

106万円の壁がなくなっても、年収を気にせず働けるわけではありません。
「106万円の壁」とは、パートやアルバイトで働く人が勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しなければならなくなるラインのことです。
正確には月額賃金8万8,000円(年収換算で約106万円)を超えると適用される制度で、さらにいくつかの条件をすべて満たした場合に加入義務が発生します。
具体的な条件は次の通りです。
すべてを満たして初めて社会保険の加入対象となるため、「106万円を1円でも超えれば即加入」というわけではありませんでした。
これが原因で「手取りが減るのが嫌だから年収105万円台に抑えよう」という働き控えが起きており、労働力不足の一因にもなっていました。政府はこの問題を解消するために、制度の見直しを進めてきた経緯があります。
参考:106万円の壁(賃金要件)の詳細・厚生労働省公式ページ
年金社会保険の加入対象の拡大について|厚生労働省
2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」が国会で可決・成立しました。
この法律の中に「被用者保険の適用拡大」が盛り込まれており、その柱の一つが106万円の壁(賃金要件)の撤廃です。法案成立は大きなニュースになりましたが、実際の施行タイミングや具体的な条件については「段階的」かつ「条件付き」の部分が多く、理解が難しい制度です。
撤廃の根拠として背景にあるのは、最低賃金の上昇です。全国の最低賃金は毎年引き上げられており、週20時間働けば、すでに多くの地域で月8万8,000円を超えてしまう状況になっていました。つまり「106万円の壁」はすでに形骸化しつつあったのです。
厚生労働省は、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて賃金要件を撤廃するとしており、現在の最低賃金の引き上げペースが続けば、2026年10月が撤廃の有力な時期とされています。
参考:年金制度改正法の概要はこちらで確認できます
年金制度改正法が成立しました|厚生労働省
制度改正のスケジュールは、「賃金要件の撤廃」と「企業規模要件の撤廃」の2つに分けて理解するのが大切です。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年10月(予定) | 賃金要件(月額8.8万円=106万円の壁)を撤廃 |
| 2027年10月 | 企業規模要件を「51人以上」→「36人以上」に変更 |
| 2029年10月 | 企業規模要件を「21人以上」に変更 |
| 2032年10月 | 企業規模要件を「11人以上」に変更 |
| 2035年10月 | 企業規模要件を完全撤廃(全企業対象) |
2026年10月に106万円の壁がなくなると、勤務先の従業員数が51人以上であれば、年収に関わらず週20時間以上働く学生以外の方が社会保険の加入対象になります。
段階的な改正を理解しておくことが原則です。2026年時点では、従業員が50人以下の小規模な事業所で働く方はまだ対象外です。
それ以降、2027年・2029年・2032年・2035年と段階を踏んで対象企業の規模要件が下がっていき、最終的には2035年10月に全企業対象となります。これは「10年かけて全ての短時間労働者を社会保険に加入させる」という大規模な制度改革です。
撤廃後に残る加入条件を正確に把握しておくことが重要です。
2026年10月以降、勤務先が従業員51人以上であれば、新しい社会保険加入条件は次の2つだけになります。
収入の多少を問わず、この2条件を満たせば社会保険に加入しなければならなくなります。これが「106万円の壁から週20時間の壁へ」と言われる変化の実態です。
ただし、注意点が一つあります。週20時間という判定は「労働契約書に記載された所定労働時間」で行われます。残業によって一時的に20時間を超えた場合でも、契約上の時間が20時間未満であれば対象外です。
2か月連続して実態として週20時間を超え、今後も超える見込みがある場合には加入対象となりますが、単月の残業では加入義務は発生しません。
最も気になるのは、手取り額への影響です。社会保険料は、給与のおよそ15%が本人負担として毎月差し引かれます。
具体的な例で見てみましょう。週20時間勤務、月収10万円(年収120万円)の場合で試算すると次のようになります。
| 撤廃前(現行) | 撤廃後(社会保険加入時) | |
|---|---|---|
| 月収(額面) | 10万円 | 10万円 |
| 社会保険料(本人負担) | 0円 | 約1.5万円 |
| 月の手取り | 約10万円 | 約8.5万円 |
| 年間の差額 | - | 約18万円の減少 |
年間18万円の手取り減は、家計への影響が大きいですね。
一方で、社会保険に加入することのメリットも見逃せません。厚生年金保険に加入すると、将来の年金受給額が増えます。また、傷病手当金(病気やケガで働けなくなったときに支給される給付金、標準報酬日額の3分の2を最長1年6か月)や、出産手当金なども受け取れるようになります。
さらに社会保険料は「労使折半」のため、会社側も同額(約1.5万円/月)を負担します。会社が自分のために毎月1.5万円を社会保険料として追加で支払ってくれるとも言えます。目の前の手取り減だけでなく、将来の受給額や保障内容まで含めてトータルで考える視点が大切です。
