

自己株式を多く保有すると、逆に同族会社から外れて留保金課税を免れるケースがあります。
同族会社かどうかを判定する際、会社が自己株式を保有している場合はどう扱うのかを正確に理解している方は、意外と少ないものです。法人税法第2条第10号では、同族会社の判定に用いる「発行済株式総数」について、「その会社が有する自己の株式を除く」と明記されています。つまり、自己株式は分母から除外して持株割合を計算します。
これが実務上どれほど大きな影響を与えるか、具体的な数字で確認してみましょう。発行済株式数が1,000株の会社で、自己株式200株、株主Aが200株、株主Bが100株、株主Cが50株、その他少数株主が450株という構成だとします。
| 項目 | 改正前(50%以上) | 改正後(50%超) |
|---|---|---|
| 分母(発行済株式) | 1,000株(自己株式含む) | 800株(自己株式除く) |
| A+B+C合計 | 350株 | 350株 |
| 割合 | 35% | 43.75% |
| 判定結果 | 非同族会社 | 非同族会社 |
この例ではどちらも非同族会社ですが、自己株式の数が増えるほど、分母が小さくなり持株割合が上昇します。自己株式が多いほど、残りの株主グループの割合が高くなる仕組みです。これが条件次第で「同族会社になる方向」にも「同族会社から外れる方向」にも作用するという点が重要です。
自己株式の取り扱いが条件によって逆効果を生むこともあります。株主構成を見直す際は、自己株式数の変動が持株割合にどう響くかを必ずシミュレーションしてください。
参考:同族会社の判定基準に関する国税庁の法令解釈通達
国税庁|同族会社の判定(法人税基本通達1-3-1)
法人税法上の同族会社の定義は、「株主等(その会社が自己の株式または出資を有する場合のその会社を除く)の3人以下ならびにこれらと特殊関係にある個人および法人が、発行済株式の総数の50%を超える株式を有する場合の会社」です。重要なのは「50%を超える」であって「50%以上」ではない点です。
ちょうど50%では同族会社にはなりません。
2003年の税制改正によって、判定基準は旧来の「50%以上」から「50%超」に変更されました。この改正と同時に、自己株式を株主の1人として数えることを廃止し、発行済株式数からも除外することが明確化されました。
以前は自社(会社自身)が自己株式を保有していると、それが株主グループの1人としてカウントされていました。たとえばA株主200株、自社(自己株式)200株、その他600株という構成の場合、改正前は「自社+A株主=400株、発行済1,000株で40%」として非同族会社と判定されるケースがあったのです。しかし改正後は自社を株主から除外し、さらに分母からも200株を差し引いて800株で計算します。A株主の割合は200÷800=25%になります。
つまり、自己株式による「持株割合の水増し」という手法は2003年以降は使えなくなっています。知らずに古い知識で判定すると、実際には同族会社なのに「非同族会社」と誤認してしまうリスクがあります。これは税務調査の際に重大な指摘事項になりえます。
判定は常に最新の法令に基づいて行うことが原則です。
実際の申告実務では、法人税申告書の「別表2(同族会社等の判定に関する明細書)」で同族会社かどうかを判定します。その際に用いる「発行済株式の総数」からは、自己株式を差し引いた数を記載します。
計算の手順を整理すると次の通りです。
具体例で確認します。発行済株式1,000株のうち、自己株式が150株ある場合、分母は850株になります。株主Aグループ(Aとその配偶者・子)が合計400株を保有しているなら、400÷850≒47.1%です。
このケースでは同族会社に該当しません。
しかし自己株式をさらに100株追加取得して合計250株になると、分母は750株に縮小します。400÷750≒53.3%となり、今度は50%超で同族会社と判定されます。
自己株式を増やすほど分母が小さくなり、大株主グループの割合が上昇するという仕組みです。持株割合が50%前後にあるケースでは、自己株式の増減が判定結果を直接変えてしまう点に注意が必要です。
別表2の記載で自己株式の控除を忘れると、誤った判定のまま申告することになります。
これが条件です。
参考:別表2の記載方法と計算例を解説した実務記事
マネーフォワード|法人税申告書の別表2とは?見方や書き方、注意点まで解説
同族会社の判定では、株主1人ではなく「株主グループ」として関係者をまとめてカウントします。この同族関係者の範囲は非常に広く設定されており、多くの経営者が見落とすポイントです。
特殊の関係にある個人の範囲は以下の通りです。
