原価評価と時価評価の違いと保有目的による使い分け方

原価評価と時価評価の違いと保有目的による使い分け方

原価評価と時価評価の違いと保有目的による使い分け方

含み益があっても、決算書には1円も反映されないことがあります。


この記事でわかること:原価評価と時価評価
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原価評価と時価評価の基本的な違い

取得時の価格をそのまま使う「原価評価」と、現在の市場価格で評価し直す「時価評価」。どちらを使うかは資産の種類と保有目的によって決まります。

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有価証券の4つの区分と評価ルール

売買目的・満期保有目的・子会社株式・その他有価証券の4種類に応じて、時価評価か原価評価かが変わります。評価差額の処理先(損益 or 純資産)も異なります。

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会計と税務で評価が「ずれる」落とし穴

「その他有価証券」は会計上は時価評価しますが、税務上は取得原価のまま。この差が税効果会計という複雑な処理を生み出します。知らないと決算申告で思わぬミスに。


原価評価と時価評価の基本的な意味と仕組み


金融に関心を持ち始めると、企業の財務諸表や決算書を読む場面が増えてきます。そのときに必ずぶつかるのが「原価評価」と「時価評価」という2つの概念です。


原価評価(取得原価主義)とは、資産を購入したときの価格をそのまま帳簿に記録し続ける方法です。たとえば、10年前に1,000万円で購入した株式があったとしましょう。その株式の現在の市場価格が3,000万円になっていても、帳簿には「1,000万円」と記載され続けます。この差額2,000万円が「含み益」です。つまり原価評価の世界では、売却するまで利益は表に出てきません。


一方、時価評価は、決算日時点の市場価格で資産を評価し直す方法です。上記の例であれば、株式は3,000万円として貸借対照表に計上されます。現在の企業の実力をリアルタイムに映し出せるという点が大きな特徴です。


日本の企業会計は長らく取得原価主義を基本としてきました。しかし、1999年に「金融商品に関する会計基準」が公表され、一部の金融商品に時価評価が導入されました。さらに2019年には「時価の算定に関する会計基準(企業会計基準第30号)」が公表され、2021年4月1日以降開始する事業年度から適用されています。


「原価評価が基本」だという原則です。


時価評価はあくまでも例外的・補完的な位置づけであり、すべての資産に適用されるわけではありません。この大原則を押さえておくことが、理解への第一歩となります。


なお、時価評価のルールを詳しく確認したい場合は、企業会計基準委員会(ASBJ)の公式サイトが参考になります。


金融商品会計に関する実務指針(企業会計基準委員会) — 金融商品の時価評価・原価評価ルールの根拠となる実務指針の全文が確認できます。


原価評価と時価評価の違いを決める「保有目的」の4区分

金融商品、とくに有価証券の評価方法は、「何のために持っているか」という保有目的によって決まります。これが時価評価と原価評価の使い分けの核心です。


日本の会計基準では、有価証券を次の4つに分類して扱います。


有価証券の種類 評価方法 評価差額の処理
売買目的有価証券 ⏱️ 時価評価 損益計算書(P/L)に計上
満期保有目的の債券 📦 原価評価(償却原価法) なし(損益に影響しない)
子会社・関連会社株式 📦 原価評価(取得原価) なし(損益に影響しない)
その他有価証券 ⏱️ 時価評価 純資産の部(B/S)に計上


売買目的有価証券とは、価格の変動を利用して短期的に売買することで利益を得ることを目的として保有する有価証券です。たとえば証券会社や投資ファンドが日常的に行うトレーディング取引が典型です。期末時点で時価評価し、評価損益は損益計算書に計上されます。つまり「持っているだけで帳簿上の利益が増減する」という仕組みです。


満期保有目的の債券は、利息収入を目的として満期まで保有する社債・国債などです。途中で価格が変動しても「どうせ満期に額面が戻る」という前提があるため、時価変動は投資の成果とは見なされません。原価評価(厳密には償却原価法)が適用され、損益には影響しません。


子会社・関連会社株式は、議決権行使や経営支配を目的として保有する株式です。市場での売却を目的としていないため、時価が上下しても取得原価のまま記録されます。これが条件です。


最もわかりにくいのがその他有価証券です。上記3つに分類されない有価証券が該当します。業務提携目的で持っている上場株式や、将来的に売却を想定している長期保有株式などが含まれます。時価評価はされますが、評価差額は損益計算書ではなく、貸借対照表の純資産の部に「その他有価証券評価差額金」として計上されます。


意外ですね。


「時価評価したのに、損益に影響しない」という状況が生じるのが、その他有価証券の最大の特徴です。この仕組みを知らないまま財務諸表を読むと、企業の業績を誤解する可能性があります。


