

株価が取得価額の50%を割り込んでも、条件次第では減損処理をしなくて済む場合があり、逆に30%の下落でも減損が必要になるケースがあります。
有価証券の減損とは、売買目的有価証券以外の有価証券について、時価または実質価額が著しく下落した場合に、その下落額を当期の損失として損益計算書に計上し、下落後の価額を貸借対照表に計上する会計処理のことです。
もう少し噛み砕くと、企業は保有目的に応じた評価方法をとっています。時価評価された評価差額は、売買目的有価証券であれば都度損益に計上されますが、「その他有価証券」では原則として純資産の部(資本直入)に計上され、損益に影響しない仕組みになっています。
ところが、経済的な実態として価値が大幅に失われている場合、その状況を財務諸表に適切に反映させる必要があります。
それが減損処理の趣旨です。
重要なのは、減損処理は「任意で行う評価替え」ではなく、一定の条件を満たすと強制的に行わなければならない処理だという点です。
根拠となる会計基準は「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)および「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)です。これらの規定は、日本公認会計士協会やASBJ(企業会計基準委員会)が継続的に改正を行っており、2025年10月には予想信用損失モデルを盛り込んだ公開草案が公表されるなど、現在も進化し続けています。
基本に立ち返ることが大切です。「著しい下落」「回復可能性」「保有目的区分」の3つが、減損判断のカギとなります。
EY Japan|わかりやすい解説シリーズ「金融商品」第3回:有価証券の減損(保有目的区分と減損判定の対応関係を図解で解説)
有価証券の会計処理は、保有目的によって大きく異なります。保有目的区分をどう設定するかが、その後の評価・減損判断すべてに影響するため、最初の分類が極めて重要です。
主な区分は以下の4つです。
| 区分 | 評価基準 | 評価差額の取扱い |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 時価 | 損益に計上(PL計上) |
| 満期保有目的の債券 | 償却原価 | 損益に計上しない |
| 子会社・関連会社株式 | 取得原価 | 評価差額なし |
| その他有価証券 | 時価 | 原則、純資産の部に直接計上 |
売買目的有価証券は時価で評価され、評価差損も都度PLに計上されているため、減損の要否判定が不要な唯一の区分です。
これは知っておくべき前提知識です。
一方で注意が必要なのが「その他有価証券」です。一般事業会社が保有する株式の大部分は、この区分に分類されます。売買目的でもなく、子会社・関連会社でもない株式はすべてこちらに入ります。期末に時価評価するものの、評価差額はPLを経由しないため、見かけ上の損益は変動しません。しかし、著しい下落があれば強制的に損失計上が必要になります。
満期保有目的の債券については、原則として時価評価しません。「満期まで保有するから途中の価格変動は関係ない」という考え方に基づいています。ただし、信用リスク起因の下落は別扱いであり、この区分でも減損判断が必要な場面があります。
保有目的区分の変更は原則として禁止です。一度「満期保有目的」に分類したものを勝手に「その他有価証券」へ変更することはできません。稀な特定の状況を除き、変更はできないと理解しておくことが必要です。
経理プラス|有価証券の減損処理のキホン 決算で慌てないための判断基準(保有目的区分と評価基準の早見表あり)
「著しい下落」の判定が、実務上最も議論になる部分です。一言で言えば、下落率によって3段階の処理フローが存在します。
まず、時価のある有価証券については、期末の時価と取得原価を比較し、下落率に応じて以下のように判断します。
- 下落率30%未満:著しい下落に該当しないため、減損処理は不要
- 下落率30%以上50%未満:各企業が設定した「合理的な基準」に基づいて著しい下落かどうかを判定し、該当すれば回復可能性の有無を検討
- 下落率50%以上:原則として著しい下落に該当し、合理的な反証がない限り減損処理を行う
50%以上の下落が事実上の強制ラインです。しかし、30〜50%の帯域は企業判断に委ねられており、ここが実務上の「グレーゾーン」になっています。
時価のない株式については、実質価額(1株当たり純資産額×持株数)を用いて判定します。実質価額が取得価額に比べて50%以上低下した場合に、回復可能性がなければ減損処理が必要とされています。
重要なポイントは、30〜50%の帯域における「合理的な基準」を各企業が自ら文書化して設定しなければならない、という点です。この文書化が不十分なまま決算を迎えると、税務調査や監査で問題になるリスクがあります。実際、国税庁は「上場有価証券の評価損に関するQ&A」を公表し、判定に迷いやすいケースへの指針を示しています。
