

転換前に6か月間、正社員と「異なる就業規則」で雇用していないと、どれだけ書類を揃えても助成金は1円も受け取れません。
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、厚生労働省が運営する雇用支援制度で、パート・アルバイト・契約社員などの非正規雇用労働者を正社員に転換した事業主に対して助成金を支給するものです。2015年に創設されて以来、多くの企業が活用しており、2024年度には制度の大幅な見直しも行われています。
日本全体の非正規雇用者数は2024年時点で約2,126万人、全労働者の36.8%を占めており(厚生労働省調査)、この割合はここ10年ほぼ変わっていません。正社員化を後押しする仕組みとして、この助成金は経営者側・労働者側の双方に大きな意義があります。
助成金を受け取るのは「事業主(会社)側」です。転換した労働者ではなく、転換を実施した会社に直接支給される点を最初に押さえておきましょう。
金融業務や人事・総務に関わる立場の方にとっても、この制度は企業コスト圧縮や採用戦略の観点から注目度が高い知識です。大企業と中小企業で助成額が異なること、申請には複数の書類と期限管理が必要なことなど、実務面でも理解しておく価値があります。
参考:厚生労働省 キャリアアップ助成金 公式ページ(制度概要・申請様式など一次情報として最も信頼性が高いページです)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
2025年4月の改正で「重点支援対象者」という区分が新設され、支給額の体系が大きく変わりました。以前は一律だった支給額が、対象者の属性によって最大2倍の差が生まれる仕組みになっています。
| 転換区分 | 重点支援対象者(中小) | それ以外(中小) | 重点支援対象者(大企業) | それ以外(大企業) |
|---|---|---|---|---|
| 有期→正規 | 80万円(2期) | 40万円(1期) | 60万円(2期) | 30万円(1期) |
| 無期→正規 | 40万円(2期) | 20万円(1期) | 30万円(2期) | 15万円(1期) |
重点支援対象者に該当すると、助成額が倍になり、支給も2期に分かれて受け取ることができます。これは意外と知られていない重要なポイントです。
加算措置として、正社員転換制度を新たに規定した場合は1事業所あたり20万円(大企業15万円)、多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)を新たに規定した場合は1事業所あたり40万円(大企業30万円)が上乗せされます。
つまり、条件が揃えば合計額はさらに大きくなります。最大限に活用するには「重点支援対象者かどうか」の確認が最初の分岐点になるということですね。
参考:2025年度変更点の詳細(厚生労働省リーフレット。新旧対照表で変更点が一目でわかります)
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001450174.pdf
重点支援対象者とは、長期間非正規雇用に置かれてきた、またはキャリアアップの機会が限られてきた労働者を指します。
重点支援対象者が条件です。
具体的には、以下のいずれかに該当する労働者が対象です。
❷のケースは少し複雑です。たとえば入社2年のパート従業員でも、「過去5年間に正規雇用だったのが1年以下」かつ「直近1年は正規雇用でない」という条件を両方満たせば重点支援対象者になります。転職を繰り返してきた30代〜40代の労働者に当てはまるケースが多く、意外と該当者が多いことに気づくはずです。
また、通算5年を超える有期雇用労働者については、労働契約法に基づき「無期雇用労働者」とみなされる場合があります。この場合は支給区分が「無期→正規」に変わるため、支給額も変わってきます。重点支援かどうか、有期か無期か、この2軸の確認が支給額を最大化するカギです。
助成金を申請できる事業主には、いくつかの基本要件があります。単に「非正規を正社員にした」だけでは申請できません。
まず、雇用保険の適用事業所であることが大前提です。雇用保険に加入していない事業所は対象外になるということですね。
次に、事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を1名置く必要があります。これは事業主本人や役員でも兼務可能ですが、複数の事業所を兼任させることはできません。また、キャリアアップ管理者は労働者代表とも兼任不可です。
