

IFRSを適用している在外子会社の財務諸表は、そのまま連結に取り込んでいいと思っていませんか。実は修正を怠ると、連結財務諸表の当期純利益が数億円単位でズレて計上されるリスクがあります。
実務対応報告18号の正式名称は「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」といいます。企業会計基準委員会(ASBJ)が2006年5月17日に公表した基準で、海外子会社を抱える日本の親会社が連結決算を行う際の重要な指針です。
日本の連結会計基準(企業会計基準第22号)では、「同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一しなければならない」と定めています。つまり、本来であれば在外子会社も日本基準に統一して連結するのが原則です。
ところが現実には、海外子会社はその国や地域で定められた会計基準(IFRSや米国会計基準)で財務諸表を作成しています。毎期、全在外子会社の財務諸表を日本基準に全面的に組み替えることは実務上の負担が非常に大きく、現実的ではありません。
そこで実務上の便宜として、「当面の間」、在外子会社の財務諸表がIFRSまたは米国会計基準に準拠して作成されている場合には、一定の修正を前提にそのまま連結に利用することを認めた取扱いが、この実務対応報告18号です。つまり「全面組み替え」ではなく「差異がある重要な部分だけ修正する」という実用的なアプローチです。
対象となるのは、次の財務諸表を利用する場合です。① IFRS(国際財務報告基準)に準拠した在外子会社等の財務諸表、② 米国会計基準(US GAAP)に準拠した在外子会社等の財務諸表、③ 指定国際会計基準または修正国際基準を適用している国内子会社等の財務諸表(2017年改正以降)。「当面の取扱い」という言葉が示す通り、この基準は将来的に廃止される可能性を含んだ暫定的な位置づけです。
企業会計基準委員会(ASBJ)による実務対応報告第18号の条文全文・改正経緯の一覧ページ
実務対応報告18号は、2006年の制定以降、現在までに3度の改正が行われています。改正の都度、修正項目の内容や適用範囲が見直されています。
これは重要です。
2006年(制定):修正5項目を定める
当初の制定時には、在外子会社の財務諸表で修正が必要な項目として次の5項目が列挙されました。① のれんの償却、② 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理、③ 研究開発費の支出時費用処理、④ 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価、⑤ 少数株主損益の会計処理。
2015年(第2回改正):修正項目を4項目に整理
2015年3月26日の改正(平成27年改正)では、3つの変更がありました。まず、「少数株主損益の会計処理」が修正項目から削除されました。これは、2013年9月の連結会計基準改正により、国際的な会計基準との差異がなくなったためです。
修正5項目は4項目になりました。
次に、「のれんの償却」の取扱いが改正され、在外子会社がのれんを償却していない場合に限り修正するよう変更されました。これは米国でも非公開会社がのれん償却を選択できるようになったことが背景にあります。そして「退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理」は文言の明確化のみで、実質的な内容変更はありませんでした。
2017年(第3回改正):適用範囲を国内子会社にも拡大
2017年3月29日の改正では、適用範囲が「在外子会社」から「在外子会社等」へと拡大されました。国内子会社や国内関連会社が指定国際会計基準(実質的にIFRS)または修正国際基準を適用している場合も、本実務対応報告の対象範囲に含まれることになりました。これは当時、日本でもIFRSを任意適用する上場企業が増え、それらを子会社として持つケースが現実に生じていたためです。
2019年(第4回改正):修正項目を5項目に戻す
2019年6月28日の改正では、IFRS第9号「金融商品」の適用開始に伴い、新たな修正項目が追加されました。これが「資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整」です。この結果、修正項目は再び5項目となりました。
EY Japanによる実務対応報告第18号改正案の詳細解説(資本性金融商品OCIオプションの実務対応を含む)
現行の修正5項目の中で、実務上の影響が最も大きいのが「のれんの償却」です。のれんとは、企業買収の際に支払った金額が被買収企業の純資産を超える部分のことで、ブランド力や顧客基盤などの無形の価値を反映しています。
日本基準(J-GAAP)では、のれんは計上後20年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却し、当期の費用に計上することが義務付けられています。