有価証券の4区分と評価差額の処理について、より詳しく知りたい方にはEYの解説記事が参考になります。


わかりやすい解説シリーズ「金融商品」第2回:有価証券の評価(EY Japan) — 有価証券の4区分ごとの評価方法と損益処理の違いが図解付きで整理されています。


原価評価のメリットと時価評価のデメリットを比較する視点

「時価評価のほうが正確で優れている」と思っている方も多いでしょう。しかし実際には、どちらにも明確な長所と短所があります。


原価評価の最大のメリットは、客観性と安定性です。100万円で購入したという事実があれば、誰が見ても100万円と評価できます。恣意的な操作が入り込む余地がなく、評価コストもかかりません。また、保有を続けている限りは帳簿の数字が動かないため、経営者にとって計画が立てやすいという実務的なメリットもあります。


一方で原価評価のデメリットは、含み損益が見えないことです。バブル期に10億円で取得した不動産が現在3億円の実勢価格になっていても、帳簿には10億円と記載されたまま。純資産が4億円あるように見えても、実態は2億円の債務超過という状況になることもあります。これは1990年代の日本の金融機関が抱えた不良債権問題と本質的に同じ構造です。


時価評価のメリットはリアルタイムの財務状況の把握です。投資家が企業の現在の財務力をより正確に評価できるようになります。また、「益出し」と呼ばれる含み益のある資産を意図的に売却して利益をかさ上げするような利益操作の余地も狭まります。


ただし時価評価にも重大なデメリットがあります。市場環境の影響を受けるという点です。


たとえば、3月末の決算日がちょうど株式市場の暴落タイミングと重なった場合、企業の本来の事業成績とはまったく無関係に、財務状況が悪化して見えることがあります。2008年のリーマンショック前後には、この問題が特に顕在化しました。当時、欧米や日本の多くの金融機関が時価評価による大規模な評価損を計上し、財務の健全性が大きく揺らいだことは記憶に新しいところです。


また、上場株式のように客観的な市場価格がある資産であれば時価の算定は容易ですが、非上場株式や特殊な不動産のように市場価格が存在しない資産の「時価」をどう求めるかは、非常に難しい問題です。不動産鑑定士への依頼など、コストもかかります。企業のすべての資産を毎決算期に時価評価するのは現実的ではないため、現在でも原価評価が会計の基本として維持されています。


これは使えそうです。


原価評価と時価評価のどちらが「正しい」かという問いに単純な答えはありません。資産の性質・保有目的・情報の必要性に応じて、両方の評価方法を使い分けるのが現代の会計の姿です。


原価評価と時価評価が混在する財務諸表の読み方

実際の企業の財務諸表には、原価評価の資産と時価評価の資産が混在しています。これを正確に読み解くことは、投資判断において非常に重要です。


貸借対照表(B/S)の資産の部を見ると、流動資産の欄には「売買目的有価証券」が時価で計上されており、固定資産の「投資有価証券」の欄には時価評価されたその他有価証券と、取得原価で計上された子会社株式・満期保有目的債券が混在しています。同じ「有価証券」という名称でも、評価方法が異なる点に注意が必要です。


また、純資産の部には「その他有価証券評価差額金」という項目が登場することがあります。これはその他有価証券を時価評価した際の評価差額を記録したものです。この金額がプラスであれば保有株式等に含み益があり、マイナスであれば含み損があることを意味します。損益計算書には一切影響しませんが、純資産の増減には反映されます。


ここで見落とされがちなのが、土地や建物などの固定資産は原則として時価評価されないという点です。日本では1998年に土地の再評価に関する法律が施行され、一定の条件下で事業用土地の時価評価が認められましたが、これはあくまで例外的な措置です。多くの上場企業が都心の土地を保有しており、簿価と実勢価格の差(含み益)が数十億円から数百億円に達することも珍しくありません。こうした「隠れた資産」は貸借対照表の表面には現れませんが、注記情報や不動産評価データを確認することで把握できます。


財務諸表を読む際には、次の点を意識すると理解が深まります。


  • 貸借対照表の「投資有価証券」は時価評価と原価評価が混在している
  • 「その他有価証券評価差額金」の増減は含み損益の変化を示している
  • 土地・建物など事業用固定資産は原価評価が原則で、実態との乖離が生じやすい
  • 注記情報には時価評価されていない資産の参考時価が記載されている場合がある


財務諸表の読み方について基礎から学びたい場合は、M&A DXの解説記事が実践的な視点でまとめられています。


時価評価とは?メリット・デメリットと計算方法(M&A DX) — 会計上の時価評価とM&Aにおける企業価値算定での時価評価の違いや、実務的な使われ方がわかりやすく解説されています。