国税庁|No.5574 有価証券の評価損が認められる場合(法人税における損金算入要件を公式解説)
減損処理を行うかどうかは、単に「著しい下落があったか」だけでは決まりません。著しい下落があっても、「回復可能性がある」と認められれば、減損処理を行わなくて済む場合があります。
これは知っておくと実務で役立つ知識です。
ただし、株式と債券では回復可能性の判定ロジックが異なります。
株式の場合:時価の下落が一時的なものであり、期末後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みが、合理的な根拠をもって銘柄ごとに予測できるかどうかが判断基準です。「1年以内に回復する見通し」という具体的な期間が求められる点が重要です。
債券の場合:単に市場金利の上昇によって時価が下落した場合は、将来的に下落が解消すると見込まれるなら回復可能性ありと判断できます。一方、信用リスクに起因する下落、つまり発行体の財務悪化による下落は、回復する見込みがあるとは認められません。
この区別は厳格に適用されます。
時価のない株式については、さらに高いハードルが設けられています。「回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合」のみ減損処理を免れます。子会社株式などは将来の事業計画を入手して判断しますが、その計画はおおむね5年以内に実質価額が回復するものでなければなりません。また、事業計画が予定通りに進まないことが明らかになった期末では、改めて減損の要否を検討し直す必要があります。
回復可能性の判定は毎期見直しが必要です。一度「回復可能性あり」と判断した場合でも、その根拠が継続しているかを毎期末に確認しなければなりません。
実際に減損処理が必要と判定された場合、どのように会計処理するのかを確認しておきます。
減損処理の基本的な仕訳は以下の通りです。取得原価が1,000万円の株式について、期末時価が480万円となり、下落率52%で回復可能性もないと判断された場合を例に挙げます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 投資有価証券評価損 | 520万円 | 投資有価証券 | 520万円 |
この評価損は特別損失として損益計算書に計上されます。そして重要なのが、減損処理後の時価480万円が「新たな取得原価」として翌期に引き継がれる点です。
これを「切下げ処理の不可逆性」といいます。
日本の会計基準(日本基準)では、一度減損処理した有価証券の評価損を後から「戻し入れ」することが禁止されています。つまり翌期に株価が600万円に回復しても、帳簿価額を1,000万円に戻すことはできません。480万円との差額120万円は、あくまでも売却時に実現益として認識されることになります。
これはIFRS(国際財務報告基準)との大きな違いです。IFRSでは減損損失の戻し入れが認められており(のれんを除く)、回復した価値を財務諸表に反映できます。日本基準の保守的な考え方が色濃く残っている部分です。
また、その他有価証券に対して減損処理を行う場合、通常であれば純資産の部に計上される評価差額が、強制的に損失として損益計算書に落とされます。この「例外的なPL計上」が起きる状況をしっかり把握しておく必要があります。
ここは実務上、特に注意が必要な部分です。会計基準に従って正しく減損処理を行ったとしても、税務上の損金算入が認められないケースがあります。
税務上、有価証券の評価損が損金算入されるためには、以下のような特別な事実が必要です。
- 上場有価証券等:時価が著しく低下したこと(取得価額のおおむね50%相当額を下回ること)
- 非上場有価証券:発行法人の資産状態が著しく悪化したため、価額が著しく低下したこと(例:特別清算開始命令、破産手続開始決定など)
さらに、税務上は「損金経理(=PLに費用計上すること)」が要件です。会計処理として仕訳を切るだけでなく、税務申告書の別表4でも適切に処理する必要があります。
注意点は税務と会計のズレです。たとえば、下落率が40%程度で会計上は「合理的な基準」により減損処理を行ったとしても、税務上の要件(おおむね50%下落)を満たしていなければ、その期に損金算入できません。結果として会計上の費用と税務上の損金の計上タイミングがずれ、繰延税金資産の処理が必要になります。
また、完全支配関係にある子会社が清算中または解散見込みの場合、会計上は減損処理を行っても、税務上は損金算入できないと定められています。
これは法人税法33条の規定によるものです。
グループ会社を多数持つ上場企業や持株会社では、特に確認が必要な論点です。