106万円の壁がなくなっても、「130万円の壁」は残ります。
この2つは性質が異なります。106万円の壁は「勤務先の社会保険に加入する基準」ですが、130万円の壁は「配偶者・親の社会保険の扶養から外れる基準」です。
| 項目 | 106万円の壁(撤廃予定) | 130万円の壁(残存) |
|---|---|---|
| 種類 | 社会保険加入の基準 | 扶養認定の基準 |
| 超えるとどうなるか | 勤務先の社会保険に加入義務 | 配偶者・親の扶養から外れる |
| 2026年以降 | 週20時間が新基準になる | 引き続き130万円が基準 |
つまり、週20時間未満で働き続けて勤務先の社会保険への加入は回避できたとしても、年収が130万円を超えると配偶者の扶養を外れることになります。
この場合、国民健康保険への自分自身での加入が必要になり、年間で約27万円の保険料負担が発生するのが一般的です。働き方を調整するなら、「週20時間」と「年収130万円」の両方を意識することが必要です。
なお、2026年4月からは扶養認定のルールも変わります。これまで「実績や将来見込み」で130万円超えを判定されていたものが、「労働契約書に記載された年収」での判定へと変わります。繁忙期に一時的に収入が増えても、契約上の年収が130万円未満なら扶養にとどまれる可能性が高くなります。
この変更はメリットが大きいですね。
参考:130万円の壁の扶養認定ルール変更について
2026年4月社会保険の扶養認定のルールが変更。「契約書で判断」が原則に|まき社会保険労務士事務所
複数の職場で働いている方にとっては、今回の改正でどうなるかが特に気になるところです。
現行制度では、1社ごとの勤務時間で社会保険加入を判定します。たとえばA社で週19時間、B社で週19時間の合計38時間働いていても、1社で週20時間を超えなければ社会保険の加入義務はありません。
この点は2026年以降も変わりません。
ただし、130万円の壁については合算で判定されます。A社とB社の収入を合わせて年収130万円を超えると、配偶者や親の社会保険の扶養から外れます。
この組み合わせで「1社あたり週19時間に抑えながら2か所で働く」という働き方を選ぶ人が今後増える可能性があります。これが新たな「週19時間の壁」として注目され始めています。ただし、こうした働き方は身体への負担も大きくなるため、健康管理とのバランスを意識することが大切です。
106万円の壁が撤廃された後も、手取りを守りながら賢く働くための方法はあります。
最もシンプルな方法は「週20時間未満に労働時間を抑える」ことです。週19.5時間以内に収めれば、勤務先の社会保険の加入対象外になります。これが「週19.5時間の壁」と呼ばれる新たな働き調整の形です。
また、社会保険に加入することが必ずしも損ではない場面もあります。
具体的には次のような状況です。
扶養内に収めることを優先するのか、社会保険に加入して手厚い保障を得るのかを、世帯全体の収入・支出で計算してみることが大切です。
厚生労働省が提供する「公的年金シミュレーター」では、社会保険加入による将来の年金受給額の変化を無料で試算できます。生活への影響を具体的な数字で確認できるため、一度使ってみることをおすすめします。
参考:将来の年金受給額を無料でシミュレーション可能
社会保険の加入条件やメリットについて(公的年金シミュレーター)|厚生労働省
今回の制度改正は労働者側だけでなく、企業にも大きなインパクトをもたらします。
社会保険料は「労使折半」のため、新たに社会保険の加入対象となった従業員が増えるほど、企業の人件費も増加します。たとえば、月収10万円のパート従業員1人あたり会社負担の社会保険料は月約1.5万円、年間で約18万円の追加コストです。
パートやアルバイト従業員を多く雇用している飲食・小売・介護・清掃などの業種では、この負担増が特に深刻です。従業員50人以下の小規模事業所は2027年以降の対象となりますが、今から準備をしておかないと急な対応に迫られます。
2025年2月のjinjer株式会社の調査では、「106万円の壁」の見直しで業務負担が増加すると見込む担当者が約54%に上ったという結果もあります。特に「従業員からの問い合わせ対応(39.4%)」「給与計算ミスがないかの確認(36.4%)」が上位に挙がっており、制度移行期の実務負担の大きさがうかがえます。
事業主向けには、政府が「キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース」として、新たに社会保険の加入対象となる労働者の処遇を改善した企業に助成金を出す制度を設けています。負担増への対策として積極的に活用を検討する価値があります。
参考:企業が活用できる助成金の詳細はこちらから確認できます
年収の壁・支援強化パッケージ|厚生労働省
「年収の壁」はひとつではなく、複数の壁が同時に存在します。混同しやすいため、ここで一度整理しましょう。
| 壁の種類 | 影響する税・保険 | 現在の状況 |
|---|---|---|
| 103万円の壁(→123万円) | 所得税(税金) | 2025年から123万円に引き上げ済み |
