

親と同居していても、老人ホームに住んでいる扶養親族を申告するとあなたは10万円損します。
同居老親等加算とは、老人扶養親族のうち、納税者本人またはその配偶者の直系尊属(父母・祖父母など)で、かつ納税者本人またはその配偶者と同居を常況としている人を扶養している場合に適用される、上乗せ型の扶養控除のことです。通常の扶養控除(38万円)や、別居している70歳以上の老人扶養親族の控除(48万円)と比べて、さらに高い控除額が設定されています。
この制度の根拠は租税特別措置法第41条の16にあり、国税庁のタックスアンサーNo.1180「扶養控除」でも詳細が公開されています。控除額は以下のように整理されます。
| 区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
|---|---|---|
| 一般の控除対象扶養親族(16〜69歳) | 38万円 | 33万円 |
| 老人扶養親族・同居老親等以外 | 48万円 | 38万円 |
| 老人扶養親族・同居老親等 | 58万円 | 45万円 |
つまり、同居老親等加算が適用されると、別居の老人扶養親族と比べて所得税で10万円、住民税で7万円の追加控除が得られます。これが「加算」と呼ばれる理由です。
節税額はそのまま控除額ではなく、「控除額×実効税率」で計算します。所得税率が20%の方が同居老親等加算を適用した場合、所得税だけで58万円×20%=11万6,000円の節税。住民税は45万円×10%=4万5,000円の節税となり、合計で約16万円の節税効果が生まれます。これは相当な金額です。
所得税の節税額が大きい理由は条件が基本です。所得税率は課税所得が増えるほど高くなる累進課税構造なので、年収が高い人ほど同居老親等加算の恩恵が大きくなります。年収700万円の方が70歳以上の親と同居して扶養申告した場合、約13万円の節税になるという試算もあります(ダイヤモンド社の試算より)。
参考情報として国税庁の公式ページをご確認ください。控除額の根拠法令や関連する質疑応答事例がまとめられています。
国税庁 No.1182 高齢者を扶養している人が受けられる配偶者控除や扶養控除(令和7年4月1日現在)
同居老親等加算を受けるには、複数の条件を同時に満たす必要があります。一つでも欠けると、控除額が58万円ではなく48万円(または適用なし)になってしまいます。条件は主に3つです。
① 年齢:その年の12月31日時点で70歳以上であること
年齢の判定基準は「その年の12月31日現在の年齢」です。たとえば12月1日生まれで70歳になった場合も、その年の12月31日には70歳なので対象になります。年齢だけで見ると意外とシンプルですね。
② 続柄:納税者本人またはその配偶者の「直系尊属」であること
ここが要注意ポイントです。同居老親等加算は、配偶者(妻・夫)の父母・祖父母にも適用されます。つまり、妻の両親と同居している夫が納税者の場合でも、夫の扶養申告書に妻の両親を「同居老親等」として記載できます。直系尊属とは父母・祖父母・曾祖父母などを指し、兄弟姉妹は含まれません。兄弟姉妹は同居していても「同居老親等」にはならない点は覚えておく必要があります。
③ 所得:扶養される親族の合計所得金額が48万円以下であること(令和7年分以降)
親の収入が年金のみの場合、65歳未満は年金収入108万円以下、65歳以上は年金収入158万円以下であれば所得基準を満たします。これは公的年金等控除(65歳以上で110万円)を差し引いた後の所得が48万円以下になるためです。
④ 同居:納税者本人または配偶者と同居を常況としていること
「同居を常況」とは、生活の本拠が同一であることを意味します。なお、親族が病気・怪我の治療のために入院している場合は、たとえ1年以上の長期入院であっても「同居」として扱われます。これは国税庁の質疑応答事例でも明確に認められているルールです。
条件を整理するとこのようになります。
- ✅ 70歳以上の親・祖父母(12月31日時点)
- ✅ 納税者本人 または配偶者 の直系尊属
- ✅ 合計所得金額48万円以下(年金のみなら65歳以上で158万円以下)
- ✅ 納税者本人または配偶者と同居を常況としている
- ❌ 老人ホーム・介護施設への入所は「同居」に該当しない
国税庁公式サイトでも同居の範囲について丁寧に説明されています。
国税庁 質疑応答事例「同居」の範囲(長期間入院している場合)
同居老親等加算でもっとも多いトラブルのひとつが「老人ホーム入所による誤申告」です。親が要介護状態になって施設に入所した場合、住所が施設に移ります。この瞬間から「同居を常況」という条件が崩れ、同居老親等には該当しなくなります。
老人ホームは居所となり、同居しているとはいえません。これが原則です。
税務通信(専門誌)でもこの論点は「同居老親等と老人ホーム」として取り上げられており、実務上よく問題になるケースとして指摘されています。入所前まで同居で申告していた場合、入所した年から「同居老親等以外の者」(控除48万円)に区分を変える必要があります。うっかりそのまま申告を続けると、過少申告加算税のリスクも生じます。
一方で、入院は施設入所と異なります。入院の場合は「治療目的の一時的な滞在」として扱われるため、1年を超える長期入院でも同居老親等として申告できます。この違いは非常に重要なので、整理しておきましょう。
| 状況 | 同居老親等の扱い |
|---|---|
| 自宅で同居(通常) | ✅ 該当する(58万円) |
| 病気・怪我による入院(長期含む) | ✅ 該当する(58万円) |
| 老人ホームへ入所 | ❌ 該当しない(48万円) |
| サービス付き高齢者向け住宅への入居 | ❌ 基本的に該当しない(48万円) |