国税庁|法人税基本通達第3款 有価証券の評価損(損金算入が認められる具体的な事実の列挙)
30%以上50%未満の下落帯域において、減損の要否は「各企業が設定した合理的な基準」に委ねられています。これは柔軟性があると同時に、企業に対して相応の責任を課している仕組みでもあります。
この「合理的な基準」には具体的にどんな内容が求められるのでしょうか?代表的な要素は以下のとおりです。
- 著しい下落と判定する下落率の閾値(例:40%以上を著しい下落とみなす、など)
- 判定対象銘柄の範囲(全銘柄 or 一定金額以上のもの)
- 回復可能性の判断方法と証拠書類の形式
- 継続適用のルール(毎期同一基準を用いること)
特に大切なのは「文書化」と「継続適用」の2点です。文書化されていない判断基準は、外部監査人や税務調査官から「恣意的な判断ではないか」と疑義を持たれるリスクがあります。また、毎期都合よく基準を変えることは許されません。利益調整の手段として使えないよう、基準の一貫性が求められています。
新たに有価証券を取得した企業や、従来は有価証券を保有していなかった子会社が別会社の株式を持つようになったケースでは、この基準が整備されていないことが多く見受けられます。決算直前に慌てないためにも、保有開始のタイミングで判定基準を整備しておくことが望ましいです。
金融商品会計に関する実務指針(日本公認会計士協会)には、判定基準設定に関するQ&Aも掲載されており、実務の参考として活用できます。
日本公認会計士協会|金融商品会計に関するQ&A(合理的な基準の設定方法や判定手順を詳細解説)
現行の日本基準では「発生損失モデル」が採用されています。これは、損失が実際に発生した(または発生が確実になった)段階で認識するアプローチです。
しかし国際的な潮流は変わりつつあります。
2025年10月29日、ASBJ(企業会計基準委員会)は企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」を公表しました。このなかで、IFRS第9号をベースにした「予想信用損失モデル(ECLモデル)」の導入が提案されています。
予想信用損失モデルとは、損失が現実化する前の段階から、将来の信用損失を確率加重平均したうえで引当額を算定するアプローチです。「まだ損失が確定していなくても、将来の損失リスクを財務諸表に反映する」という考え方であり、従来モデルよりも先行的・保守的な処理が求められます。
この改正が適用された場合の影響は、対象によって異なります。一般事業会社の売掛金などへの影響は限定的とされる一方、満期保有目的の債券を大量に保有する金融機関への影響は非常に大きいとされています。金融機関では信用リスク管理システムの構築や、ECLモデルに対応した引当モデルの整備が求められ、実務負担は相当規模になる見込みです。
3月決算会社の場合、2027年3月までに最終基準が公表されれば、原則適用は2031年3月期からとなり、早期適用は2028年3月期から可能と提案されています。これは、改正まで余裕があるように見えますが、システム改修・モデル構築・社内教育などを考えると、今から準備を始めるべき水準の変更です。
EY Japan|予想信用損失モデルを含む改正金融商品会計基準(案)等のポイント(2026年2月公開・最新の公開草案の概要と金融機関への影響を詳解)
ここでは、既存の解説記事ではあまり取り上げられない論点を共有します。保有目的区分の設定が、減損処理の回避目的で恣意的に行われるリスクです。
有価証券の保有目的区分は、取得当初の「意図」に基づいて決定するとされています。しかし実務では、「売買目的にしてしまうと評価差損が都度PLに影響する」「満期保有にしておけば時価変動が無視できる」という思考が働きやすく、減損処理をいかに回避するかという観点から区分が選ばれるケースが散見されます。
この問題は、金融庁や監査法人が長年注視してきた論点でもあります。2001年の企業会計審議会議事録でも「持ち合い株式も時価評価の対象から外せない」という方針が示されており、区分の恣意的操作には厳しい目が向けられています。
特に注意すべきなのは、満期保有目的の債券への変更が事実上困難な点です。「売買目的有価証券またはその他有価証券から満期保有目的の債券への変更は、稀な特定の場合を除き認められない」と実務指針に明記されています。「下落してきたから満期保有にしよう」という対処はできません。
もし区分の変更が認められた場合であっても、金融庁や監査法人が「変更の合理的な理由があったか」を精査します。変更理由が会計基準の趣旨から逸脱していると判断されれば、財務諸表の修正や開示責任が生じる可能性があります。
保有目的区分は取得時に慎重に設定し、変更の余地がない前提で運用することが原則です。