原価評価と時価評価の「会計と税務のズレ」という独自の落とし穴

金融に興味を持つ多くの人が見落としがちな、非常に重要なポイントがあります。それは会計上の評価と税務上の評価が「別物」だということです。


この問題が特に顕著に現れるのが「その他有価証券」です。会計上、その他有価証券は期末に時価評価され、評価差額はB/Sの純資産の部に計上されます。ところが法人税法上は、その他有価証券は時価評価せず、取得原価のままで課税所得を計算します。


つまり、会計上は「含み益が増えた」と記録されていても、税務上は「そんな益金はない」という扱いになります。


これが条件です。


この「会計と税務のズレ」を処理するために使われるのが「税効果会計」という手法です。税効果会計では、将来に課税される分の税金をあらかじめ負債として計上(繰延税金負債)したり、将来に税額が減る分を資産として計上(繰延税金資産)したりすることで、会計上の利益と税負担を合理的に対応させます。


具体例で考えてみましょう。ある企業がその他有価証券(取得原価1,000万円)を保有しており、期末時点の時価が1,500万円だったとします。


  • 会計上:評価差額500万円を「その他有価証券評価差額金」として純資産に計上
  • 税務上:取得原価1,000万円のまま。評価益は課税対象
  • 法定実効税率を約30%とすると:500万円 × 30% = 150万円の繰延税金負債を計上
  • 純資産には 500万円 − 150万円 = 350万円が純増する


この計算を誤ると、決算書の数値に150万円単位のズレが生じます。上場企業の決算申告では税務調査で指摘されるリスクがあるため、正確な処理が求められます。


一方、同じ有価証券でも「売買目的有価証券」については、会計上も税務上も同じく時価評価・損益計上の扱いとなるため、税効果会計のズレは生じません。保有目的による区分の違いが、税務処理の複雑さにも直結しているわけです。


個人投資家としては直接関係するケースは少ないですが、株式投資において企業の純資産を分析する際、「その他有価証券評価差額金」がプラスに積み上がっている企業は株価上昇の恩恵を純資産に反映しつつも、その分だけ将来的な税負担が潜在的に存在することを意味します。純粋な実力値を測るには、この繰延税金負債を控除して考えることが必要です。


EYによる詳細な解説は以下を参照してください。


その他有価証券の評価差額に対する税効果会計(EY Japan) — その他有価証券の時価評価に伴う評価差額が税効果会計上の一時差異に該当する理由と処理方法が解説されています。


原価評価と時価評価を正しく使い分けるための実践的な視点

ここまでの内容を踏まえて、金融に関心を持つ方が実際の投資判断や財務分析に活かせる視点をまとめます。


まず投資家目線での要点は「企業の純資産は評価方法によって見かけが変わる」という認識です。同じ規模の企業でも、含み損を多く抱えている場合と含み益がある場合では、帳簿上の純資産と実態の純資産が大きく乖離します。バリュー投資の観点から企業を分析するときは、帳簿価格(簿価)だけでなく、時価ベースに換算した純資産(修正純資産)を算出する作業が重要です。


M&Aにおいてはこの観点がさらに顕著です。買収対象企業の決算書に「土地:5億円(取得原価)」と記載されていても、実際の不動産市場での価値が12億円であれば、7億円分の含み益が企業価値に反映されていないことになります。実務上は「修正簿価純資産法」を使い、土地・保険積立金・各種引当金などの重要資産について個別に時価評価し直してから企業価値を算定します。


個人投資家として有価証券の評価と税制の関係を理解するポイントは以下の3点です。


  • 💰 含み益には原則として課税されない(個人):個人が株式や投資信託を保有しているだけでは課税されません。売却して利益が確定した時点で初めて譲渡所得として20.315%の税金が発生します。これが「実現課税の原則」です。
  • 📊 法人は売買目的有価証券の含み益でも課税される:法人が売買目的で保有する有価証券は、期末に時価評価した評価益が益金として課税対象になります。個人と法人でルールが異なる点に注意が必要です。
  • 🔍 その他有価証券の評価差額は損益に影響しないが純資産に影響する:企業が保有するその他有価証券の株価が上昇しても、決算の利益(EPS)は変わりません。しかし純資産は増加するため、PBR(株価純資産倍率)の計算には影響します。


これは使えそうです。


時価と原価のどちらの数字を見るべきかは、「何を知りたいか」によって異なります。企業の今の実力値(清算価値)を知りたければ時価ベースで、長期の収益力を見たければ原価ベースの損益計算書に注目するというように、目的に応じて使い分けることが大切です。


財務諸表分析をより実践的に学ぶためのツールとして、マネーフォワードクラウド会計の解説コンテンツも参考になります。


時価会計の意味と時価の算定に関する会計基準の導入を解説(マネーフォワードクラウド) — 時価会計の導入背景から会計と法人税法のズレ、税効果会計の必要性まで実務的な視点で解説されています。




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