

株を1株も持っていない配偶者でも、夫の株式と合算されてみなし役員と認定され、支払ってきた賞与が全額損金否認されることがあります。
「役員」と聞くと、登記簿に名前が載っている取締役や監査役をイメージする人が多いでしょう。しかし国税庁は、登記上の肩書きに関係なく、実態として経営に関与している人物を「役員」と同様に扱うルールを定めています。
これが「みなし役員」と呼ばれる概念です。
国税庁タックスアンサーNo.5200「役員の範囲」では、法人の役員は大きく2種類に分けられています。1つ目は、取締役・執行役・会計参与・監査役・理事・監事・清算人といった会社法や法令で定められた正式な役員です。2つ目が、それ以外の者で一定の要件を満たす「みなし役員」にあたる人物です。
みなし役員は、形式的な肩書きではなく「実質的に経営に従事しているか」という実態で判断されます。
これが最大のポイントです。
なぜこの制度が存在するかというと、経営に実質的に関与している人物が役員と認定されなければ、法人の利益が出た際に好き勝手に賞与や給与を操作して税金を圧縮できてしまうからです。公平な課税を実現するための仕組みといえます。
参考:国税庁タックスアンサーNo.5200「役員の範囲」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm
みなし役員の判定には、国税庁が示す2つのルートがあります。
まず1つ目のルートを確認しましょう。
これは「法人の使用人(職制上、使用人としての地位のみを有する者)以外の者で、その法人の経営に従事しているもの」です。要するに、雇用契約を結んだ従業員ではないが、会社の経営に実質的に携わっている人物が対象となります。
国税庁の通達(法人税法基本通達9-2-1)では、このルートに該当する具体例として以下が挙げられています。
「相談役」や「顧問」という肩書きは要注意です。これらは法的な役員でないため使用人扱いと思い込みがちですが、実態として会議に参加し、人事・仕入れ・資金調達などの重要な意思決定に関与していれば、みなし役員と判断される可能性があります。判定のポイントは「実態」であり、肩書きではないと覚えておいてください。
2つ目のルートは、同族会社に特有の判定基準です。同族会社の使用人(従業員)であっても、以下のすべての要件を満たし、かつ経営に従事している場合は、みなし役員と認定されます。
国税庁No.5200が定める3つの株式保有要件は以下のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 株主グループ要件 | 所有割合の大きい順に並べた株主グループのうち、上位1位〜3位のいずれかのグループの合計が50%超となる場合、そのグループに属していること |
| ② グループ所有割合要件 | 自分が属する株主グループの所有割合が10%超であること |
| ③ 個人所有割合要件 | 本人・配偶者・本人らが50%超保有する会社の合計で5%超の株式を保有していること |
この3つに加えて「経営に従事している」という実態要件もすべて満たすことが必要です。要件のいずれか1つでも欠ければ、みなし役員には該当しません。4つがすべてそろって初めて該当するということですね。
特に見落とされやすいのが③の要件です。本人が株式をまったく保有していなくても、配偶者との合算で5%を超えれば要件を満たします。社長が株式の100%を保有する会社で、配偶者がパートとして働いている場合、配偶者が株を1株も持っていなくても、この要件に該当してしまう点は非常に重要です。
実際にみなし役員かどうかをフローチャートで判定する際は、以下の流れで確認していきます。
このフローチャートの流れを把握しておくことで、自社に該当者がいるかどうかを事前にチェックできます。税務調査では「実態」が厳しく見られるため、形式だけ整えるのではなく、業務内容の記録を残しておくことが肝心です。
参考:みなし役員の判定基準(法人税法基本通達9-2-1)に関する詳細解説
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_01.htm
ルート②の判定を行うには、まず自社が「同族会社」かどうかを確認する必要があります。ここをクリアしていないと、ルート②は適用されません。
同族会社とは、3人以下の株主グループ(株主本人とその親族・特殊関係者を含む)が、会社の発行済株式の50%超を保有している会社のことです。日本の中小企業の多くはこの定義に当てはまります。
| 判定方式 | 内容 |
|---|---|
| 株式数・出資金額による判定 | 3人以下の株主グループが発行済株式の50%超を保有 |
| 議決権による判定 | 3人以下の株主グループが議決権の50%超を保有 |
| 社員・業務執行社員数による判定 | 3人以下のグループが社員総数の半数超を占める |
社長と配偶者、社長の子どもだけで株式の過半数を保有しているケースは、典型的な同族会社に該当します。こうした会社では、家族を従業員として雇用している場合に「みなし役員」の問題が生じやすいため、特に注意が必要です。
みなし役員に認定されると、その人への報酬の扱いは通常の従業員給与ではなく、「役員報酬」として扱われます。役員報酬は会社の経費(損金)として計上するためのルールが厳格に定められています。
まず重要なのが「定期同額給与」のルールです。役員報酬を損金に算入するためには、毎月同額を継続して支払う「定期同額給与」でなければなりません。
