も減額も可能です。
重要なのは、その事実が客観的に証明できる必要がある点です。「社内での役割が変わった気がする」程度では認められず、登記の変更や議事録など、外部から確認できる証拠が求められます。
業績悪化改定:減額のみ・深刻なケースに限定
「業績が少し落ちたので報酬を下げよう」という判断には、落とし穴があります。業績悪化改定が認められるのは「経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」に限られており、しかも減額のみが対象です。
国税庁は明示的に、「法人の一時的な資金繰りの都合」や「単に業績目標値に達しなかったこと」は業績悪化改定事由に含まれないと定めています。認められるのは主要取引先の倒産・契約解除による売上の激減、自然災害による事業継続困難、金融機関との関係上やむを得ず報酬を減額しなければならない状況などです。
業績悪化改定が認められない場合のみに注意すれば大丈夫です。
参考:国税庁 定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/03.htm
ルールを理解していても、実務では「うっかりミス」が税負担増を招くことがあります。よくある失敗パターンを具体的な金額例で確認しておきましょう。
ケース①:事業年度開始から3ヶ月経過後に増額した場合
3月決算の法人で、4月から毎月50万円の役員報酬を支給していたが、12月(事業年度開始から9ヶ月目)に業績好調を理由に70万円へ増額したとします。
- 増額分:20万円/月
- 損金不算入の期間:12月〜3月(4ヶ月分)
- 損金不算入額:20万円 × 4ヶ月=80万円
法人税率30%であれば、この80万円に対して約24万円の追加税負担が生じます。増額後に喜んでいたのもつかの間、税金で24万円を余分に取られる計算です。
ケース②:事業年度の途中から支給を開始した場合
会社設立後、資金繰りの都合で最初の半年間は役員報酬を支給せず、10月から月50万円の支給を始めた場合、その事業年度においては定期同額給与として損金算入できません。事業年度の「各支給時期における支給額が同額」であることが要件であるため、途中から始まった給与は要件を満たさないのです。
次の事業年度からは問題なく損金算入できます。もし初年度から損金算入したいなら、事業年度の設定変更を検討する必要があります。
ケース③:届出なしで特定の月だけ増額(いわゆる役員賞与)
毎月50万円の定期同額給与に加えて、年末に「役員ボーナス」として100万円を上乗せ支給した場合、この100万円は損金として認められません。役員への賞与を損金算入するには「事前確定届出給与」として、支給前に税務署へ届出が必要です。
届出を忘れて支払った100万円は、会社でも経費にならず、役員個人の所得税・住民税はかかるという状態になります。法人税と個人所得税で二重に課税されることになるため、金銭的なダメージは想定以上に大きいです。これは注意が必要ですね。
なお、毎月の支給額が1円でもズレると当該月の支給分のみが問題になりますが、著しいズレが続くと全額否認のリスクも生じるため、経理処理の精度を高めることが重要です。
定期同額給与は「税務署への届出が不要」というメリットが強調されますが、実際には「株主総会議事録の作成と保管」が事実上の要件として機能します。これが、多くの人が見落としやすい盲点です。
会社法の規定により、役員報酬の金額は原則として定款への記載か株主総会の決議によって定めなければなりません。たとえ1人社長の同族会社であっても、株主=自分自身であっても、この手続きは省略できません。決議した事実を証明するために、株主総会議事録を作成して会社に保管する義務があります。
税務調査でこの議事録が存在しない場合、「いつ・誰が・いくらで決めたのか」が証明できないため、役員報酬全体が損金として認められないリスクがあります。毎年きちんと報酬を支給していても、議事録がなければ「恣意的な報酬設定」と疑われる余地が生まれます。
議事録に記載が必要な主な項目は以下のとおりです。
なお、標準報酬月額に2等級以上の差が生じるような大幅な改定をした場合には、株主総会での決議に加えて、年金事務所へ「被保険者報酬月額変更届」の提出も必要になります。社会保険の手続き漏れも、後から発覚すると追徴保険料が発生するため注意が必要です。
設立間もない法人が特に見落としやすいのが「設立初年度の3ヶ月ルール」です。新設法人については、設立の日から2ヶ月を経過する日までに最初の役員報酬を決定することが一般的な実務対応とされています。設立と同時に顧問税理士へ相談することで、こうしたミスを防ぐことができます。
参考:国税庁 第3款 定期同額給与(法人税基本通達)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_03.htm
損金算入が認められる役員報酬には、定期同額給与だけでなく「事前確定届出給与」と「業績連動給与」があります。自社の状況に合った選択をするために、それぞれの特徴と向いているケースを整理しておきましょう。
事前確定届出給与:役員賞与を損金にしたいときに使う制度
事前確定届出給与は、「いつ・誰に・いくら支給するか」を事前に税務署に届け出ることで、特定の時期の役員賞与を損金算入できる制度です。定期同額給与との最大の違いは、税務署への届出が必須である点です。
届出期限は原則として「株主総会等の決議から1ヶ月以内」または「事業年度開始から4ヶ月以内」のうち早い日です。この期限を1日でも過ぎると、支給しても全額が損金不算入になります。また、届出した金額・時期と実際の支給が1円でもズレると損金算入が認められません。厳しいですね。
業績連動給与:主に上場企業が対象の制度
業績連動給与は、利益・売上・株価等の指標に基づいて算定される役員報酬で、損金算入が認められます。ただし、適用できるのは同族会社以外の法人(または非同族法人との完全支配関係がある同族会社)の業務執行役員に限られており、算定方法の有価証券報告書への開示など要件が厳格です。中小企業や同族会社には基本的に使えない制度と理解しておきましょう。
3つの制度の比較まとめ
| 項目 | 定期同額給与 | 事前確定届出給与 | 業績連動給与 |
|---|---|---|---|
| 税務署への届出 | 不要 | 必要(期限あり) | 開示義務あり |
| 支給の形 | 毎月同額 | 特定の時期に確定額 | 業績指標に連動 |
| 中小企業への適用 | ◎ 最も一般的 | ○ 賞与に利用可 | ✕ 基本的に不可 |
| 主なリスク | 改定時期・金額のズレ | 届出漏れ・金額のズレ | 要件の複雑さ |
中小企業や個人が設立した法人の場合、毎月の役員報酬は定期同額給与で設定し、賞与的なものを支給したい場合のみ事前確定届出給与を活用するという組み合わせが実務上よく使われます。これが条件です。
定期同額給与の金額設定では、役員個人の所得税・社会保険料と法人税のバランスを計算した「最適報酬額」を検討することも重要です。たとえば役員報酬を年1,000万円とした場合と600万円とした場合では、個人の手取りと法人の税負担の合計額が変わってきます。この最適化シミュレーションは税理士に依頼すると具体的な数値で確認できます。
参考:国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm