予定納税基準額の計算と対象者・減額申請の全知識

予定納税基準額の計算と対象者・減額申請の全知識

予定納税基準額の計算から減額申請まで徹底解説

前年の所得が多かった年にかぎって、翌年の手元資金が予想以上に減ります。


この記事でわかること
🧮
予定納税基準額の正しい計算方法

原則は前年の申告納税額がそのまま基準額になるが、所得の種類によって計算が変わる仕組みを解説

📅
納付スケジュールと延滞リスク

7月・11月の2回に分けて納付が必要。期限超過2ヶ月後は延滞税が最大年8.7%に跳ね上がる

📋
減額申請と還付加算金の活用術

業績悪化時は減額申請が有効。一方、資金に余裕があれば還付加算金(年2.4%前後)狙いで納税する選択肢も


予定納税基準額の計算の仕組みと基本構造

予定納税とは、前年分の所得税と復興特別所得税を「前払い」する制度です。税務署が毎年6月15日までに通知を送り、原則として予定納税基準額の3分の1ずつを第1期(7月)・第2期(11月)の2回に分けて納めます。


予定納税基準額の計算で最初に確認すべき点は「除外所得の有無」です。前年の所得に山林所得・退職所得・譲渡所得・一時所得・雑所得・分離課税の所得(上場株式等の配当所得等は除く)・平均課税を受けた臨時所得(以下まとめて「除外所得」)が含まれているかどうかで、計算式が2パターンに分かれます。これが基本です。


【パターン①:除外所得がない場合】


前年の申告納税額がそのまま予定納税基準額になります。確定申告書の「申告納税額」の欄(第一表の右下あたり)の金額がそのまま使われます。


【パターン②:除外所得が含まれる場合(または外国税額控除・災害減免法の適用がある場合)】


計算式は次のとおりです。
























計算要素 内容
①課税総所得・上場株式等の課税配当所得等に係る所得税額 除外所得がなかったものとして計算した金額
源泉徴収税額(除外所得に係るものは除く) 源泉徴収された税額のうち、除外所得以外に対応するもの
③復興特別所得税額 ①に対応する復興特別所得税
予定納税基準額 ①−②+③


この基準額が 15万円以上 になる人が予定納税の対象です。


投資家の方に特に関係するのが「上場株式等の配当所得等」の扱いです。分離課税の所得は原則として除外所得とされる一方、上場株式等の配当所得等は除外されない扱いになっています。つまり、上場株式の配当を申告した場合はパターン②の計算の中にきちんと組み込まれます。これは意外ですね。


国税庁 No.2040「予定納税」|計算式・対象者・納付方法の公式解説(H3全体の基本情報)


予定納税基準額の計算を具体例で確認する手順

実際の数字で確認してみましょう。


【例1:シンプルな事業所得のみのケース】



  • 前年の事業所得:600万円

  • 所得控除の合計:200万円

  • 課税所得:400万円

  • 所得税額(税率20%・控除427,500円):約372,500円

  • 源泉徴収税額:0円

  • 申告納税額(予定納税基準額):372,500円

  • 第1期・第2期の予定納税額:372,500 ÷ 3 = 約124,100円(100円未満切り捨て)


このケースでは、7月と11月にそれぞれ約12.4万円、合計約24.8万円を先払いします。コンビニで使う1か月の生活費の約2〜3か月分を、夏と秋に「いきなり準備せよ」と言われるようなイメージです。


【例2:雑所得(FX利益)が含まれるケース】


前年の確定申告に、FXによる雑所得が混在している場合、雑所得は「除外所得」に該当します。つまり、パターン②で計算します。



  • 事業所得に係る所得税額:200,000円

  • FX(雑所得)に係る源泉徴収なし・申告分離

  • 事業所得に係る源泉徴収税額:10,000円

  • 復興特別所得税(事業所得部分):4,200円

  • 予定納税基準額:200,000 − 10,000 + 4,200 = 194,200円

  • 各期予定納税額:194,200 ÷ 3 = 約64,700円


FXなどの雑所得だけで納税額が膨らんでいる年は、雑所得部分は計算から除かれます。つまり〇〇が条件です、という形で言えば「事業所得などの経常所得部分のみが基準額の条件です」。前年に偶発的な利益があった人は、実際の予定納税額が想像より低くなる可能性があります。これは使えそうです。


確定申告書の「申告納税額」欄は、所得の種類が混在している場合には予定納税基準額と一致しないこともあります。自身の状況を確認するには、国税庁の確定申告書等作成コーナーで試算するか、税理士に相談するのが確実です。


国税庁 確定申告書等作成コーナー「予定納税とは」|予定納税額の記載・確認方法の参考として


予定納税基準額の対象者と年収の目安を把握する方法

「年収いくらから対象になるのか」は、多くの個人事業主や副業投資家が気になる点です。結論から言うと、年収に明確なラインはありません。


対象の条件はシンプルで、「予定納税基準額が15万円以上」になること、それだけです。


ただし、課税所得(年収から各種控除を差し引いた後の金額)が195万円を超えると所得税率が10%となり、所得税額が15万円を超えてきます。扶養控除社会保険料控除など控除の大きさが人によって異なるため、年収が同じでも予定納税の対象になるかどうかは変わります。
























