

妻の年収が123万円以下でも、夫の年収次第で控除がゼロになります。
「妻を扶養に入れる」という言葉は日常的によく使われますが、正確には「妻(配偶者)は扶養控除の対象外」です。これは多くの人が勘違いしているポイントです。
扶養控除とは、所得税法上の「控除対象扶養親族」がいる納税者が受けられる所得控除のことで、その対象は配偶者を除く6親等内の血族および3親等内の姻族とされています。つまり、子どもや親・兄弟姉妹などは対象になりますが、妻や夫といった配偶者は、もともと扶養控除の対象から外れているのです。
妻を扶養している場合に使える制度は別に設けられています。それが「配偶者控除」と「配偶者特別控除」の2種類です。
配偶者控除は、妻の合計所得金額が58万円以下(給与収入のみなら年収123万円以下)で、納税者と生計を一にしている場合に受けられる控除です。一方、配偶者特別控除は、妻の合計所得金額が58万円を超えても133万円以下(給与収入で123万円超〜201万5,999円以下)であれば段階的に控除を受けられる制度です。
つまり原則は、妻の年収が123万円以下なら「配偶者控除」、123万円超〜201万円台なら「配偶者特別控除」という整理です。
参考:国税庁「No.1191 配偶者控除」では控除要件と控除額が詳細に記載されています。
配偶者控除を受けるためには、満たすべき要件がいくつかあります。まず大前提として、「民法上の配偶者であること」が必須です。
いわゆる内縁関係や事実婚の場合は、たとえ生計を一にしていても配偶者控除の適用対象外となります。これは意外と見落とされやすい落とし穴です。
次に確認すべき条件は以下の4点です。
- 民法上の婚姻関係があること(内縁は不可)
- 納税者(夫)と生計を一にしていること
- 妻の年間合計所得金額が58万円以下(給与収入のみなら123万円以下)であること
- 青色申告者の事業専従者として給与を受けていない、または白色申告者の事業専従者でないこと
そして、納税者本人(夫)の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除を受けることができません。これが「夫の年収が高すぎると控除がゼロになる」というケースです。
2025年の税制改正により、年収の壁は大きく変わりました。これが基本です。
| 区分 | 妻の給与年収(目安) | 控除の種類 |
|------|-----------------|---------|
| 配偶者控除(満額38万円) | 123万円以下 | 配偶者控除 |
| 配偶者特別控除(満額38万円) | 123万円超〜160万円以下 | 配偶者特別控除 |
| 配偶者特別控除(段階的に減額) | 160万円超〜201万5,999円以下 | 配偶者特別控除 |
| 控除なし | 201万6,000円以上 | 対象外 |
2025年12月1日施行の令和7年度税制改正により、配偶者控除の対象となる妻の年収上限が「103万円」から「123万円」に引き上げられました。また、配偶者特別控除の満額が受けられる上限も「150万円」から「160万円」に拡大されています。
参考:三菱UFJ銀行のコラムでは、改正後の控除額の一覧表がわかりやすく解説されています。
三菱UFJ銀行「扶養控除とは?配偶者控除との違いや年収の壁、改正後の控除額をわかりやすく解説!」
「制度の話は理解できたけれど、実際にいくら得なの?」と思う方も多いでしょう。ここでは具体的な節税額をシミュレーションします。
配偶者控除の控除額は原則38万円です。この38万円が課税所得から差し引かれることで、夫の所得税と住民税が軽減されます。
所得税は累進課税なので、夫の年収によって節税効果は異なります。以下に目安を示します。
| 夫の年収(給与) | 所得税率 | 配偶者控除38万円の節税効果(概算) |
|---------------|--------|-------------------------------|
| 〜500万円程度 | 10% | 所得税:約3.8万円+住民税:約3.8万円=計約7.6万円 |
| 〜800万円程度 | 20% | 所得税:約7.6万円+住民税:約3.8万円=計約11.4万円 |
| 〜900万円程度 | 23% | 所得税:約8.7万円+住民税:約3.8万円=計約12.5万円 |
これは使えそうです。
住民税は所得割が一律10%なので、38万円の控除で住民税は約3.8万円軽減されます。所得税率が20%の方なら、配偶者控除1つで年間約11万円以上の節税になる計算です。
