傷病手当金の計算と手取り額を月収別に徹底解説

傷病手当金の計算と手取り額を月収別に徹底解説

傷病手当金の計算と手取りの正しい求め方

「傷病手当金は手取り給与の3分の2が受け取れる」と思っているなら、実際の振込額を見て数万円の誤差に驚くことになります。


📊 この記事の3つのポイント
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計算の基準は「総支給額(額面)」

傷病手当金は"手取り"ではなく税引き前の標準報酬月額(額面)をベースに計算されます。そのため支給額は手取りより高めに計算される一方、そこから社会保険料・住民税が差し引かれ、実際の手元額はさらに下がります。

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月収30万円の実手取りは約14.5万円

月収30万円の場合、傷病手当金の支給額は月約20万円ですが、住民税・健康保険料・厚生年金保険料を差し引くと実際に使えるお金は約14.5万円前後になります。

⚠️
育児休業と違い、社会保険料は免除されない

育児休業中は社会保険料が免除されますが、傷病による休職中は免除されません。受給中も厚生年金・健康保険料を払い続ける必要があります。この点を事前に把握しておくことが、生活設計の狂いを防ぐ鍵です。


傷病手当金の計算式と標準報酬月額の基本的な仕組み


傷病手当金の支給額を正確に把握するうえで、まず押さえなければならないのが「標準報酬月額」という考え方です。計算の基準は給与の"手取り"ではありません。


傷病手当金の1日あたりの支給額は、次の計算式で求めます。


【基本計算式】

1日あたりの支給額 = 支給開始日以前の継続した12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3


標準報酬月額とは、基本給に通勤手当・残業手当・住居手当など各種手当を加えた総支給額をもとに、等級表に当てはめた金額のことです。つまり、社会保険料や税金を引く前の「額面」に近い数値が基準になります。


これが意外な落とし穴になります。多くの人は「自分の手取りの3分の2が振り込まれる」と思いこんでいますが、実際は手取りよりも大きな額面ベースの3分の2が計算の出発点です。計算の起点が高いということです。


ただし、支給開始日以前の被保険者期間が12か月に満たない場合は少し異なります。その場合は次の2つのうち、低い方の金額が使われます。


  • 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
  • 全被保険者の標準報酬月額の平均額(協会けんぽの場合:令和7年4月1日以降の支給開始は32万円、それ以前は30万円)


入社1年未満での休職の場合、この上限額が適用されるため支給額が低く抑えられるケースがあります。注意が必要です。


自分の標準報酬月額を確認するには、給与明細に記載されている健康保険料の金額から逆算するか、勤務先の人事・総務担当者に尋ねるのが確実です。協会けんぽの保険料額表(東京都版など都道府県別)はウェブで公開されており、保険料の金額から対応する等級と標準報酬月額を調べることができます。


参考:傷病手当金の公式制度説明(全国健康保険協会)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/


傷病手当金の手取り計算|月収別シミュレーション早見表

支給額の計算式がわかったところで、月収別に具体的な金額を見ていきましょう。支給額から社会保険料・住民税を差し引いた実際の手取り額をセットで確認することが重要です。


まず、月収別の傷病手当金の支給額(月額)の目安をまとめます。


月収(標準報酬月額) 1日あたり支給額 1か月あたり支給額 実手取りの目安
15万円 3,333円 約99,990円 約7.4万円
20万円 4,444円 約133,320円 約9.7万円
25万円 5,778円 約173,340円 約12.6万円
30万円 6,667円 約200,010円 約14.5万円
40万円 9,111円 約273,330円 約19.3万円
50万円 11,111円 約333,330円 約23.3万円

※実手取りは支給額から住民税・健康保険料・厚生年金保険料を控除した目安(40歳未満・都内在住の場合)。個人の条件によって異なります。


月収30万円の場合を具体的に追ってみましょう。標準報酬月額30万円のとき、傷病手当金の月額は約20万円です。そこから差し引かれるのは、住民税(約1.3万円)、厚生年金保険料(本人負担分・約2.7万円)、健康保険料(本人負担分・約1.5万円)の合計約5.5万円です。つまり実際に手元に残るのは約14.5万円前後ということになります。


