種類株式の評価と国税庁が示す3類型の活用法

種類株式の評価と国税庁が示す3類型の活用法

種類株式の評価と国税庁が定める方法を徹底解説

黄金株を1株保有しているだけで、相続税評価額がゼロになるわけではありません。


📋 この記事の3ポイント要約
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国税庁が評価方法を公表しているのは3類型のみ

配当優先の無議決権株式・社債類似株式・拒否権付株式(黄金株)の3種類だけが国税庁の「情報」で明確化されており、それ以外の種類株式は個別判断となります。

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無議決権株式の5%評価減は自動適用ではない

議決権がない株式でも、原則は普通株式と同額で評価されます。5%評価減を受けるには、法定申告期限までに届出書の提出など3つの要件を全て満たす必要があります。

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社債類似株式は「社債」として評価される

一定要件を満たす社債類似株式は、株式ではなく利付公社債の評価に準じて発行価額で評価されます。普通株式と同じ計算式を使うと評価誤りになる点に注意が必要です。


種類株式の評価における国税庁の基本的な考え方

種類株式とは、会社法108条に基づき、配当・議決権・残余財産分配など普通株式とは異なる内容が設定された株式のことです。事業承継や資金調達の場面で広く活用されていますが、相続税・贈与税・法人税の申告では「時価でいくら評価するか」が非常に重要になります。


財産評価基本通達(評価通達)には、種類株式の評価方法は原則として定められていません。これが実務上の大きな悩みどころです。評価通達の逐条解説によれば、「種類株式は権利内容の組み合わせが多岐にわたり、一般的な評価方法をあらかじめ定めておくことが困難である」とされています。つまり、種類株式の評価は基本的に「個別判断」が原則なのです。


そこで国税庁は平成19年3月9日付で「種類株式の評価について(情報)」を公表し、事業承継目的での活用が特に想定される3つの類型に限って具体的な評価方法を明示しました。3類型というのがポイントです。この3類型以外の種類株式については、依然として個別判断が求められる状況が続いており、納税者と税務当局の間でトラブルになるケースも現実に存在します。


実際、森・濱田松本法律事務所が代理した「株式会社サザビーリーグ」の創業者関連事案では、種類株式の時価評価をめぐって課税処分が争われ、2022年1月に国税不服審判所が課税処分の全部取消を認める裁決を下しています。これは、通達の機械的適用が必ずしも適法ではないことを示す先例として注目されています。


評価通達はあくまで国税庁内部の取決めです。法令に適合しない場合には裁判所も通達の適用を否定します。このことを理解したうえで、種類株式の評価に向き合うことが必要です。


国税庁「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日)の公式ページ。3類型の評価方法の原典として必ず確認しておきたい情報です。


国税庁|種類株式の評価について(情報)


種類株式の評価における配当優先の無議決権株式の仕組み

配当優先の無議決権株式とは、文字通り「配当は普通株式より優先的に受け取れるが、株主総会で議決権を行使できない」という種類株式です。事業承継では後継者以外の相続人に渡す株式として、よく選ばれます。


この株式の評価では、評価方式ごとに扱いが異なります。類似業種比準方式による場合、比準要素の一つである「1株当たりの配当金額(Ⓑ)」は、株式の種類ごとに実際の配当金額を使って計算します。優先配当と普通配当を一律に平均するのではなく、それぞれ別立てで計算するのが正しい処理です。


一方、純資産価額方式の場合には注意が必要です。純資産価額方式では、配当の多寡は評価要素に含まれていません。そのため、配当優先株式であっても普通株式であっても、同じ計算式(評価通達185)がそのまま適用されます。配当優先という特性が価値に反映されないのです。


無議決権株式の評価については、原則として議決権の有無を考慮せずに評価します。つまり、議決権がなくても普通株式と同じ評価額になります。


ただし、以下の3つの条件をすべて満たす場合に限り、納税者の選択により5%の評価減が認められます。


  • 📋 遺産分割の確定:相続税の法定申告期限までに当該会社の株式について遺産分割協議が確定していること
  • 📋 全同族株主の同意と届出:株式を取得したすべての同族株主が「無議決権株式の評価の取扱いに係る選択届出書」を法定申告期限までに所轄税務署長へ提出していること
  • 📋 評価明細書への記載・添付取引相場のない株式の評価明細書に調整計算の算式を記載した書類を添付していること


この「5%評価減」は自動的に適用されるものではありません。これが重要なポイントです。手続きが一つでも欠けると評価減は認められないため、事前にスケジュールを組んで税理士と連携した対応が不可欠です。


