遺留分侵害額請求の時効と起算点を正しく知る方法

遺留分侵害額請求の時効と起算点を正しく知る方法

遺留分侵害額請求の時効と起算点を正しく理解して権利を守る

内容証明を送っただけでは、遺留分侵害額請求の時効は止まらず6カ月後に権利を失う場合があります。


この記事の3つのポイント
時効は「1年」と「10年」の2種類ある

遺留分侵害額請求には、侵害を知った時から1年の消滅時効と、相続開始から10年の除斥期間という2つの異なる期間制限がある。どちらか先に到来した方で権利が消滅する。

📌
「知った時」の起算点は3条件が揃ってから

①相続が開始したこと、②自分が相続人であること、③遺留分を侵害する贈与・遺贈があったこと、この3つを全部知った時点が1年の起算点。どれか1つでも欠ければ時効は進行しない。

⚠️
内容証明後も「5年」の別の時効が走り始める

遺留分侵害額請求の意思表示をした後、金銭支払請求権には5年の消滅時効が別途発生する。請求しただけで安心すると、この5年以内に権利が消えてしまうリスクがある。


遺留分侵害額請求の時効とは:1年と10年の2種類を正確に把握する


遺留分侵害額請求権には、性質の異なる2つの期間制限があります。民法第1048条は「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする」と定めています。つまり、「知ってから1年」の消滅時効と、「相続開始から10年」の除斥期間の2本立てです。


この2つはまったく別の性質を持っています。


- 消滅時効(1年):侵害を「知った時」から起算し、相手が援用(主張)して初めて確定する。時効の更新(リセット)や完成猶予(一時停止)が可能。


- 除斥期間(10年):相続開始の日から客観的にカウントが始まり、相手が主張しなくても自動的に権利が消滅する。中断・停止は認められない。


つまりが原則です。2つのうちどちらか早い方の期限に達した時点で、遺留分侵害額請求権は消滅します。相続が発生した日をゼロとしてカウントすると、仮に被相続人が亡くなってから9年後に遺留分侵害を初めて知った場合でも、残るのは10年の除斥期間まであと1年だけです。気づいた時点が遅ければ遅いほど、実質的な行動期間が短くなる点に注意が必要です。


なお、2019年7月1日施行の改正民法(令和元年民法改正)により、遺留分は「遺産そのものを取り戻す権利(遺留分減殺請求権)」から「侵害額相当の金銭を請求する権利(遺留分侵害額請求権)」へと変わりました。これにより不動産の共有化が避けられる反面、「支払う側」は多額の現金を用意する必要が生じるなど、別の課題も生まれています。

























種類 期間 起算点 自動消滅 中断・停止
消滅時効 1年 相続開始と遺留分侵害を「知った時」 なし(援用が必要) 可能
除斥期間 10年 相続開始日(被相続人死亡日) あり(自動消滅) 原則不可


遺留分を請求する立場の方はもちろん、遺留分を支払う可能性がある立場の方も、この2つの期間制限を正確に把握しておくことが重要です。



以下は、遺留分侵害額請求権の時効についての権威ある解説リンクです。


法令の原文(民法第1048条)が確認できる政府の公式サイトです。


e-GOV法令検索|民法(第1048条)


遺留分侵害額請求の時効「起算点」の正確な意味:3条件が揃う日を見極める

1年の消滅時効の「起算点」は、多くの方が「親が亡くなった日」だと誤解しています。これが大きな落とし穴です。


民法1048条が定める「知った時」とは、以下の3つすべてを知った日が起算点となります。


- ① 相続が開始したこと(被相続人が亡くなり、自分が相続人であること)
- ② 遺留分を侵害する「贈与」または「遺贈」があったこと
- ③ その贈与・遺贈が自分の遺留分を侵害するものだということ