控除額が10万円変わるということは、所得税率20%の方なら2万円の税額差、さらに住民税7万円の控除差で住民税も7,000円の差が生じます。合計約2万7,000円の差額になる計算です。痛いですね。
過去に誤って同居老親等として申告していた場合は修正申告が必要です。逆に、別居と思い込んで48万円で申告していた入院中の親がいる場合は、5年以内なら還付申告で差額を取り戻せます。どちらの方向にも間違いが起こりやすいため、毎年状況を確認する習慣が大切です。
参考として、老人ホームと税務上の扱いに関する詳細な解説を掲載しているページを紹介します。
税理士法人 澤辺・親が老人ホームに入った場合の税務上の取扱い(相続税・所得税)
実際に同居老親等加算を受けるには、正しい申告書への記入が必要です。会社員であれば年末調整、フリーランスや自営業者であれば確定申告で手続きします。
年末調整での記入方法
会社から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「控除対象扶養親族」欄に親族の情報を記入します。区分欄に「老人・同居老親等」をチェックし、氏名・生年月日・続柄・所得の見積額を正確に記載します。
記入の際にチェックしておきたい項目は以下のとおりです。
- 📝 続柄:「父」「母」「妻の父」「夫の母」など正確に書く
- 📝 生年月日:70歳以上かどうかは12月31日時点で判断
- 📝 所得見積額:年金収入のみなら公的年金等控除後の金額を記入
- 📝 区分:「同居老親等」の欄にチェック(「その他」と間違えない)
- 📝 住所:本人または配偶者と同一住所であることを確認
「その他」(別居の老人扶養親族)と「同居老親等」を間違えると10万円の控除差が生じます。これが基本です。
確定申告での記入方法
確定申告書(第一表)の「扶養控除」欄、および第二表の「配偶者や親族に関する事項」欄に記入します。国税庁の確定申告書等作成コーナー(e-Tax)を使えば、区分を選択するだけで控除額が自動計算されます。入力画面で「老人・同居老親等」を選ぶだけで正確に処理されるため、積極的に活用するとよいでしょう。
申告書の提出先と時期
年末調整は毎年10〜12月に会社へ提出します。確定申告は翌年2月16日〜3月15日が申告期間です。なお、扶養控除の申告漏れがあった場合でも、過去5年分の還付申告(更正の請求)が可能です。
年末調整と確定申告の申告書の書き方について、freeeの解説が具体的でわかりやすいです。
freee 扶養控除申告書の書き方を記入例つきで解説【令和7年(2025年)版】
同居老親等加算は「知らなかったから」「面倒だったから」という理由で申告しないでいる方が意外と多い控除です。しかし、申告していなければ本来還付されるべき税金が手元に戻ってきません。
税制上、還付を受けるための申告(還付申告)は、その年の翌年1月1日から5年間有効です。つまり、過去5年分をまとめてさかのぼって申請できます。
たとえば、年収700万円の方が70歳以上の親と同居しているのに扶養控除申告をしていなかった場合の影響を計算してみましょう。同居老親等の控除額(所得税58万円、住民税45万円)に税率を掛けると、1年あたり約13万円程度の節税になります。これを5年分取り戻すと、合計約65万円もの還付金を受け取れる可能性があります。これは使えそうです。
還付申告の手順は以下のとおりです。
1. 国税庁の確定申告書等作成コーナー(e-Tax)にアクセス
2. 対象年分を選択(例:令和3年分〜令和7年分)
3. 扶養控除の「同居老親等」欄に親族情報を記入
4. 管轄の税務署に提出(郵送・e-Tax送信・窓口のいずれでもOK)
ただし、注意点が1つあります。5年の期限はその年の「確定申告期限の翌日」からカウントされるため、最も古い年分の期限を確認することが必要です。期限を1日でも超えると、その年分の還付は受けられなくなります。5年以内の申告が条件です。
また、「別居と思っていたが実は同居扱いになる入院中だった」というケースでも、過去5年分をさかのぼって修正できます。税金の取り戻しに期限があることを忘れないでください。
申告漏れの方が参考になる記事として、以下をご覧ください。
同居老親等加算とあわせて見落とされやすいのが、「障害者控除」との組み合わせです。扶養している70歳以上の親が障害者手帳を持っている、または介護認定で要介護4・5に相当する場合、同居老親等加算に加えて障害者控除も重ねて適用できます。
同居老親等でかつ「同居特別障害者」に該当する場合、扶養控除58万円に加えて同居特別障害者控除35万円が上乗せされます。所得税と住民税を合わせると、さらに数万円の節税になります。意外ですね。
ただし、障害者控除の適用には注意点があります。同居特別障害者として認められるためには、「生計一の親族が同居している」という要件が必要です。同居老親等の場合は「納税者本人または配偶者が同居」が要件ですが、同居特別障害者の場合は「生計一の親族が同居」でよく、より広い範囲で適用できます。
また、障害者手帳の有無だけでなく、要介護認定の区分でも判断できる場合があります。65歳以上で障害者手帳を持っていなくても、市区町村の認定によって障害者控除の対象になるケースがあります。自治体によって取り扱いが異なるため、確認が必要です。
同居老親等加算と障害者控除の組み合わせを活用すると、節税効果はさらに大きくなります。2つの控除を重ねて活用するとお得です。介護認定の状況に応じて障害者控除の対象になる可能性があるため、一度自治体窓口や税務署への相談をおすすめします。
介護認定と障害者控除の関係を詳しく解説しているページとして、以下が参考になります。
みかげ会計事務所 年金受給者・高齢者を扶養している場合に優遇される「所得控除」の総まとめ