

産前休業中に有給休暇を使うと、その日の出産手当金はゼロになります。
出産手当金は、健康保険に加入している女性が出産のために会社を休み、その間に給与が支払われなかった期間を対象として支給される給付金です。協会けんぽ(全国健康保険協会)における計算の基本式は次のとおりです。
| 計算要素 | 内容 |
|---|---|
| ①標準報酬月額の平均 | 支給開始日以前の直近12か月間の標準報酬月額を合算して12で割る |
| ②標準報酬日額 | ①÷30日 |
| ③1日あたりの支給額 | ②×2/3 |
| ④合計支給額 | ③×支給対象日数 |
たとえば、過去12か月の標準報酬月額の平均が30万円だった場合、標準報酬日額は30万円÷30日=10,000円です。1日あたりの支給額は10,000円×2/3=約6,666円となります。産前42日+産後56日の合計98日間取得すれば、6,666円×98日=約65万3,000円が受け取れる計算になります。ちなみに98日間というのは、カレンダーにして約3か月強、ちょうど春から夏の季節が変わる程度の期間です。
標準報酬月額とは、毎月の給与などの報酬を区切りよい金額の幅で区分したものです。「実際の手取り月給がそのまま使われる」と思っている方も多いですが、それは少し違います。通勤手当や住宅手当なども含めた総支給額(税込・控除前)をベースに等級が決まる仕組みです。
なお、計算に使われるのはあくまで「支給開始日以前12か月」の数値です。産休に入る前に昇給や昇格で給与が大きく上がっていても、その変更後の標準報酬月額が反映されるまで数か月かかるケースがあります。つまり昇給タイミングによっては計算上の金額が想定より低くなることもあるので注意が必要です。
協会けんぽの標準報酬月額に関する詳細は以下の公式ページで確認できます。
全国健康保険協会「出産のため会社を休んだとき(出産手当金)」公式ページ
出産手当金を受け取るには、いくつかの条件を満たす必要があります。これが条件です。
支給対象期間の基本は「出産日以前42日(産前)+出産翌日から56日(産後)」です。これは原則として変わりません。
ただし、双子や三つ子などの多胎妊娠の場合は、産前が98日間に拡大されます。単胎妊娠と比べて56日(約2か月)も長く休める計算になり、その分の出産手当金も上乗せされます。これは意外と見落とされがちな点です。
また、出産が予定日より遅れた場合、遅れた日数分もそのまま支給対象日数に加算されます。予定日を過ぎたからといって手当が減らされる心配はありません。逆に言えば、予定日より早く生まれた場合は産前休業の取得日数が短くなるため、産前分の支給は少なくなります。
出産日当日は「産前期間」に含まれる点も、多くの方が見逃しやすいルールです。
協会けんぽ公式「出産手当金について よくあるご質問」:支給期間や申請方法の詳細が確認できます
計算の核心となる標準報酬月額に関して、特に見落としやすい2つのポイントがあります。
ポイント①:加入期間が12か月未満の場合
支給開始日以前の健康保険加入期間が12か月に満たない場合は、次のいずれか低い金額を使って計算します。
12か月未満が条件です。転職後すぐに産休に入るケースや、短期間で会社を変えた方が当てはまります。たとえば、実際の標準報酬月額が50万円の高収入の方でも、加入期間が3か月しかなければ、全被保険者平均の32万円と比較して低い方が使われるため、受給額が大幅に下がることがあります。痛いですね。
ポイント②:産休前の昇給・等級変更のタイミング
標準報酬月額は毎年4月〜6月の報酬をもとに9月に定時改定されます。3月に昇給があっても、9月改定前に産休に入った場合、改定後の高い等級は計算に反映されません。昇給直後のタイミングで産休に入ると損をする可能性があるということですね。
一方、産休中に行われる定時決定は原則として従前の標準報酬月額が維持されます。復職後に随時改定の要件を満たした場合は改定が発生しますが、それは産休中の出産手当金には影響しません。
また、残業代など変動する報酬(非固定的賃金)も標準報酬月額に含まれます。産休前の数か月に残業が多く、標準報酬月額が高い等級に定まっていれば、その恩恵が計算に反映されます。逆に産休直前に残業を大幅に減らしていた場合は注意が必要です。
マネーフォワードクラウド「産休前に有給休暇をくっつけることは可能!社会保険料や出産手当金への影響を解説」