ただし、夫の合計所得金額が900万円を超えると控除額は減少します。合計所得が900万円超〜950万円以下では26万円、950万円超〜1,000万円以下では13万円に減額されます。そして1,000万円超になると控除はゼロです。
「妻のパート収入が100万円ちょっとで、夫の年収が500万円」という一般的な共働き家庭であれば、配偶者控除だけで年間約7〜8万円の節税になる、ということが基本です。
配偶者控除の話と並行して理解しておきたいのが、社会保険の「年収の壁」です。税制上の扶養と社会保険上の扶養は別の制度であるため、混同すると損をすることがあります。
社会保険の扶養(健康保険・厚生年金)には、税制とは別に2つの壁があります。
130万円をわずかに超えた場合の「手取り逆転」が問題です。
たとえば、年収130万円ぎりぎりから131万円に増やした場合、社会保険料として年間約20万円前後の負担が新たに発生し、手取りが逆に減ってしまうケースがあります。これがいわゆる「働き損」と呼ばれる状態です。
厚生労働省は「106万円の壁への対応」や「130万円の壁への対応」として支援強化パッケージを展開していますが、2026年時点でも社会保険の扶養基準自体は変わっていません。130万円の壁に注意が必要です。
📌 税制上の壁(123万円)と社会保険上の壁(106万円・130万円)は別物です。税制改正があっても社会保険の壁には影響しない点に注意してください。
参考:厚生労働省の「年収の壁への対応」ページでは、最新の支援策が確認できます。
配偶者控除・配偶者特別控除は、自動的に適用されるわけではありません。自分で申告する必要があります。
申告方法は2通りです。
「申告し忘れた」と後で気づいた場合も、あきらめる必要はありません。
還付申告・更正の請求は、過去5年分までさかのぼって手続きできます。たとえば2026年であれば、2021年分(令和3年分)まで遡及して申告が可能です。配偶者控除を申告し忘れていた年がある場合、5年以内であれば取り戻せる可能性があります。
5年分で計算すると、年間7〜11万円の節税が5年間で35〜55万円にもなります。痛いですね。申告し忘れに気づいたら、早めに税務署か国税庁のe-Taxで手続きしましょう。
手続きに不安がある場合は、最寄りの税務署の無料相談窓口を活用するのも一つの方法です。確定申告の時期(2〜3月)には特設相談会場が設けられることが多く、担当者に直接確認できます。
参考:国税庁のe-Tax・確定申告書等作成コーナーでは、操作ガイドを見ながら自宅から申告が完結できます。
ここまで制度の基本を押さえてきましたが、実際にお金の損得を左右する「盲点」はまだあります。金融に関心のある読者にこそ知っておいてほしい視点を整理します。
❶ 内縁・事実婚の妻は配偶者控除の対象外
法律上の婚姻関係がない場合は、どれだけ長く同居・生計を一にしていても、配偶者控除は受けられません。事実婚を選択している夫婦は「子どもがいれば扶養控除」は使えますが、パートナー自身への控除は受けられない点に注意が必要です。
❷ 夫の年収が1,195万円(給与収入)を超えると控除はゼロ
夫の合計所得金額が1,000万円(給与収入のみなら約1,195万円)を超えると、妻の年収がゼロであっても配偶者控除・配偶者特別控除は一切適用されません。これは意外と知られていません。
❸ 妻の「育児休業給付金」は所得に含まれない
育児休業中に受け取る育児休業給付金(雇用保険)は非課税所得のため、配偶者控除の判定となる「合計所得金額」には含まれません。そのため、育休中の妻は年収が実質ゼロとみなされることが多く、夫は配偶者控除を受けやすくなります。これは使えそうです。
❹ 所得税と住民税で「扶養の壁」が異なるケースがある
所得税と住民税では、扶養控除の対象となる所得要件(金額)が同じでも、控除額が異なります。住民税の扶養控除額は所得税より低く設定されているため、「所得税では控除を受けられても住民税の節税効果は小さい」という現象が起きます。
❺ 配偶者控除を申告し忘れても5年以内なら取り戻せる
既述の通り、更正の請求は5年以内なら可能です。過去に年末調整で申告を忘れていた年がある場合、5年分まとめて税務署に申告することで、数十万円単位の還付を受けられるケースもあります。
📌 これらのチェック項目は、毎年の年末調整前に一度確認しておくだけで、長期的な家計の改善につながります。
参考:freeeの確定申告ガイドでは、配偶者控除の申告漏れや更正の請求手続きについても解説されています。
freee「扶養控除とは?配偶者控除との違いや確定申告・年末調整での適用を解説」