原価基準法と移転価格の仕組みと課税リスク

原価基準法と移転価格の仕組みと課税リスク

原価基準法と移転価格の基礎から実務リスクまで

「原価に利益を乗せているだけだから、自社の移転価格は問題ない」——その判断が、後に数十億円の追徴課税に発展した企業が複数あります。


この記事でわかること
📐
原価基準法(CP法)の仕組み

製造原価にマークアップ率を加算して独立企業間価格を算定する基本三法のひとつ。 計算式と具体例で丁寧に解説します。

⚠️
課税リスクと実際の追徴事例

IHI・良品計画・ファナックなど上場企業が受けた億単位の課税事例から、何が問題になるのかを具体的に整理します。

🛡️
実務対応のポイント

算定方法の選定手順・文書化義務・5%マークアップの正しい使い方まで、実務ですぐ使える知識を整理して解説します。


原価基準法とは何か:移転価格における基本三法のひとつ


原価基準法(Cost Plus Method、略称CP法)とは、国外関連者との取引(国外関連取引)において、売り手側が負担した製造原価または取得原価に、通常考えられる利益率(マークアップ率)を乗じた金額を加算して独立企業間価格を算定する方法です。


簡単に言えば「コストに利益を足して売値を決める方法」です。


日本の移転価格税制の根拠法令である租税特別措置法第66条の4第2項1号ハに明記されており、独立価格比準法(CUP法)・再販売価格基準法(RP法)とともに「基本三法」を構成します。この3つは、移転価格算定のなかでも最も直接的な方法として位置づけられています。


計算式を具体例で示すと以下のようになります。日本本社が海外子会社に製品Xを販売するケースで、製造原価が100万円、通常の利益率が30%であれば、独立企業間価格は130万円となります。この30%に相当する30万円が「通常の利潤」であり、この利潤水準の妥当性を証明することが、CP法の核心的な論点となります。


原価基準法は一般的に、海外子会社が製造活動を担っている場合に適した方法です。製造メーカーが本社から部品や半製品を仕入れて加工するケースなど、取引の出発点がコストにある構造に向いています。


移転価格税制専門のGMT「5分で分かる原価基準法」——法令条文を含む原価基準法の詳細解説ページ


移転価格税制の全体像:なぜ独立企業間価格が必要なのか

移転価格税制とは、国内法人がその国外関連者(海外子会社など)との取引を独立企業間価格(Arm's Length Price)と異なる価格で行った場合に、独立企業間価格で取引したものとみなして課税する制度です。1986年に日本で導入され、その後も改正が繰り返されながら、現在に至ります。


なぜこの制度が必要なのでしょうか。


親子会社間の取引では、価格を自由に設定できます。たとえば、日本の親会社がタイの子会社に製品を著しく安く販売すれば、日本側の利益は圧縮され、税負担の低いタイ側に利益が集中します。これが「利益の国外移転」であり、各国の税収が損なわれる問題です。この問題を防ぐために、「関係のない第三者同士が同じ条件で取引したとしたら、いくらになるか」という価格——独立企業間価格——を算出し、それに基づいて課税するのが移転価格税制の基本的な仕組みです。


重要なのは、調査対象となる除斥期間(いわゆる時効)が通常の法人税より長い点です。2020年4月1日以後に開始する事業年度については7年間さかのぼられます。過去7年分の取引が一括で問題視される可能性があるため、調整対象金額が非常に大きくなりやすいという特徴があります。


国税庁「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」——算定方法の適用事例を網羅した公式資料


原価基準法の計算方法:マークアップ率の決め方が最大の焦点

原価基準法を適用する際には、①取得原価の算定と②通常の利益率(マークアップ率)の設定という2つのステップが必要です。このうち、実務上最も難易度が高く、税務当局との見解の相違が生じやすいのがマークアップ率の決定です。


マークアップ率は「通常の原価基準利益率」とも呼ばれ、比較対象取引から算出します。


比較対象取引には2種類あります。


まず「内部比較対象取引」です。これは、自社(日本本社)が第三者にも同様の製品を販売している場合に使える方法で、その第三者との取引で得ているマークアップ率を、海外子会社との取引にも適用します。この方法は比較可能性が高く、税務上の証明力が強いとされます。


