拒否権付株式の定款記載例と発行手続きを徹底解説

拒否権付株式の定款記載例と発行手続きを徹底解説

拒否権付株式の定款記載例と種類株式の基本を解説

先代経営者が黄金株1株を持つだけで、後継者の全決議を無効にできます。


この記事の3つのポイント
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定款記載例を具体的に確認

拒否権付株式(黄金株)は、定款に「どの決議に拒否権を持たせるか」を明記する必要があります。記載例をそのまま活用できる形で紹介します。

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事業承継税制が使えなくなるリスク

後継者以外が黄金株を保有していると、贈与税・相続税の猶予制度(事業承継税制)の認定が取り消されます。導入前に必ず確認が必要です。

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登記期限は2週間・過料100万円のリスクあり

種類株式設定の効力発生後、2週間以内に法務局への変更登記が法律上の義務です。期限を超えると100万円以下の過料が課される可能性があります。


拒否権付株式(黄金株)とは何か:種類株式の仕組みと会社法の根拠

拒否権付株式とは、会社法第108条第1項第8号に根拠を持つ種類株式のひとつです。普通株式との最大の違いは、株主総会や取締役会で可決された議案であっても、この株式の保有者が構成する「種類株主総会」で否決すれば、その決議を覆せるという点にあります。


強力な権限を持つことから「黄金株」とも呼ばれています。これは使えそうですね。


普通株式を保有する株主は、議決権・配当受領権・残余財産分配権という3つの基本的な権利を等しく持ちます。一方、拒否権付株式の保有者はこれらに加えて、定款で定めた特定事項について会社の意思決定を阻止できる権利を有します。


注目すべきは「1株でも効力を発揮する」という点です。普通株式で決定的な影響力を持つには過半数の株式を保有する必要があります。しかし拒否権付株式は、たった1株を保有するだけで定款に定めた全ての対象決議に拒否権を行使できます。1株と過半数、この差は非常に大きいといえます。


日本で黄金株を発行している上場企業は、現在のところ株式会社INPEX(旧・国際石油開発帝石)だけです。同社では経済産業大臣(日本政府)が黄金株を1株保有し、①取締役の選任・解任、②重要な資産の処分、③定款変更、④合併・株式交換株式移転、⑤資本の額の減少、⑥会社の解散という6つの事項について拒否権が設定されています。エネルギー安全保障の観点から外資による買収を防ぐ目的であり、国家レベルの企業防衛策として機能しています。


拒否権の対象となる事項は自由に設計でき、株主総会の普通決議事項・特別決議事項のいずれも指定可能です。取締役会設置会社であれば取締役会決議事項も対象にできます。つまり経営判断のほぼ全てにわたって拒否権を設定できるということです。


ただし1点、重要な制約があります。取締役会非設置会社における「取締役の決定事項」については、拒否権の対象とすることは困難であるとされています。また、種類株主総会決議そのものに対して拒否権を付与することもできません。拒否権の対象範囲には、こうした法律上の限界があることを覚えておきましょう。


会社法第108条(e-GOV法令検索):拒否権付種類株式の法的根拠となる条文の全文を確認できます


拒否権付株式の定款記載例:3パターンを徹底解説

定款への記載が、拒否権付株式の実務上の核心です。記載のしかた次第で拒否権の範囲がまったく変わります。


まず基本となる発行可能種類株式総数の記載から始まります。たとえば普通株式1,000株を発行している会社が拒否権付株式(A種類株式)を1株だけ発行する場合、定款には次のように記します。
























パターン 定款記載例 特徴
①発行可能種類株式総数 第○○条 当会社の発行する株式の総数は1,001株とし、このうち1,000株は普通株式、1株はA種類株式とする。 発行可能総数の設定。実務では黄金株を1株のみとするケースが大多数。
②特定事項に拒否権を設定する場合 第△△条 当会社が次の各号を実施する場合には、当会社の株主総会決議のほか、A種類株式を保有する株主の種類株主総会決議を要する。(1)事業譲渡 (2)当会社が消滅会社となる会社合併 (3)当会社の解散 合併・解散など重要事項のみを対象にするスタンダードな方法。
③株主総会・取締役会の全決議に拒否権を持つ場合 第◆◆条 当会社が株主総会および取締役会で決議する全ての議案は、A種類株式を保有する株主の種類株主総会の決議を要する。 最大限の拒否権。経営への影響が非常に大きく、慎重な設計が必要。


取締役の選任に特化して拒否権を設定する場合の記載例はシンプルで、「当会社の取締役の選任については、株主総会の決議のほか、A種類株式を有する株主の種類株主総会の決議を要する」と記すだけです。


