

「優先株式」という名前から、多くの投資家は「普通株よりも株価が高い優良な株」と思い込んでいますが、日本で個人が買える優先株式(伊藤園・証券コード25935)の株価は普通株の約3分の1程度と大幅に安く取引されています。
優先株式とは、普通株式と比べて「配当の受け取り」や「会社清算時の残余財産分配」において優先的な権利が与えられる種類株式のことです。英語では「Preferred Stock」または「Preferred Shares」と呼ばれ、日本の会社法でも種類株式の一形態として認められています。
株式には大きく3つの序列があります。「劣後株 < 普通株 < 優先株」という順番で、分配を受けられる恩恵が異なります。つまり優先株式を持つ株主は、普通株主よりも先に配当を受け取り、会社が解散した場合にも先に資産の分配を受けられます。これだけ聞くと非常に有利に見えますが、一点大きなトレードオフがあります。
多くの優先株式では、議決権が「制限」または「なし」に設定されているのです。普通株主が株主総会で経営方針に口を出せるのに対して、優先株主は基本的に経営判断に関与できません。つまり、「高配当と引き換えに経営参加の権利を手放す」という設計になっています。
配当の仕組みも普通株と異なります。普通株は業績が良ければ多くの配当が出る一方、業績が悪ければ無配になることもあります。一方、優先株式は「優先配当額」があらかじめ決められており、その金額が先に支払われることが条件となっています。たとえば伊藤園の優先株式では、「普通株式の配当額×125%、かつ1株あたり最低15円」という下限が設定されています。普通株が無配になった年でも、優先株主は最低15円を受け取れるということですね。
なお、優先株式は「一般投資家向けの上場銘柄」として発行されるケースと、「VCやエンジェル投資家向けの非公開発行」として使われるケースの2種類があります。後者はスタートアップ投資で頻繁に登場する形態です。このどちらであるかによって、投資家としての立場や受けられる権利が大きく変わってきます。
参考リンク(優先株式の基本的な仕組みと普通株・劣後株との違いを詳しく解説)。
M&Aコラム|優先株の種類について解説します(パラダイムシフト)
優先株式は大きく2つの軸で分類されます。1つ目が「参加型か非参加型か」、2つ目が「累積型か非累積型か」です。この組み合わせによって、投資家が実際に受け取れる配当の水準が大きく変わります。把握しないと損します。
まず「参加型」と「非参加型」の違いから見ていきましょう。
| 種類 | 内容 | 投資家にとって |
|---|---|---|
| ✅ 参加型(完全参加型) | 優先配当を受けた後、さらに普通株と同等の追加配当も受け取れる | 最も有利・取得コストが高め |
| 🔶 制限参加型 | 優先配当のあと、一定の上限内で追加配当を受け取れる | 参加型と非参加型の中間 |
| ❌ 非参加型 | 優先配当のみ受け取れ、追加配当は受け取れない | 取得コストは低め・配当上限あり |
参加型は配当を「二重取り」できる構造です。たとえば1株あたり優先配当が20円に設定されていて、さらに普通株に30円の普通配当が出た場合、完全参加型の優先株主は合計50円を受け取れます。非参加型なら優先配当の20円だけで終わりです。これは使えそうです。
次に「累積型」と「非累積型」の違いです。こちらはあまり知られていませんが、投資家には非常に重要な概念です。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 📦 累積型 | ある年に優先配当が満額払われなかった場合、不足分が翌年以降に繰り越される |
| 🗑️ 非累積型 | ある年に優先配当が不足しても、翌年に繰り越されず切り捨てられる |
累積型が原則です。業績不振で配当が出せなかった年があっても、その分は翌年以降に「借金」として残り、累積した未払い分が支払われてから初めて普通株主に配当が回ります。これにより、優先株主の権利がより強固に保護されます。
一方、非累積型はアメリカの優先株式に多く見られる形式です。その年に配当が出なければそれで終わりで、翌年には積み上がりません。日本では外部投資家向けには累積型、従業員持株会などの内部株主向けには非累積型を採用することが多い傾向があります。
投資家にとっては「完全参加型かつ累積型」が最も有利な優先株式です。逆に「非参加型かつ非累積型」は条件が最も弱く、社債に近い性質を持ちます。種類の確認が条件です。
参考リンク(累積型・非累積型と参加型・非参加型の詳細を解説)。
Business Lawyers|スタートアップ投資契約における優先配当権の定め方