5%評価減の仕組みは、株式全体の合計評価額を変えないまま、相続人間の配分を調整するものです。具体的には、無議決権株式の評価額を5%下げた分だけ、同じ相続で取得した議決権株式の評価額に加算されます。株式全体の税負担総額は変わりませんが、誰がどの株式を取得するかによって各相続人の税負担に差が出てくる仕組みです。


種類株式の評価における社債類似株式と拒否権付株式の特徴

社債類似株式は、株式でありながら経済的な実質が社債に近い性質を持つ種類株式です。国税庁が定める要件は次の5つです。


  • 💰 配当は優先的に支払われ、優先配当を超える配当は行われない(累積型)
  • 💰 残余財産の分配は発行価額を超えない
  • 💰 一定期日に発行会社が発行価額で全株を償還する
  • 💰 議決権を有しない
  • 💰 他の株式を対価とする取得請求権を有しない


これら5つの条件をすべて満たす株式は、社債と同様に「発行価額で評価」されます。つまり、類似業種比準方式や純資産価額方式を使う必要はなく、発行価額がそのまま評価額になります。


社債類似株式が大切です。この株式を発行している会社の「それ以外の株式(普通株式など)」を評価するときは、社債類似株式を「社債(負債)」として扱い、貸借対照表上の負債に算入して純資産価額を計算します。社債類似株式が多いほど普通株式の評価額が下がる可能性があり、事業承継の節税スキームとして活用される場合があります。


一方、拒否権付株式(黄金株)の評価は、一見すると意外なルールが適用されます。株主総会の決議を拒否できるという絶大な権限を持つにもかかわらず、相続税評価上は「拒否権を考慮せず普通株式と同様に評価する」のが原則です。


拒否権という特別な経済的価値があるにもかかわらず評価額が普通株と同じなのは、黄金株の大きな特徴です。事業承継で先代経営者が1株だけ黄金株を保有し続けるケースがよく見られますが、その黄金株の相続税評価額は通常の評価通達に基づいて計算されます。評価額が特別に高くなったり低くなったりするわけではありません。


ただし、黄金株の保有は会社支配権の継続という意味で大きな実態的メリットがあります。後継者が自由に重要事項を決議できなくなるため、企業経営上のリスクも存在します。相続税の評価だけでなく、黄金株が会社に与える長期的な影響も含めて、専門家に相談することが重要です。


種類株式の評価で国税庁が公表していない類型はどう対応するか

国税庁が平成19年3月に示したのは、配当優先の無議決権株式・社債類似株式・拒否権付株式の3類型のみです。しかし現実の実務では、これら以外にも多様な種類株式が存在します。残余財産の優先分配権だけを持つ株式、取得請求権付株式、強制取得条項付株式、あるいは複数の権利を組み合わせた複合型種類株式などがその例です。


これらについては、財産評価基本通達をそのまま適用することが「著しく不適当」と判断される場合、個別に権利内容を判断して評価する必要があります。これが個別評価です。


個別評価では、その種類株式の権利内容に基づいて「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立すると認められる価額」(税法上の時価の定義)を合理的に算定しなければなりません。


例えば、金銭対価の取得条項付種類株式(一定の条件が満たされると発行会社が強制的に取得できる株式)の場合、取得条項における償還価額が時価の上限になると考えられます。なぜなら、購入後すぐに当該価額で強制取得される可能性があれば、通常の取引でその価額を超える値段で売買は成立しないからです。渋谷雅弘教授も「取得対価の額が評価額の上限となる」と明言しており、日本公認会計士協会の研究報告でも同様の見解が示されています。


実務において種類株式の個別評価が必要になる場面では、以下のような対応が考えられます。


  • 🔍 日本公認会計士協会「種類株式の評価事例」(平成25年11月6日、経営研究調査会研究報告第53号)を参照する
  • 🔍 企業会計基準委員会・実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(平成15年3月)を参照する
  • 🔍 税務当局が評価額に異議を唱えた場合に備え、自社の種類株式の権利内容に照らした評価根拠を文書化しておく


個別評価は税務当局との見解の相違が生じやすい領域です。対策が必要です。特に、法人が種類株式を他社に対して時価より低額または高額で譲渡した場合、法人税法上の寄附金・受贈益課税が生じる可能性があります。また個人が法人に対して時価の2分の1未満で種類株式を譲渡した場合、所得税法59条1項2号により「時価で譲渡したものとみなされる」みなし譲渡課税の対象になります。評価を誤ると思わぬ税負担が発生するリスクがあります。


