総合課税と申告分離課税の選択で配当の税負担を最適化する方法

総合課税と申告分離課税の選択で配当の税負担を最適化する方法

総合課税と申告分離課税の選択が配当の手取りを大きく左右する理由

所得税が減っても、あなたの手取りが増えるとは限りません。


📋 この記事の3つのポイント
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課税方式は3択。選び方で税額が大きく変わる

配当金には「申告不要(源泉徴収)」「総合課税」「申告分離課税」の3つの課税方式がある。課税所得が695万円以下かどうかで、どの方式が最も有利かが変わる。

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所得税が減っても国民健康保険料が増えることがある

確定申告で配当を申告すると合計所得金額が増加し、国民健康保険料が跳ね上がるケースがある。「税金は2万円減ったが保険料が7万円増えた」という事例も実務上存在する。

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申告分離課税なら損失と配当を相殺して還付が受けられる

申告分離課税を選択すると、上場株式等の譲渡損失と配当所得の損益通算が可能になる。さらに通算しきれなかった損失は最長3年間繰り越せる。


総合課税・申告分離課税・申告不要の3方式を配当で比較する


上場株式等の配当金には、大きく3つの課税方式が用意されています。最もシンプルなのが「申告不要制度源泉徴収)」で、何もしなくても配当支払い時に所得税15.315%と住民税5%の合計20.315%が天引きされ、手続きは完了します。


一方、確定申告をする選択肢として「総合課税」と「申告分離課税」の2つがあります。どちらを選ぶかで税額が変わるため、自分の状況に合わせて判断が必要です。これが原則です。


3方式の主な違いをまとめると以下のとおりです。


課税方式 税率 配当控除 損益通算 合計所得金額への算入
申告不要(源泉徴収) 一律20.315% 算入されない
総合課税 累進課税(5〜45%)+住民税10% 算入される
申告分離課税 一律20.315% 算入される


ここで重要なのが「合計所得金額への算入」の列です。申告不要制度を選べば配当は合計所得金額に含まれませんが、総合課税・申告分離課税のいずれかで確定申告すると含まれます。これが後述する国民健康保険料扶養控除への影響につながります。つまり税率だけで判断するのは危険です。


なお、国税庁の公式ページにも課税方式ごとの取り扱いが整理されています。


上場株式等の配当等に係る課税方法の詳細(国税庁)。
https://www.keisan.nta.go.jp/r3yokuaru/cat2/cat21/cat215/kazeihoho.html


配当を総合課税で申告すると受けられる「配当控除」の仕組み

総合課税を選択したときの最大のメリットが「配当控除」です。企業の利益にはすでに法人税が課されており、その後に株主が受け取る配当にさらに税金がかかるのは二重課税にあたります。この不合理を調整するための仕組みが配当控除で、確定申告で総合課税を選択した場合にのみ適用されます。


配当控除の控除率は、課税総所得金額が1,000万円以下の場合、所得税10%・住民税2.8%(合計12.8%)です。計算式はシンプルで「配当所得の金額 × 配当控除率」です。


課税所得ごとに総合課税の実質的な税率(所得税+住民税 − 配当控除)を整理すると以下のようになります。


課税所得金額 源泉徴収税率 総合課税の正味の税率 判定
195万円以下 20.315% 約2.1% ✅ 総合課税が有利
195万円超〜330万円以下 20.315% 約7.2% ✅ 総合課税が有利
330万円超〜695万円以下 20.315% 約17.4% ✅ 総合課税が有利
695万円超〜900万円以下 20.315% 約20.5% ❌ 源泉徴収のほうが有利


課税所得695万円以下であれば、総合課税を選んで確定申告するほうが税負担は小さくなります。これが「695万円の壁」と呼ばれる判断基準です。


具体例で見てみましょう。年収600万円(課税所得約280万円)のAさんが年間20万円の配当金を受け取った場合、申告不要制度では約40,630円の税額になります。一方、総合課税と配当控除を活用すると約14,400円に圧縮できます。差額は約26,000円です。東京から大阪への往復新幹線代(約29,000円)に相当する額が戻ってくるイメージです。これは使えそうです。


ただし、外国株式の配当金・J-REITの分配金・申告分離課税で申告したものは配当控除の対象外になります。国内上場株式の配当金が主な対象です。この点は見落としがちです。


配当を申告分離課税で選択すると使える損益通算と繰越控除の具体的なメリット

申告分離課税を選択すると、「上場株式等の譲渡損失との損益通算」が使えるようになります。これは総合課税にはない特典です。


例えば、A証券で株式を売却して50万円の損失が出て、B証券から20万円の配当金を受け取った年があったとします。この場合、申告分離課税で確定申告すると、損失50万円と配当20万円を相殺でき、差し引き30万円の損失が残ります。配当にかかった源泉徴収税(約4万円)が還付されます。申告しなければそのまま消えてしまう税金です。


さらに、損益通算しても相殺しきれなかった損失は「翌年以降3年間の繰越控除」が使えます。仮に2024年に100万円の損失が発生し、2025年に50万円の配当所得・株式譲渡益があった場合、繰越損失100万円から50万円を差し引き、2025年の課税はゼロになります。残り50万円の損失はさらに2026年・2027年に繰り越せます。繰越控除が条件です。


