留保金課税と国税庁の基準を正しく理解する方法

留保金課税と国税庁の基準を正しく理解する方法

留保金課税の国税庁ルールと正しい対策

資本金1億円以下でも、親会社が資本金5億円以上なら留保金課税が追加でかかります。


この記事でわかること:留保金課税の基礎と対策
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留保金課税とは何か

特定同族会社が一定額を超えて利益を社内に留保した場合、通常の法人税に加えて最大20%の特別税率が課される制度です。

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対象会社の落とし穴

資本金1億円以下でも「大法人の100%子会社」に該当すると対象になります。M&A後の変化を見落とすと追徴課税リスクが発生します。

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有効な対策3つ

①適正な役員報酬の設定、②配当政策の見直し、③設備投資による課税所得の圧縮が代表的な留保金課税対策です。


留保金課税とは:国税庁が定める特定同族会社への特別法人税


留保金課税は、法人税法第67条に根拠を置く税制で、正式名称を「特定同族会社の特別税率」といいます。一言で表すと、特定の同族会社が事業年度中に「許容額を超えて利益を社内に留め置いた」場合に、通常の法人税の上乗せとして課される懲罰的な特別税です。


この制度が生まれた背景には、個人所得税と法人税の税率差があります。個人にかかる所得税は累進課税であり、住民税と合わせると最大で約55%の税負担になります。一方、法人の実効税率は中小法人で約25%前後です。オーナー経営者が配当や役員報酬で利益を受け取ると、個人として高い所得税を払わなければならない構造になっています。


そこで一部のオーナー会社では、あえて配当を出さずに利益を会社内に蓄積し続けるという行動が起きやすくなります。これは、会社全体の手取りを増やす目的の租税回避行為です。留保金課税は、このような不当な税負担の引き下げを牽制する仕組みとして1965年ごろから導入・整備されてきました。つまり「利益を溜め込みすぎると、余分な税金を取りますよ」という警告の意味を持つ制度です。


対象となるのは「特定同族会社」に限られます。同族会社の中でも、一人の株主グループが発行済株式の50%超を握っている、いわゆる強い支配力が働いている会社が対象です。資本金の額が1億円を超えていることも原則的な要件になります。


国税庁:一定の大法人等の100%子法人等における中小企業向け特例措置の不適用(特定同族会社の判定との関連)


留保金課税の適用を理解する上では、「フローへの課税」という点を押さえておく必要があります。貸借対照表に累積した利益剰余金(ストック)全体が課税されるわけではなく、「その事業年度に新たに発生した留保超過額」だけが課税の対象です。これは重要なポイントです。


留保金課税の対象となる特定同族会社の判定方法

特定同族会社に該当するかどうかは、毎事業年度の終了時点(期末)の状況で判定します。判定の手順は3つのステップで整理できます。


まず「同族会社」かどうかを確認します。3人以下の株主グループが発行済株式の50%超を保有している場合、その会社は同族会社です。次に「被支配会社」かどうかを確認します。一人の株主グループだけで発行済株式の50%超を保有している場合、被支配会社に該当します。最後に資本金の額が1億円を超えているかを確認します。この3条件を全て満たす場合が特定同族会社です。


対象外の原則は明確です。資本金または出資金の額が期末時点で1億円以下の法人は、原則として特定同族会社に該当しないため、留保金課税の適用を受けません。日本の会社の大多数が資本金1億円以下であるため、実際の適用対象は限られています。


ただし、ここに大きな落とし穴があります。資本金1億円以下の会社であっても、「資本金5億円以上の大法人が100%支配している子会社」に該当する場合は特定同族会社とみなされます。これはM&Aや組織再編の後で見落とされやすいケースです。例えば、大手グループに買収された後も資本金を1億円以下に抑えていた会社が、気づかないまま特定同族会社に該当してしまっていた、というケースが実際に発生しています。