さらに法人については、株主の1人とその同族関係者が発行済株式の50%超を保有している他の会社も同族関係者に含まれます。これは連鎖的に広がるため、グループ企業を複数持つオーナーの場合、関係法人まで含めた判定が必要になります。
この広い同族関係者の範囲が、自己株式の判定とどう絡むかを考えてみましょう。たとえば自己株式が増えて分母が縮小した際に、広い親族を含むAグループの持株割合が一気に50%超になるという事態は珍しくありません。自己株式取得の前後で持株割合がどう変動するかを、同族関係者の範囲も含めて試算することが重要です。
親族を含む持株割合の計算は複雑になりがちです。税理士に依頼して正確に確認する姿勢が求められます。
同族会社の中でも、特に注意が必要なのが「特定同族会社」という区分です。これは、1人の株主グループが発行済株式の50%超を単独で保有している会社のうち、一定の条件を満たすものを指します。特定同族会社に該当すると、「留保金課税」という追加課税が発生します。
留保金課税の仕組みをまとめると次の通りです。
| 留保金額(年間) | 税率 |
|---|---|
| 3,000万円以下の部分 | 10% |
| 3,000万円超〜1億円以下の部分 | 15% |
| 1億円超の部分 | 20% |
この課税が課されるのは、特定同族会社が一定額を超えて利益を社内留保した場合です。通常の法人税(約23.2%)に加えて、最大20%が上乗せされる計算になります。年間留保額が1億円を超えると実効税率が大幅に跳ね上がるため、資本金1億円超の会社にとっては非常に重要な問題です。
ここで自己株式が絡みます。自己株式を大量に保有すると分母が縮小し、大株主の持株割合が50%超になりやすくなります。1人の株主グループが50%超を保有していれば、特定同族会社と判定される可能性が高まります。逆に、自己株式の保有量を調整することで、持株割合を50%以下に抑えて特定同族会社の要件を回避するという戦略も存在します。
なお、資本金1億円以下の中小企業については、原則として留保金課税の適用が停止されていますが、大法人(資本金5億円以上)による完全支配関係がある場合は例外的に適用される点に注意してください。
参考:特定同族会社と留保金課税に関する詳細な解説
チェスター税理士法人|特定同族会社とは?判定方法や税制の特別規定についてわかりやすく解説
自己株式の取得が判定結果を大きく変える典型的な事例を紹介します。
実務で実際に起こりうるシナリオです。
【事例】発行済株式数1,000株の会社で、株主Aグループが490株、その他株主が510株を保有しているとします。この状態では、Aグループの割合は490÷1,000=49%で同族会社に非該当です。
この会社が、少数株主から100株を自己株式として取得しました。
取得後の状況は次の通りです。
自己株式取得前は49%で非同族会社だったのに、取得後は54.4%で同族会社に変わります。自己株式を取得しただけで税務上の位置づけが一変するということです。
痛いですね。
逆のパターンも起こります。発行済株式1,000株のうち自己株式が300株あり、Aグループが380株を保有しているとします。判定上の持株割合は380÷700≒54.3%で同族会社に該当します。ここで会社が自己株式を第三者に売却(処分)して0株にすると、Aグループの割合は380÷1,000=38%に低下し、非同族会社になる可能性があります。
つまり自己株式の取得・処分のどちらも、同族会社の判定に直接影響します。株式の取得・売却を検討するタイミングでは、必ずこの判定シミュレーションを行ってください。
2006年の税制改正により、同族会社の判定基準に「議決権による判定」が追加されました。これにより、株式数による判定と議決権による判定の両方を確認しなければならないケースが生じました。特に議決権制限株式と自己株式が同時に存在する場合、判定が複雑になります。
法人税基本通達1-3-1では、「株式数による判定で同族会社に該当しない場合でも、議決権制限株式を発行しているときや、議決権を行使できない株主がいるときは、議決権による判定も行う必要がある」と明記されています。
具体的なポイントは以下の通りです。
この2段階判定が実務を複雑にします。たとえば、株式数では49%で非同族会社と判定されても、議決権ベースで計算すると53%で同族会社になるケースが実際にあります。普通株式しか発行していない会社でも、子会社株や相互保有株式がある場合は議決権による判定が必要になる点に注意してください。
議決権制限株式の活用と自己株式の管理は、一体として判定に影響します。この2つが同時に存在する場合は税理士への相談が必須です。
同族会社に認定されると、「みなし役員」の問題も発生します。会社法上は役員でなくても、法人税法上は役員として扱われるケースがあり、これが従業員への賞与の損金算入に重大な影響を与えます。
みなし役員に認定される条件は次のすべてを満たす場合です。
