

会計上は費用として認められるのに、法人税申告では損金にならず、申告調整を怠ると税務調査で数十万円単位の追徴課税を受けるリスクがあります。
製品保証引当金とは、販売した製品(または商品)に対して、一定期間内に無償で修理・交換に応じる保証契約を締結している場合に、将来発生する修理費用を当期の費用として先取り計上するための負債性引当金です。
引当金そのものは、会計上「将来の費用・損失を見積もって、その原因が当期以前にある場合に計上する貸方項目」と定義されます。製品保証引当金は、この定義に照らすと「製品を当期に販売した事実(原因)」が当期以前に存在し、将来の修理・交換費用(費用・損失)が見積もられるため、計上が求められるわけです。
つまり費用の前倒し計上が原則です。
貸借対照表では負債の部に表示されます。1年基準(ワンイヤールール)によって、保証が決算日の翌日から1年以内に行われるものは流動負債、1年を超えるものは固定負債に区分することが重要です。たとえば3年間保証付き製品の場合、翌1年分は流動負債、残り2年分は固定負債に分類されます。
| 区分 | 表示場所 | 判断基準 |
|---|---|---|
| 流動負債 | 貸借対照表・流動負債の部 | 決算日翌日から1年以内に保証が行われる見込み |
| 固定負債 | 貸借対照表・固定負債の部 | 決算日翌日から1年を超えて保証が行われる見込み |
参考:製品保証引当金の会計処理の基礎(EY Japanによる引当金各論解説)
https://www.ey.com/ja_jp/technical/corporate-accounting/commentary/reserve/commentary-reserve-2017-08-24
製品保証引当金を計上するには、企業会計原則注解18が定める引当金の4要件をすべて満たす必要があります。この4要件を一つでも欠くと、引当金の計上自体が認められません。
4要件とは次のとおりです。
製品保証引当金に当てはめると、①は「将来の無償修理・交換費用」として特定されており、②は「当期以前に販売した製品に潜在的欠陥が内在すること」が原因です。③は過去の修理・交換実績から発生可能性が高いと判断できる場合に満たされ、④は過去数年の保証費用実績率から合理的に算定できる場合に満たされます。
注意点が一つあります。③の「発生の可能性が高い」という要件は、単に「発生の可能性がある」ではなく「高い」でなければなりません。過去に保証費用の実績がまったくなく、将来も発生する可能性が低い場合は、計上できないことになります。
発生率が低すぎる場合は計上不可です。
また、無償保証契約を書面で締結していない場合でも、過去の商慣習として事実上無償保証を行っている実態があれば、引当金の4要件を満たす限り計上が求められます。
この点は見落としがちなので注意しましょう。
製品保証引当金の金額は、過去の保証費用実績をもとに合理的に算定します。EYが示す一般的な算定式は以下のとおりです。
$$製品保証引当金 = \frac{当期の製品売上高}{過去数年度の製品売上高の合計} \times 過去数年度の保証費用の合計額$$
「過去数年度」の期間は、対象製品の保証期間に応じて設定します。たとえば3年間保証の製品であれば、過去3年分のデータを使うのが合理的とされています。
具体的な数値例で確認しましょう。
| 年度 | 製品売上高 | 保証費用 |
|---|---|---|
| X1年度 | 1,200万円 | 150万円 |
| X2年度 | 1,800万円 | 50万円 |
| X3年度 | 2,000万円 | 350万円 |
| X4年度(当期) | 3,000万円 | 15万円(既発生) |
まず実積率を算定します。
$$実積率 = \frac{150+50+350}{1200+1800+2000} = \frac{550}{5000} = 11\%$$
次に当期の引当金見積額を計算します。
$$当期の引当金見積額 = 3000万円 \times 11\% = 330万円$$
すでに当期15万円の保証費用が発生済みのため、計上する引当金は 330万円 − 15万円 = 315万円となります。
これが基本的な算定の流れです。
実務ではシンプルに計上します。ただし毎期、故障率や修理コストの変化がないかを見直し、見積もりを更新することが重要です。一度設定した実積率をそのまま何年も使い続けるのは、合理的な見積もりとは言えない場合があります。