この記載がある場合、株主総会でXという人物を取締役に選任する決議が成立したとしても、種類株主総会でA種類株式の保有者が反対すれば、Xは取締役になれません。決議の成立と実際の効力発生のあいだに、もう一つの関門が存在するということです。


また、種類株主総会で必要になる決議事項を定款であらかじめ特定するのではなく、その都度、取締役会で決めるという運用も法律上は可能です。ただし実務上は、対象事項を明確に定款に記しておくほうがトラブルを防ぎやすいといえます。


なお、合併についての記載例は会社全体に関係する組織再編行為を意味します。記載例として示すなら「当会社が消滅会社等となる吸収合併等または新設合併等を行う場合には、株主総会の決議のほか、A種類株式を保有する株主の種類株主総会の決議を要する」という形になります。これが基本です。


RSM汐留パートナーズ司法書士法人:拒否権付種類株式の記載例や事業承継での活用法が詳しく解説されています


拒否権付株式の発行手続き:定款変更から登記申請までの流れ

拒否権付株式を発行するには、大きく分けて「新規発行」と「普通株式から転換」の2つの方法があります。どちらも株主総会の特別決議による定款変更が出発点となる点は共通しています。特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。


新規で発行する場合の手順は以下のとおりです。



  • ①株主総会で定款変更の特別決議を行う(拒否権付株式の内容と発行可能総数を定款に追加)

  • ②同じ株主総会または取締役会で募集事項(発行数・払込額・払込期日・増加する資本金額など)を決議する

  • ③引受者に割当通知を行い、払込みを受ける

  • ④効力発生日から2週間以内に法務局で変更登記を申請する


普通株式を拒否権付株式に転換する場合は、手順が少し異なります。定款変更の特別決議に加え、「①転換に応じる個々の株主と会社との合意」「②同一種類株式を保有する他の株主全員の同意」「③損害を受けるおそれのある他の種類株式の種類株主総会特別決議」という3つの要件を満たす必要があります。この点は見落としやすいポイントです。


登記の内容として変更が必要な項目は、拒否権付株式の発行可能総数・内容・発行済株式の総数・種類ごとの数・資本金額などです。これらを漏れなく登記申請書に記載しなければなりません。


注意点として、登記期限は効力発生後2週間以内であり、これは法律上の義務です(会社法第915条)。この期限を過ぎると100万円以下の過料に処される可能性があります(会社法第976条)。期限に注意が必要です。


また、拒否権付株式の内容は商業登記簿謄本に記載され、法務局の窓口で手数料を支払えば誰でも閲覧できる状態になります。取引先や投資家が閲覧した際に「後継者に実権がない」と判断されるリスクがある点も、発行前に考慮しておくべきでしょう。


手続きの複雑さを考えると、司法書士などの専門家に依頼することが実務上の王道です。書類の作成ミスや期限超過のリスクを回避するためにも、専門家のサポートを活用する選択肢を最初から視野に入れておくことをおすすめします。


川岸法律事務所:黄金株設定の法務手続きの流れと会社法の条文解釈が実務的な視点で詳説されています


拒否権付株式の事業承継での活用と見落とされがちなデメリット

拒否権付株式が最も活用されるのが、中小企業の事業承継の場面です。活用パターンとデメリットは、セットで理解しておくことが原則です。


典型的なシナリオはこうです。親が後継者である子どもに普通株式の大半を譲渡し、自分は拒否権付株式(黄金株)を1株だけ保有し続けます。そうすることで、子どもが日常的な経営判断を主体的に行いながらも、合併・解散・重要財産の処分といった会社の根幹に関わる判断については親の承諾(種類株主総会の決議)が必要になるという仕組みが出来上がります。


後継者が経営に慣れるまでの移行期間を安全に設計できることが、この仕組みの最大の利点です。敵対的買収の防衛策としても有効で、買収者が過半数の普通株式を取得しても、黄金株保有者が種類株主総会で反対すれば重要決議を阻止できます。


一方で、見落とされがちなデメリットが存在します。


最も深刻なのが「事業承継税制の適用外になる」という問題です。事業承継税制とは、後継者が非上場会社の株式を贈与または相続により取得した際、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の納税が猶予または免除される制度です。この制度の認定要件のひとつに「後継者以外が拒否権付株式を保有していないこと」という条件があります。つまり、先代経営者が黄金株を保有し続けると、後継者はこの税制優遇を受けられなくなります。


贈与税の負担と経営コントロールのどちらを選ぶかは、慎重に協議する必要があります。


もうひとつ注意すべきなのが、先代経営者が認知症などで正常な判断を下せなくなった場合のリスクです。黄金株保有者が意思能力を失っても株式の権限は続くため、会社の重要な意思決定が事実上止まってしまう恐れがあります。この対策として「保有者が後見開始の審判を受けた場合や死亡した場合に、会社が当該株式を強制的に取得できる(取得条項付種類株式の組み合わせ)」という条項を定款に盛り込んでおくことが実務上の定石とされています。