次に「外部比較対象取引」です。内部比較対象取引が存在しない場合、企業データベースから類似機能を持つ独立企業を抽出し、その売上総利益率のレンジ(範囲)を参考にする方法です。この際、企業データベースに掲載される情報は取引単位ではなく会社全体の利益率であるため、十分な比較可能性を確保できるケースが限定されることには注意が必要です。


マークアップ率が条件です。


この率の客観性が担保できない場合、税務当局から独自に算定した価格を押し付けられる「推定課税」の適用を受けるリスクがあります。推定課税が適用されると納税者は課税の根拠を争うことが難しくなります。


基本三法と取引単位営業利益法(TNMM)の違いと選び方

移転価格税制では、独立企業間価格を算定するための方法として日本の法人税法上6つの方法が規定されています。内訳は基本三法(CUP法・RP法・CP法)、取引単位営業利益法(TNMM)、利益分割法(PS法)、DCF法です。


かつては基本三法に優先順位が与えられていましたが、2011年(平成23年)の税制改正によって「ベストメソッドルール」が導入され、現在は全ての方法の中から取引の実態に最も適したものを選ぶことになっています。


これは重要な点です。


ベストメソッドルールのもとでは、「原価基準法を使うべきだから使う」ではなく、「この取引にはCP法が最も適切と判断した理由を説明できること」が求められます。


実務上よく使われる方法はTNMMです。


理由は明確で、CUP法やCP法では「同種または類似の取引・製品」という厳格な比較可能性が求められるため、適合する比較対象取引を見つけることが極めて難しいのです。一方、TNMMは類似の機能を持つ企業の営業利益率を参考にするため、公開されている企業データベースから比較対象企業を見つけやすく、実務的に適用しやすいという特徴があります。


以下が算定方法の選定フローの目安です。





























優先度 方法 主な適用場面
Step1 TNMM 子会社が単純な製造・販売機能のみを担っている場合
Step2 残余利益分割法 海外子会社の利益率が高く、無形資産を保有している場合
Step3 寄与度利益分割法 比較対象企業が見つからない寡占市場など
補完的に検討 CP法(原価基準法) 内部比較対象取引が存在する製造子会社取引


CP法が「補完的」に位置づけられるのは、比較対象取引の要件が厳しく内部比較対象取引がない限り証明力が下がるからです。基本三法を採用しない場合は「比較可能性が不十分だったから」という理由で、ローカルファイル(移転価格文書)に記載することが実務上の定石とされています。


押方移転価格会計事務所「移転価格算定方法のわかりやすい選び方」——実務的な選定フローをコンパクトに解説


原価基準法の要件「同種または類似の棚卸資産」の意義と判例

原価基準法を適用するためには、比較対象取引が「同種または類似の棚卸資産」に関する取引でなければなりません。この要件について、過去の裁判例が重要な指針を示しています。


大阪地方裁判所・平成20年7月11日判決(電子部品輸出取引事件)では、「同種または類似の棚卸資産」の意義について、「性状・構造・機能面において同種または類似である棚卸資産」と判示されています。


この定義は重要な点を含んでいます。


それは、独立価格比準法(CUP法)が要求する「同種の棚卸資産」よりも範囲が広いという点です。CUP法では商品の仕様・品質・市場条件などがほぼ同一でなければ適用できません。これに対しCP法では、「性状・構造・機能などの一部に差異があっても、その差異が通常の利益率の算定に重大な影響を与えないと認められる場合」には同種または類似の棚卸資産として取り扱えるとされています。


意外ですね。


つまりCP法は、CUP法が適用できない取引についても適用できる余地があるという点で、基本三法の中では比較的使いやすい方法のひとつと言えます。ただし、「差異が重大な影響を与えない」ことの立証責任は納税者側にあるため、この点の文書化には注意が必要です。


JGA税理士法人「原価基準法(CP法)の要件及び意義~移転価格税制」——大阪地裁判決を含む法的要件の詳細解説


原価基準法に準ずる方法:役務提供取引における総原価法とは

原価基準法には「通常版」のほかに「準ずる方法」と呼ばれる適用形態があります。これがやや複雑であり、見落とされがちなリスクポイントでもあります。


「原価基準法に準ずる方法」とは、マークアップ率を加算せず、総原価の額のみをもって役務提供の対価(独立企業間価格)とみなす方法です。適用されるのは、①役務提供取引であり、②「法人の本来の業務に付随して行われたもの」に該当する場合です。