さらに、以下の点も同時に満たす必要があります。
特に見落とされがちなのが、解雇ルールです。転換日の6か月前に1人でも会社都合で解雇していると、申請そのものが受け付けられません。
厳しいところですね。
転換前の労働者にも、満たすべき要件があります。ここを誤解して準備を進めると、後で取り返しのつかないことになるため、細かく確認しておきましょう。
転換前に必要な要件は「賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用されていること」です。
6か月が条件です。
「正社員と異なる就業規則」とは、たとえば基本給の昇給差・賞与の支給有無・各種手当の差などが就業規則に明記されている状態を指します。形式的に「正社員とは別の規則がある」だけでは不十分で、実態として待遇差が存在していることが審査で確認されます。
一方、以下のようなケースは対象外となります。
新規学卒者の除外は2025年度から新設されたルールです。これは、本来から正社員として雇用すべき新卒を意図的に有期で採用してすぐに転換するといった不正利用が相次いだことへの対応です。
意外ですね。
転換後については、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が就業規則に規定された正規雇用労働者として転換されることが求められます。昇給と賞与(または退職金)は両方必要で、どちらか一方だけでは認められません。
「3%上げればいい」と軽く考えていると、計算方法のズレで申請が通らないケースがあります。これは知っておくと損を防げる重要な知識です。
増額の計算式は「転換後6か月間の賃金合計 ÷ 転換前6か月間の賃金合計 ≧ 1.03」です。
賃金に含めるもの・含めないものがある点も重要です。
| 賃金に含める | 賃金に含めない |
|---|---|
| 基本給 | 通勤手当 |
| 定額で支給される諸手当(家族手当・役職手当など) | 住宅手当 |
| 固定残業代・精皆勤手当・歩合給 | |
| 賞与(ボーナス) |
賞与を計算に入れて「3%以上になった」と思っていても、実際の審査では除外されるため、基本給ベースで3%上がっているかどうかを事前に必ず確認しましょう。審査の厳格化を踏まえ、専門の社労士は「実務では5%以上の増額を推奨している」と口をそろえて言います。
所定労働時間や給与形態(時給・日給・月給)が転換前後で変わる場合は、1時間あたりの賃金に換算して比較します。この計算方法を間違えると、不支給に直結する可能性があります。厚生労働省が提供する「賃金上昇要件確認ツール」を使って事前に数値を確認しておくのが確実です。
就業規則の整備はこの助成金申請の中核です。ここが不十分だと、書類を一式揃えても不支給になる最大の原因になります。
就業規則に必要な4つのポイントを以下にまとめます。
従業員10人未満の事業所は法的には就業規則の作成義務がありませんが、キャリアアップ助成金を申請するには「労働者が確認できる客観的な規定」が必要です。就業規則がない場合は新たに作成し、労働基準監督署への届出まで行う必要があります。
参考:就業規則の整備ポイントを社労士が解説したページ(就業規則の具体的な記載例が参考になります)
https://obata-sr.com/column/2953
申請の流れは、大きく9つのステップに分かれています。どのステップも順番が重要で、前後するだけで不支給になります。
申請は1年度(4月〜翌3月)につき1事業所あたり最大20人までという上限があります。多人数を同時に転換する計画がある場合は分散して進める必要があります。
実際の申請では、要件を満たしているつもりでも不支給になる事例が後を絶ちません。
知らないと数十万円の損失に直結します。
不支給になる代表的なケースを整理しておきます。
審査は近年さらに厳格化されており、賃金台帳と出勤簿の内容が矛盾している、未払い残業が疑われる、書類の整合性がとれていないといった理由でも不支給になります。
痛いですね。
申請後のさかのぼった訂正は原則認められないため、提出前の書類チェックが極めて重要です。
参考:不支給・注意点を社労士が詳解したページ(正社員化コースで申請に失敗しやすい16のポイントが体系的にまとめられています)
https://sharoushi-cloud.com/blog/column/joseikin/play28-shippai/