ここで自己株式との関係が生まれます。自己株式取得によって分母が縮小すると、従業員として株式を持っていた人の持株割合が上昇します。たとえば、発行済1,000株のうち自己株式が200株になると分母は800株です。ある従業員が45株を保有していた場合、取得前は45÷1,000=4.5%で「5%未満」でした。しかし取得後は45÷800=5.625%となり、5%超の条件を満たす可能性が出てきます。
5%超という数字を超えると、その従業員は「みなし役員」として扱われる可能性があります。みなし役員に認定されると、賞与を支給した場合に全額損金不算入となり、法人税の課税所得が増加します。仮に年間賞与100万円を支給すると、それが損金に算入できなくなることで法人税額が20万円以上増える計算になります。
自己株式取得は株主構成全体の割合を動かします。5%や10%という閾値をまたぐ従業員株主がいないかを事前に確認することが大切です。
参考:みなし役員と同族会社判定の関係を詳しく解説したページ
掛川総合会計事務所|同族会社の判定基準・特別規定等について
同族会社に認定されると、税務署長は「行為計算の否認」という強力な権限を行使できます。これは法人税法第132条に規定されており、同族会社が税負担を不当に減少させるような取引を行った場合、その行為・計算を否定して税額を再計算できるというものです。
自己株式の取引においても、この行為計算の否認が問題になることがあります。特に注意が必要なのは、自己株式を適正価格ではなく恣意的な価格で取得・処分するケースです。
たとえば、会社が株主(オーナーの親族など)から自己株式を不当に高い価格で取得した場合、その差額分が「役員賞与」とみなされる可能性があります。逆に、自己株式を不当に低い価格で特定の株主に処分すると、その差額が受贈益として計上される可能性があります。
自己株式の税務上の時価は、基本的に「財産評価基本通達」に基づいた非上場株式の評価額に準じて決定されます。同族会社の場合、大会社・中会社・小会社の区分に応じて類似業種比準方式や純資産価額方式で評価します。この評価額と実際の取引価格に大きな乖離があると、税務調査で「不当な行為」として否認されるリスクがあります。
自己株式の価格設定は、適正な税務評価に基づいて行うことが条件です。
事業承継の場面では、自己株式の活用が相続税対策や株式集中の解消に役立つことがあります。後継者への株式集中を図りながら、同族会社判定の結果をコントロールするという視点が重要です。
よく使われる手法として「金庫株の活用」があります。後継者に株式を集中させた後、後継者以外の株主(退場させたい親族や退職した役員など)から会社が自己株式として株式を買い取る方法です。これにより、相続や贈与で株式が分散するリスクを防ぎながら、経営権を一元化できます。
ただし、この手法には同族会社判定上のリスクが伴います。自己株式買取によって分母が縮小し、後継者グループの持株割合が大幅に上昇するためです。特定同族会社の要件に抵触すると留保金課税が課されます。
具体的には次のような流れになります。
この連鎖を防ぐには、自己株式取得前後の持株割合シミュレーションが不可欠です。また、取得した自己株式をどのように処分するかの計画(消却・第三者への売却など)も事前に立てておく必要があります。
事業承継における自己株式活用は「経営権の集中」と「税務リスクの管理」を同時に考える必要があります。
これは使えそうです。
参考:非上場株式の評価方法と自己株式の取り扱いを解説したページ
トゥモローズ|自社株式の株価 同族株主など支配関係からみる評価方法の判定
日本企業の約96.5%が同族会社に該当するという国税庁のデータ(令和5年度会社標本調査)があります。それほど多くの会社が同族会社である一方、判定の細かいルールを正確に理解しているオーナー経営者は限られています。特に中小企業で見落とされやすいポイントを整理します。
まず1点目は「上場企業でも同族会社になりえる」という事実です。
上場しているから非同族会社とは限りません。
大株主グループが50%超の株式を保有していれば、上場企業であっても同族会社に該当します。
2点目は「名義株主ではなく実質的な所有者で判定する」という点です。株式の名義が親族でなくても、実質的にオーナーが支配している場合はその株式も同族グループとして計算します。自己株式に関しても、形式ではなく実質で判断する姿勢が税務調査では求められます。
3点目が「任意の3人以下の株主グループで50%超を達成できれば同族会社」という点です。株主数が多い会社でも、どの3人(グループ)の組み合わせかを問わず、50%超になる組み合わせが1つでもあれば同族会社になります。持株割合が大きい順に並べる必要はないというのが原則です。
これは意外ですね。