具体例として、海外子会社の製造設備に対して行う技術指導のような、役務提供を主たる事業としていない法人が付随的に行った役務提供が挙げられます。この場合、利益を乗せることなく、かかったコスト(総原価)を対価とすることが税務上認められる場合があります。


ただし、この方法は納税者が積極的に選択するものではありません。


あくまでも税務当局が課税を検討する際に適用を考える方法であり、以下のいずれかに該当する場合は適用されません。①役務提供に要した費用が総費用の相当部分を占める場合、②無形資産を使用した場合、③その他総原価を対価とすることが相当ではないと認められる場合です。


この役務提供取引は、移転価格調査の現場で「見落とされがちだが、一度問題になると7年分さかのぼられるリスクがある論点」として専門家から警戒されています。出張サポートや技術指導の費用配賦なども対象になりうるため、注意が必要です。


5%マークアップルールの正しい使い方と誤解が生む課税リスク

「役務提供のコストに5%を乗せれば移転価格は大丈夫」——この理解は要注意です。


BEPSプロジェクトの提言を受けて2019年度の通達改正で導入された「5%マークアップ」ルールは、「低付加価値グループ内役務提供(IGS)」に対して、総原価に5%を上乗せした金額を独立企業間価格と見なす簡易算定方式です。移転価格分析の事務負担を軽減する「セーフハーバー」的なルールとして活用できます。


ただし、適用できる取引には明確な条件があります。


以下の3要件をすべて満たす必要があります。



  • 🔹 企業の中核的事業活動(製造・販売・研究開発など)に直接関連しないこと

  • 🔹 独自の重要な無形資産を使用・創出しないこと

  • 🔹 重要なリスクを引き受けたり、コントロールしたりしないこと


対象となる役務提供の例としては、会計・財務事務、人事・給与計算、ITサポート、税務申告支援などのバックオフィス業務が中心です。これらが「補助的なサポート業務」であることが5%マークアップ適用の大前提です。


一方、たとえ会計業務であっても、会計コンサルティング会社が本業としてそのサービスを提供する場合は「中核的事業活動」にあたるため適用できません。また、製造ノウハウの技術指導や重要なマーケティング戦略の立案支援なども対象外です。


これは使えそうですね。


5%を適用する場合は、「なぜこの取引が低付加価値グループ内役務提供に該当するのか」を説明できる文書・証跡を整備することが不可欠です。根拠のない5%適用は、調査で否認されたうえ差額を寄附金認定されるリスクがあります。


国際税務総研「移転価格税制の5%マークアップとは?適用要件と注意点」——5%マークアップの背景・要件・リスクをまとめた解説記事


移転価格税制における文書化義務と原価基準法の関係

移転価格リスクを管理する上で、文書化(ローカルファイルの作成)は非常に重要な実務的義務です。文書化が不十分だと、税務調査において当局が独自に独立企業間価格を推定して課税する「推定課税」の適用を受けることになります。


文書化義務の概要は以下のとおりです。



  • 📋 連結総収入1,000億円以上の企業:国別報告書・マスターファイルを事業年度終了日の翌日から1年以内に提出。

    未提出は30万円以下の罰金。


  • 📋 海外子会社との年間取引額(売上・仕入合計)が50億円以上の企業確定申告期限までにローカルファイルを作成する義務あり。

  • 📋 50億円未満の企業:作成期限はないが、税務調査で提出を求められた場合は60日以内に提出が必要。


原価基準法を移転価格算定方法として採用する場合、ローカルファイルには以下を記載することが求められます。「全ての算定方法を検討した結果、CP法が最も適切と判断した理由」「比較対象取引の選定根拠とマークアップ率の算出根拠」「差異調整を行った場合はその内容と根拠」です。


注意したいのが「1年分だけ作って放置」というパターンです。ローカルファイルは毎期更新が必要であり、途中年度が欠落していると調査時に深刻な問題を引き起こします。また、外部コンサルタントに丸投げして中身を理解していない場合、調査官からの質問に答えられず心証を悪化させるリスクがあります。文書化の内容を自社でも理解しておくことが条件です。


押方移転価格会計事務所「移転価格税制関連の罰則(ペナルティー)」——文書化義務違反から推定課税・コンプライアンスリスクまでを体系的に整理


実際の課税事例から学ぶ:億単位の追徴が起きた背景

移転価格課税は、実際に大企業を巻き込んだ多数の事例があります。金額の規模を知ることで、このリスクの大きさが実感できます。


まず、IHI株式会社はタイの子会社との取引に関して東京国税局から約100億円の移転価格課税を受け、追徴税額は約43億円に上りました(2019年)。その後、比較対象企業の選定が争点になった訴訟を提起し、2023年12月に第1審で勝訴しています。