助成金制度には不正受給を厳しく取り締まる仕組みがあります。「申請を通らせればいい」という考え方は、経営そのものを危険にさらします。
不正が発覚した場合のペナルティは以下の通りです。
たとえば80万円を不正受給した場合、違約金だけで16万円、延滞金も別途加算されます。
合計100万円近い返還になる計算です。
しかもそれだけでなく、5年間は助成金を一切受け取れなくなります。
近年はニュースでも取り上げられるように、悪意ある申請指南業者に誘導されて不正に加担してしまうケースも増えています。「最初から正社員として雇うつもりだった人を意図的に有期契約にする」「架空の転換手続きをでっちあげる」といった行為は犯罪です。社労士などの信頼できる専門家に相談することで、適正な申請ができ、リスクを回避できます。
これは使えそうです。
キャリアアップ助成金の申請は、書類の種類・タイミング管理・要件の解釈など、専門知識を要する作業の連続です。自社で完結しようとして、申請期限を見逃して数十万円を逃す事例は少なくありません。
社労士に申請代行を依頼した場合の費用相場は、着手金+成功報酬(受給額の10〜20%程度)が一般的です。たとえば80万円の助成金に対して成功報酬16万円(20%)を支払っても、手元には64万円が残ります。
社労士への依頼で期待できる具体的なメリットは以下の通りです。
電子申請は「雇用関係助成金ポータルサイト」から行えます。初回登録後は事業所情報の入力が省略できるため、複数人を転換予定の事業所にとっては活用価値が高いツールです。初めての申請であれば、まずは都道府県の労働局やハローワークに問い合わせるのが無料で確実な第一歩です。
参考:キャリアアップ助成金ポータルページ(各都道府県の労働局一覧・申請書類のダウンロードが可能です)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html
正社員化コース単体だけでなく、他のコースと組み合わせることで、1回の取り組みで複数の助成金を受け取れる可能性があります。
これは知っておくと得するポイントです。
注目すべき組み合わせを紹介します。
ただし、コースを組み合わせる場合は、それぞれの申請書類・申請タイミング・要件がすべて独立しているため、1つでも書類ミスがあると全体に影響することがあります。組み合わせ戦略を検討する際は、必ず社労士に全体設計を依頼することをおすすめします。
この助成金は「受け取った時点で収益認入すべき」という会計処理の問題が、意外と見落とされがちです。金融・経理に携わる立場から把握しておく価値のある観点です。
まず、キャリアアップ助成金は「雑収入」として課税対象になります。法人税・所得税ともに益金(収益)に算入する必要があり、受け取った金額がそのまま手元に残るわけではありません。たとえば中小企業が80万円を受け取っても、法人税率を約23%とすれば、約18万円が税金で持っていかれる計算になります。
手元に残るのは約62万円です。
次に、「助成金はいつ収益計上するか」という会計タイミングの問題があります。一般的には「支給決定通知書が届いた事業年度」で収益計上するのが原則です。申請した年度と支給決定年度がズレることも多く、期末に申請した場合は翌期の収益になるケースがあります。決算をまたぐ場合の税務処理は、税理士と事前に確認しておきましょう。
また、助成金の収入は「補助金等に係る圧縮記帳」の対象外です。補助金と混同して圧縮記帳を適用しようとする誤りも見られます。国税庁の通達でも雇用助成金は圧縮記帳不可と明記されているため、注意が必要です。
さらに、正社員化によって社会保険料の事業主負担が増加します。転換前はパートの社会保険適用外であった場合、毎月の保険料負担が数万円単位で増えることがあります。助成金収入と社保負担増のバランスを事前にシミュレーションしておくことが、財務担当者として特に重要な視点です。
申請書類は多岐にわたります。事前に一覧として把握し、不足がないよう準備することが申請成功の近道です。
主な必要書類は以下の通りです。
賃金台帳と出勤簿は「転換前6か月+転換後6か月」のセットで必要です。これらが実態と一致していない場合、審査で大きなマイナスポイントになります。書類の保管は、最低でも申請から5年程度は続けることが推奨されます。
書類の準備が揃った段階で、管轄の都道府県労働局へ窓口持参・郵送・電子申請のいずれかの方法で提出します。電子申請の場合は「雇用関係助成金ポータルサイト」を利用することで、申請後の進捗確認もオンラインで行うことができます。
これは使えそうです。
十分な情報が揃いました。
記事を生成します。