一方、IFRSや米国会計基準(US GAAP)では、のれんは「規則的な償却を行わず、減損テストのみ実施する」という非償却の処理が採用されています。IFRSがのれんを償却しない理由は、ブランドや技術力などの価値は努力次第で維持・向上できるため、時間とともに規則的に減少するとは限らないという考え方に基づいています。
この差異は、連結財務諸表の利益に直接的で重大な影響を与えます。たとえば100億円ののれんを10年で均等償却する場合、毎年10億円が費用として計上されます。在外子会社がのれんを償却しないままであれば、連結財務諸表の当期純利益が10億円、毎年過大に表示されることになります。
これは見逃せません。
現行のルールでは、「在外子会社等がのれんを償却していない場合に限り修正する」とされています。逆にいえば、在外子会社がのれんを自ら償却している場合は追加修正は不要です。
これが実務上の重要なポイントです。
また、2015年改正から経過措置として、適用初年度において既に連結財務諸表に計上されているのれんの残存償却期間を基礎にするか、在外子会社が採用する償却期間(残存期間を下回る場合)に変更するかを企業結合ごとに選択できる仕組みが設けられています。
退職給付会計における数理計算上の差異とは、退職給付見込額の見積変更や、割引率など計算上の前提条件と実際の結果との差異として生じるものです。日本基準とIFRSでは、この差異の処理方法が大きく異なります。
日本基準では、数理計算上の差異が発生した場合、いったんその他の包括利益で認識し、純資産の部に計上したうえで、平均残存勤務期間以内の一定年数で規則的に費用処理(組替調整:リサイクリング)するか、発生した期に一括費用処理します。つまり、いずれかの方法で最終的に当期純利益に反映されます。
一方、IFRSでは数理計算上の差異(再測定)はその他の包括利益で認識し、以後のリサイクリングを行いません。当期純利益には永遠に反映されないのが特徴です。米国会計基準(US GAAP)は「回廊アプローチ」という独自の処理方法を採用しており、日本基準、IFRSとも異なります。
実務対応報告18号では、「在外子会社等において、退職給付会計における数理計算上の差異(再測定)をその他の包括利益で認識し、その後費用処理を行わない場合には、連結決算手続上、当該金額を平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理する方法(発生した期に全額を処理する方法を継続して採用することも含む。)により、当期の損益とするよう修正する」と定めています。
修正するのは「費用処理を行わない場合」という点が条件です。米国会計基準で回廊アプローチを採用している場合でも、計算結果として日本基準との差異に重要性があれば修正が必要になります。退職給付の積立不足が大きい製造業の海外子会社などでは、この差異が数十億円規模になることもあるため、注意が必要です。
研究開発費の取扱いは、日本基準とIFRS・米国基準の間で根本的な考え方の違いがあります。
これが3番目の修正項目です。
日本基準では、研究開発費は原則として発生した期に全額を費用として処理します。資産計上は認められていません(ただし、企業結合で取得した研究開発費については例外があります)。
IFRSでは、「研究段階」の支出は費用処理が必要ですが、「開発段階」の支出は一定の条件を満たせば無形資産として資産計上することが求められます。米国会計基準でも、社内で利用するためのソフトウェア開発費などについて資産計上が認められる場合があります。
具体的には、海外子会社がシステム開発の費用(いわゆる「使用目的のソフトウェア」開発費)を資産計上している場合、日本基準の観点では即時費用処理が必要です。在外子会社の財務諸表では5億円の無形資産として計上されていたものが、連結決算上では費用として計上され直すため、当期純利益が数億円分押し下げられるケースがあります。
実務対応報告18号の条文では、「在外子会社等において、『研究開発費等に係る会計基準』の対象となる研究開発費に該当する支出を資産に計上している場合には、連結決算手続上、当該金額を支出時の費用とするよう修正する」と明記されています。
この修正を適切に行うためには、在外子会社の開発コスト計上状況を期中から継続的に把握しておく体制が必要です。IT投資が盛んな子会社を持つ親会社では、特に注意が必要です。
投資不動産(賃貸用や値上がり期待で保有する不動産)の評価方法は、日本基準とIFRSで根本的に異なります。
4番目の修正項目です。
日本基準では投資不動産の事後測定(取得後の評価)は「原価モデル」のみが採用されており、取得原価から減価償却を行った帳簿価額で評価します。時価が大幅に上昇していても、原則として貸借対照表の金額に反映されません。
IFRSのIAS第40号では、「公正価値モデル」か「原価モデル」の選択適用が認められています。公正価値モデルを選択した場合、毎期末に時価評価を行い、評価差額を当期の損益として計上します。土地や商業施設の価値が上昇している地域に不動産を持つ在外子会社では、毎期多額の評価益が計上される可能性があります。
