

就業不能保険に加入している人でも、傷病手当金の期間が終わった後に給付金が出ない商品を選んでいると、実質的に手元にお金が入るのは就業不能から最短でも60日後になります。
Yahoo!知恵袋をはじめとするネット上では、「就業不能保険はいらない」という声が根強くあります。その意見の多くは、大きく分けて7つの理由に集約されます。
① 傷病手当金という公的保障がある
会社員や公務員が加入する健康保険には、「傷病手当金」という制度があります。病気やけがで連続3日以上仕事を休むと、4日目から給与の約2/3が最長1年6か月間支給されます。これが「会社員なら就業不能保険はいらない」と言われる最大の根拠です。
② 障害年金が受給できる可能性がある
傷病手当金の支給期間が終わっても、障害等級1級・2級に認定されれば障害基礎年金・障害厚生年金が支給されます。これが2つ目の理由です。ただし、障害等級1級でも障害基礎年金の年額は約97万円(令和4年4月時点)であり、月換算で約8万円にすぎません。
これだけで生活できるかは、別の話です。
③ 保険金の支払い条件が厳しい
就業不能保険の「就業不能状態」の定義は保険会社によって異なります。「寝たきり状態に限る」など厳しい条件を設けている商品では、元の仕事が無理でも軽いデスクワークができると判断された場合、給付金が出ないことがあります。うつ病などの精神疾患を対象外にしている商品も少なくありません。
④ 保険料が高くなりがち
就業不能保険は長期間の保障を提供するため、保険料が高く設定されています。若い30代では月2,000〜4,000円台の商品もありますが、40代以降になると保険料が上がりやすく、「この保険料なら貯蓄に回したほうがよい」と感じる人も多いのが現状です。掛け捨てが主流という点も、割高感につながります。
⑤ 免責期間(待機期間)が長い
就業不能保険には60日〜180日の免責期間が設けられているのが一般的です。つまり、働けなくなっても最低2か月間は一切給付金が出ません。この期間は傷病手当金や貯蓄で乗り切る必要があります。
⑥ 共働き世帯では一人が働けても収入がゼロにならない
共働き世帯であれば、片方が就業不能になっても、もう一方の収入で生活を維持できる場合があります。この点も「いらない」と判断される一因です。
⑦ 貯蓄や資産で対応できる
十分な貯蓄がある人や、不労収入(家賃収入・配当収入など)がある人は、就業不能保険に頼らなくても生活が成り立つため、必要性は低いと言えます。
以上が知恵袋でよく見られる代表的な意見です。これらには確かに一理あります。しかし、条件が当てはまる人と当てはまらない人では、まったく判断が変わります。それを次のH3ブロックで詳しく見ていきましょう。
参考:就業不能保険がいらないと言われる理由の詳細解説
就業不能保険はいらないといわれる5つの理由 | 41FP
生命保険文化センターが2024(令和6)年度に実施した「生命保険に関する全国実態調査」によれば、就業不能保険(特約含む)の世帯加入率は17.2%です。医療保険の加入率が90%超、がん保険が60%超であることと比較すると、いかに低い水準かが分かります。
つまり、加入している人は約6人に1人にとどまります。
一方、年齢別に見ると加入率が最も高いのは30〜34歳で28.3%です。子育てや住宅ローンなど支出が多い時期に必要性を感じやすいことが背景にあります。55〜59歳になると20.8%、60〜64歳では12.8%まで下落します。子どもが独立したり、貯蓄が増えたりすることで「もう不要」と判断するケースが増えるからでしょう。
| 世帯主の年齢 | 就業不能保険の加入率 |
|---|---|
| 29歳以下 | 20.3% |
| 30〜34歳 | 28.3%(最高) |
| 35〜39歳 | 26.7% |
| 40〜44歳 | 22.7% |
| 45〜49歳 | 25.0% |
| 50〜54歳 | 25.5% |
| 55〜59歳 | 20.8% |
| 60〜64歳 | 12.8% |
出典:生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
この数字を別の角度から読み取ると、8割以上の家庭は「就業不能保険なし」で生活しているということです。それで成り立っているケースも多いのは事実ですが、「成り立っているから不要」とイコールではありません。
働けなくなった際に毎月必要な金額は、生命保険文化センターの調査で平均27.2万円という結果が出ています。傷病手当金は給与の2/3しか出ないため、月給30万円の人なら手取りは約20万円程度に減少します。差額の7万円以上を毎月貯蓄から取り崩す計算です。これが1年半続くと、約126万円が消えることになります。
数字で見ると、リスクの大きさが浮かんできます。
参考:就業不能保険の加入率の詳細データ
就業不能保険の加入率はどれくらい? | インズウェブ
「就業不能保険がいらないかどうか」は、一律に答えられる問いではありません。収入形態や家族構成、貯蓄額などによって、まったく判断が変わります。
✅ 就業不能保険がいらない(必要性が低い)人の条件
- 十分な流動性資産(目安:生活費2年分以上)がある
- 家賃収入・配当収入など不労収入があり、就業不能でも生活が成立する
- 共働きで、片方の収入だけでも住宅ローン・生活費を賄える計算が成り立つ
- 会社の福利厚生が充実しており、休職中も給与が長期間保証されている