決算時に製品保証引当金を新規計上または増額する場合の仕訳は、以下のとおりです。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 製品保証引当金繰入 | XXX円 | 製品保証引当金 | XXX円 |
借方の「製品保証引当金繰入」は費用科目であり、販売費および一般管理費(販管費)に区分されるのが一般的です。ただし、会社によっては売上原価に計上するケースもあります。いずれの場合も、期間損益計算を適切に行うことが目的です。
計上する際の方法には差額補充法と洗替法の2種類があります。
差額補充法は、前期末残高と当期末に必要な引当金見積額の差額のみを追加計上する方法です。前期末に引当金残高が50万円あり、当期末の見積額が150万円であれば、差額の100万円のみを繰り入れます。一方、洗替法は期首に前期末残高を全額取り崩してリセットし、当期末の見積額を改めて全額計上する方法です。
洗替法のほうが残高管理がシンプルで、毎年クリアな状態から始まる点が実務上の利点です。差額補充法は繰入額を最小化できるため、費用の変動を抑えたい場合に使われます。
製品に不具合が発生し、実際に無償修理を行った場合の仕訳です。この場面が引当金計上の「回収」に当たります。
【ケース1:修理費が引当金残高以内の場合】
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 製品保証引当金 | 10,000円 | 現金(または未払金) | 10,000円 |
引当金の範囲内で修理費が収まった場合は、引当金を取り崩すだけです。
損益への追加影響はありません。
【ケース2:修理費が引当金残高を超えた場合】
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 製品保証引当金 | 10,000円 | 現金(または未払金) | 15,000円 |
| 商品保証費(販管費) | 5,000円 |
引当金を超えた差額5,000円は、「商品保証費」「修理費」などの費用科目に計上します。超過額が軽微な場合は販管費に含める処理が一般的ですが、リコールなど大規模な場合は「特別損失」として計上することもあります。
超過額の規模で処理が変わります。
販売した製品の保証期間が終了した場合、使われなかった引当金残高は取り崩して収益に計上します。
これを「戻入」といいます。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 製品保証引当金 | 5,000円 | 製品保証引当金戻入益 | 5,000円 |
貸方の「製品保証引当金戻入益」は収益科目です。販売費および一般管理費の控除項目として処理するか、営業外収益として処理するかは会社の方針によって異なります。一般的には、繰入時と対称の処理(繰入が販管費なら戻入も販管費の控除)が望ましいとされています。
保証が実際には発生しなかったわけですから、過大な引当金は収益に戻すのが原則です。戻入を忘れると引当金残高が膨らみ続け、財務諸表の信頼性が損なわれます。
大規模なリコールが発生した場合は、計上済みの製品保証引当金を取り崩しつつ、引当金の残高を超える損失については特別損失に計上します。この処理は通常の修理対応とは規模が異なります。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 製品保証引当金 | 10,000円 | 現金等 | 15,000円 |
| 特別損失(リコール関連損失) | 5,000円 |
2017年1月の三菱自動車「eKワゴン」など4車種60万台のリコールのような大規模案件では、引当金残高をはるかに超える損失が生じます。その場合、超過額は営業外損失または特別損失として計上するのが一般的です。金額的重要性によって損益計算書の表示区分が変わります。
リコール対応費用の内容は多岐にわたります。修理・部品交換費用だけでなく、対象車・製品の回収・輸送費用、修理業者への手配費用、顧客への通知・連絡費用などが含まれます。見積額が確定しない段階でも、「合理的に見積もれる範囲」で引当金を計上することが求められます。
参考:製品保証引当金とリコール時の経理処理(KeiriPlus)
https://keiriplus.jp/tips/seihinhosyo_hikiatekin/
