
公正証書遺言は公証人が作成するため法的信頼性が極めて高く、書式の不備で無効になることはありません 。しかし、たとえ公正証書遺言であっても遺留分を侵害した内容の場合、遺言自体は有効ですが、遺留分権利者は侵害額請求権を行使できます 。
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遺留分は民法によって保障された権利であり、遺言の内容によってもこれを奪うことはできません 。法定相続人のうち配偶者、子、直系尊属(両親・祖父母)には最低限度の遺産取得割合が法的に保障されています 。兄弟姉妹には遺留分は認められません 。
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公正証書遺言で「全財産を特定の人に相続させる」と記載されていても、遺留分権利者が請求すれば侵害された金額分の支払いを受けることが可能です 。これにより遺言書の内容と遺留分権の両立が図られています 。
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公正証書遺言の作成時には遺留分を考慮した内容にすることが重要です。証人2名の立ち会いのもと公証役場で作成される公正証書遺言は、偽造・紛失・変造のリスクがほとんどありません 。また相続開始後の検認手続きが不要で、速やかに遺産の解約や名義変更手続きを進められます 。
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しかし、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成すると、後に相続トラブルの原因となるリスクがあります 。公証人は遺言の法的形式は確認しますが、遺留分侵害の有無まで詳細に検討するとは限りません。したがって遺言者側で事前に遺留分額を計算し、可能な限り侵害しない内容にすることが望ましいとされています。
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金融業に従事する方々が顧客にアドバイスする際も、公正証書遺言の高い法的効力と遺留分権の両方を理解し、バランスの取れた相続対策を提案することが重要です 。
参考)公正証書遺言の作り方、メリットや費用について解説
遺留分侵害額の計算は「遺留分算定基礎財産額×個別遺留分割合」で算出されます 。個別遺留分割合は、全体の遺留分割合に法定相続分を乗じて求めます 。
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具体的な割合は以下の通りです。直系尊属のみが相続人の場合は遺産の3分の1、それ以外の場合は遺産の2分の1が全体の遺留分となります 。例えば遺産1000万円で相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者の遺留分は1000万円×1/2×1/2=250万円、子1人当たりは1000万円×1/2×1/4=125万円となります 。
参考)遺言書がある場合等の遺留分侵害額の請求(旧:遺留分減殺請求)…
遺留分侵害額請求は金銭による支払いに限定されており、相続財産そのものを取り戻すことはできません 。ただし請求を受けた相続人が相続財産をそのまま返還することは可能です 。この計算方法を正確に理解することで、公正証書遺言作成時の事前対策や侵害発生後の対応が適切に行えます。
遺留分侵害額請求権には2つの期間制限があります。まず「相続開始及び遺留分侵害の事実を知った時から1年」の時効期間です 。これは権利者の主観的認識を基準とする時効制度で、例えば被相続人の死亡時に遺言の存在を知らず、3ヶ月後に遺留分を侵害する遺言が発見された場合、発見時点から1年以内に請求する必要があります 。
参考)遺留分侵害額請求とは?時効・請求のやり方を解説
もう一つは「相続開始から10年」の除斥期間です 。これは客観的期間制限で、権利者が事実を知らなくても被相続人の死亡から10年経過すると権利が消滅します 。除斥期間は時効と異なり、相手方の援用がなくても自動的に権利が失われる点に注意が必要です 。
参考)遺留分侵害額請求の時効はいつ?起算点や時効中断の方法も解説【…
公正証書遺言の場合、原本が公証役場で保管されており発見が容易なため、多くのケースで1年の時効期間内に請求が行われます。しかし遺言の存在を隠匿されていた場合などは発見が遅れる可能性もあり、時効管理は重要な論点となります 。金融業従事者は顧客に対し、これらの期間制限について適切に情報提供することが求められます。
公正証書遺言は非常に無効になりにくいとされていますが、完全に無効リスクがないわけではありません。主な無効事由として遺言能力の欠如、証人の不適格、遺言者の口授不備などがあります 。
参考)公正証書遺言が無効となる確率はどれくらい?判例や有効となる条…
東京高裁平成25年3月6日判決では、遺言者が難治性の退行期うつ病や認知症を発症中で、配偶者が生存しているにもかかわらず全財産を妹に相続させる内容に変更した合理的理由が見当たらないとして、公正証書遺言の無効が認められました 。また東京地裁平成11年9月16日判決では、パーキンソン病で知的能力が低下した遺言者が「ハー」などの簡単な返事のみで遺言作成に関与した事例で、遺言能力の欠如により無効とされています 。
参考)公正証書遺言を無効にしたい!無効にできるケースや確率や方法、…
公正証書遺言が無効となった場合、法定相続分による分割が原則となります。この場合、遺留分を侵害された側にとっては法定相続分の方が有利になることが多く、遺言無効の主張は戦略的に重要な選択肢となります 。金融業従事者は、このような稀有なケースも含めて包括的な相続対策を検討する必要があります。
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