

在庫が値下がりしているのに、帳簿価額のまま申告すると法人税を余分に払うことになります。
棚卸資産の評価損とは、期末時点で商品・原材料・製品などの在庫(棚卸資産)の時価が帳簿価額(取得原価)を下回った場合に、その差額を損失として計上する会計処理のことです。会計上は「低価法」と呼ばれる評価方法に基づいており、取得原価と正味売却価額のどちらか低い方を在庫の評価額として採用します。
税務上の基本ルールは「原則として損金不算入」です。これが多くの人が見落とすポイントになります。
法人税法第33条では、資産の時価が下落したとしても、原則として評価損を損金算入することは認めていません。なぜかというと、恣意的な評価損の計上による課税逃れを防ぐためです。例えば、利益が出そうな決算期に「在庫を安く見積もった」として評価損を無制限に計上されてしまうと、課税の公平性が保てなくなってしまいます。
つまり損金算入が原則ということです。
ただし、例外的に損金算入が認められる場合があります。それが法人税法施行令第68条第1項第1号に定める「特定の事実」が生じた場合です。この例外規定の中身を正確に理解しておくことが、棚卸資産の評価損と税務を扱ううえでの最重要ポイントになります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 会計上の原則 | 低価法を適用し、時価が取得原価を下回った場合は評価損を計上する |
| 税務上の原則 | 評価損は損金不算入(損金算入されない) |
| 税務上の例外 | 特定の事実が生じた場合に限り、損金算入が認められる |
会計と税務でルールが異なるため、決算書に評価損を計上していても、それが税務上の損金として認められるかどうかは別問題です。この会計と税務の「ズレ」を理解しておくことが、正確な税務処理の第一歩です。
参考リンク(国税庁・棚卸資産の評価損の詳細通達)。
法人税基本通達9-1-4・9-1-5・9-1-6など棚卸資産の評価損に関する通達が掲載されています。
税務上、棚卸資産の評価損が損金算入として認められるのは、法人税法施行令第68条第1項第1号に規定された「次の事実が生じたこと」が前提になります。具体的には以下の3つです。
それぞれについて、具体的な内容を見てみましょう。
① 災害により著しく損傷した場合
台風・地震・火災などの自然災害や事故によって、商品や原材料が滅失または大きく損壊した場合が該当します。例えば、台風で倉庫が浸水して仕入れた商品が水浸しになってしまったケースや、火災で一部の製品が焼損したケースが典型例です。損傷の「著しさ」が要件になるので、軽微なダメージでは認められません。写真や被害状況の報告書など、客観的な証拠資料を揃えることが重要です。
② 著しく陳腐化した場合
これが実務上、最も多く使われる要件です。法人税基本通達9-1-4では「著しく陳腐化したこと」の意味を次のように示しています。「棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあること」です。
具体的な例示は以下の2つです。
陳腐化が条件です。
③ イ又はロに準ずる特別の事実
法人税基本通達9-1-5では、準ずる特別の事実の例として「破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったこと」を挙げています。例えば、長期間棚ざらしになったことで色あせや変形が生じた商品、賞味期限が迫った食品などがここに含まれます。
重要なのは「通常の方法で販売できなくなった」という点です。単に売れ行きが悪いというだけでは不十分で、通常価格での販売自体が困難になっていることが求められます。
評価損が損金算入できないケースを知っておくことも、同じくらい大切です。
法人税基本通達9-1-6は「棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、評価損の計上は認められない」と明確に定めています。これは税務調査でも頻繁に指摘されるポイントです。
認められないケースの代表例をまとめると次のようになります。
特に注意が必要なのが「流行遅れ」と「陳腐化」の線引きです。流行遅れになっただけでは不十分で、「今後通常の価格では売れないことが実績等から明らか」であることが必要です。「なんとなく売れそうにない」という主観的な判断では、税務調査で否認される可能性が高くなります。
否認されると追徴課税のリスクがあります。
また、よくある誤解として「値引きセールで安く売ったから評価損を計上できる」と考えるケースがあります。ただし、バーゲンセールをしたという事実だけでは不十分です。物価変動・過剰生産が理由のセールは、評価損の事由には該当しません。売り方の問題と在庫価値の客観的な下落は、税務上は別物として扱われます。