この3つのポイントは、いずれも税務調査で指摘されると大きな追徴課税につながる可能性があります。自社の判定を改めて確認する機会をぜひ設けてください。
法人税申告書の「別表2(同族会社等の判定に関する明細書)」は、毎事業年度の申告で必ず作成が必要な書類です。この書類の記載を誤ると、同族会社の判定が狂い、留保金課税の申告漏れや、逆に不必要な課税を被るリスクが生じます。
別表2を正確に記載するための実務的な注意事項を確認します。
特に注意が必要なのは、事業年度途中に自己株式を取得または処分した場合です。判定は原則として「各事業年度終了の時点(決算期末)」の状況で行います。期中に自己株式が増減しても、決算期末の数字を使って判定するのが正しい方法です。
別表2に記載した同族会社の判定結果は、行為計算否認の適用可否や留保金課税の計算にも連動します。記載誤りは1か所でも申告全体の信頼性に影響するため、必ず税理士によるチェックを経ることをおすすめします。
判定の正確性が条件です。数字の根拠を株主名簿・株式数と照らし合わせて確認する習慣をつけてください。
参考:国税庁の特定同族会社の判定に関する資料
国税庁|特定同族会社の判定(申告書別表参考)
特定同族会社の留保金課税を軽減・回避する方法の1つとして、自己株式の消却(自己株式の消却手続)が使われることがあります。これは取得した自己株式を会社から完全に消滅させる手続きで、商法・会社法上の手続きを経て行われます。
自己株式を消却すると、発行済株式数が減少します。これにより1株あたりの株式価値が向上する一方、同族会社の判定上の分母も縮小します。ただし消却は株主構成全体に影響するため、どの株主グループの割合がどう変動するかを事前に確認することが不可欠です。
一方、留保金課税の直接的な対策としては、次の方法が一般的です。
資本金1億円以下の中小企業は留保金課税が適用されないため、この課税問題に直面するのは主に資本金1億円超の企業です。ただし、大法人(資本金5億円以上の法人)の完全支配下にある資本金1億円以下の会社は例外的に適用されます。自社の資本関係を改めて確認することが大切です。
これが条件です。資本金の額と支配関係の両方を確認してから、留保金課税の要否を判断してください。
ここからは、検索上位の記事にはあまり掲載されていない独自の視点を紹介します。それは「自己株式の保有量を意図的にコントロールすることで、毎期の同族会社判定の結果を変動させる」という戦略的活用です。
通常、自己株式の取得は敵対的買収防衛や株価安定、事業承継などを目的に行われます。しかし法人税の観点では、自己株式の保有量が同族会社の判定に直接影響するため、期末の株主構成を意識した自己株式の調整が行われるケースがあります。
この考え方には、次のような戦略的な意味があります。
ただし、この手法には大きなリスクがあります。税務署は「租税回避目的」による自己株式の取得・処分に対して、行為計算の否認規定を適用する可能性があるためです。合理的な経営上の理由なく期末前後に自己株式を頻繁に取得・処分しているケースは、税務調査で厳しく問われます。
意図的なコントロールは「経営上の合理的な理由がある」ことが絶対条件です。自己株式の動きは常に取締役会議事録などで理由を明文化しておくことが実務上の重要な対策になります。
同族会社の判定ルールと自己株式の取り扱いは、税制改正とともに変化してきました。改正の流れを理解することで、現行ルールの趣旨と今後の動向を予測しやすくなります。
主な改正の歴史をまとめると次の通りです。
| 時期 | 改正内容 |
|---|---|
| 2003年(平成15年)税制改正 | 同族会社の判定基準を「50%以上」から「50%超」に変更。自己株式を株主から除外し、発行済株式からも除外することを明確化 |
| 2006年(平成18年)税制改正 | 判定基準に「議決権の数による判定」と「持分会社の社員数による判定」を追加。議決権制限株式の発行会社への対応を強化 |
| 2006年以降の通達改正 | 法人税基本通達1-3-1〜1-3-8を整備。議決権を行使できない株主の取り扱い、同一内容の議決権行使に同意している者の判定基準などを明確化 |
特に2003年の改正は、自己株式を株主の1人としてカウントすることで意図的に持株割合を下げる「偽装工作」を防ぐための改正でした。改正前は、会社が自己株式を大量に取得することで株主グループの割合を下げ、同族会社の認定を回避するという手法が実際に使われていたのです。
現行のルールでは、この手法は完全に封じられています。ただし、自己株式が「非意図的に」持株割合を変動させる点は今も変わっておらず、実務上の影響は依然として大きいといえます。
税制改正は毎年行われるため、最新の改正内容を継続的に確認する姿勢が必要です。
参考:法人税の同族会社と自己株式に関する歴史的な解説
日税グループ|法人税の同族会社と自己株式(マネジメントリポート)