②と③はセットで理解する必要があります。「遺言書があると聞いた」だけでは足りません。「その遺言の内容が、自分の遺留分を侵害している」と認識した時点、つまり遺言書の具体的な内容を確認した日が起算点となります。


遺言書の種類によって「侵害を知った日」の認定は異なります。自筆証書遺言の場合は家庭裁判所の検認手続きに立ち会い、内容を確認した日が目安となることが多いです。公正証書遺言の場合は、公証役場から謄本を取得した日、あるいは公証役場から通知を受けた日が基準になります。


なお、「遺留分額が計算できる段階になっていないから時効は始まっていない」という主張も考えられますが、東京高裁昭和52年4月28日判決は「何らかの範囲で遺留分が損なわれるという曖昧な認識があれば足りる」としています。正確な金額がわからなくても「なんとなく損している」と感じた時点から時効が走り出す可能性があります。厳しいところですね。


また、被相続人の死後に「隠されていた生前贈与」が発覚した場合は、その生前贈与を知った日から新たに1年のカウントが始まります。ただし、除斥期間である相続開始から10年は関係なく進行しているため、発覚のタイミングによっては実質的に行動できる期間が大幅に制約されます。




















遺言書の種類 「侵害を知った日」の目安
自筆証書遺言 家庭裁判所の検認期日で内容を確認した日
公正証書遺言 謄本を取得した日 / 公証役場から通知を受けた日
死後に判明した生前贈与 贈与の存在と遺留分侵害を認識した日


起算点が曖昧なまま放置すると、相手から「すでに時効が成立している」と主張される危険があります。「侵害を知った日」を裏付ける書類(検認調書の写し、郵便物の受取記録など)を手元に残しておくことが原則です。



起算点「知った時」の解釈を詳しく解説した専門コラムです。


遺留分侵害額請求の1年の期間制限について(「知った時」の意義)|横浜りんどう法律事務所


遺留分侵害額請求の時効の止め方:内容証明送付後に必要な「6カ月以内の法的手続き」

多くの方が「内容証明を送れば安心」と思っています。しかしそれは半分しか正しくありません。


内容証明郵便による「催告」は、民法上「時効の完成猶予」の効果をもたらします。つまり、催告が相手に届いた日から6カ月間は、時効の完成が一時停止されます。この6カ月間は時効がリセットされた状態ではなく、単に「止まっているだけ」です。


6カ月以内に以下のいずれかの法的手続きを行わないと、猶予期間が終了した翌日から時効は再び進行し、最終的に権利が消滅します。これが条件です。


- 遺留分侵害額請求の調停申立て:家庭裁判所に調停を申し立て、調停委員を交えた話し合いによる解決を目指す手続き。


- 遺留分侵害額請求訴訟の提起:地方裁判所(請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所)に対して判決を求める手続き。


調停が成立したり確定判決が出たりすると「時効の更新」という効果が生じ、時効のカウントがゼロからリセットされます。調停が不成立となった場合は、調停終了日から6カ月間は時効の完成が猶予されるため、その期間内に訴訟を起こす必要があります。


注意すべきなのは、「相手と話し合い中」「相手が前向きな返事をしている」という状態は、法律上の時効の完成猶予とは無関係である点です。これは使えそうです。私的な交渉をどれだけ続けても時効は止まらず、6カ月の猶予期間が過ぎればアウトです。


時効を完全に止める手順をまとめると以下のとおりです。
























ステップ 手続き 法的効果
Step 1 配達証明付き内容証明郵便で「遺留分侵害額請求権を行使する」旨を通知 時効の完成猶予(6カ月間)
Step 2 6カ月以内に調停申立て・訴訟提起のいずれかを実施 時効の完成猶予の継続
Step 3 調停成立・判決確定 時効の更新(カウントがリセット)