投資法人や特定目的会社(SPC)も、資本金1億円以下でも特定同族会社の対象となるため注意が必要です。


| 判定条件 | 内容 |
|---------|------|
| 原則的対象 | 資本金1億円超かつ1グループが株式50%超保有 |
| 原則的対象外 | 資本金1億円以下(大法人子会社を除く) |
| 例外的対象 | 資本金5億円以上の大法人の100%子会社 |
| 例外的対象 | 投資法人・特定目的会社 |


税理士賠償事例の中には、「資本金1億円以下だから安心」と判断し、株主構成の確認が不十分だったために留保金課税の申告漏れを指摘され、追徴課税となった事例があります。これは法的・金銭的リスクに直結します。株主構成を毎期正確に把握することが、リスク回避の第一歩です。


国税庁:会計監査人設置会社において留保金課税制度の適用がある場合の留保金額の計算について(質疑応答事例)


留保金課税の計算方法:留保金額・留保控除額・税率の仕組み

留保金課税の課税額は「課税留保金額 × 特別税率」で算出します。計算は2段階に分かれています。


第1段階:当期留保金額の計算


当期留保金額 = 課税所得 + 課税外収入項目(受取配当金の益金不算入額など) − 社外流出額(配当金・役員賞与など) − 法人税・住民税


ここで重要なのは、「課税外収入項目を加える」点です。実際にお金が増えていても税金がかからなかった受取配当金の益金不算入分などは、留保金の計算には加えられます。つまり所得が0でも留保金課税が発生することがあります。これは意外なポイントです。


第2段階:留保控除額を差し引く


留保金額から次の3つの基準のうち最も大きい金額が「留保控除額」として差し引かれます。


| 基準 | 計算方法 |
|------|---------|
| 定額基準額 | 年2,000万円(月割り計算) |
| 所得基準額 | 当期所得等の金額 × 40% |
| 積立金基準額 | 期末資本金 × 25% − 期末利益積立金額 |


この3つのうち最大のものが控除されるため、例えば当期の所得が5,000万円の場合、所得基準額は2,000万円(5,000万円×40%)となり、定額基準額の2,000万円と並びます。どちらか最大のものが選ばれる仕組みですので、実際に課税留保金額が発生するケースは限られます。


第3段階:特別税率で課税額を算出


課税留保金額が生じた場合、以下の累進税率が適用されます。


| 課税留保金額(年額) | 特別税率 |
|-----------------|---------|
| 3,000万円以下の部分 | 10% |
| 3,000万円超〜1億円以下の部分 | 15% |
| 1億円超の部分 | 20% |


具体例を挙げます。課税留保金額が1億5,000万円だった場合、留保金課税額は次のように計算されます。3,000万円 × 10% = 300万円、7,000万円(1億円−3,000万円)× 15% = 1,050万円、5,000万円(1億5,000万円−1億円)× 20% = 1,000万円、合計2,350万円が通常の法人税に加算されます。これは相当な額ですね。


この計算は国税庁法人税申告書「別表3(1)」で行います。通常の法人税申告と同時に処理するため、申告漏れが起きると重加算税のリスクもあります。


国税庁:別表三(一)「特定同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書」記載の手引き(PDF)


留保金課税を避けるための実務的な対策と注意点

課税留保金額を減らすための主な対策は、大きく分けて3つあります。それぞれにメリットとデメリットがあるため、バランスの取れた判断が求められます。


① 配当金の支払い


配当金は「社外流出額」として留保金額の計算から直接差し引けるため、課税留保金額を最も直接的に減らせる手段です。ただし株主(オーナー)個人の所得税・住民税の負担が増加します。配当所得が増えれば総合課税の対象となり、所得税の税率が最大45%(住民税10%を加えると55%)まで上がりかねません。総合的な税負担を事前にシミュレーションしてから判断することが条件です。


② 役員報酬の増額


役員報酬は損金算入できるため、会社の課税所得そのものを圧縮します。これにより留保金額の計算の基礎となる所得が下がり、結果として課税留保金額が減ります。ただし、過大な役員報酬は税務調査で「利益操作」として否認されるリスクがあります。役員報酬の金額は、期首に決定した定期同額給与の範囲内に収めることが原則です。