日本の証券市場で個人投資家が購入できる優先株式は、現時点では実質的に1銘柄のみです。それが「伊藤園 第1種優先株式(証券コード:25935)」で、東証プライム市場に上場しています。「おーいお茶」で知られる伊藤園(2593)の普通株とは別の銘柄として取引されています。
以下は普通株(2593)と優先株式(25935)の比較です。
| 項目 | 普通株(2593) | 優先株式(25935) |
|---|---|---|
| 🗳️ 議決権 | あり | 原則なし(※) |
| 💴 配当 | 普通配当(累積なし) | 普通配当の125%・最低15円保証・累積あり |
| 📈 TOPIX構成 | 対象 | 対象外 |
| 🎁 株主優待 | 100株で1,500円相当 | 同等(普通株と同様) |
| 🔄 残余財産分配 | ー | 普通株と同等(未払い累積配当を優先支払い後) |
(※)一定の事象が発生した場合は議決権が発生する場合があります
伊藤園の優先株式は2007年9月3日に上場しました。当初は普通株(2,930円)に対して優先株(2,795円)と価格差は135円程度でした。しかし今日では普通株の株価が大きく上昇した一方で、優先株式はそれほど上がっておらず、価格差は3,000円以上に広がっています。
なぜこれほど差が出るのでしょうか?大きな理由は2つあります。ひとつは「TOPIX非採用」であること。日銀のETF買いの恩恵を受けられず、機関投資家の自動的な買い需要が発生しないためです。もうひとつは「議決権がない」こと。アクティビスト投資家の台頭などにより、議決権そのものの価値が高まっていることが普通株のプレミアムにつながっています。
ただし、配当狙いの投資家にとっては優先株式に明確なメリットがあります。配当利回りで見ると普通株より約2ポイント高く、かつ下限配当(15円)も設定されています。普通株が無配になった年でも最低限の配当が確保されるのは、安定インカム重視の投資家にとって魅力的です。
また、普通株式と優先株式の両方を100株ずつ保有した場合、株主優待(自社商品詰め合わせ)を2つ受け取れるという独自メリットもあります。
参考リンク(伊藤園の優先株式と普通株の違いと配当利回りの比較)。
伊藤園 公式IR|優先株式について
スタートアップへの投資では、優先株式が資金調達の主役となっています。「シリーズA」「シリーズB」といったラウンドで発行される「A種優先株式」「B種優先株式」などがその代表例です。これらは上場企業の優先株式とは性格が異なり、投資家の権利保護に特化した設計になっています。
スタートアップ向けの優先株式では、一般的に以下のような権利が設定されます。
- 優先残余財産分配権:会社が清算された場合に、普通株主よりも先に投資額相当の資産を受け取れる権利
- 取得請求権(転換権):投資家が希望するタイミングで優先株式を普通株式に転換できる権利
- 取得条項(強制転換):会社側が一定条件のもとで優先株式を普通株式に転換できる条項
- 拒否権条項(ベト権):会社の重要事項について、優先株主が拒否できる権利
特に注意すべきなのが「みなし清算条項」です。これは会社が清算(倒産)した場合だけでなく、M&A(企業買収・合併)が行われた際にも、残余財産分配の優先権が発動するという条項です。つまり、買収価格が低い場合、投資家(優先株主)が先に出資額を回収してから残りが普通株主(創業者など)に分配される仕組みです。
たとえば、投資家がA種優先株式で1億円出資し、会社が3億円でM&Aされたとします。みなし清算条項がある場合、まず投資家が1億円(または2倍の2億円など条件次第)を優先回収します。残りが創業者や普通株主に分配されるため、スタートアップの創業者にとっては「売却してもほとんど手元に残らない」というケースが起こりえます。
また、優先株式のままではIPOができないことも重要な知識です。上場する際には原則として優先株式をすべて普通株式に転換してからでないと上場できません。優先株式と普通株式が混在した状態では、一般投資家が普通株式に投資してよいかどうかの判断がつかないためです。転換タイミングが遅れると、上場の障害になります。
これらの条項は、投資家と起業家の双方にとって非常に重要な取り決めです。内容を理解せずに投資契約を結んだ場合、後から大きな損失につながる可能性があります。スタートアップ側の経営者は、投資受け入れ前に弁護士など専門家によるレビューを必ず受けることが基本です。
参考リンク(スタートアップの優先残余財産分配権とみなし清算の詳細解説)。
Business Lawyers|スタートアップ投資契約の優先残余財産分配権とは?