対象になりやすい人のイメージ ポイント
個人事業主(課税所得195万円超) 事業所得のみの場合はパターン①で算出
副業収入がある会社員 給与以外の所得が多く基準額が15万円超になれば対象
年収2,000万円超の会社員 勤務先での年末調整がなく自身で確定申告が必要になるため対象になることがある
株式・FX・不動産などの投資所得が大きい人 所得の種類によって基準額計算のパターンが変わるため注意


源泉徴収されている個人事業主の場合も注意が必要です。前年の所得税額が15万円以上であっても、そこから源泉徴収税額を差し引いた後の基準額が15万円を下回れば、予定納税の対象外になります。これは対象者の判定で見落としがちな部分です。


通知書は毎年6月に届きます。届かない場合は「基準額が15万円未満だった」「e-Taxに切り替えて通知が電子化された」「振替納税などのキャッシュレス納付を選択したため紙の通知書が来なくなった」のいずれかの可能性が高いです。e-Taxのメッセージボックスを確認しておけば問題ありません。


マネーフォワード クラウド「予定納税額の通知書はいつ届く?対象者や紛失した場合の対処法」|通知が届かない理由の確認に


予定納税基準額を踏まえた減額申請の手順と期限

前年よりも今年の所得が明らかに減りそうな状況でも、予定納税は前年の数字をそのまま使って計算されます。そのままでは過大な前払いになってしまうことがあります。厳しいところですね。


そこで活用したいのが「減額申請」です。


減額申請の対象となる主なケース



  • 廃業・休業・失業した

  • 業績悪化により今年の収入が前年を大幅に下回る見込みがある

  • 災害・盗難・横領などにより事業用資産に損害を受けた

  • 扶養控除や社会保険料控除などの所得控除が前年より大幅に増える見込みがある


手続きの流れ



  1. 国税庁のWebサイトから「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」をダウンロードする

  2. 申告納税見積額(今年の見込み額)を計算して記入する

  3. 根拠書類(損益計算書や収支見積書など)を添付して、管轄の税務署に提出する(郵送・持参・e-Taxいずれも可)

  4. 税務署から「承認」「一部承認」「却下」のいずれかが書面で通知される


申請期限は厳守が必要です。
















申請の区分 期限
第1期分のみ、または第1期・第2期の両方を減額する場合 その年の7月15日まで
第2期分のみを減額する場合 その年の11月15日まで


期限は厳しく、1日でも過ぎると申請が受け付けられません。7月15日に間に合わなかった場合は第1期分はそのまま納付し、第2期分だけを減額する手段が残ります。期限が土日祝日にあたる年は翌営業日が期限になります。


なお、申請が「却下」された場合でも予定納税の義務は消えません。却下通知が届いたら速やかに納税の準備をしてください。


国税庁「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続」|申請書の様式・提出先の公式情報


予定納税基準額と延滞税・還付加算金を金融視点で比較する

予定納税を正しく計算するだけでなく、「払いすぎた場合どうなるか」「払い忘れた場合どうなるか」を金融的に把握しておくことが、実際の資金計画に直結します。


延滞した場合のコスト(2025年度の目安)


予定納税の期限を過ぎると、延滞税がかかります。



  • 期限翌日から2か月以内:年2.4%程度(延滞税特例基準割合+1%の方が低い場合)

  • 2か月超:年8.7%程度(延滞税特例基準割合+7.3%の方が低い場合)


例えば、予定納税額20万円を3か月(うち1か月超過で2か月超部分あり)延滞すると、延滞税はざっくり計算で数千円規模になります。ただし、2か月を超えた分は年8.7%の利率が適用されるため、長引くほど損です。


払い過ぎた場合に受け取れる還付加算金


一方、予定納税をそのまま納付して確定申告で還付される場合は、「還付加算金」という利子相当額を受け取れます。金利は延滞税の基準と同じ仕組みで算出され、2025年度時点では年2.4%前後です。


銀行普通預金の金利が0.1%程度であることと比べると、資金に余裕がある投資家にとっては注目すべき水準です。つまり、資金に余裕があれば、業績が下がる見込みでもあえて減額申請をせずに納税し、翌年の確定申告で還付加算金を受け取るという選択肢が金融的に合理的なケースもあります。


ただし、このメリットを享受するには以下の前提条件を満たす必要があります。



  • 予定納税を期限通りに完納できる手元資金があること

  • 実際に当年の所得が減少し、確定申告で還付が発生すること

  • 還付加算金に課税されること(雑所得として申告が必要)を理解していること


還付加算金は非課税ではありません。受け取った年の「雑所得」として確定申告で申告する義務があります。還付加算金が条件です、という考えで制度を活用しましょう。


なお、納税資金の管理には「納税準備預金」の活用も有効です。これは税務署が認める専用口座で、原則として納税時のみ引き出し可能ですが、預金利息への課税(通常20.315%)が免除される仕組みです。一部の銀行では通常より高い金利が設定されていることもあり、予定納税がある個人事業主・投資家には見逃せない選択肢のひとつです。


マネーフォワード クラウド「所得税の予定納税とは?計算方法や還付、延滞税まで解説」|還付加算金・延滞税の具体的な数値の参考として


佐藤綜合会計事務所「知らないと損する?予定納税の仕組みと減額申請」|延滞税の算出方法の参考として