

基本的利益の計算が少しズレるだけで、追徴税額が数十億円単位で膨らむ課税処分が実際に起きています。
残余利益分割法(Residual Profit Split Method、略称RPSM)は、移転価格税制における独立企業間価格の算定方法の一つです。利益分割法(Profit Split Method)には3種類あり、比較利益分割法・寄与度利益分割法・残余利益分割法に分類されます。
そのうち残余利益分割法は、日本法人とその国外関連者の双方が「重要な無形資産」を保有し、独自の機能を果たしているケースに適用されます。つまり親会社も子会社も、どちらも特許やブランドなどの高付加価値な資産を使って利益を出しているような場面で使われる方法です。
計算は大きく2つのステップに分かれます。まず第1ステップでは、無形資産を使わない通常の活動(製造や販売など)によって得られる利益を先に各社に配分します。これが「基本的利益(Routine profit)」です。次に第2ステップで、基本的利益を差し引いた後に残った利益(=残余利益・超過利益)を、各社の貢献割合に応じてさらに分割します。
この2ステップの構造が重要で、第1ステップでの「基本的利益の算定精度」と、第2ステップでの「分割要因の選び方」、この2点が常に税務調査の焦点になります。
つまり2段階両方に課税リスクが潜んでいます。
| ステップ | 内容 | 主な争点 |
|---|---|---|
| 第1ステップ | 基本的利益の配分(Routine profit) | 比較対象企業の選定・類似性の判断 |
| 第2ステップ | 残余利益(超過利益)の分割 | 分割要因の範囲・ウエイト付け |
残余利益分割法は2011年(平成23年)の税制改正以前は、通達レベルで定められていた手法でしたが、改正により政令に明文化されました。現在は措置法第66条の4第2項及び措置法施行令第39条の12第8項に規定されており、国税庁が公表する「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(事例8・事例22など)でも具体的な計算手順が示されています。
基本的利益(Routine profit)とは、「独自の機能(重要な無形資産)を使用しない販売活動や製造活動によって得られる営業利益」のことです。言い換えれば、特別な技術やブランドがなくても、一般的な事業活動を行えば誰でも稼げる程度の標準的な利益と理解できます。
この概念が重要な理由は、残余利益分割法の計算上、基本的利益を先に確定させることで「超過利益の範囲」が決まるからです。
たとえば次のような状況を考えてみてください。日本の親会社と海外子会社がそれぞれ営業利益率10%を達成しているとします。親会社の比較対象企業群の平均営業利益率が5%、子会社の比較対象企業群の平均営業利益率が4%であった場合、各社はまず5%分・4%分を基本的利益として確定させます。
残りの各社5%・6%分(計11%相当)が超過利益となり、これを第2ステップで按分する仕組みです。基本的利益が高めに計算されれば超過利益は小さくなり、低めに計算されれば超過利益は大きくなります。この差が億単位のズレを生む可能性があります。
基本的な原則は明確です。基本的利益の算定においては、重要な無形資産を使わずに類似の事業活動を行っている比較対象企業を選び、その企業群の営業利益率(または総費用営業利益率)をもとに計算します。選定した比較対象企業の数や性質が変わるだけで、計算結果が大きく変動します。
これが実務上の最大の難所です。
基本的利益を算定するための手順は概ね次のとおりです。ここでは親会社(日本法人)側の基本的利益を計算する場合を例に取ります。
まず、親会社と同様に「重要な無形資産を保有しない」かつ「類似の機能を果たしている」第三者企業をデータベース(例:Bureau van DijkのOrbisDatabaseや日本の民間企業データベース)から抽出します。この段階で除外基準を設け、赤字企業・関連者間取引が多い企業・業種が大きく異なる企業などをスクリーニングで落とします。
次に残った比較対象候補企業の財務データから、一定期間(通常は3〜5年程度の複数年平均)の営業利益率または総費用営業利益率を算出します。その中央値や四分位レンジ(上位25%と下位25%を除いた中央部分)が、基本的利益の水準として使用されます。