これが実務で最も見落とされやすい落とし穴です。製品保証引当金の繰入額は会計上は費用として計上できますが、法人税上は原則として損金に算入されません。
理由は明確です。法人税法上、費用の損金算入には「債務確定基準」が適用されます。製品保証引当金の繰入時点では、実際に修理・交換の義務が確定しておらず、将来発生するかどうかの見積もりにすぎないため、損金として認められないのです。
この会計と税務のズレを「一時差異」と呼び、税効果会計の対象となります。会計上の費用は先行して計上されますが、税務上の損金算入は実際にリコールや修理が行われた時点(費用が確定した時点)まで繰り延べられます。
申告書では法人税申告書別表四(所得の金額の計算に関する明細書)での加算調整と、別表五(一)での利益積立金額の管理が必要です。具体的には、製品保証引当金繰入額を別表四で「損金不算入」として加算し、将来の修理発生時に「認容」として減算する処理が求められます。
申告調整を忘れると追徴課税リスクが発生します。製品保証引当金の残高が大きい製造業では、この処理を失念した場合に法人税の過少申告につながります。
参考:国税庁「収益認識に関する法人税法の改正」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2018/pdf/001.pdf
2021年4月以降に開始する事業年度から、上場企業等を中心に「収益認識に関する会計基準」が強制適用されました。これにより、製品保証の会計処理は従来より複雑になっています。
収益認識基準では、製品保証を2種類に分類します。
つまり、同じ「保証」という名称でも、処理が全く異なります。
これが新しい判断の核心です。
①に該当する場合は従来どおり製品保証引当金を設定します。②に該当する場合は、製品販売時に受け取った対価を「売上」と「契約負債」に按分し、保証サービスの期間にわたって収益を認識します。
たとえばA製品(8,000円)に2年延長保証(2,000円)を付けて9,000円で販売した場合、販売時の仕訳は次のようになります。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 9,000円 | 売上(製品分) | 7,200円 |
| 契約負債(保証分) | 1,800円 |
独立販売価格の比率(8,000:2,000)で9,000円を按分した結果、製品分7,200円を即時収益計上し、保証分1,800円は2年間にわたって900円ずつ収益に計上します。なお、製品保証引当金そのものが「廃止」されたわけではありません。品質保証型は引き続き引当金処理が継続されます。
参考:製品保証の会計処理(収益認識基準・5ステップ解説)
https://cpa-noborikawa.net/revenue-seihinhosho/
「製品保証引当金」と「商品保証引当金」という2つの名称が存在します。
混乱しやすい点なので整理しておきましょう。
会計上の概念として、「商品」は外部から仕入れて販売するもの、「製品」は自社で製造したものを指します。この考え方に基づけば、製品保証引当金はメーカー(製造業)が使う科目、商品保証引当金は小売業・卸売業などが使う科目ということになります。
ただし、明確な使い分けのルールが存在するわけではありません。実務上は両者を同義として扱い、「製品保証引当金」という科目名で計上している販売業者も多く存在します。科目名よりも「無償保証に伴う将来費用の引当金であること」が重要です。
簿記の試験(日商簿記2級など)では、製造業の問題では「製品保証引当金」、小売業の問題では「商品保証引当金」が使われる傾向があります。試験対策として両者の名称を把握しておくことが必要です。
いずれにせよ処理方法は同一です。
国際財務報告基準(IFRS)に基づく企業(または任意適用している上場企業)では、引当金はIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に従って処理されます。製品保証に関する引当金は、日本基準とIFRSで大きな枠組みは似ていますが、いくつかの重要な差異があります。
最も大きな違いは割引計算の要否です。IFRSでは、引当金の金額が重要な場合には、貨幣の時間価値を考慮した現在価値(割引後の金額)で計上することが求められます。一方、日本基準では引当金の割引計算は原則として要求されていません。たとえば3年後に発生する10万円の保証費用は、IFRSでは現在価値(例:割引率5%なら約8.6万円)で計上するのに対し、日本基準ではそのまま10万円で計上することが多いです。
