

週20時間働いても、通勤手当が多いだけで社会保険に入らずに済む場合があります。
パートやアルバイトとして働いている場合、自動的に社会保険に加入するわけではありません。短時間労働者が社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する義務が発生するのは、特定の要件をすべて満たした場合に限られます。条件が4つが原則です。
具体的には、①週の所定労働時間が20時間以上であること、②月額賃金が88,000円以上であること、③2か月を超えて継続して働く見込みがあること、④学生でないこと、の4点です。
注意が必要なのは「②月額賃金88,000円」の計算方法です。この88,000円に含まれるのは、基本給と役職手当など毎月固定で支払われる手当のみで、通勤手当・残業代・賞与・精皆勤手当・家族手当は一切含まれません。つまり、基本給が月80,000円でも、通勤手当が15,000円あれば手取りは9.5万円になりますが、賃金要件の計算では80,000円として扱われ、条件を満たしません。
つまり年収という数字だけで判断すると間違えることがあります。
もう一点、「①週20時間」は雇用契約書や就業規則に定められた「所定労働時間」で判断するため、残業で一時的に週20時間を超えても加入義務は生じません。ただし、週20時間以上で働く状態が2か月以上継続して続くと、実態として常態化しているとみなされ、加入対象になることがあります。覚えておけば大丈夫です。
また「④学生でないこと」の例外として、休学中・定時制・通信制の学生は「学生」に該当しないため、他の要件を満たせば社会保険の加入対象になります。社会人大学院生なども同様に対象となるため、自分の状況に合わせた確認が必要です。
さらに、これらの個人要件を満たしていても、勤務先が「特定適用事業所」でなければ加入義務は発生しません。2024年10月以降、従業員数(厚生年金の被保険者数)が51人以上の企業が特定適用事業所となっています。50人以下の企業に勤めている場合は、4条件を満たしていても原則として加入義務はありません。
参考情報:パートの加入要件の詳細は厚生労働省の公式ページで確認できます。
社会保険加入のメリットや手取りの額の変化について|厚生労働省
2026年10月、パートの社会保険加入に関して非常に大きな制度改正が予定されています。現行の加入要件のひとつである「月額賃金88,000円以上(年収換算で約106万円)」という賃金要件が撤廃される見込みです。
なぜ撤廃になるのかというと、最低賃金の上昇が大きな理由です。現在、全都道府県で地域別最低賃金が時給1,016円を超えています。時給1,016円で週20時間×月4.3週で働くと、月収は約87,400円となり、わずかな差でほぼ自動的に88,000円を超える状況です。実質的に「月収要件を意識して調整する意味」がなくなってきたため、法律上も撤廃して整理する方向になりました。
これは大きな変化です。
2026年10月以降は、「週20時間以上働いていれば収入額にかかわらず社会保険の加入対象」というシンプルな構造になります。これまで「月収を88,000円未満に抑えて106万円の壁を守る」という対策をしていた人は、その戦略が通用しなくなります。
加えて、企業規模要件(現在は51人以上)も段階的に引き下げられ、最終的には10年かけて完全撤廃される予定です。2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上、2032年10月から11人以上と続き、2035年10月には全規模の企業に適用が拡大される計画が示されています。
| 施行時期 | 対象企業規模 |
|---|---|
| 現在(2024年10月〜) | 51人以上 |
| 2027年10月〜 | 36人以上 |
| 2029年10月〜 | 21人以上 |
| 2032年10月〜 | 11人以上 |
| 2035年10月〜 | 全規模(撤廃) |
したがって「うちの会社は従業員数が少ないから対象外」と思っている人も、今後は徐々に対象になる可能性があります。小規模な職場で働いている場合でも、10年以内には加入義務が発生しうる点は頭に入れておくことが重要です。
参考:改正スケジュールの詳細は厚生労働省の適用拡大ページで確認できます。
社会保険に加入すると「手取りが減る」という印象を持つ人は多いですが、具体的な数字で確認しておくことが大切です。実際にどれくらい減るのかを把握することで、必要な働き方の調整ができます。
月収100,000円の場合を例に取ると、健康保険料(本人負担分)が約5,674円、厚生年金保険料が約8,967円、雇用保険料が約300円ほど引かれます。合計すると社会保険料の自己負担は月約14,941円。手取りは加入前の約99,280円から、加入後には約85,359円へと減少します。差額は約13,900円です。痛いですね。
月収150,000円の場合は、健康保険料約8,511円・厚生年金保険料約13,450円・雇用保険料約450円で合計約22,411円が引かれ、手取りは加入前の約148,160円から加入後の約127,899円へと、約20,260円の減少になります。
ただし、手取り減少ばかりに着目するのは判断を誤る原因になります。社会保険料の半分は事業主(会社)が負担しています。つまり月収100,000円の人の場合、実際には会社も同額程度の保険料を支払っており、社会全体として見ると保障にかなりの費用が充てられている構図です。手取りだけでなく将来の受け取りも計算に入れた判断が求められます。
なお、月収要件(88,000円)の計算対象には「通勤手当・残業代・賞与」は含まれません。そのため、通勤手当が高い職場では、実際の受取額が88,000円を超えていても加入不要なケースがあります。逆に、固定手当を含めた所定内賃金が88,000円を超えているにもかかわらず気づかずに未加入のままでいると、後から遡って保険料を徴収される可能性があり、それは大きな出費になります。
社会保険への加入は、手取りが一時的に減るデメリットがある一方、受けられる保障の質が格段に上がります。具体的に何が得られるのかを知ることが、加入すべきかの判断に直結します。