良品計画(無印良品)のケースでは、海外子会社との取引に関して東京国税局から約70億円の申告漏れを指摘され、法人税の追徴税額は約20億円とされました(2020年)。


ファナック株式会社は台湾の子会社との取引に関して、2021年3月期までの3年間で約97億円の申告漏れを指摘され、過少申告加算税を含む追徴税額は約22億円と報じられています(2024年)。


スノーピーク株式会社は韓国の子会社との取引で3事業年度にわたり約6億円の申告漏れを指摘されました。


これらの事例が示すのは、移転価格リスクが大企業だけの問題ではないという点です。スノーピークやヨネックスのように、比較的規模の小さい企業でも課税されるケースが増えています。


痛いですね。


過去10年間のデータを見ると、2011〜2021年度の間に毎年100〜260件の更正処分が行われており、更正所得金額は年間100〜1,000億円前後で推移しています。調査件数はコロナ禍で一時的に減少しましたが、2022年以降は再び活発化しています。


なお、特に悩ましいのが移転価格課税を受けた場合の「二重課税」リスクです。日本で追徴課税されても、相手国(タイ・中国・台湾など)で利益が既に課税されているため、同じ利益に二国間で税金が発生します。これを回避するには相互協議が必要ですが、アジア諸国の中には実務経験が乏しく交渉が長期化するケースも少なくありません。


株式会社iTPSが運営するサイト「日本における移転価格課税の動向と最近の事例」——IHI・良品計画・ファナック・スノーピークなどの課税事例と動向分析


【独自視点】原価基準法の「原価定義」次第で移転価格が変わる盲点

原価基準法の実務においてあまり語られない落とし穴があります。それは「何を原価に含めるか」という定義の問題です。


原価基準法を適用する際の「製造原価」は、直接材料費・直接労務費・製造間接費といった製造に直接紐づくコストを指すのが一般的です。しかしグローバルな製造拠点では、「原価」の範囲について日本と相手国で会計基準や慣行が異なる場合があります。日本では製造原価に含めるコストが、相手国では販売費及び一般管理費に分類されることもあるのです。


この差異を調整しないまま比較対象取引との利益率比較を行うと、実態よりもマークアップ率が高く・または低く見える数字が出てしまいます。つまり原価基準法は正しいはずが、数字が全く違うということですね。


国税庁の「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」でも、「再販売価格基準法・原価基準法・取引単位営業利益法を適用する際の比較対象取引の選定においては、資産や役務の類似性よりも、取引の当事者が果たす機能への着目が重要である」と明記されています。会計基準の差異は機能の差異に直結するため、差異調整の手順は必須と言えます。


EYジャパンのレポートでも、利益率比較において会計基準・慣行の差異による売上・原価・費用項目の差異を調整し、比較可能性を高めることの重要性が指摘されています。この差異調整を怠ると、同業他社の利益率レンジに入っているように見えても、実態では外れている可能性があります。


具体的には、①研究開発費の計上タイミングの違い、②棚卸資産の評価方法(FIFO・加重平均)の違い、③減価償却方法の違いなどが、国際間の利益率比較を歪める典型的な原因として挙げられます。原価を算定する段階で、相手国の会計担当者と「どのコストがどの科目に入っているか」を確認するプロセスを文書化しておくことが、後の税務調査に備える有効な一手となります。


EY Japan「移転価格における差異調整と統計分析の活用(前編)」——国際間の利益率比較における会計差異調整の実務的重要性を解説したレポート


事前確認制度(APA)で移転価格リスクを先手で抑える方法

移転価格のリスク対策として、最も確実性が高い手段が「事前確認制度(Advance Pricing Arrangement:APA)」の活用です。これは税務当局と将来の取引における独立企業間価格の算定方法を事前に合意しておく制度であり、確認を得た取引については税務調査リスクを大幅に低減できます。


APAには大きく2種類あります。自国の税務当局(国税庁)とのみ合意するユニラテラルAPAと、相手国の税務当局も含めて合意するバイラテラルAPAです。バイラテラルAPAは二重課税リスクも同時に解消できるため、より安心感は高いです。ただし、取得までに数年単位の期間と相応の事務負担がかかります。