参考リンク(評価損の注意点や損金算入条件の詳細)。
評価損を損金算入するための条件と証明資料について実務的に解説されています。
ミツモア|【税理士監修】棚卸資産(在庫)の評価損とは?損金算入する条件とは
評価損が損金算入として認められるためには、「事実の存在」だけでなく「適切な会計処理(損金経理)」がセットで必要です。これは非常に重要な論点です。
損金経理の必須要件
法人税法第33条第2項には、「損金経理によりその帳簿価額を減額したときは」という要件があります。つまり、期末に評価損を計上する場合は、帳簿上で正式に帳簿価額を引き下げる仕訳処理をしなければなりません。
実際の裁決事例(出版業者・平成23年3月25日)では、価値がほぼないと判断した商品を棚卸資産としてカウントせず申告した法人に対し、国税不服審判所は「評価損の損金算入を認めない」と判断しました。理由は、損金経理による帳簿価額の減額が行われていなかったからです。在庫を帳簿に計上すらしていないやり方は、法人税法33条の要件を満たさないのです。
損金経理が条件です。
低価法の届出が必要なケース
棚卸資産の評価方法として「低価法」を採用する場合は、税務署への届出が必要です。届出がない場合、税務上は「最終仕入原価法による原価法」が自動的に適用されます(法人税法施行令第31条)。低価法を選択していないのに評価損を損金算入しようとしても、認められません。
届出の期限は次のとおりです。
なお、一度低価法を選択すると、原則として3年間は変更できません。これも覚えておきたい点です。
根拠資料の整備
棚卸資産評価損は課税所得を減少させるため、税務調査で指摘されやすい項目です。損金算入が否認されないためには、以下の2点の根拠資料を整備しておく必要があります。
| 確認項目 | 必要な資料例 |
|---|---|
| 評価損が発生した理由 | 新製品カタログ、在庫品の写真、販売実績の推移表、災害状況の報告書など |
| 期末時点の時価の根拠 | 中古市場・ネット市場の価格表、顧客からの見積書、在庫セールの価格資料など |
これらが不十分だと、「根拠がない過大計上」と判断され、損金不算入とされるリスクがあります。証拠はできるだけ期日や作成者を明記して整理しておきましょう。
参考リンク(低価法の選択手続きと実務について)。
低価法の届出方法、評価損の計算・仕訳、翌期の戻し入れ処理まで詳しく解説されています。
小谷野税理士法人|低価法なら評価損を損金算入できる!原価法との違いや仕訳を解説
評価損を正しく活用すれば、実質的な節税効果が生まれます。これは使えそうです。
例えば、取得原価100万円の商品が著しく陳腐化して時価70万円になった場合、差額の30万円を評価損として損金算入できます。法人税率が33%の場合、30万円 × 33% = 約9.9万円の節税効果になります。評価損を100万円計上できれば約33万円の節税が見込めます。これは実際にキャッシュが出ていかない「会計上の費用」で節税できる点が大きな特徴です。
また、在庫価値の適正な評価は財務諸表の信頼性向上にもつながります。在庫を実態に即して評価している企業は、金融機関から「会計の透明性が高い」と見られやすく、融資審査で有利になるケースもあります。在庫過大計上による資産水増しを嫌う銀行も少なくないため、評価損の計上は単なる節税にとどまらず、財務の健全化という観点からも有効です。
翌期の「戻し入れ」に注意
低価法を採用している場合、翌期首に前期に計上した評価損を「戻し入れ(棚卸資産評価損戻入益)」として処理し直す必要があります。これは「洗替法」と呼ばれる処理で、各期の損益を独立して管理するために行います。戻し入れを忘れると、翌期に利益が急増し、かえって税負担が増えることがあります。
仕訳の流れは次のとおりです。
過大計上のリスクも忘れずに
短期的な節税を目的として評価損を過大に計上するのは危険です。税務調査で否認された場合は、過少申告加算税(原則10%、一定額超の場合は15%)や延滞税が課される可能性があります。
また、評価損の算入ミスが判明した場合は修正申告、逆に計上漏れの場合は「更正の請求」で対応できますが、更正の請求には5年以内という期限があります。
評価損と廃棄損の区別も実務上重要です。実際に在庫を廃棄した場合は「棚卸資産廃棄損」として処理します。廃棄損は廃棄の事実(廃棄証明書、写真など)があれば損金算入が認められる一方で、単に評価損として計上した場合は上記の条件を満たさなければなりません。両者を混同すると、誤った税務申告につながります。
参考リンク(評価損の節税活用と注意点の詳細)。
評価損を活用した節税メリット・注意点・根拠資料整備のポイントが実務的にまとめられています。