日本公認会計士協会による種類株式の評価事例(経営研究調査会研究報告第53号)は、個別評価の実務参考として活用できます。


日本公認会計士協会|種類株式の評価事例(経営研究調査会研究報告第53号)


種類株式の評価と非上場株式の基本的な評価方法との関係

種類株式の評価を正しく理解するには、まず非上場株式(取引相場のない株式)の基本的な評価の仕組みを押さえておく必要があります。


非上場株式の評価は、国税庁の財産評価基本通達178〜189-7に定められており、株主の属性(同族株主かどうか)と会社の規模(大・中・小)によって適用する評価方式が決まります。
























評価方式 主な対象 概要
類似業種比準方式 大会社(原則)、中会社 上場会社の株価を参考に、配当・利益・純資産の3要素で比準計算
純資産価額方式 小会社(原則)、中会社 会社の時価純資産から法人税相当額を控除して評価
配当還元方式 同族株主以外の少数株主 年間配当金を10%の資本還元率で割り戻した額で評価


種類株式にこれらの評価方式を適用するとき、問題が生じやすい場面があります。例えば、配当還元方式を使う場合、通達では「資本金等の額」(会社全体の資本の額)を基に計算します。しかし、普通株式と経済条件が大きく異なる種類株式にまで、会社全体の資本の額を均等に当てはめることには合理性がない場合があります。


このケースでは、種類株式ごとの発行価額の内訳である「種類資本金額」を使って評価するほうが経済的に適切との指摘があります。これは森・濱田松本法律事務所の論文でも指摘されている実務上の論点です。


類似業種比準方式について一点だけ補足します。評価では、直前期末(課税時期の直前に到来した決算期末)の数値を必ず使用しなければなりません。純資産価額方式では「課税時期の直後期末」を選択できる場合もありますが、類似業種比準方式ではこの選択肢はありません。種類株式の評価でもこのルールは同様に適用されます。


国税庁のNo.4638では、取引相場のない株式の評価方法の基本が整理されており、種類株式の評価を検討する前の確認として有用です。


国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価


種類株式の評価を活かした事業承継スキームと独自視点の落とし穴

種類株式は事業承継において非常に有効なツールです。しかし、評価方法を正しく理解しないまま活用すると、節税効果が出ないどころか、思わぬ税負担を招くこともあります。


事業承継での典型的な活用パターンとして、「後継者に議決権付きの普通株式を集中させ、他の相続人には配当優先の無議決権株式を渡す」というスキームがあります。これにより、後継者が経営権を掌握しつつ、他の相続人には配当という形で経済的利益を確保させることができます。


このスキームで重要な点は、無議決権株式の5%評価減の活用です。ただし、既に解説したとおり、5%評価減は3つの厳格な要件を全て満たすことが前提です。相続が発生してから慌てて手続きを進めようとすると、法定申告期限(相続開始から10ヶ月以内)までに遺産分割協議が整わず、評価減を受けられないケースがあります。


これは見逃されがちなリスクです。事前にどの株式を誰が取得するかをシミュレーションし、遺言と組み合わせた設計をしておくことが理想的です。


もう一つ、見過ごされがちな落とし穴があります。社債類似株式を使った節税スキームです。社債類似株式を多く発行すると、その分だけ普通株式の純資産価額が下がり、事業承継に伴う相続税・贈与税が軽減されるように見えます。


しかし、社債類似株式の発行価額で評価されるとはいえ、発行価額自体が「時価」と乖離した設定になっていれば、みなし贈与課税の問題が浮上します。また、社債類似株式には「一定期日に会社が発行価額で償還する」という条件があるため、将来的に会社のキャッシュフローを圧迫するリスクも存在します。節税効果だけでなく、会社財務への影響も必ずセットで確認することが大切です。


拒否権付株式(黄金株)についても一点、意外な落とし穴があります。黄金株の評価額は普通株式と同じとはいえ、先代経営者が黄金株を保有したまま亡くなった場合、その黄金株は相続財産として相続人に移転します。相続人が後継者の経営に反対している場合、黄金株が予期せぬ支配権争いの火種になる可能性があります。


事業承継を検討している方は、税務・法務・財務のすべての側面を専門家とともに検討することをお勧めします。特に種類株式の評価は専門性が高い分野です。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」も参考になります。


中小企業庁が公表する事業承継ガイドラインは、種類株式の活用を含む事業承継全体の流れを把握するうえで実務的な参考資料になります。


中小企業庁|事業承継ガイドライン