最後に、その利益率指標を検証対象会社の売上高や総費用に乗じることで、基本的利益の金額が算出されます。
国税庁の参考事例集(事例22)では、基本的利益の計算における比較対象企業の選定基準や差異調整の考え方が具体的に示されています。
実務担当者は必ず参照しておくべき資料です。
移転価格税制の参考事例集(国税庁公表)では、基本的利益の計算の具体的な事例(事例22)が掲載されています。
国税庁「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(PDF)
基本的利益を差し引いた後に残る「残余利益(超過利益)」は、両社が持つ独自の機能や資産への貢献割合に応じて分割されます。この分割割合の根拠となるのが「分割要因(分割ファクター・分割指標)」です。
一般的に分割要因として使われるのは、研究開発費・マーケティング費用・その他無形資産の創出に関わった費用の支出金額の割合です。たとえば、親会社が研究開発費として100億円、子会社がマーケティング費として50億円を支出した場合、残余利益の分割割合はおおむね2:1(親会社67%・子会社33%)になります。
しかし問題が複雑なのは、残余利益を生み出した要因が一つとは限らないからです。市場規制・寡占状態・大規模設備投資による規模の利益など、重要な無形資産以外の要因が超過利益に貢献しているケースも多々あります。
ここが最も大きな課税リスクポイントです。分割割合が5%変わるだけで、億円単位の利益帰属が変化します。税務当局と企業側で見解が異なると、莫大な追徴課税につながります。
分割要因として認められる可能性があるものの例を整理すると以下のとおりです。
分割要因の選定は合理性が原則です。「利益発生に実際に寄与した」という客観的証拠を文書で残せるかどうかが、税務当局との交渉の鍵を握ります。
残余利益分割法の実務を語る上で避けて通れないのが「日本ガイシ事件(東京高裁令和4年3月10日判決)」です。この裁判は、残余利益分割法における分割要因の解釈に関して、日本の移転価格実務を根本から変えた先例的な判決として広く認識されています。
事案の概要を説明します。日本ガイシ(本社:名古屋)は、ポーランドのセラミックス製DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)製造子会社との間のライセンス取引について、名古屋国税局から移転価格課税を受け、追徴税額として約85億円を納付しました。
課税庁は、超過利益の分割要因は「重要な無形資産」の開発費のみとするべきだと主張しました。一方、日本ガイシ側は、子会社が行った大規模な設備投資(超過減価償却費)も残余利益の発生に大きく貢献していると反論しました。
東京地裁・東京高裁ともに日本ガイシ側の主張を支持する判決を下しました。ポーランド子会社がEU市場に業界2番目の速さで参入し、先行2社による寡占状態を形成したこと、その寡占を維持するために行った積極的な設備投資が超過利益の発生に不可欠だったことを認定したのです。
東京高裁は「我が国の法令においてもOECD移転価格ガイドラインを見ても、残余利益の分割要因を重要な無形資産のみに限定する規定はない」と明言しました。この判決により、課税処分の対象となった4事業年度のうち平成22年3月期を除くほぼ全額(約58億円相当)が取り消されることになりました。
移転価格の分野での重要判決の詳細は下記で解説されています。
iTPSジャパン「移転価格関連の判例・採決事例研究⑦ 日本ガイシ事件」
実務において最も頭を悩ませる問題の一つが、基本的利益を計算するための「比較対象企業の選定」です。企業が選ぶ比較対象企業と、税務当局が考える比較対象企業がズレると、基本的利益の計算結果が大きく変わり、それが課税処分に直結します。
日本ガイシ事件においても、争点の一つは「課税庁が選定した比較対象法人が、ポーランド子会社と比較可能かどうか」でした。企業側は、課税庁が選定した比較対象企業は「セラミックス製DPF」という特殊な製品の事業内容・市場条件・生産構造の特徴を全く反映していないと主張し、裁判所もその主張を部分的に受け入れています。
比較対象企業を選定する際の判断基準として重要なのは次の4点です。
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