| 106万円の壁 | 社会保険(勤務先) | 2026年10月に賃金要件が撤廃予定 |
| 130万円の壁 | 社会保険(配偶者扶養) | 2026年4月に認定ルールが変更、基準額は維持 |
| 160万円の壁 | 所得税(配偶者特別控除) | 2025年から適用ライン変更 |
103万円の壁は「所得税が課税されるラインを超えると、扶養控除が減る」という税金の問題です。一方、106万円・130万円の壁は「社会保険料が新たに発生する」という保険の問題で、影響する仕組みがまったく異なります。
つまり103万円の壁が引き上げられても、社会保険関連の106万円・130万円の壁は別問題として残ります。
よくある誤解に「103万円の壁が廃止されたから、年収を増やしても大丈夫」と思い込んでしまうことがあります。社会保険の壁はまったく別の制度であり、2026年以降は「週20時間」「年収130万円」という2つの基準を引き続き意識する必要があります。
これが基本です。
制度が大きく変わる前の今こそ、世帯単位でのお金のシミュレーションを行っておくことが有効です。
最初に確認すべきことは、自分が勤務している会社の従業員数です。従業員51人以上であれば、2026年10月以降に影響を受ける可能性があります。50人以下なら2027年以降の段階的な拡大を待つことになります。
次に、自分の現在の所定労働時間(週何時間か)を確認します。週20時間未満なら、賃金要件が撤廃されても加入対象外です。
これが条件です。
さらに、社会保険に加入した場合の年間の保険料負担額と、将来の年金受給額増加分を比べることも重要です。保険料を払うほうが長期的には得になる場合もあります。
こうした試算には「ねんきんネット」が便利です。日本年金機構が提供する無料のオンラインサービスで、年金加入履歴の確認や、将来の年金受給見込み額の試算ができます。社会保険加入の有無による将来の受給額の違いも確認できるため、数字で判断したい人には特に役立ちます。
参考:将来の年金見込み額を確認できる無料ツール
ねんきんネット|日本年金機構
あまり知られていないことですが、106万円の壁撤廃後、新たに社会保険の加入対象となった労働者に対しては、事業主が「社会保険適用促進手当」を支給することで、手取り収入を守る仕組みが制度として用意されています。
通常、手当を支給すると、その手当も社会保険料の計算対象(標準報酬月額に算入)に含まれてしまいます。しかし「社会保険適用促進手当」は、本人負担の保険料相当額を上限として、社会保険料の算定対象から除外される特例が設けられています。
つまり、会社がこの手当を支給することで、実質的に従業員の手取りが減らない状態を作ることが可能なのです。
この制度が使えるのは最大3年間です。
しかも、事業主がこの手当を支給するために要した費用は、「キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース」として国から一部補助が受けられます。
会社がこの制度を知らなければ、従業員は何もしなくても手取りが減っていきます。一方、会社がこの制度を使えば、従業員の実質的な負担ゼロで社会保険に加入させることも可能です。
勤務先にこの制度の存在を伝え、適用を相談してみることも、知っておくと得する行動の一つです。制度の詳細は厚生労働省の「年収の壁・支援強化パッケージ」で公開されています。
参考:社会保険適用促進手当の制度と助成金の詳細
年収の壁・支援強化パッケージ(社会保険適用促進手当の特例など)|厚生労働省
今回の制度改正により、新たに社会保険の加入対象になると見込まれているのは約200万人とされています。これは一般社員の多い大企業の数倍に相当するほどのスケールです。
この200万人の大半は、これまで配偶者の扶養内で働くことを選んでいたパート・アルバイト労働者です。手取りが減ることへの不安から、「週19.5時間働き方」にシフトする動きが起きることも予想されています。
一方で、社会保険に加入することのメリットを正しく理解したうえで、あえて加入を選択する人も出てくるでしょう。傷病手当金や出産手当金の受給資格を得ることは、ライフイベントを控えている方にとって大きな安心材料になります。
また、将来の年金に目を向けると、厚生年金に加入することで、同じ収入の国民年金加入者よりも将来の受給額が増えます。現役時代の手取り減だけでなく、老後の収入も含めたトータルの計算をすることで、社会保険加入のメリットが見えてきます。
制度変更の影響を単純に「損か得か」で判断せず、ライフステージや家庭の状況に合わせて考えることが重要です。
ここまでの内容を整理します。2026年10月をめどに106万円の壁(賃金要件)が撤廃される見込みです。これにより、年収を問わず週20時間以上働く学生以外の短時間労働者は、一定の企業規模以上であれば社会保険の加入対象になります。
手取りが減ることへの不安を持つ方には、次の3つの行動が有効です。
106万円の壁がなくなっても「年収の壁問題」が完全に解消されるわけではありません。週20時間・年収130万円という新たな基準を意識しながら、自分に合った働き方を設計することが大切です。制度の変化を正しく理解して、賢く行動する準備を今から始めておきましょう。

【2冊セット】新紙幣 1万円札 100枚つづり 100万円 メモ帳 札束 ダミー お札 おもちゃのお金 おもしろグッズ プレゼント ジョークグッズ