活用シーン 必要な選択肢 効果
株式の損失と配当を相殺したい 申告分離課税 源泉徴収分が還付
今年の損失を来年以降に繰り越したい 申告分離課税+毎年継続申告 最長3年間の節税効果
課税所得が低く配当控除を使いたい 総合課税 税率が2〜17%台に圧縮


注意すべき点があります。損益通算(申告分離課税)と配当控除(総合課税)は同時に使えません。どちらか一方しか選択できないため、「損失がある年は申告分離課税、損失がない年は総合課税」という使い分けが実務的な戦略になります。繰越控除を使いたい場合は、損失が出た年から連続して確定申告が必要な点も覚えておきましょう。


配当控除と損益通算の使い分けについて詳しく解説されている参考記事。
https://koyano-cpa.gr.jp/nobiyo-kaikei/column/7255/


配当の申告で税金が減っても国民健康保険料・扶養控除が悪化する落とし穴

ここが最も注意すべきポイントです。確定申告で配当を申告すると「合計所得金額」が増加します。申告不要制度では合計所得金額に含まれなかった配当所得が、総合課税・申告分離課税どちらを選んでも加算される仕組みです。この増加が、複数の制度に連鎖的な影響を与えます。


🔴 落とし穴①:国民健康保険料が跳ね上がる


国民健康保険料は「総所得金額等」をベースに計算されます。配当を申告すると、この金額が増え保険料も増加します。自治体によって計算率は異なりますが、所得増加分の約14%前後が保険料に上乗せされるイメージです。


実際のケースとして「株の損益通算で所得税・住民税が2万円戻った一方で、国民健康保険料が7万円増えた」という例が実務上報告されています。税金だけ見て申告すると、かえって手取りが5万円減る計算になります。痛いですね。


🔴 落とし穴②:扶養控除・配偶者控除が外れる


扶養に入っている家族(配偶者・子ども・親など)が投資で配当を得ていて、確定申告で申告すると、その人の合計所得金額が増加します。扶養控除の適用要件(所得48万円以下など)を超えてしまった場合、扶養を外れ、扶養している側の税負担が増えます。


例えば、扶養している親の所得税率が23%の場合、扶養控除(38万円)が使えなくなると年間約8万7千円の増税になります。子どもの投資の税還付が数千円でも、世帯単位では大きなマイナスです。


🔴 落とし穴③:住宅ローン控除が消える致命的パターン


住宅ローン控除には「合計所得金額2,000万円以下」という要件があります。配当を申告した結果、わずかでもこの上限を超えると、その年の住宅ローン控除がゼロになります。例えば「配当の申告で税金が2万円減ったが、住宅ローン控除(年間31.5万円)が丸ごと消えた」という最悪のパターンも起こりえます。


これらの落とし穴を避けるには、申告前に国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で所得税・住民税の試算を行い、加えてお住まいの市区町村のサイトで国民健康保険料も試算することが重要です。税金だけの計算に注意すれば大丈夫です。


落とし穴をわかりやすく解説している参考記事(税理士による詳解)。
https://nagai-consulting.com/stock-dividend-mutualfund-tax-return/


配当の課税方式を自分で判断するためのシミュレーション活用と独自の視点:「外国株投資家が見落としがちな盲点」

実は、外国株式の配当金だけを受け取っている投資家には、ここまで解説した「総合課税で配当控除」という選択肢が最初から存在しません。外国株式の配当金は、配当控除の対象外です。つまり外国株投資家の選択肢は実質「申告不要」か「申告分離課税(損益通算目的)」の2択に絞られます。これだけ覚えておけばOKです。


同様に、J-REITの分配金や外貨建ての投資信託分配金なども配当控除の対象外です。個別株投資家と投資信託・REIT投資家では最適な課税方式が根本的に異なることを覚えておきましょう。


国内株式投資家が自分の最適な方式を判断する流れは以下のとおりです。


  • 📌 ステップ1:課税所得を把握する 年収から給与所得控除・社会保険料控除基礎控除などを差し引いた課税所得を確認する。695万円以下かどうかが最初の分岐点。
  • 📌 ステップ2:損失の有無を確認する その年・または過去3年以内に株式等の譲渡損失があれば、申告分離課税で損益通算・繰越控除を活用するほうが有利なケースが多い。
  • 📌 ステップ3:国民健康保険加入者かどうかを確認する 給与所得者で健保加入なら影響は小さいが、自営業フリーランス・退職後の方は国民健康保険料の増加額を必ず試算する。
  • 📌 ステップ4:扶養・住宅ローン控除の適用状況を確認する 配偶者控除・扶養控除・住宅ローン控除を受けている場合は、申告による合計所得金額の増加が控除の消失につながらないかを確認する。


こうしたシミュレーションを手軽に行いたい場合、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」(無料)が利用できます。入力フォームに従うだけで税額の目安が算出できます。さらに複雑なケース(国民健康保険料・住宅ローン控除・扶養への影響を一括確認したいなど)は、税理士に相談するのが最短ルートです。


国税庁の確定申告書等作成コーナー(無料シミュレーション)。
https://www.keisan.nta.go.jp/


三菱UFJモルガン・スタンレー証券による配当課税の詳しい解説(FP監修)。




個人事業の経理と節税