大事なポイントがあります。傷病手当金は非課税なので所得税はかかりません。しかし住民税は前年の所得に対して課税されるため、今年の収入がゼロに近くても「昨年分」として支払いが続きます。住民税は時差で請求されてくる、という点が特に見落とされやすいので注意が必要です。


参考:日本生命「傷病手当金はいくらもらえる?条件や計算方法、申請方法まで解説」


傷病手当金の計算で見落としがちな社会保険料の負担

受給中も社会保険料の支払いは止まりません。これは多くの人にとって盲点です。


育児休業中は一定の要件を満たせば健康保険料・厚生年金保険料が免除されます。しかし傷病による休職はこの免除制度の対象外です。つまり、傷病手当金を受け取りながら、毎月休職前と同水準の社会保険料を払い続けなければなりません。


金額の目安を押さえておきましょう。協会けんぽ(東京)の場合、標準報酬月額30万円で40歳未満であれば、健康保険料・厚生年金保険料の本人負担合計は毎月約4.2万円以上になります。


さらに見落としやすいのが、標準報酬月額が休職中も変わらない点です。標準報酬月額は毎年4〜6月の給与をもとに9月以降の保険料額が決まりますが(定時決定)、休職中に給与がゼロでも休職前の等級がそのまま適用されることがほとんどです。


休職中に標準報酬月額が下がる「随時改定」は、固定的賃金が変動してその後3か月間の平均給与が2等級以上変わった場合に適用されます。しかし給与がゼロの月は「支払基礎日数17日未満」として随時改定の対象月に算入されないため、結果として標準報酬月額は変わらないまま、ということになります。


これは知らないと損する仕組みです。給与がゼロでも社会保険料は休職前と同じ水準がかかり続けます。社会保険料の支払い方法は会社によって異なりますが、主に「毎月会社指定口座に振込」「復職後にまとめて精算」「会社が立て替えて退職時の給与や退職金から一括控除」という3パターンがあります。立て替えてもらっている場合でも免除ではありません。退職時に数十万円単位でまとめて差し引かれるケースもあるため、事前に確認が不可欠です。


参考:FPI-J「休職時の傷病手当金が給与の2/3受け取れるに潜む罠」
https://fpi-j.com/column/column6053/


傷病手当金をもらえる条件と支給期間・待期期間の正しい理解

傷病手当金を実際に受け取るためには、4つの条件を同時に満たす必要があります。正確に把握しておくことで、もらい損ねを防ぐことができます。


  • ①業務外の病気やケガで療養中であること(業務上は労災保険の対象)
  • ②働くことができない状態(労務不能)であること
  • ③連続する3日間の休業を含め、4日以上仕事を休んでいること
  • ④給与の支払いがないこと


④については補足が必要です。給与の支払いがあっても、傷病手当金の日額よりも低い場合は差額分が支給されます。有給休暇を使って給与が出ている状態でも、金額次第では差額を受け取れます。有給休暇中は傷病手当金がゼロになると思い込んでいる方が多いですが、それは誤りです。


③にある「連続3日間の待期期間」については注意点があります。この3日間は、土日・祝日や有給休暇取得日も含まれます。待期期間中に給与が出ていても問題ありません。重要なのは「連続して3日間休んでいること」という事実だけです。


支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。2022年の法改正で「暦日ではなく通算」に変わりました。これはかなり有利な変更点です。たとえば受給中に一時的に復職した期間があれば、その分が差し引かれずに支給日数のカウントを止めることができるため、実際の支給可能期間が延びます。


支給が終わると原則として延長がありません。1年6か月で支給が切れたあとも働けない状態が続く場合は、障害厚生年金への移行を検討することになります。申請から認定まで時間がかかるため、傷病手当金の支給終了が近づいてきた段階で早めに社会保険労務士や年金事務所に相談しておくことが重要です。