出産手当金は「申請すれば必ずもらえる」と思いがちですが、受け取れないケースが実は複数あります。金融や家計管理に関心のある方でも意外と見落としがちな点です。
❌ もらえないケース一覧
有給休暇と産休の関係は要注意です。産前42日の期間内に有給休暇をくっつけて使う方は多いですが、有給取得日は給与が発生するため、その日の出産手当金は支給されない(または差額のみ支給)ことになります。有給消化と出産手当金のどちらが得かは給与水準によって異なるため、計算して比較することが大切です。
退職後の継続給付については、次の2条件が両方必要です。
1年以上が条件です。転職歴がある場合でも、前職と現職の間に空白期間がなければ期間の合算が認められます。
申請手続き自体はそれほど難しくありませんが、タイミングと期限の管理が重要です。
📝 申請の流れ
申請は産前分・産後分に分けて提出することができます。産後分のみをまとめて申請することも可能ですが、生活費が必要な場合は分割申請が有効です。2回目以降の申請では、医師・助産師の証明が省略できることも覚えておきたいポイントです。
書類に不備がなければ、申請から振り込みまで通常1〜2か月程度かかります。これは使えそうですね。産休中は無収入になる期間が出るため、事前に生活費を確保しておくと安心です。
⏰ 2年の時効を絶対に見落とさない
出産手当金の申請期限は、「支給対象日(1日単位)ごとにその翌日から2年以内」です。産休全体でまとめて2年ではなく、1日ずつ時効が進むという仕組みです。
つまり、産休開始から2年が経過した時点から、1日ずつ受給権が消滅していきます。育児が忙しく申請を忘れていた方が気づいた時には一部が時効になっていた、というケースも実際に起きています。申請期限には期限があります。
育休明けに職場復帰して初めて「申請していなかった」と気づくことも少なくありません。産後1〜2か月以内を目安に申請を済ませてしまうのが得策です。
協会けんぽ公式「健康保険出産手当金支給申請書」:申請書のダウンロードや申請期限の詳細が確認できます
出産手当金には、金融に関心の高い方でも意外と知らない「税制上の優遇」が2つあります。
🎁 優遇①:出産手当金は非課税
出産手当金は所得税・住民税が一切かかりません。健康保険からの給付であるため、所得には該当しないとされています。年末調整や確定申告への記載も不要です。受け取った金額がそのまま手元に残るということですね。
育児休業給付金や出産育児一時金(50万円)も同様に非課税です。つまり、産休・育休中に受け取る公的給付金はすべて税金フリーになっています。
🎁 優遇②:産休中の社会保険料免除
産前産後休業期間中は、健康保険料と厚生年金保険料が従業員・会社ともに免除されます。免除の対象期間は、産前休業の開始月から産後休業終了翌日の属する月の前月までです。
たとえば、月収30万円の方(標準報酬月額30万円)の場合、毎月の健康保険料(全額)はおよそ3万円前後です。産休期間の約3か月間で約9万円分の保険料負担がゼロになります。
これらを合計すると、産休中の実質的な手取りは「出産手当金(課税なし)+社会保険料の免除額」となり、産休前の手取りの約80〜85%程度を確保できる試算になります。
| 月収(税込) | 出産手当金(月額概算) | 産休前の手取り比較 |
|---|---|---|
| 約20万円 | 約13万円 | 手取りの約80%相当 |
| 約27万円 | 約18万円 | 手取りの約80〜85%相当 |
| 約36万円 | 約24万円 | 手取りの約82%相当 |
産休期間中の生活資金計画を立てる際には、この「非課税+社会保険料免除」のダブル優遇を前提にシミュレーションしておくと、余裕を持った家計管理ができます。家計の見通しが立てやすくなるのは、金融の観点でも大きなメリットです。
出産前後の生活費を具体的にシミュレーションしたい場合は、カシオの高精度計算サイト(出産一時金・出産手当金・育児休業給付金の概算計算ツール)が無料で使えます。月収や予定日を入力するだけで概算が出るので、まず一度試してみることをおすすめします。
カシオ高精度計算サイト「出産一時金・出産手当金・育児休業給付金の計算ツール」:標準報酬月額や産休日数を入力するだけで概算額が確認できます
三菱UFJ銀行「知らないと損する育休中の税金・社会保険料」:非課税のしくみや手取り試算の参考になります