実際に内容証明を作成・送付する場合には、「遺留分侵害額請求権を行使する」という明確な文言と、被相続人の氏名・死亡日・侵害の原因となった遺言または贈与の特定、請求者と相手の氏名・住所を正確に記載する必要があります。記載漏れがあると法的効力が弱まる可能性があるため、可能であれば弁護士に作成を依頼することを検討してください。


遺留分侵害額請求の時効に関する「意外な落とし穴」:3つの見落とされがちな例外

遺留分侵害額請求の時効については、一般に知られていない重要なポイントがいくつかあります。金融や資産管理に関心のある方が特に注意すべき3つの落とし穴を解説します。


🔴 落とし穴1:遺言無効を争っていても時効は進行する


「この遺言は認知症だった父が書けるはずがない」と遺言無効の訴訟を起こしている場合でも、原則として遺留分侵害額請求の時効は進行します。最高裁昭和57年11月12日判決は「遺留分を侵害する財産の大半を把握している場合、無効と信じて請求しなかったことにもっともな特段の事情が認められない限り、時効は進行する」と判断しています。つまり、遺言無効訴訟に集中しているうちに遺留分の1年の時効が完成するリスクがあります。


対策は一つです。遺言無効訴訟と並行して、予備的に「遺留分侵害額請求権の行使」の意思表示を内容証明郵便で送っておくことが不可欠です。遺言を認めたように感じて心理的抵抗があっても、権利を守るために必要な手続きです。


🔴 落とし穴2:遺留分請求後に発生する「5年の別時効」を見落とす


遺留分侵害額請求の意思表示を行うと、具体的な金額の支払いを求める「金銭支払請求権」が新たに発生します。この金銭支払請求権には、改正民法(2020年4月1日以降の行使)のもとで5年の消滅時効が適用されます(民法166条)。時効の起算点は遺留分侵害額請求権を行使した時点です。


「請求した=権利を行使した」と安心して、話し合いが長引いた結果、5年が経過してしまう事態が実際に起きています。痛いですね。特に遺産規模が大きく、相手方が引き延ばし戦術をとるケースでは要注意です。5年以内に調停・訴訟で決着をつけることが必須です。


🔴 落とし穴3:認知症や未成年の相続人は時効の扱いが特殊になる


遺留分権利者が認知症を発症している、あるいは乳幼児・低年齢の未成年者である場合、「相続開始および遺留分侵害を知ること」が実質的に不可能です。このような場合、1年の消滅時効は進行しないとされています。


ただし、未成年者の場合は法定代理人(親権者等)が侵害を知った日が起算点となるため、法定代理人が認識した時から1年のカウントが始まります。また、10年の除斥期間は認知症・未成年問わず機械的に進行するため、相続開始から10年が経過すれば、いかなる事情があっても権利は消滅します。これは例外なしのルールです。


これらの落とし穴は、通常のニュースや相続の入門書ではなかなか触れられていません。大きな資産相続を前にしたとき、この情報を知っているかどうかで、数百万円から数千万円の差が生じる可能性があります。



遺留分侵害額請求権の時効の「特段の事情」に関する重要判例を解説したコラムです。


遺留分侵害の有無が未確定の場合の消滅時効の起算点について|K相続遺言法律事務所


遺留分侵害額請求の時効管理と相続税申告:同時進行が必要な理由

遺留分侵害額請求の問題は、時効の管理だけに集中していればよいわけではありません。相続税申告の期限と同時進行で対処しなければならない点が、実務上の大きなハードルです。


相続税の申告期限は「被相続人が亡くなった翌日から10カ月以内」です。遺留分侵害額請求の結果がまだ確定していない段階でも、この申告期限は待ってくれません。遺留分の金額が未確定の場合、まず「遺留分請求はなかったものとして」遺言書の内容どおりに申告書を提出し、後から修正する手続きが必要です。これが基本です。