また、拒否権の行使が経営陣との信頼関係を損なうこともあります。後継者が下す判断に先代がことごとく拒否権を発動すると、後継者のモチベーションが下がり、かえって会社経営が停滞するリスクがあります。厳しいところですね。


拒否権付株式と属人的株式の違い:金融の視点から見た独自比較

拒否権付株式を調べるとき、「属人的株式(属人株)」という言葉を目にすることがあります。両者はよく似た機能を持ちながらも、法的な性格が根本的に異なります。この違いは、定款設計の実務で非常に重要です。


種類株式と属人的株式の違いを整理すると、以下のようになります。


































比較項目 拒否権付株式(種類株式) 属人的株式
根拠条文 会社法第108条第1項第8号 会社法第109条第2項
利用できる会社 株式会社(公開会社・非公開会社とも) 非公開会社(譲渡制限会社)のみ
商業登記 必要(公示される) 不要(第三者に知られにくい)
株式の性質 株式に権利が付着(譲渡しても権利が引き継がれる) 人(株主)に権利が付着(譲渡すると権利は消滅)
定款変更の決議要件 特別決議 総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上(特殊決議)


最大の違いは「登記の要否」と「権利が株式に付着するか人に付着するか」という点です。


拒否権付株式(種類株式)は商業登記が必要で、株式に権利が付着します。つまり、その株式を他人に譲渡すれば拒否権もそのまま引き継がれます。第三者が閲覧できる状態になるため、外部への情報公開という側面があります。


一方、属人的株式は非公開会社でしか使えませんが、登記が不要なため第三者の目に触れません。また権利は人に紐づいているため、株式を誰かに譲渡しても拒否権は消滅します。この特性から、事業承継において「登記を避けたい」「特定の人物限りで効力を持たせたい」という場面では、拒否権付株式ではなく属人的株式が選ばれるケースがあります。


金融の観点から見ると、どちらの手段を選ぶかは「権利の永続性」と「対外的な透明性」のバランスで判断することになります。会社のフェーズ・株主構成・将来の上場可能性など複数の要素を考慮したうえで、専門家と連携しながら選択することが合理的です。属人的株式は選択肢のひとつです。


かなえリーガル:種類株式と属人的株式の使い分けについて、事業承継の実例を交えた解説が参照できます


拒否権付株式の相続税評価と税務上の注意点:見逃せない落とし穴

拒否権付株式は強大な権限を持ちながら、税務上の評価では普通株式と変わりません。これは意外な事実といえます。


国税庁は「拒否権付株式(会社法第108条第1項第8号に掲げる株式)については、拒否権を考慮せずに評価する」と明示しています。どれほど強い拒否権が付いていても、相続税・贈与税の計算上は1株あたりの価値を通常の評価方法(純資産価額方式類似業種比準方式など)で算出します。強力な権限が税務上はゼロ評価になるということです。


これが金融的に意味することを考えてみます。仮に会社の総株式価値が1億円で、普通株式が1,000株、黄金株が1株だとします。普通の感覚では「会社の運命を左右できる黄金株は普通株式より高い価値があるはず」と思えます。しかし税務上は黄金株も普通株式と同じ方法で評価されるため、その1株分の評価額は1億円÷1,001株≒約10万円に過ぎません。


この評価の「安さ」は、先代経営者が黄金株を保有したまま亡くなった場合の相続財産として、比較的少ない課税負担で済む可能性を意味します。ただし注意点があります。


先述の通り、先代が黄金株を保有したままだと事業承継税制が使えません。事業承継税制が使えない状態で自社株全体を相続すると、場合によっては数千万円以上の税負担が生じるケースがあります。黄金株1株の相続税評価は安くても、後継者が引き継いだ普通株式にかかる贈与税・相続税の猶予を受けられないことのほうが、はるかに大きなコストになり得ます。


また、2019年度(平成31年度)の税制改正以前は、拒否権付株式の評価について評価対象外とする取り扱いがあり、それ以降の取り扱いの変化にも注意が必要です。税務の判断は年度ごとの改正によって変わることがあるため、現時点での正確な評価方法については税理士へ確認することが確実です。


税制と法務の両面から設計することがポイントです。拒否権付株式を導入する際は、司法書士・弁護士・税理士の3者が連携してスキームを設計することが、実務上のリスクを最小化するための最善策といえます。


国税庁:拒否権付株式の相続税評価方法についての公式見解が掲載されています(種類株式の評価についての照会回答)