固定資産の再評価についても同様で、IFRSでは「再評価モデル」を選択することで固定資産の帳簿価額を公正価値に修正することが認められています。これを日本基準ではそのまま受け入れることができません。
修正の内容は、「在外子会社等において、投資不動産を時価評価している場合又は固定資産を再評価している場合には、連結決算手続上、取得原価を基礎として、正規の減価償却によって算定された減価償却費(減損処理を行う必要がある場合には、当該減損損失を含む。
)を計上するよう修正する」というものです。
原価モデルに組み替えるということです。
たとえば海外に大型物流倉庫を保有する子会社が、IFRSの公正価値モデルで毎年10億円の評価益を計上していた場合、連結決算ではその評価益を消し、取得原価ベースの減価償却費のみを計上する修正が必要になります。
実務負担が大きい項目のひとつです。
5番目の修正項目は、2019年の改正で新たに追加されたものです。IFRS第9号「金融商品」の適用開始を受けて設けられました。やや専門的な内容ですが、実務上の影響が大きいため押さえておく必要があります。
IFRS第9号では、資本性金融商品(株式等)はトレーディング目的で保有していない場合、「その他の包括利益(OCI)を通じた公正価値測定(FVTOCI)」を選択することができます。この選択(OCIオプション)を採用した場合、当該株式の評価損益も、将来売却時の売却損益も、すべてその他の包括利益として認識し、当期純利益には組み替え(リサイクリング)が行われません。つまり、株式を売却しても当期純利益には影響がないのです。
日本基準では、その他有価証券の評価差額金は純資産に計上されますが、売却時には必ず売却損益として損益計算書に計上されます。
当期純利益への影響が必ず生じます。
この差異を修正するために、実務対応報告18号では次の2つの修正を求めています。①当該資本性金融商品の売却時に、連結決算手続上、取得原価と売却価額との差額(売却損益相当額)を当期の損益として計上するよう修正する、②日本の金融商品会計基準またはIAS第39号の定めに従って減損処理の判断を行い、減損処理が必要と判断される場合には評価差額を当期の損失として計上するよう修正する。
この修正を適切に実施するためには、在外子会社が保有する資本性金融商品の銘柄ごとに、IFRSに基づく帳簿価額と日本基準に基づく帳簿価額を別々に管理する「帳簿価額の二重管理」が必要になります。さらに、廃止されたIAS第39号に基づく減損処理の判断基準を現地法人に理解させ、実行させる指導体制の構築も求められます。システム対応を含む実務負担が大きく、適用初年度については経過措置が設けられていました。
EY Japanによる実務対応報告第18号改正案の解説PDF(資本性金融商品の帳簿価額二重管理・減損処理への対応の詳細を含む)
実務対応報告18号で見落とされやすいポイントのひとつが「重要性が乏しい場合を除く」という条件です。
これは重要な例外規定です。
5項目の修正は、「重要性が乏しい場合を除き」行わなければならないとされています。言い換えれば、修正しても連結財務諸表全体に与える影響が軽微であると判断される場合には、修正を省略することも認められています。
ただし、「重要性が乏しい」かどうかの判断は、連結財務諸表全体との比較で行う必要があります。個々の子会社の財務諸表では小さく見えた差異でも、同じ処理をしている子会社が複数あれば、連結ベースでは重要な金額になることがあります。そのため、グループ全体を俯瞰した判断が求められます。
また、5項目の明示的な修正項目以外でも、「明らかに合理的でないと認められる場合」には連結決算手続上で修正を行う必要があることも規定されています。これはいわばキャッチオール条項で、基準に列挙されていない差異であっても、日本基準の考え方と大きく乖離する場合には別途修正が必要になり得ます。
さらに、修正項目以外の項目でも、継続適用を条件として、自主的に修正を行うことができます。ただしその場合、従来修正していなかった同一の会計事実について新たに修正を行うときは、「会計方針の変更」として取り扱われるため、注記開示や比較情報の遡及修正が必要になる点に注意が必要です。
実務対応報告18号に関連して、もう一点把握しておく必要があるのが、実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」との関係です。
これは意外と見落とされやすいです。
実務対応報告24号は、持分法を適用する関連会社がIFRSまたは米国会計基準を採用している場合に、実務対応報告18号に準じた処理を認めるものです。つまり、18号が在外子会社に適用されるのと同様に、24号が在外関連会社に適用されます。
18号が改正されるたびに、24号もその内容を準用する形で同時に改正されます。例えば2019年の改正では、資本性金融商品のOCIオプションに関する修正項目が18号に追加されると同時に、24号でも同様の修正が求められるようになりました。