たとえば毎月30万円を支払っていたのに、決算前に利益調整目的で50万円に増額した場合、増額分の20万円は損金として認められなくなります。また、役員報酬の金額変更は原則として期首から3ヵ月以内に1回しか認められていません。業績が悪化して報酬を減らしたい場合でも、やむを得ない事情として税務署が認める条件を満たす必要があります。
これは厳しいところですね。
みなし役員と認定される前から変動的な給与を支払っていた場合、過去に遡って損金不算入と判断されるリスクもあります。税務調査では過去3〜5年にさかのぼって調査されることが通常です。
これは金融や経営に関心がある方が特に注意すべきポイントです。従業員への賞与(ボーナス)はそのまま会社の経費になりますが、みなし役員への賞与は原則として損金に算入できません。
賞与を損金にするためには「事前確定届出給与」という制度を使う必要があります。これは、「いつ・誰に・いくら支払うか」をあらかじめ税務署に届け出る手続きです。届け出た内容と1円でも異なる支給をした場合、その全額が損金として認められなくなる非常に厳格なルールが適用されます。
「従業員扱いで賞与を払ってきた家族がみなし役員だった」と税務調査で指摘された場合、過去の賞与がすべて損金不算入となり、追徴課税が発生します。令和4年度の法人税務調査の1件あたりの追徴課税の平均は約272万円というデータもあり、決して他人事ではありません。
参考:国税庁「事前確定届出給与」に関する質疑応答事例(定めどおりに支給されたかどうかの判定)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/11/16.htm
「みなし役員」と「使用人兼務役員」はまったく異なる概念です。この違いを正確に理解しておくと、実務上の誤りを防げます。
使用人兼務役員とは、登記された役員でありながら、部長や課長などの使用人としての職務も実質的に担っている人物のことです。使用人部分の給与は通常の給与として損金算入でき、雇用保険にも加入できます。
一方、みなし役員は「実質的に経営に従事している」ことが認定の根拠であるため、この要件は「常時使用人としての職務に従事する」という使用人兼務役員の要件と矛盾します。そのため、みなし役員は使用人兼務役員にはなれません。
これが実務上に与える影響は大きく、みなし役員に認定されると原則として雇用保険への加入資格を失います。これまで雇用保険に加入していた場合は遡って加入資格を喪失し、失業給付なども受けられなくなります。
雇用保険の喪失は見落とされやすい点です。
また、国税庁タックスアンサーNo.5205では、使用人兼務役員になれない人の範囲として、代表取締役・代表執行役・代表理事・清算人、副社長・専務・常務などに加えて、「みなし役員に該当する株式保有要件を満たす者」が明示されています。
参考:国税庁タックスアンサーNo.5205「役員のうち使用人兼務役員になれない人」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5205.htm
みなし役員に退職金を支払う場合も、税務上の取り扱いは通常の従業員と異なります。みなし役員は「役員退職給与」のルールが適用されます。
役員退職金として損金算入が認められるのは、不相当に高額でないと認められた部分に限られます。具体的には、「功績倍率法」と呼ばれる計算方法が一般的に使われます。
$$\text{適正役員退職金} = \text{最終役員報酬月額} \times \text{勤続年数} \times \text{功績倍率}$$
功績倍率は会社の規模や役職によって異なりますが、一般的には2〜3倍程度が目安とされています。この計算式を大幅に上回る金額を支払うと、超過部分は損金算入できず、法人税の課税対象となります。
みなし役員であることを知らずに「従業員退職金規程」に基づいて退職金を計算・支給していた場合、規程よりも高額になるケースもあり、税務調査で問題になることがあります。退職金の適正額は事前に税理士と確認しておくことが大切です。
特に同族会社で多いのが、社長の配偶者がみなし役員に該当するケースです。「うちの妻は株を持っていないから関係ない」という思い込みが、大きな税務リスクにつながることがあります。
前述の③の個人所有割合要件では、「本人・配偶者・本人らが50%超を保有する会社の合計で5%超」とされています。社長が株式の100%を保有していれば、配偶者が株を1株も持っていなくても、夫婦での合算は100%となり、③の要件は当然に満たされます。
この状態で、配偶者が経理・総務・採用・取引先との折衝など、経営の根幹に関わる判断に携わっているとなれば、「経営に従事している」とみなされる可能性は十分にあります。経営に関与している証拠として挙げられる具体例としては、以下があります。
こうした業務実態がある場合、配偶者への賞与支払いや変動する給与は損金否認のリスクがあります。配偶者の業務内容を明確に使用人の範囲に限定しているか、あるいは正式に役員登記するかを検討するのが現実的な対応策です。
参考:みなし役員の判定基準と親族への影響に関する詳細解説
https://koyano-cpa.gr.jp/nobiyo-kaikei/column/4420/
みなし役員の社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入については、勤務実態によって判断が変わります。これは見落とされがちな実務上のポイントです。