参考:全国健康保険協会「傷病手当金について」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307/


傷病手当金と他の給付金の調整・併給ルール

傷病手当金は、他の給付金と同時に受け取れる場合とそうでない場合があります。このルールを正確に知らないままでいると、本来もらえる差額を受け取り損なうこともあります。


まず、傷病手当金の支給が「調整・停止」される主なケースは次のとおりです。


  • ✅ 給与の支払いがあった場合 → 原則停止(日額が低ければ差額支給)
  • ✅ 障害厚生年金・障害手当金を受給している場合 → 原則停止(年金額÷360が傷病手当金日額より低ければ差額支給)
  • ✅ 老齢退職年金を受給している場合(資格喪失後の継続給付中のみ) → 原則停止(差額支給あり)
  • 出産手当金と重複する場合 → 出産手当金が優先(差額支給あり)


逆に「同時に受け取れる」給付金もあります。育児休業給付金は雇用保険からの支給であり、傷病手当金は健康保険からの支給のため制度が異なります。別の傷病による休職であれば、傷病手当金と障害厚生年金を並行して受け取ることもできます。


特に押さえておきたいのが、退職後の継続給付のルールです。退職後も傷病手当金を受け続けるためには「退職日の前日まで1年以上の被保険者期間があること」と「退職時点で傷病手当金を受給中または受給できる状態にあること」が必要です。


退職日に荷物の片付けや引き継ぎ業務などのために出勤してしまうと、「退職日に労務可能」とみなされて受給資格を失う場合があります。退職日は自宅で休んでいること、これが資格継続の条件です。知らずに出勤して受給権を失うケースがあるのは見逃せないリスクです。


参考:社会保険労務士監修「傷病手当金の手取り金額と計算方法」(東京海上安心相談センター)
https://manekomi.tmn-anshin.co.jp/kenko/17600483


傷病手当金の受給中に知っておきたい資産管理の独自視点

傷病手当金を受け取りながら生活する期間は、多くの人にとってお金の流れを見直す重要なタイミングです。給付制度の知識だけでなく、受給中の財務管理という視点を持つことで、回復後の生活を安定させることができます。


まず、実際の月次キャッシュフロー(現金収支)を正確に把握しておくことが出発点になります。支給額から社会保険料・住民税を引いた手取り額を「収入」と位置づけ、固定支出(家賃・保険料・通信費など)との差額を毎月チェックする習慣が大切です。


傷病手当金の受給期間中に見直せるコストとして代表的なのが、任意継続被保険者への切り替えです。退職後に健康保険の「任意継続」を選ぶ場合、保険料は在職中の倍(事業主負担分がなくなるため)になります。国民健康保険料との比較が必要であり、収入が大幅に下がっている状況では国保の方が安くなるケースもあります。市区町村の窓口で国保の試算を取り寄せてから判断することを勧めます。


また、受給中に確定申告を行うことで、傷病の治療にかかった医療費控除を活用できる場合があります。傷病手当金自体は非課税のため申告不要ですが、復職前に給与収入があった年であれば、医療費控除によって所得税の還付を受けられる可能性があります。医療費の領収書は捨てずに保管することが大切です。


さらに、民間の就業不能保険との関係も整理しておく価値があります。就業不能保険は傷病手当金の支給終了後を補完する設計になっているものが多く、公的制度の1年6か月を超えた長期休職に備えるためのセーフティネットとして機能します。ただし、既に休職が始まった後からの加入はできないため、健康なうちに加入を検討しておくことが鉄則です。


生命保険各社や共済が提供する就業不能保険・所得補償保険の内容を比較するには、保険料比較サイト(例:保険スクエアbang!、i保険など)を利用して複数の商品を一度に確認することが、時間をかけずに比較検討する方法として有効です。


受給中は一時的な収入減として捉えるだけでなく、退職後・復職後も見据えた生活設計の見直し機会として活用することが、長期的な資産安定につながります。




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