③ 設備投資・研究開発費などへの積極的な再投資


設備投資を行えば、その年の損金が増え、課税所得が圧縮されます。「中小企業経営強化税制」などを活用すれば、取得額の全額即時償却や一定率の税額控除も得られます。利益を留保するのではなく、事業の将来に回すことで自然に課税対象額が下がるわけです。これは使えそうです。


また、賃上げを行った場合に一定額を法人税から税額控除できる「賃上げ促進税制」も注目されています。人材への投資と節税の両立ができる手段として、対象会社の経営者にとっては選択肢の一つです。


注意が必要なのは、節税目的だけで配当や役員報酬を増やすことです。特定同族会社は税務調査において「過度な役員貸付金や仮払金」「根拠のない役員報酬増額」がないか厳しくチェックされます。対策は常に「経営の実態」と合致していなければなりません。


見落としがちな留保金課税の独自論点:内部留保≠現預金という誤解

「留保金課税がかかるということは、会社に現金が積み上がっているはずだ」という誤解が非常に多く見られます。しかし、これは正確ではありません。内部留保(利益剰余金)は貸借対照表の純資産の部に計上される勘定科目であり、それが全て現金や預金として手元にあるとは限りません。


例えば、利益を設備投資に回した場合、現金は固定資産に形を変えますが、会計上の利益剰余金は増えたまま残ります。不動産を購入した場合も同様で、現預金は減少しても内部留保の額は変わりません。留保金課税の「当期留保金額」はその事業年度のフローですが、利益積立金基準額の計算には過去の累積分も関係します。


このギャップが原因で、「課税されると言われたが、現金がない」という事態が起きることがあります。痛いですね。


金融機関から高い評価を受けるためにも、内部留保は大切な要素です。目的のない内部留保は留保金課税のリスクを招きますが、明確な投資計画や将来の設備更新に備えた資金であれば、それは経営の健全性を示す証拠になります。留保金課税は「内部留保そのものを否定する制度」ではなく、「不当な租税回避目的の留保を規制する制度」です。これが基本です。


🔎 実際に自社が対象かどうかを確認したい場合は、国税庁が公開している法人税の税額計算の手引きや、顧問税理士への事前相談を活用することをおすすめします。特に資本構成に外部法人株主がいる場合や、グループ会社の一員である場合は、独自での判断を避け専門家に確認を取ることが安全策です。


税理士法人レガシィ:特定同族会社とは?同族会社との違いや判定方法、税制上の規定を解説(詳細な判定ガイドとして参考)


留保金課税の今後の動向と経営者が準備すべきこと

現行の留保金課税は、あくまでも「特定同族会社のその事業年度のフロー(利益)」に対する課税です。しかし、近年では日本企業の内部留保の増加が社会的に注目を集めており、より広範な課税強化の議論が政治・税制改正の場で続いています。


現在の累積した利益剰余金(ストック)には直接課税する制度は日本にはありませんが、アメリカには「留保利益税(Accumulated Earnings Tax: AET)」として内部留保の20%に課税する制度があります。日本においても将来的に類似の制度が設けられる可能性はゼロではないとされ、研究者や税制当局も議論を続けています。


また、2023年の国会審議においては、留保分と配当分を区分する過去の法人税体系に言及した議論もありました。平成元年度(1989年)の消費税導入以前は、法人税に「留保分税率」と「配当分税率」の二段構えが存在していたのです。これは意外ですね。


経営者が今から備えておくべき行動は明確です。毎期の株主構成の正確な把握、設備投資計画との連動、役員報酬・配当政策の総合シミュレーション、そして最新の税制改正情報の継続的なフォローアップです。これら4点が揃えば、急な税制変更にも対応しやすくなります。


🧾 国税庁が毎年更新する「法人税申告書の手引き」には、別表3(1)の記載方法が詳細に説明されています。制度の最新状況を確認する公式一次情報として活用してください。


国税庁:令和7年版 法人税申告書の手引き(別表三)特定同族会社の留保金額に対する税額の計算(PDF)




図解留保金課税の実務