常時勤務しているみなし役員は、社会保険への加入義務があります。形式上は「非常勤」や「パート」と処理していても、毎日出勤して業務に従事している実態がある場合は、加入義務が発生します。加入漏れが発覚した場合、遡って保険料を請求される可能性があります。
一方、非常勤で勤務日数や時間が少なく、実質的な勤務実態がない場合は加入義務はありません。ただし「非常勤」という名目だけでは認められず、実態が重視されます。
雇用保険については前述のとおり、みなし役員は原則として加入できません。会社と雇用契約関係にある「労働者」ではなく、経営を委任された立場とされるためです。この点は厚生労働省の通達でも整理されています。
参考:厚生労働省「Q&A〜事業主の皆様へ〜(雇用保険)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000140565.html
税務調査でみなし役員の問題が指摘されると、損金否認・追徴課税・延滞税の発生と、経営への打撃は非常に大きくなります。
事前の対応が最大のリスク管理です。
まず行うべきことは、業務分担の明確化と記録化です。家族・親族が担当している業務が「経営への関与」と評価されないよう、具体的な指示系統や職務内容を就業規則・業務日報・会議録などで記録しておくことが有効です。
次に、みなし役員と判断されるリスクがある場合は、正式に役員として登記することを検討する価値があります。登記してしまえば税務上の取り扱いは明確になり、むしろ役員報酬による所得分散効果を合法的に活用できます。
また、賞与を経費にしたい場合は「事前確定届出給与」の届出を毎年適切なタイミングで行うことが不可欠です。届出の締め切りや支給日の管理ミスは致命的になりえます。
みなし役員の問題は、法人税・所得税・社会保険にまたがる複合的な論点のため、税理士に顧問として入ってもらい、毎年の役員報酬決定時期(期首から3ヵ月以内)に確認することが現実的な対応です。
「みなし役員にはデメリットしかない」と思いがちですが、正しく活用すれば節税効果を得ることも可能です。
家族を正式な役員として登記し、適正な役員報酬を支払うことで、所得の分散による節税効果が得られます。たとえば、代表取締役1人の所得が1,000万円の場合、所得税は約33〜40%の累進課税が適用される部分があります。配偶者に200万円の役員報酬を支払えば、代表取締役の課税所得が800万円に下がり、配偶者の200万円は低い税率で課税されます。世帯全体としての税負担を軽減できるということですね。
また、相続税対策の観点からも、生前に家族への報酬支払いによって財産を移転することができます。相続税・贈与税の税率は10%〜55%の累進課税ですが、毎年の報酬として受け取ることで、贈与税の問題なしに財産移転が可能です。
ただし、この節税効果を享受するためには以下の条件が必要です。
役員報酬の適正金額の判断は、法人の規模・利益・業種・役員の職務内容などを総合的に検討する必要があります。
税理士への事前相談が欠かせません。
みなし役員の判定においてもっとも難しいのが、「経営に従事しているかどうか」という要件の判断です。国税庁の通達には「その法人内における地位、職務等からみて実質的に法人の経営に従事していると認められるもの」とありますが、具体的な数値基準は存在しません。
これは意外ですね。
過去の裁判例・審判例では、「主要な業務執行の意思決定に参画している者」とされていますが、この「主要な」という基準も相対的なものです。
実務上は次のような判断材料が用いられます。
裏を返せば、これらの記録が「経営への関与がない」という証拠として機能することもあります。たとえば、配偶者の業務を「経理データ入力・電話対応・郵便物処理」に限定し、重要な意思決定の会議には参加させないことを徹底し、その実態を業務日報などで記録しておけば、みなし役員の認定リスクを大きく下げることができます。
「うちは家族経営だから仕方ない」と諦めるのではなく、業務内容と記録管理の工夫によってリスクコントロールができるという点が、他の税務問題と異なる特徴です。顧問税理士と連携して、定期的に業務分担の実態を確認するチェックリストを作ることを、実務上のアドバイスとして提案します。
みなし役員に関する実務では、特定の誤解が繰り返されやすい傾向があります。
代表的な5つの誤解を整理しておきましょう。
❶「登記していないから役員ではない」
最も多い誤解です。みなし役員の判定は登記と関係なく、実態で行われます。
❷「株式を持っていなければ該当しない」
配偶者との合算で5%超になる点を見落としがちです。自分がゼロ株でも、夫(妻)の株と合算されます。
❸「専業主婦なら問題ない」
在宅で経理ソフトを操作し、仕入れ先への発注や社員への指示を出しているなら「経営に従事」とみなされる余地があります。
勤務形態は無関係です。
❹「賞与さえ払わなければ大丈夫」
定期同額給与の制約から、月々の給与にも影響します。途中で増額した月が1ヵ月でもあれば、その差額分は損金算入できません。
❺「過去の分は修正できない」
修正申告を行うことで過去の税務処理を是正することは可能です。税務調査の指摘を受ける前に自主的に修正した場合は、加算税の軽減措置が受けられる場合があります。
ただし延滞税は発生します。
これらの誤解に心当たりがある場合は、早めに税理士に相談することをすすめます。放置するほどリスクが蓄積されていくため、早期対応が得策です。
参考:みなし役員の定義・判定・給与取扱いの総合解説
https://schoo.jp/biz/column/1521