

給与から毎月天引きされている所得税、その金額は「確定した税額」ではなく仮の金額です。
所得税は「年収全体」にかかる税金ではありません。これが基本です。
給与をもらっている会社員の場合、計算の出発点は「給与収入」ですが、そこから2段階の控除を差し引いた後の金額(課税所得)に、初めて税率が掛けられます。この流れを知らないと、自分が実際にどれだけ税を払うべき立場なのかを正確に把握できません。
所得税の計算の大まかな流れは以下の通りです。
| ステップ | 計算内容 |
|---|---|
| ① | 給与収入 ー 非課税手当(通勤交通費など)= 課税対象給与 |
| ② | 課税対象給与 ー 給与所得控除 = 給与所得 |
| ③ | 給与所得 ー 所得控除(基礎控除・社会保険料控除など) = 課税所得 |
| ④ | 課税所得 × 税率 ー 速算控除額 = 所得税額 |
| ⑤ | 所得税額 × 1.021 = 復興特別所得税込みの税額 |
「給与所得控除」はサラリーマン版の経費控除です。仕事をするうえで必要な支出(スーツ代・資料代など)を個別に申告しなくても、収入金額に応じて一定額が自動的に差し引かれる仕組みです。
2025年(令和7年)の税制改正により、給与所得控除の最低保障額が従来の55万円から65万円に引き上げられました。年収190万円以下であれば一律65万円が控除されます。年収が400万円の場合、給与所得控除は「400万円 × 20% + 44万円 = 124万円」です。
給与所得控除の計算表(2025年分)
| 給与収入 | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 190万円以下 | 65万円 |
| 190万円超〜360万円以下 | 収入 × 30% + 8万円 |
| 360万円超〜660万円以下 | 収入 × 20% + 44万円 |
| 660万円超〜850万円以下 | 収入 × 10% + 110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
なお、通勤手当は月額15万円まで非課税です。ここを超えると課税対象に入ってくるため、通勤距離が長い方は要確認です。
給与所得控除が確認できたら、次は「所得控除」です。これは個人の事情(扶養・保険・医療費など)に応じて追加で差し引ける金額で、適用されるかどうかは人によって異なります。所得控除を差し引いた残りが課税所得になります。つまり課税所得が原則です。
参考:給与所得控除の詳細は国税庁の公式ページで確認できます。
計算の流れが理解しやすいよう、年収500万円の会社員(独身・社会保険料年間約72万円・基礎控除のみ適用)を例に、実際の数字で確認します。
【例:年収500万円・独身・2025年分】
これが意外と少ない、と感じる方もいるかもしれません。年収500万円に対して所得税は約13万円前後というのが2025年分の水準感です。
所得税の税率は「超過累進課税」という仕組みを採用しており、課税所得が高くなるほど税率が段階的に上がります。大切なのは、課税所得全体に高い税率がかかるのではなく、一定額を超えた超過分だけに高い税率が適用される点です。
所得税の速算表(国税庁)
| 課税所得金額 | 税率 | 速算控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
| 1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
速算表の使い方はシンプルです。課税所得に税率を掛け、速算控除額を引くだけ。先ほどの例で言えば、課税所得226万円 × 10% ー 97,500円 = 128,500円と求められます。これは使えそうです。
なお、表には登場しない「復興特別所得税」が算出税額にさらに2.1%上乗せされます。2013年から2037年まで続くこの税は、東日本大震災の復興財源です。給与明細上では所得税と合算されているため気づきにくいですが、「所得税 × 1.021」が実際の源泉徴収額の計算ベースになっています。
参考:所得税の税率の詳細は国税庁ページで確認できます。
給与から毎月天引きされる所得税は、厳密には「仮払い」です。