「後から変えられる」という認識は危険です。
子会社・関連会社株式の減損処理は、上場株式とは異なる論点が多く、財務・経理担当者が見落としがちなポイントが潜んでいます。
子会社・関連会社株式は、市場で取引されないケースが多く、「時価のない株式」として扱われることがほとんどです。この場合、取得原価と比較するのは「実質価額」です。
実質価額は次の式で計算します。
実質価額 = 1株当たり純資産額(資産等の時価加味後)× 持株数
取得原価に比べて実質価額が50%以上低下し、かつ回復可能性がない場合に減損処理が必要です。
「回復可能性がある」とするためには、事業計画などを用いておおむね5年以内に回復する見通しを、十分な証拠で裏付ける必要があります。子会社を支配している親会社は、内部情報を入手しやすい立場にありますが、「計画があれば減損処理を免れる」という楽観的な判断は危険です。
計画の実行可能性・合理性が問われます。
さらに、会計上は減損処理が必要と判断されても、税務上の損金算入が認められないケースがあります。完全支配関係にある子会社(いわゆる100%子会社)で清算中または解散見込みの会社に対する株式評価損は、法人税法の規定により損金算入が禁止されています。これは、グループ内で「損失の付け替え」が行われることを防ぐための措置です。
マネーフォワード クラウド|子会社株式の減損処理や評価損について解説(仕訳例と税務上の注意点を具体的に解説)
金融に関心のある方が混同しがちな概念として、「有価証券の減損」と「固定資産の減損会計」があります。両者は名称が似ていますが、適用される会計基準も判断ロジックも大きく異なります。
固定資産の減損会計は、「固定資産の減損に係る会計基準」(2002年設定)に基づき、設備・土地・のれんなどの固定資産を対象としています。収益を生み出す能力が著しく低下した場合に、資産グループ単位でキャッシュ・フローを見積もって帳簿価額との比較を行うという複雑なフローが求められます。
一方、有価証券の減損は、時価や実質価額の下落率という比較的シンプルな指標が出発点です。保有銘柄ごとに判定し、著しい下落と回復可能性の有無によって処理するかどうかが決まります。
それぞれの主な相違点を整理すると以下のとおりです。
| 比較項目 | 有価証券の減損 | 固定資産の減損会計 |
|---|---|---|
| 根拠基準 | 金融商品会計基準(第10号) | 固定資産の減損基準(2002年) |
| 主な対象 | 株式・債券など有価証券 | 設備・土地・のれんなど |
| 判定指標 | 時価・実質価額の下落率 | 将来キャッシュ・フロー等 |
| 戻し入れ | 日本基準では禁止 | 日本基準では禁止 |
| 税務上の扱い | 条件次第で損金算入可 | 原則として損金算入不可 |
固定資産の減損損失は、原則として税務上の損金に算入されません。この点は有価証券の評価損(条件を満たせば損金算入可能)と異なる重要な相違点です。
意外ですね。
類似の用語に引っ張られて会計処理を誤ることがないよう、両者の基準と対象資産の違いをしっかり区別しておくことが大切です。
最後に、有価証券の減損処理を正確に行うために確認しておきたいポイントを整理します。年度末の決算作業に向けた自己チェックとして活用してください。
保有目的区分の確認
- 保有するすべての有価証券の目的区分を取得時に正しく設定しているか
- 区分の変更が必要な事情が生じていないか(変更は原則禁止)
著しい下落の判定
- 各銘柄の取得原価と期末時価・実質価額を比較し、下落率を算出しているか
- 下落率30〜50%の帯域に該当する銘柄について、自社で設定した合理的な基準を適用しているか
- 30〜50%帯域の判定基準は文書化されているか
回復可能性の検討
- 著しい下落と判定した銘柄について、1年以内の回復見込みを合理的な根拠で示せるか
- 時価のない株式については、5年以内の回復を裏付ける事業計画を入手しているか
税務との整合性確認
- 会計上の減損処理が税務上の損金算入要件を満たしているか
- 完全支配関係にある清算中・解散見込み子会社の株式について、損金不算入になる可能性を確認しているか
最新基準への対応
- 2025年10月公表の改正金融商品会計基準公開草案(予想信用損失モデル)の内容を把握しているか
- 特に金融機関においては、ECLモデル対応のシステム・体制整備を早期に検討しているか
これらをすべて確認できていれば問題ありません。決算期を迎える前に、社内の担当部署と外部の会計士・税理士との間で、判定基準や証拠書類の水準についてあらかじめすり合わせておくことが、トラブルを防ぐうえで最も効果的です。
企業会計基準委員会(ASBJ)|金融商品に関する会計基準(最新の基準改正状況と公開草案を確認できる公式ページ)
以上のリサーチ内容をもとに、記事を生成します。