実務上は、在外子会社に加えて在外関連会社(典型的には議決権の20〜50%を保有する会社)についても修正5項目の適用漏れがないかを確認することが重要です。特に、持分法適用の関連会社が多い企業グループでは、連結決算担当者が18号と24号の両方を横断的に管理する体制が求められます。
PwC Japanによる改正実務対応報告第18号・第24号の公表に関する解説(2017年改正・国内子会社への適用拡大の実務影響)
2019年の改正で注目された論点のひとつが、IFRS第16号「リース」への対応です。この結論は多くの実務担当者にとって朗報でした。
IFRS第16号は2019年1月1日以後開始する事業年度から適用が開始され、借手はすべてのリースについて「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上することが求められます。オペレーティングリースをオフバランス処理できていた従来のIFRS(IAS第17号)とは大きく異なる変更です。
この変更により、IFRSを適用する在外子会社の財務諸表に「使用権資産」が大量に計上されることになりました。実務の現場では、これを連結に取り込む際に日本基準との差異として修正が必要かどうかが議論になりました。
企業会計基準委員会での検討の結果、IFRS第16号によるリースの取扱いは、「日本基準と考え方に乖離はない」として修正項目への追加は見送られました。理由としては、日本でも将来的にリース会計基準の見直しが予定されており(実際、その後2023年に企業会計基準第34号として日本版リース基準の改正案が公開されています)、IFRSとの整合を図る方向性が確認されていたことがあります。
この判断により、IFRS第16号適用済みの在外子会社が計上した「使用権資産」はそのまま連結財務諸表に取り込むことができ、連結決算手続上での修正作業が不要となりました。IFRS第16号を適用している在外子会社を多く抱えるグループにとっては、実務負担の増大を回避できた重要な決定です。
実務対応報告18号の名称には「当面の取扱い」という言葉が含まれています。
これは何を意味するのでしょうか。
金融の専門家でも案外深く考えていない点です。
「当面」とは、制定された2006年当時、日本とIFRS・米国基準の会計差異がいずれ縮小・解消される、あるいは日本企業のIFRS適用が進むことを前提に、過渡期の便宜的な取扱いとして設けられたものです。
しかし、制定から20年近くが経過した現在もなお「当面の取扱い」は存続しており、廃止の具体的なスケジュールは示されていません。むしろ2019年には修正項目が5項目に戻されるなど、実務負担への配慮が続いています。
背景には、日本独自の当期純利益重視の考え方があります。IFRSでは包括利益が重視され、当期純利益の意味合いが日本基準と異なります。のれんの非償却や退職給付の数理計算上の差異のリサイクリング廃止など、日本基準と相容れない部分がIFRSに残る限り、実務対応報告18号による修正の必要性はなくならないとも考えられます。
また、2022年から金融庁で「会計基準の選択適用」をめぐる議論が続いており、IFRSの義務適用化や日本基準のIFRS収斂が進む場合には、18号の役割も大きく変わる可能性があります。連結決算担当者や経理部門のマネージャーは、日本会計基準のIFRSとの収斂動向を継続的にウォッチすることが今後ますます重要になるでしょう。
企業会計基準委員会のウェブサイトで最新の審議情報を定期確認することを習慣にするだけで、業務上の変化への対応が格段にスムーズになります。
最後に、実務対応報告18号を日々の連結決算業務に落とし込むうえで、経理担当者が特に意識すべきチェックポイントを整理します。
実務が基本です。
① 在外子会社等の会計基準の把握
まず、連結対象となる在外子会社等がIFRS・米国基準・修正国際基準・指定国際会計基準のうちどれを適用しているかを確認します。日本基準を適用している子会社は実務対応報告18号の対象外のため、通常の連結調整で対応します。
② 修正5項目の重要性の判断
各修正項目について、連結財務諸表全体に対する影響額の重要性を毎期評価します。のれんの残高、退職給付の積立状況、研究開発費の資産計上残高、投資不動産の時価評価差額、資本性金融商品の保有状況などを定期的に収集する仕組みを整備することが重要です。
③ 帳簿価額の二重管理体制
2019年以降は、IFRS第9号のOCIオプションを選択している在外子会社では、資本性金融商品について日本基準とIFRSで別々の帳簿価額管理が必要です。
システム対応が済んでいるか確認が必要です。
④ 実務対応報告24号との整合確認
持分法適用の在外関連会社についても、18号と同様の修正5項目の適用要否を確認します。子会社・関連会社の両方を見渡した一元管理が理想です。
⑤ 改正動向のモニタリング
実務対応報告18号は今後も改正の可能性があります。企業会計基準委員会の審議情報やIFRSの新基準動向を定期的に確認する習慣をつけることが、実務担当者としての基礎になります。
在外子会社がIFRSを採用している場合の決算修正ポイントをわかりやすく解説した公認会計士ブログ(設例付きで修正5項目を確認できる)
Please continue.