APAの申出が現実的かどうかは、対象取引の金額規模や重要性、リスクの大きさを総合的に判断する必要があります。一般的には、海外子会社との主要取引が継続的に存在しており、かつその規模が年間数十億円以上ある場合は、申出を検討する価値があると言えます。


APAを取得するためには、申出時点で「移転価格文書(ローカルファイル)が整備されており、独立企業間価格の算定方法の合理性が説明できる状態」であることが前提となります。つまり日頃の文書化対応が、APAへの道を開く土台にもなるのです。AP取得後も、為替レートや事業内容に重大な変化が生じた場合は「重要な前提条件の変更」として当局への報告が必要になります。


これは必須です。


移転価格と原価基準法をめぐる今後の動向:BEPS2.0とグローバルミニマム課税

移転価格の世界は現在、大きな転換期にあります。OECDが主導するBEPS2.0プロジェクト(通称「二本柱(Pillar One / Pillar Two)」)の影響が、各国の移転価格実務にも波及し始めているからです。


特に注目すべきはPillar Two(第2の柱)です。これは「グローバルミニマム税」とも呼ばれ、年間連結売上高7億5,000万ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業グループに対し、実効税率が15%を下回る国に所在するグループ会社の所得に対して追加課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:QDMTT等)を求める仕組みです。日本では2024年度税制改正で国内最低課税額制度として導入されました。


この制度は移転価格に直接影響します。なぜなら、低税率国の子会社に利益を集中させることで移転価格税制をかいくぐろうとしても、グローバルミニマム税によって最終的に15%以上の課税が確保されるからです。つまり「どの国に子会社を置いても、一定以上は課税される」という環境になっていきます。


これは結論として、移転価格の節税メリットが縮小する方向に向かっているということです。


一方、Pillar Oneでは「利益B(Amount B)」と呼ばれる簡素化された移転価格算定アプローチが検討されており、一定の販売・マーケティング活動に対して標準化されたリターンを適用する仕組みです。これが実際に各国の国内法に落とし込まれれば、RP法(再販売価格基準法)やCP法(原価基準法)の適用領域にも影響を与える可能性があります。


グローバルミニマム課税の動向は、移転価格ポリシーの見直しを迫る要因になります。今後は「税率差を利用した利益移転」の実効性が低下するため、移転価格対応の主眼は「節税」から「コンプライアンスとレピュテーションリスクの管理」に移行していくと見られています。


経済産業省「移転価格税制の基礎と実務」——移転価格制度の全体像とBEPS対応を含む基礎資料(2023年セミナー資料)


原価基準法を実務で活用するための整理:チェックリスト形式でまとめ

ここまでの内容を踏まえ、原価基準法(CP法)を移転価格の場面で実務的に活用する際の確認ポイントを整理します。



  • ✅ 対象取引が棚卸資産の製造・販売に関するものか(役務提供には「準ずる方法」の適用可能性も検討)

  • ✅ 比較対象取引として内部比較対象取引が存在するか(あれば証明力が高い)

  • ✅ 内部比較対象取引がない場合、企業データベースから類似の独立製造業者の利益率が取得できるか

  • ✅ 日本と相手国間で会計基準・原価の定義に差異がないか確認したか

  • ✅ 差異が存在する場合、適切な調整を行い調整根拠を文書化したか

  • ✅ ベストメソッドルールに従い、他の算定方法(TNMM等)を検討・排除した理由を記載したか

  • ✅ ローカルファイルが最新の事業年度に対応して更新されているか

  • ✅ 低付加価値グループ内役務提供(5%マークアップ)を適用する場合、対象取引の性質要件を文書化したか


移転価格は「価格を設定するだけ」では終わりません。


税務当局は、価格の決め方と、その根拠を示した文書の両方をチェックします。特に除斥期間が7年間と長いため、問題が発覚した場合の影響は大きく、上場企業では開示義務やレピュテーションリスクまで発展します。


製造業を展開するグローバル企業の経理担当者・財務担当者にとって、原価基準法の仕組みと適用要件を正確に理解しておくことは、将来の億単位の課税リスクを防ぐ「知っているだけで得をする知識」と言えます。移転価格の算定方法選定に迷いが生じた場合や、既存のポリシーの見直しが必要と感じた際は、国際税務の専門家に相談することが対応の第一歩になります。


Please continue.




お金に好かれる人 嫌われる人