

M&Aで会社を売る際に損をする人の多くが、退職金より株式売却益だけを狙っています。
M&Aの税務を理解する第一歩は、どのスキームを使うかによって課税の仕組みが根本から異なるという点を押さえることです。スキームとは、M&Aを実行するための取引の組み立て方のことで、代表的なものに「株式譲渡」「事業譲渡」「組織再編(合併・会社分割)」があります。
下の表は、各スキームにおける課税の概要をまとめたものです。
| スキーム | 主な当事者 | 課税方式 | 主な税率の目安 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡(個人株主) | 売り手個人 | 申告分離課税 | 20.315%(固定) |
| 株式譲渡(法人株主) | 売り手法人 | 総合課税(法人税) | 約30〜34% |
| 事業譲渡 | 売り手企業・買い手企業 | 総合課税+消費税 | 約30〜35%+消費税10% |
| 適格組織再編(合併・会社分割) | 当事者全員 | 課税繰り延べ(条件付き) | 要件を満たせば0% |
| 役員退職金 | 退職役員個人 | 分離課税(退職所得) | 実質最大28%程度 |
個人株主が株式を譲渡した場合の税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)で固定されます。給与所得に適用される累進税率の最高55%と比べると、圧倒的に有利です。これが中小企業のM&Aで株式譲渡が選ばれやすい大きな理由のひとつです。
一方、法人株主が株式を譲渡した場合は、譲渡益が他の事業利益と合算されて法人税等が課されます。実効税率は30〜34%程度が目安です。
事業譲渡は売り手企業が対象資産を個別に売却するスキームで、売り手には法人税等に加えて消費税の負担も発生します。これについては後述で詳しく説明します。
スキーム選択が原則です。同じ「会社を売る」という行為でも、手取り額に数千万円の差が生まれることは珍しくありません。
参考リンク(スキーム別の課税の仕組みと最新の税率)。
M&Aにかかる税金はいくら?計算方法から節税対策、最新の動向まで専門家が解説|M&A総合研究所
株式譲渡によるM&Aは、売り手の手取りが多くなりやすい手法として中小企業で広く活用されています。実際の税額計算の流れを理解しておくことで、交渉や資金計画の精度が上がります。
譲渡所得は次の計算式で求めます。
| 計算項目 | 内容・例 |
|---|---|
| 譲渡収入 | M&A株価(例:3億円) |
| 取得費 | 実際の取得費 or 譲渡対価×5%(高い方を選択可) |
| 譲渡費用 | 仲介手数料・着手金など(消費税込みで控除可) |
| 税率 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
「取得費」の部分には見落としがちな優遇制度があります。個人株主は「実際の取得費」と「譲渡対価×5%」を比較して、金額の大きい方を取得費として使えます。M&Aでは売却価格が高額になりやすいため、「譲渡対価×5%」が実際の出資額を上回るケースも多く、これを見落とすと余計な税金を払うことになります。なお、この優遇は個人株主のみに認められており、法人株主には適用されません。
相続税額の取得費加算の特例も重要です。相続で取得した株式を、相続開始の翌日から相続税申告期限後3年以内に譲渡した場合、その株式にかかった相続税額の一部を取得費に加算できます。譲渡所得を圧縮できる制度で、対象になる人は必ず専門家に確認してください。
申告と納付は分かれています。株式譲渡所得の所得税(15.315%分)は翌年2月16日〜3月15日の確定申告で申告・納付します。住民税(5%分)は翌年6月ごろに通知が来て、普通徴収か特別徴収のいずれかで支払います。
譲渡所得の認識時点にも注意が必要です。12月に契約を締結していても、株式の引き渡し(クロージング)が翌年以降になれば、課税は翌年の確定申告が対象になります。年をまたぐ案件では税金を納付する年度が変わるため、資金計画に影響します。
参考リンク(株式譲渡の税金の計算方法と注意点を詳しく解説)。
M&Aの税務を専門家が解説|日本M&Aセンター
