

不動産を売っても減価償却費を無視すれば、税額が数十万円単位で膨らむことがあります。
不動産売却で得た利益に課税される「譲渡所得」は、単純に「売却価格−購入価格」ではありません。正確な計算式は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 譲渡所得 | 譲渡価格 − 取得費 − 譲渡費用 |
| 取得費 | 購入代金 + 購入時諸経費 − 減価償却費累計額 |
| 譲渡費用 | 仲介手数料・印紙税・解体費用など売却時にかかった費用 |
ここで重要なのが「取得費から減価償却費累計額を差し引く」という点です。つまり、不動産を長く保有するほど取得費が目減りし、課税対象となる譲渡所得は大きくなります。これが多くの人の直感に反する部分です。
減価償却費は建物部分のみに適用されます。土地は時間が経過しても価値が消耗しないという考え方から、土地には減価償却がありません。売却価格を土地と建物に分けて考えることが基本です。
つまり、建物部分の計算を誤ると全体の税額が大きく狂います。
なお、マイホームを賃貸に転用していた場合は、賃貸期間中に必要経費として計上した減価償却費の累計額が、売却時の取得費から差し引かれます。賃貸経営をした経験がある人ほど、この点を見落としやすいので注意が必要です。
参考:譲渡所得の取得費と減価償却費の考え方(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3258.htm
減価償却費を計算するには、まず建物の「法定耐用年数」と「償却率」を確認することが条件です。
構造ごとの法定耐用年数は以下のとおりです。
| 建物構造 | 法定耐用年数 | 償却率(定額法) |
|---|---|---|
| 木造 | 22年 | 0.046 |
| 軽量鉄骨造(骨格材3mm以下) | 19年 | 0.053 |
| 軽量鉄骨造(骨格材3mm超4mm以下) | 27年 | 0.038 |
| 重量鉄骨造(骨格材4mm超) | 34年 | 0.030 |
| 鉄筋コンクリート造(RC造) | 47年 | 0.022 |
1年あたりの減価償却費は「建物の取得価格(建物部分のみ)× 償却率」で求められます。
例えば、木造・建物取得価格2,000万円・保有期間10年の場合は次のとおりです。
920万円という数字は、東京の1LDKマンション1室分の価格に相当するほどの金額です。保有期間が長くなるほど、この差は積み上がっていきます。
意外ですね。
さらに注意すべき点があります。個人が居住用として保有していた不動産を売却する場合、賃貸に出していなくても「旧定額法」によって強制的に減価償却費相当額が差し引かれます。この仕組みを「償却費相当額の控除」といい、自分で申告しない場合でも税務署側で自動的に適用される点が特徴です。
償却費相当額が条件です。
参考:減価償却費の計算方法と耐用年数一覧(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5404.htm
中古物件を購入して売却する場合は、耐用年数の計算方法が新築とは異なります。これは多くの人が見落としているポイントです。
中古物件の場合、「簡便法」と呼ばれる方法で耐用年数を計算します。
具体的な例で確認しましょう。築30年の木造建物(法定耐用年数22年超)を中古で取得した場合、耐用年数は「22年 × 20% = 4.4 → 4年」となります。この場合の償却率は0.250です。これが新築の0.046と比べると、約5倍のスピードで建物価値が減少する計算になります。
差が大きいですね。
つまり、築古の中古物件は短期間で取得費がゼロに近くなるため、売却時の譲渡所得が大きく計上されやすいということです。
「取得費がゼロになる」というのは、より正確に言うと「取得費の5%まで目減りする」という意味です。実務上、建物の帳簿価格が取得価格の5%を下回った段階で、それ以上の減価償却は認められません。5%が残存価格として残る形になります。
5%が条件です。
築古物件を安く仕入れて短期間で売却する「不動産転売」を考えている方は、この耐用年数計算を事前に試算しておくことで、想定税額を事前にシミュレーションできます。国税庁の「譲渡所得の計算ツール」や、不動産会社が提供する無料シミュレーターで確認するのが手間なく確実な方法です。
参考:中古資産の耐用年数の計算(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5404.htm
減価償却費の計算を誤って申告した場合、後から税務署に指摘されて追徴課税が発生するリスクがあります。痛いですね。
特に多いミスは次の3パターンです。
追徴課税は元の税額に加え、「過少申告加算税(10〜15%)」と「延滞税(年最大14.6%)」が上乗せされます。100万円の申告漏れであれば、加算税だけで10万〜15万円の追加負担が生じます。
これは使えそうです。
申告前に必ず確認すべきなのは、①売買契約書の土地・建物の内訳、②購入時の諸費用の領収書、③賃貸経営していた場合の過去の確定申告書の3点です。この3点が手元にあれば、税理士への相談時間も大幅に短縮できます。
不動産売却の税務申告に不安がある場合は、売却前に税理士に相談するのが最も確実な方法です。初回相談が無料の税理士事務所も多く、「不動産売却 税理士 無料相談」で検索すると複数の候補が見つかります。
参考:不動産を売ったときの確定申告(国税庁タックスアンサー)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
実は、取得費の計算には「概算取得費」という特例があります。これは、売却価格の5%を取得費として使える制度です。
どういうことでしょうか?
通常の取得費計算よりも「5%の概算取得費」のほうが有利になるケースは稀ですが、次の状況では積極的に活用できます。
ここで注目すべきポイントがあります。概算取得費を使う場合は、建物の減価償却費の計算が不要になります。なぜなら、取得費全体を「売却価格の5%」という一括計算で処理するため、建物・土地を分けて計算する必要がなくなるからです。
計算がシンプルになります。
ただし、実際の取得費のほうが5%より高い場合は、当然ながら実額を使うほうが税額を抑えられます。どちらが有利かは必ず試算してから選択することが重要です。
また、相続や贈与で取得した不動産の場合は、被相続人・贈与者の取得費を引き継ぐ「取得費の引継ぎ」というルールが適用されます。この場合、被相続人が購入した当時の価格から減価償却費累計額を差し引いた金額が取得費になるため、相続人自身が申告計算を誰も確認せずに行うと大きなミスにつながります。
相続不動産の売却は特に複雑です。
もし相続した不動産の売却を検討しているなら、相続発生から3年10か月以内であれば「取得費加算の特例」が使え、相続時に支払った相続税の一部を取得費に加算できます。この期限は絶対に逃さないようにしましょう。期限後は適用不可となり、数十万〜数百万円の節税機会を逃すことになります。
期限には注意が必要です。
参考:取得費の計算(概算取得費・実額取得費)と特例一覧(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3259.htm