- 子どもが独立済み、住宅ローンも残り少ないなど固定費が少ない
⚠️ 就業不能保険が必要(必要性が高い)人の条件
- フリーランス・個人事業主で国民健康保険に加入している(傷病手当金がない)
- 住宅ローンを35年などの長期で抱えており、返済額が月15万円以上など大きい
- 子どもが小さく、配偶者がフルタイムで働けない状況にある
- 貯蓄が少なく、緊急時の生活費を半年〜1年分確保できていない
- 会社員でも福利厚生が薄い中小企業勤務で、休職中の保証が不透明
特にフリーランスの方は注意が必要です。国民健康保険には原則として傷病手当金の制度がありません。働けなくなったその日から収入はゼロです。会社員が「いらない」と判断するのと、フリーランスが「いらない」と判断するのでは、リスクの大きさがまったく違うということです。
フリーランスには必須と言えます。
また、住宅ローンについても注意が必要です。ローン残高が3,000万〜4,000万円規模の場合、就業不能になると返済が滞り、最悪の場合は自宅を手放さなければならないケースもあります。住宅ローンの返済中は、就業不能保険の必要性が相対的に高くなります。
参考:自営業・フリーランスへの就業不能保険の必要性
就業不能保険はいらない?働けなくなったときに備える保険の必要性 | 第一生命
「就業不能保険に入ったから安心」とは、必ずしも言えません。知らずに加入すると、いざというときに給付金が出なかったという事態に陥るリスクがあります。ここでは3つの落とし穴を整理します。
🚩 落とし穴① 精神疾患が対象外になる場合が多い
就業不能の原因として、精神疾患・うつ病は非常に重要なテーマです。厚生労働省の調査によれば、うつ病などの気分障害による平均在院日数は35〜64歳で116.7日(約4か月)に及びます。つまり、精神疾患による就業不能は決して珍しいリスクではありません。
しかし、就業不能保険の多くは精神疾患を保障対象外としています。対象に含む商品でも、「入院を伴う場合のみ」「支払い期間が2年まで」など条件が厳しいケースがほとんどです。特に仕事上のストレスが大きい方は、契約前に精神疾患の取り扱いを必ず確認することが重要です。
精神疾患の対象可否は商品次第です。
🚩 落とし穴② 免責期間中は一切給付されない
就業不能保険には60日または180日の免責期間が設けられているのが一般的です。この期間中は、どれだけ働けない状態であっても給付金はゼロです。
会社員の場合は傷病手当金でカバーできる部分もありますが、フリーランスは免責期間中の生活費を100%自己調達しなければなりません。免責期間が180日(6か月)の商品を選んでいる場合、緊急資金として最低でも生活費6か月分の貯蓄が必要になります。
🚩 落とし穴③ 「就業不能状態」の定義が保険会社ごとに異なる
ある商品では「在宅療養中も対象」とされていても、別の商品では「入院中のみ対象」というケースがあります。また「軽作業ができる状態なら就業不能とは認めない」という厳しい基準を設ける会社もあります。
実際の職業・仕事内容と、保険会社が定める就業不能の基準がかみ合わないと、保険料を払い続けていたのに一円も受け取れないという事態になりかねません。加入前に約款の「就業不能状態の定義」を確認することが大切です。
この3点は必ず確認すべき事項です。
参考:精神疾患と就業不能保険の関係について
就業不能保険はいらない?特徴やメリット・デメリットから必要性を解説 | FWDライフ
知恵袋でよく見かける意見のひとつが「保険に入るより貯蓄したほうがいい」というものです。この考え方は一定の合理性を持っています。掛け捨ての保険料を毎月5,000円払い続けると、20年間で120万円になります。それをNISA口座などで運用すれば、保険に入らなくても相応のリスクヘッジになり得ます。
これは使えそうです。
ただし、この「貯蓄代替論」にはいくつかの前提条件があります。
まず、長期就業不能に対しては貯蓄では追いつかないリスクがあります。 例えば、40歳で就業不能になり、65歳の退職まで25年間働けなかった場合、仮に月20万円の不足が生じるとすると、トータルで6,000万円が必要です。これをすべて貯蓄でカバーするのは現実的ではありません。
次に、貯蓄は就業不能になる前に使い切っている可能性があります。 住宅購入・子育て・老親の介護など、人生にはお金が必要な局面が多く、「就業不能に備えた貯蓄」が手付かずで残っているとは限りません。
もうひとつ見落とされがちなのが、就業不能になる年齢です。 統計的には50代に入ると、脳疾患・心疾患・がんなどの重大疾病リスクが急激に上がります。50歳で就業不能になった場合、傷病手当金は最長1年6か月でストップし、その後65歳まで14年以上の空白が生じます。この期間を貯蓄だけでカバーするには、少なくとも数千万円単位の準備が必要です。
「貯蓄でOK」と言える条件は限られます。
この観点から見ると、就業不能保険は「自分には関係ない」と断言する前に、自分の貯蓄額・年齢・収入形態・家族構成を一度数字で確認してみることが重要です。
月々の保険料が家計に負担になる場合は、まず不足額を計算することが先決です。生活費の毎月の支出から、傷病手当金や配偶者収入などの見込み収入を差し引いた金額が実際の不足額であり、その金額だけをカバーする保険設計にすれば、保険料を抑えることも可能です。
参考:就業不能保険の不足額計算の方法
就業不能保険はいらないといわれる5つの理由 | 41FP