事業譲渡は、会社全体ではなく特定の事業や資産を切り出して売買するスキームです。売り手が「不採算部門だけを売りたい」「特定の取引先関係は売りたくない」という場合に有効ですが、税務の複雑さは株式譲渡より格段に増します。
まず法人税等です。事業譲渡で譲渡益が発生した場合、売り手法人に対して法人税等(実効税率約30〜35%)が課されます。事業譲渡では「営業権(のれん)≒譲渡利益」と考える場面が多く、のれんが大きいほど税負担も増します。
次に消費税です。ここは非常に重要なポイントです。事業譲渡では、課税対象の資産(建物・機械・棚卸資産・のれんなど)に消費税がかかります。一方、土地や売掛金は非課税です。事業譲渡の総額が3億円だとしても、課税対象資産の価格に応じた消費税しか課税されないため、内訳の整理が必須です。
一方、株式譲渡では消費税は発生しません。これが事業譲渡との大きな違いです。
不動産が含まれる場合はさらに注意です。事業譲渡の対象に不動産が含まれると、買い手側に登録免許税(土地:15/1000、建物:20/1000 ※令和8年3月末まで)と不動産取得税(課税標準額×3% ※令和9年3月末まで軽減)が加算されます。これらは株式譲渡では発生しないコストです。
税務上ののれんの扱いも独特です。事業譲渡で計上される「税務上ののれん(資産調整勘定)」は5年間で均等に損金算入できます。これは買い手にとって節税効果があります。ただし、株式譲渡でM&Aを行った場合、連結財務諸表上ではのれんが計上されますが、税務上ののれんは計上されません。つまり株式譲渡のスキームでは、のれんの税務上の償却メリットは取れないということです。意外ですね。
事業譲渡の税負担は複数の税目が絡み合うため、事前のシミュレーションが不可欠です。スキーム選択の段階から税理士・公認会計士へ相談することで、不要なコストを避けられます。
参考リンク(事業譲渡の消費税の計算方法と課税・非課税の分類)。
M&Aの事業譲渡における消費税は誰が払う?課税対象と計算方法|mastory
M&Aの税務で最も活用されている節税手法のひとつが「役員退職金」です。しかし、正しく設計しないと税務調査で否認されるリスクがあります。仕組みとリスクを両方理解することが重要です。
まず役員退職金の税制優遇を確認します。給与所得の最高税率は約55%(所得税+住民税)ですが、退職金は「退職所得」として以下の3つの優遇が受けられます。
役員退職金の適正額は、実務では「功績倍率法」が広く使われます。
役員退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
たとえば月額報酬100万円・在任20年・功績倍率3.0倍(社長)の場合、退職金は6,000万円です。この場合の退職所得控除は800万円、課税対象は(6,000万円−800万円)×1/2=2,600万円。概算の税金は約1,100万円で、手取りは約4,900万円になります。同額を役員報酬として受け取ると、税金で約3,000万円が消えることと比べると、その差は歴然です。
株式譲渡と退職金の組み合わせも有効です。企業価値1億円の会社を売却する場合、全額を株式譲渡対価として受け取ると税率20.315%が適用されます。退職金6,000万円と株式譲渡4,000万円に分けると、退職金部分の実効税率が大幅に低くなり、トータルの手取りが増えるケースがあります。
退職金の否認リスクには注意が必要です。税務上、退職金が認められるには「実質的に経営から退いていること」が必要です。退任後に以下のような行為を続けると、「名前が変わっただけ」と判断され、損金算入が否認されます。
「非常勤顧問」という肩書きでも、実態として経営に関与していればアウトです。退職金を確実に受け取るには、退任後は経営の第一線から完全に離れることが条件です。退職金規程も必ず作成しておきましょう。規程がないと、税務署から恣意的な決定とみなされ損金算入が否認される原因になります。
参考リンク(役員退職金の計算方法と税務調査対策を専門家が詳細解説)。
役員退職金とは?手取りを最大化しM&Aを有利にする計算式と税務|船井総研あがたFAS
