

受益者連続型信託を設定すると、元本受益権の評価額がゼロになり相続税が大幅に増える。
信託受益権とは、信託された財産から生まれる利益を受け取る権利のことです。たとえば、父親が所有するアパートを信託すれば、そのアパートの家賃収入を受け取る権利(収益受益権)と、信託終了時に建物そのものを受け取る権利(元本受益権)の2つに分かれます。
この受益権も、現金や不動産と同じように相続税・贈与税の課税対象となります。ただし、信託財産そのものに直接課税されるわけではありません。相続税法第9条の2によって「受益者は信託財産を保有しているものとみなす」という考え方が採用されており、信託受益権の相続税評価額=信託財産の評価額、という関係が基本となります。
評価の根拠となる法令は「財産評価基本通達202」です。この通達では、受益者の構成によって3つのケースに分類して評価方法を規定しています。
| パターン | 概要 | 評価方法 |
|---|---|---|
| ①元本・収益の受益者が同一 | 一人が全ての利益を受け取る | 信託財産そのものの評価額 |
| ②一部ずつ受益する場合 | 同一人が元本・収益の一部を受ける | 信託財産の評価額×受益割合 |
| ③元本・収益の受益者が異なる | 収益受益者と元本受益者が別人 | 収益受益権と元本受益権を分けて評価 |
最もシンプルなのはパターン①です。委託者が生前から自分自身を受益者に設定し、相続時に子が全ての権利を引き継ぐ家族信託がこれにあたります。この場合、相続税評価額は、信託財産(不動産であれば路線価方式による土地評価+固定資産税評価額ベースの建物評価)と同額になります。
家族信託を設定したからといって、それだけで相続税評価額が下がるわけではない、という点は基本として押さえておきましょう。
国税庁が公表している評価明細書の書式や提出方法については、以下の公式ページで確認できます。
国税庁|B2-16 信託受益権の評価明細書(書式・手続き案内)
パターン③(元本の受益者と収益の受益者が異なる場合)は、計算が複雑になります。ここを正確に理解しておくと、複層化信託の節税効果がどこから生まれるのかが見えてきます。
まず収益受益権の評価から行います。計算式は次の通りです。
たとえば、信託財産の評価額が2,000万円で、年間収益が100万円、信託期間20年、基準年利率0.5%の場合、収益受益権の評価額はおおむね1,900万円程度になります。するとパターン③の元本受益権の評価額は次のようになります。
元本受益権の評価額=信託財産の評価額(2,000万円)-収益受益権の評価額(1,900万円)=100万円
これが複層化信託(受益権の複層化)による節税の核心です。子に元本受益権(100万円)を贈与しても、贈与税の基礎控除110万円の範囲内に収まるため、贈与税は実質0円になります。
節税効果が大きい点は確かです。しかし「基準年利率」は国税庁が毎年改定するため、金利が上昇すれば収益受益権の評価額が下がり、元本受益権の評価額が相対的に上がります。令和2年時点では長期基準年利率が0.1%でしたが、令和7年6月には2.0%まで上昇しています。この変動が節税効果に直結します。
国税庁が公表している基準年利率の最新値は、以下で確認できます。
基準年利率の変動は評価額に直結します。
複層化信託の節税スキームを検討するうえで、絶対に把握しておかなければならない落とし穴があります。それが「受益者連続型信託」に該当するかどうかの問題です。
受益者連続型信託とは、「AさんがAさんの死後にBさんを受益者とする」という形で、受益者の死亡によって次の受益者を連続して指定できる信託のことです。将来の財産承継を細かく設計できる便利な仕組みですが、相続税評価の観点では大きな落とし穴があります。
相続税基本通達9の3-1により、受益者連続型信託に該当する場合、収益受益権の評価額は「信託財産の評価額全体」とみなされ、元本受益権の評価額はゼロとなります。つまり、収益受益権だけで信託財産の全体を課税対象にしなければなりません。
通常の複層化信託:収益受益権(1,900万円)+元本受益権(100万円)→ 課税対象分散
受益者連続型信託該当時:収益受益権=信託財産全体(2,000万円)、元本受益権=0円 → 課税集中
どちらに該当するかで、税負担が天と地ほど変わります。
また、税務調査で「実質的に受益者連続型信託と同じ効果をもつ」と判断された場合、申告後に追徴課税されるリスクもゼロではありません。信託の制度設計は、こうした否認リスクを十分に考慮した上で、信託専門の司法書士や税理士と連携して進めることが重要です。
受益者連続型信託の税務詳細については、国税庁の公式通達解説が参考になります。
国税庁|第9条の3《受益者連続型信託の特例》関係(相続税法基本通達)
「信託に入れたら小規模宅地等の特例(小宅特例)が使えなくなるのでは?」という誤解は非常に多いです。結論から言うと、条件を満たせば信託受益権を通じた相続でも小宅特例は適用できます。
根拠は相続税法第9条の2第6項および租税特別措置法施行令第40条の2第27号です。これらによって「信託受益権を相続した場合も、信託財産に属する宅地等を取得したものとみなす」とされており、通常の相続と同じく特例を検討できます。
小宅特例が適用された場合の最大評価減は次の通りです。
たとえば、路線価による評価額が5,000万円の土地を信託していた場合、特定居住用宅地等の条件を満たせば評価額を1,000万円(80%減)まで圧縮できます。現金や有価証券には適用できない特例ですから、不動産を信託している方にとっては見逃せないメリットです。
ただし「信託だから自動的に有利になる」わけではなく、次の点を必ずチェックする必要があります。
信託終了で土地が「残余財産」として相続人に帰属する場合は、相続税法上は遺贈と同様に扱われるため、この場合も小宅特例を検討できます。設計段階から税理士と申告要件を確認しておくことが原則です。
不動産信託受益権を使った相続対策として、近年注目を集めてきたのが「不動産小口化商品(信託受益権型)」です。1口数十万円から購入でき、土地は路線価評価・建物は固定資産税評価額で算出されるため、購入価格(時価)と相続税評価額の間に大きな乖離が生まれ、節税効果が高いとされてきました。
しかし、2026年(令和8年度)税制改正大綱によって、この状況は大きく変わります。2027年(令和9年)1月1日以後の相続・贈与から、不動産小口化商品(信託受益権など)については、保有期間に関わらず「通常の取引価額(時価)」ベースで評価するルールに改正される予定です。
| 区分 | 改正前 | 改正後(2027年~) |
|---|---|---|
| 賃貸不動産(売買・新築から5年以内) | 路線価・固定資産税評価額 | 原則時価(取得価額80%の安全弁あり) |
| 不動産小口化商品(信託受益権型) | 路線価・固定資産税評価額 | 原則時価(保有期間問わず) |
賃貸不動産は「5年経過後は原則通達評価に戻る」可能性がありますが、不動産小口化商品は5年経過後も時価評価が続く見通しです。これが最大の違いです。
なお、今回の改正は「節税目的だけの不動産購入」への警告であり、不動産そのものへの投資が否定されたわけではありません。たとえば、遺産分割の際に現物不動産と異なり均等に分けやすい点(受益権の分割可能性)や、信託会社が管理するため相続後の手間が少ない点は依然としてメリットです。
ただし「相続税を大幅に圧縮できる」という点だけを目的に購入してきた方は、今後の設計を見直す必要があります。保有中の商品がどう評価されるかは、事業者の価格情報開示の状況にもよります。税制改正の詳細は随時更新される見通しですので、最新情報を以下で確認することをお勧めします。
令和8年度税制改正|不動産・不動産小口化商品の相続税評価見直し詳細解説(名古屋相続税無料診断センター)