最も大きなメリットのひとつが「傷病手当金」です。業務外の病気やケガで仕事を4日以上休んだ場合、4日目から最長1年6か月にわたって「標準報酬月額÷30×2/3」の金額が支給されます。月収100,000円の人であれば、1日あたり約2,220円、1か月(30日)で約66,600円が受け取れる計算です。国民健康保険にはこの制度がないため、社会保険に加入していないパートが長期の病欠となった場合、収入がゼロになるリスクがあります。
出産を予定している女性にとっても、社会保険は非常に重要です。出産手当金は、出産日の42日前(多胎妊娠の場合は98日前)から出産後56日まで、傷病手当金と同じ計算式で給与の約2/3が支給されます。月収100,000円の人なら、出産に関連して最大98日(約14週)分の給付を受けることができ、総額で約70万円以上になる場合もあります。これは使えそうです。
年金面では、厚生年金に加入することで将来の老齢年金が増加します。厚生労働省の試算によれば、月収約10万円のパートが20年間にわたって厚生年金に加入し続けた場合、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金が年間で約13,000〜24,500円上乗せされます。これを積み上げると、65歳以降の受け取り総額は数百万円規模での増加につながります。
また、万が一の事故や病気で障害を負った場合も、厚生年金加入者は「障害厚生年金」を受け取れます。国民年金のみの「障害基礎年金」より支給額が多い上、3級障害(軽度の障害)でも受給対象になるため、セーフティネットとしての厚みが異なります。障害基礎年金は1級・2級のみが対象なので、実はこの差は大きいです。
参考:社会保険加入のメリットについて厚生労働省が詳細をまとめています。
「年収の壁」という言葉はよく耳にするものの、実際に何種類あって、どれが自分に関係するのかを正確に把握している人は意外と少ないです。特に社会保険の観点では、「106万円の壁」と「130万円の壁」の2つが存在しており、混同すると大きな判断ミスにつながります。
「106万円の壁」は、従業員51人以上の特定適用事業所に勤めるパートに適用される壁です。週20時間以上・月収88,000円以上などの条件を満たすと社会保険に加入し、年収106万円(月収88,000円×12か月)が目安とされています。この壁は2026年10月に撤廃される予定です。
一方、「130万円の壁」は企業の規模に関係なく適用される壁です。年収が130万円以上になると、配偶者の健康保険の扶養から外れて自分で社会保険や国民健康保険に加入する必要が生じます。130万円は月収換算で約108,333円。週20時間未満で働いていても、この金額を超えた瞬間に扶養を外れるリスクがあります。扶養が原則です。
2025年度の税制改正により、所得税の「103万円の壁」は「123万円の壁」に引き上げられました。しかしこれは「所得税が発生する基準」の話であり、社会保険の扶養(130万円の壁)とは別の話です。「123万円まで非課税になった=社会保険の扶養もそのまま」という誤解が広まっていますが、130万円の基準は変わっていません。
年収が130万円を少し超えた場合が最も損しやすいパターンです。例えば年収132万円になると130万円の壁を超えて社会保険料(または国民健康保険料)が年間約27万円発生し、手取りが大幅に減少します。130万円をギリギリ下回る収入に抑えた方が世帯全体の手取りが多くなるケースも少なくありません。
ただし、2026年10月以降は状況が変わります。「106万円の壁」が撤廃されて週20時間以上で自動的に厚生年金・健康保険に加入する仕組みになれば、場合によっては「厚生年金に加入するほうが130万円の壁を心配するより長期的に得」という計算になる人も出てきます。130万円の壁を意識しながら働き方を調整するより、週20時間超で厚生年金に加入して将来の年金を積み上げた方が、老後の資産形成として有利な場合があります。
参考:年収の壁全体像と今後の改正については以下のページが詳しいです。
26年10月、106万円の壁撤廃へ。130万円の壁もわかりやすく解説|まき社会保険労務士事務所
「Aのお店で週15時間、Bのお店でも週10時間働いている」というダブルワーク・掛け持ちのケースは、近年パートやフリーランスの間で増えています。この場合の社会保険の適用は、多くの人が正確に把握できていない盲点です。
原則として、社会保険の加入要件を判断する「週20時間」は、1つの事業所ごとに判断されます。つまり、A社で週15時間、B社で週10時間働いていても、それぞれの雇用主で週20時間未満であれば、理論上は両社ともに社会保険の加入義務は生じません。合算しての判断ではないため、2か所を掛け持ちして意図的に週20時間未満に抑えるという選択は制度上は可能です。
ただし、1つの勤務先で週20時間以上の要件を満たした場合はその職場での加入義務が発生します。複数の会社で社会保険の被保険者資格を取得した場合(たとえばA社とB社の両方で週20時間以上働く場合)、「二以上事業所勤務」として届け出を行い、それぞれの報酬をもとに合算して保険料を計算する仕組みになります。これは意外ですね。
複数の職場を掛け持ちしながら加入条件をコントロールしたい場合は、①各職場の雇用契約書に記載された所定労働時間を正確に把握する、②一方の職場が特定適用事業所かどうかを確認する、の2点が確認すべきことです。
また、フリーランスや個人事業主として副業収入がある場合、その収入自体は厚生年金・健康保険の保険料計算対象にはなりません(個人事業収入は国民年金・国民健康保険の対象)。パート収入と副業収入が混在する形の働き方の場合も、それぞれの加入基準を別々に考えるのが基本です。
掛け持ちパートのケースでは、複数の職場合計の労働時間が週30時間を超えていても、各職場で週20時間未満なら加入義務はありません。この点は知っていると得する知識のひとつです。将来的な2035年の全企業規模への適用拡大後も、この「1事業所ごとに判断する」原則が継続されるかについては今後の法令解釈の動向に注意が必要です。