合併や会社分割といった組織再編を使ったM&Aには、条件を満たせば課税を繰り延べられるという強力な優遇があります。しかし、適格要件を満たしているからといって、すべての税務メリットが自動的に使えるわけではありません。この点がよく誤解されています。
組織再編税制における「適格・非適格」の分かれ目は、資産・負債を帳簿価格で引き継ぐかどうかです。適格再編なら譲渡損益が発生せず課税されません。非適格再編では時価で引き継ぐため、含み益があれば課税が発生します。
適格要件の内容は当事者間の資本関係によって異なります。
繰越欠損金の引き継ぎには別の厳しい要件があります。ここが特に重要です。適格合併の要件を満たしていても、繰越欠損金の引き継ぎには「欠損金の引継制限規定」が別途適用されます。たとえば、M&Aで子会社を取得してから5年未満で適格合併を行う場合、支配関係が5年未満だと繰越欠損金の損金算入に制限がかかります。「適格だから欠損金も自由に使える」は誤りです。
「中小企業事業再編投資損失準備金」という制度も知っておく価値があります。2021年8月から始まったこの制度は、株式取得額の最大70%を取得した年度に損金算入できるというものです。10億円で株式を取得した場合、最大7億円を一括で損金処理できます。ただし、その後5年間の据え置き期間を経て6年目から1/5ずつ益金算入されるため、節税ではなく「課税の繰り延べ」が正確な表現です。長期的なタックスプランニングが前提の制度です。なお、利用には株式取得価額が10億円以下、買い手が資本金1億円以下の中小企業、事前の経営力向上計画の認定など複数の要件を満たす必要があります。
組織再編を使ったM&Aでは、スキーム設計の段階から税務専門家を交えてデューデリジェンス(税務DD)を実施することが不可欠です。形式的に適格要件を満たしていても、実態が租税回避と判断されると否認されるリスクがあります。
参考リンク(組織再編税制の適格要件と繰越欠損金の引き継ぎ制限をわかりやすく解説)。
組織再編税制とは? 適格要件やスキーム、繰越欠損金の扱いを解説|M&A CAPITAL PARTNERS
M&Aの税務で最も損をするパターンは、スキームが決まってから専門家に相談することです。税務DDとは、M&A実行前に対象会社の税務上のリスクを洗い出す調査のことです。買い手側が費用を負担して実施するのが一般的ですが、その費用は「株式を取得すると決めた時点以降」に発生したものとして、税務上のれんなどと同様に取得価額へ加算されます。つまり、基本合意後に発生したDD費用は損金算入できません。ここが実務上の盲点です。
税務DDで確認すべき主なリスク項目は以下のとおりです。
税務DDの費用は、案件規模によって数十万円から数百万円程度が一般的です。一方、税務リスクを見落とした場合の損失は、場合によっては数千万円以上になります。費用対効果は明確です。
売り手側も、M&Aを検討し始めた段階で税理士に相談することが理想です。特に、スキームの選択・役員退職金の設計・株主整理・自社株評価の把握は、交渉開始前に準備しておかないと選択肢が大幅に狭まります。
「会社を売ってから税金の計算をする」では遅いということですね。M&Aの税務は、計画段階から逆算して設計するものです。早期に相談することで、スキームの組み合わせや実行タイミングの調整によって、合法的に税負担を最小化できます。
特に2026年以降は、事業承継税制(非上場株式の贈与税・相続税の納税猶予制度)の適用期限も意識する必要があります。特例承継計画の提出期限が2027年12月末に迫っており、M&Aか事業承継かの最終判断が求められる局面です。税制の変化に合わせた柔軟な対応が、M&Aの税務で損をしないための最大の対策といえます。
参考リンク(M&Aにおける税務デューデリジェンスの費用・確認ポイント)。
【税務DD】M&Aで繰越欠損金は引き継げる?スキーム別の要件と確認ポイント|macpa
![]()
【クーポンで940円】 スマホ 防水ケース 防水 海 貴重品 スマホ防水 浮く iPhone 完全 防水 ケース 防水スマホケース 水中撮影 携帯 プール 操作可能 ダイビング お金収納 サーフィン 外出 旅行 水辺 Face ID 顔認証対応 お風呂 IPX8 iPhone15ProMax 全機種対応