もう一つの差異は推定的債務(constructive obligation)の取り扱いです。IFRSでは、契約書がなくても過去の慣行から「合理的な期待」を生じさせている場合(推定的債務)も引当金の対象になります。日本基準ではこの「推定的債務」の概念が明示されておらず、法的確定を重視する傾向があります。
グローバルに展開する企業の財務諸表を読む際は、引当金の計上根拠が日本基準かIFRSかによって、その残高の意味が異なることを念頭に置く必要があります。
参考:KPMGによるIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」解説
https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmgsites/jp/pdf/jp-ifrs37-160921.pdf
製品保証引当金の計上漏れや誤計上は、意外な場面で起きます。ここでは上位記事では取り上げられていない、実務現場で見落とされやすい5つの場面を整理します。
1. 保証書を発行していないのに無償対応している場合
書面による保証契約がなくても、電話・メール等で事実上の無償修理を行っている実態があれば、引当金の4要件を満たす限り計上が必要です。「保証書がないから計上しなくていい」は誤りです。
2. 売上計上後すぐに決算を迎える場合
たとえば3月末決算の企業が3月中旬に大量販売し、4月1日から1年間の無償保証が始まる場合、決算時点での保証費用発生の可能性は計上要件を満たすため引当金が必要です。
販売直後の決算でも見積計上が求められます。
3. 海外子会社の保証費用の連結処理
海外子会社が提供する製品保証は、その国の会計基準に従って処理されます。連結財務諸表を作成する際は、海外子会社の製品保証引当金が日本基準または IFRSに合わせて適切に調整されているか確認が必要です。
4. ソフトウェアや無形サービスへの適用
製品保証引当金は物理的な製品だけでなく、ソフトウェア(パッケージ製品など)の不具合対応にも適用されることがあります。「製品」の定義を狭く解釈しすぎると計上漏れになります。
5. 引当金残高の見直しを怠った場合
製品の品質が改善されて修理率が大幅に低下した場合、あるいは新型製品でリコール率が急上昇した場合には、過去の実積率をそのまま使い続けることは合理的な見積もりとは言えません。
毎期の見直しが義務付けられています。
見積率の固定化は監査上の指摘事項になります。
これらの見落としリスクを回避するためには、製品保証の状況を毎期体系的にチェックする社内フローを整備することが有効です。具体的には、売上管理部門・顧客サポート部門・経理部門が連携し、保証対応実績を集計できる体制を構築することが求められます。
これまでの内容を整理します。製品保証引当金に関わる仕訳を場面別に一覧化しました。
| 場面 | 借方 | 貸方 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 🗓️ 決算時(繰入) | 製品保証引当金繰入 | 製品保証引当金 | 差額補充法または洗替法で計上。税務上は損金不算入 |
| 🔧 修理実施時(引当金内) | 製品保証引当金 | 現金等 | 損益への追加影響なし |
| ⚡ 修理実施時(引当金超過) | 製品保証引当金+商品保証費 | 現金等 | 超過分は費用または特別損失 |
| ✅ 保証期間終了時(戻入) | 製品保証引当金 | 製品保証引当金戻入益 | 未使用残高を収益に戻す |
| 🚨 リコール発生時 | 製品保証引当金+特別損失 | 現金等 | 超過額は特別損失計上が一般的 |
| 🌐 有償保証(2021年基準後) | 現金 | 売上+契約負債 | 保証期間に按分して収益認識 |
製品保証引当金の仕訳は場面ごとに異なります。特に「税務上は損金不算入」という点と、「2021年以降は有償保証が契約負債処理になる」という2点が実務上のポイントです。いずれも見落とすと申告誤りや財務諸表の誤表示につながりますので、しっかり押さえておくことが重要です。
参考:マネーフォワード クラウド「商品保証引当金の意味や仕訳」
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/55180/