遺留分の支払い額が確定した後の税務処理は以下のようになります。


- 金銭を支払った側(多く相続した側):支払った遺留分相当額だけ相続財産が減少するため、支払いすぎた相続税を取り戻す「更正の請求」を税務署に提出できます。


- 金銭を受け取った側(遺留分を請求した側):取得した金額が相続財産として加算されるため、不足分の相続税を追納する「修正申告」が必要になります。


いずれも「遺留分の支払額が確定したことを知った日の翌日から4カ月以内」に手続きを行う必要があります。この4カ月の期限を守れないと、過少申告加算税延滞税のペナルティが課されるリスクがあります。


さらに見落とされがちなのが「小規模宅地等の特例」です。遺留分侵害額請求によって取得した宅地であっても、要件を満たせばこの特例が適用できる場合があります。土地の評価額を最大80%減額できるため、修正申告の際に見逃すと数百万円単位の節税機会を逃すことになります。


資産規模が大きい相続においては、請求額が数千万円単位になることは珍しくありません。法律と税務の両面が絡む局面では、遺留分侵害額請求を専門とする弁護士と相続税を専門とする税理士が連携した対応が最も安全です。時効の管理から税務申告まで一気通貫でサポートしてくれる相談先を確保しておくことを、相続が発生した直後に検討することをお勧めします。



遺留分解決後の相続税処理(更正の請求・修正申告)について詳しく解説したページです。


遺留分の時効はいつまで?1年・10年のルールや遺留分侵害額請求の進め方|VSG相続税理士法人


遺留分侵害額請求の時効と「資産承継設計」:金融リテラシーが高い人こそ早期対応が鍵

金融や資産運用に関心が高い方々の間では、相続対策として生前贈与や遺言書の作成が広く行われています。しかし、「準備万端に思えた資産承継計画が、遺留分侵害額請求によって根底から覆される」ケースが少なくありません。


特に遺留分トラブルが発生しやすいのは以下の3つのケースです。


- 不動産が遺産の大部分を占める場合:相続税評価額(路線価)では問題がなくても、実勢価格(時価)で再計算すると遺留分を大幅に侵害していたというケースがあります。評価方法一つで請求額が500万円以上変わることも珍しくありません。


- 非上場株式の事業承継:後継者に自社株を集中させた結果、他の相続人の遺留分を侵害してしまうケースが増えています。株式の評価は複雑で、争いが長期化しやすいです。


- 過去10年以内の多額の生前贈与:特定の子供にのみ住宅取得資金や事業資金を援助していた場合、その分が遺留分の計算に加算される「持戻し計算」の対象になります。


これらはいずれも、相続が発生した時点ではじめて問題が顕在化するケースです。


資産承継を設計する立場(被相続人側)としては、遺言書の作成と同時に「遺留分侵害が生じないか」の試算を行い、必要に応じて相続人全員と事前に合意形成を図ることが、後のトラブルを防ぐ最善策です。また、生命保険の活用(受取人を指定した生命保険金は遺留分の対象外)や、遺留分の事前放棄制度(家庭裁判所の許可が必要)なども検討に値する選択肢です。


一方で、相続人として遺留分を請求する立場の方は、「相続が発生した瞬間から1年の時効がカウントされている可能性がある」という意識が最も大切です。「まだ気持ちの整理がついていない」「揉めたくない」という感情的な理由で先送りにするほど、行使できる権利の期間は短くなっていきます。遺留分を「知った時」から6カ月を目安に専門家へ相談し、内容証明の送付と6カ月以内の法的手続きを確実に実行することが、権利を守るための現実的な行動指針です。これだけ覚えておけばOKです。


金融リテラシーを高めることと、相続・遺留分に関する法的知識を身につけることは、資産を守る意味で表裏一体の関係にあります。不確実な状況でも冷静に権利を主張できるよう、日頃から専門家とのネットワークを築いておくことが、長期的な資産防衛の観点から見て非常に重要な備えとなります。




遺留分の法律と実務[第三次改訂版]  相続・遺言における遺留分侵害額請求の機能