参考リンク(経済産業省によるベンチャー投資契約の留意事項ガイドライン)。
経済産業省|我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項(PDF)
優先株式は「配当が多くもらえる安全な株」というイメージを持たれがちです。しかし実際にはいくつかの重大なデメリットが存在します。これを知らずに投資すると、思わぬ損をすることになります。
流動性リスクが非常に高い
上場している優先株式(伊藤園・25935)でさえ、普通株と比べて出来高が著しく少ない状況です。売りたいタイミングで買い手が見つからないリスクは常に存在します。キャピタルゲイン(売却益)を狙うトレードスタイルには根本的に向いていません。インカムゲイン(配当収入)重視の長期保有スタンスが原則です。
株価上昇の恩恵を受けにくい
先述のように、TOPIX非採用のためETFや機関投資家の自動買いが入りにくい構造です。企業の業績が好調で普通株が大幅上昇しても、優先株式は同じ水準では上がらないことがほとんどです。
| リスクの種類 | 内容 |
|---|---|
| 💧 流動性リスク | 売りたいときに売れない可能性がある |
| 📉 価格上昇リスク | 業績好調でも普通株ほど株価が上がらない |
| 🗳️ 議決権なし | 経営への口出しができない |
| 🔁 転換リスク(スタートアップ) | IPO時に強制的に普通株転換される |
一方で、「配当利回りを重視したい」「普通株より安値で伊藤園の銘柄を保有したい」という投資家にとっては、優先株式は合理的な選択肢になりえます。
では、普通株と優先株式をどう使い分けるのでしょうか?シンプルに整理すると以下の通りです。
- 優先株式が向いている人:安定した配当収入を求める、長期保有スタンスである、議決権に興味がない
- 普通株式が向いている人:株価上昇(キャピタルゲイン)を狙いたい、株主総会での発言権を持ちたい、ETFを通じた運用も視野に入れている
また、資産運用として優先株式を検討する際は、その企業の「優先配当の水準」「累積型か否か」「転換条件」の3点を必ず確認するようにしてください。この3点が条件です。
なお、優先株式への投資を証券口座から行う場合、伊藤園(25935)は東証プライム上場銘柄のため、主要ネット証券(SBI証券・楽天証券・松井証券など)から普通株と同じ手順で購入できます。ただし前述の通り出来高が少ないため、指値注文を活用し、希望価格での約定を狙うのが現実的な対応策です。
参考リンク(伊藤園の優先株式・配当利回り比較の詳細)。
株初心者のための株式投資と相場分析方法|伊藤園の優先株はなぜ安いのか

Dあ 優先株式 その理論と実務 平成3年発行 初版 木下公明著 商事法務研究会 無議決権普通株型優先株式の設計 諸外国の優先株式事情 他