
IFRS第9号の最も重要な変更点は、予想信用損失モデルの導入です。従来のIAS第39号では発生損失モデルが採用されていましたが、2008年の金融危機において信用損失の認識が遅れたことが問題となりました。
予想信用損失モデルでは、以下の3つのステージに金融資産を分類します。
このアプローチにより、信用損失をより適時に認識することが可能となり、財務報告の利用者により有用な情報を提供できるようになりました。
信用リスクの著しい増大(SICR:Significant Increase in Credit Risk)の判定は、実務上最も複雑な課題の一つとなっています。IFRS第9号では、各報告日において、企業は金融商品に係る信用リスクが当初認識以降に著しく増大したかどうかを評価する必要があります。
実務対応上の主な課題。
特に注目すべきは、相対的アプローチにおいて、当初認識時PDが低い場合の方が、同じPD水準でもSICRが生じていると判定される可能性が高いという点です。
日本においてもIFRS第9号を参考とした新たな引当基準の検討が進められており、実務対応上重要な変更が予想されます。
主な相違点:
項目 | IFRS第9号 | 日本基準 |
---|---|---|
損失認識 | 予想信用損失モデル | 過去の貸倒実績率による引当 |
ステージ判定 | 3ステージアプローチ | 単一アプローチ |
適用範囲 | 全ての金融資産 | 主に貸倒引当金 |
日本の金融庁は、IFRS第9号を出発点として「適切な引当水準を確保したうえで実務負担に配慮した会計基準」の開発を進めています。これにより、国際的な比較可能性を確保しつつ、日本の金融機関の実務負担を軽減する方向性が示されています。
欧米金融機関では、IFRS第9号やCECL(Current Expected Credit Loss)の導入を機に、財務とリスク管理の統合を進めています。日本の金融機関も同様の態勢整備が求められています。
実務対応における主要課題:
欧州の銀行業界からは「モデルの構築と更新は、IFRS第9号がなくても、リスク管理と規制の観点から本質的に必要であったため、対応コストが過度な負担になったとは考えていない」との評価も報告されています。
2024年5月30日、国際会計基準審議会(IASB)はIFRS第9号の分類及び測定要求事項の修正を公表しました。この修正は2026年1月1日以後開始する事業年度から適用される予定です。
主な改訂内容:
これらの改訂により、実務対応においてさらなる複雑性が増すことが予想されます。特にESG連動ローンの普及に伴い、従来の信用リスク評価に加えて、ESG要素の考慮が必要となります。
また、IASBは現在IFRS第9号の適用後レビューを実施しており、利害関係者からのフィードバックを基に、さらなる改善が検討される可能性があります。日本においても、これらの国際動向を踏まえた実務対応の準備が急務となっています。
金融機関においては、規制環境の変化に対応するため、継続的なシステム改善と人材育成、そして経営管理の実効性向上が重要な課題となっています。