会社は国税庁が配布する「源泉徴収税額表(月額表)」を使い、その月の給与と扶養親族の人数に応じた概算の税額を徴収します。月収20万円、社会保険料控除後、扶養なし(甲欄)の場合、源泉徴収税額は約3,000円台になります。一方、扶養控除等申告書を提出していない場合は「乙欄」が適用され、税額が大幅に増えます(約11,700円)。これは痛いですね。
毎月の源泉徴収額はあくまで概算なので、1年間の給与総額が決まらないと正確な税額は出ません。そこで年末に「年末調整」が行われます。
年末調整の流れは以下の通りです。
多くの会社員は「払いすぎ」になるため、年末調整で還付を受けます。主な理由は、途中で控除が増える(保険料控除・配偶者控除など)ためです。逆に、年の途中で昇給や賞与が多かった場合は追加徴収になることもあります。
会社員の場合、年末調整で対応できない控除が3種類あります。これが条件です。
これらを使いたい場合は、翌年2月16日〜3月15日の確定申告期間に自分で申告する必要があります。申告漏れがあると控除が受けられないため注意が必要です。
参考:年末調整の精算の仕組みは国税庁ページに詳しい解説があります。
所得控除は15種類以上あります。これだけ覚えておけばOKです。
税を減らすためには課税所得を下げる必要があり、そのために所得控除を最大限活用することが重要です。会社員でも適用される控除は多く、申告漏れが発生しやすいものが複数あります。
年末調整で対応できる主な所得控除
| 控除の種類 | 主な適用条件と控除額の目安 |
|---|---|
| ✅ 基礎控除 | 合計所得2,350万円以下の全員対象。2025年分は最大95万円(改正前48万円) |
| ✅ 社会保険料控除 | 健康保険・厚生年金など支払い全額が対象 |
| ✅ 生命保険料控除 | 一般・介護医療・個人年金それぞれ最大4万円(合計最大12万円) |
| ✅ 配偶者控除 | 配偶者の年間所得48万円以下・本人所得1,000万円以下で最大38万円 |
| ✅ 扶養控除 | 16歳以上の扶養親族1人につき38万円〜63万円 |
| ✅ 地震保険料控除 | 年間保険料最大5万円まで全額控除 |
2025年の大きな変更点は「基礎控除」です。従来は一律48万円でしたが、合計所得金額に応じて最大95万円まで引き上げられました。給与収入が低めの方ほど基礎控除の恩恵が大きくなります。
また見落とされがちなのが「iDeCo(個人型確定拠出年金)」を利用した場合の「小規模企業共済等掛金控除」です。掛金の全額が所得控除の対象になります。毎月2万3,000円(会社員の上限)掛けた場合、年間27万6,000円が丸ごと課税所得から引かれます。
課税所得に対して税率20%なら約5万5,000円の節税、所得税率10%でも約2万7,600円の効果が生まれる計算です。これは使えそうです。
なお、確定申告が必要な医療費控除は申告し忘れている人が多いです。年間医療費が10万円を超えていれば(または所得の5%を超えていれば)、超えた分を課税所得から差し引けます。過去5年分まで遡って還付申告できるため、申告漏れに気づいたら早めに手続きを取ることが大切です。
参考:所得控除の種類については国税庁の詳細ページを確認しましょう。
「サラリーマンに経費はない」というのは、実は正確ではありません。
特定支出控除という制度を使えば、会社員でも一定の仕事関連支出を所得から差し引けます。具体的には、以下の支出が対象です。
適用のカギは、これらの合計が「給与所得控除額の2分の1」を超えること、そして勤務先が証明書を発行してくれることです。会社のハンコが必要な点がハードルになりますが、研修費や資格試験費用は証明を得やすいです。つまり交渉次第で使えます。
さらに2025年(令和7年)の税制改正では新たに「特定親族特別控除」が創設されました。19歳以上23歳未満の扶養家族(大学生など)が年収58万円超123万円以下で働いている場合、最大63万円の控除が受けられます。アルバイトをする子どもがいる家庭では見逃せない変更です。
2025年税制改正の主なポイントまとめ
| 変更項目 | 改正前 | 改正後(2025年分) |
|---|---|---|
| 給与所得控除(最低保障額) | 55万円 | 65万円 |
| 基礎控除(合計所得132万円以下) | 48万円 | 95万円 |
| 所得税が発生する年収ライン | 103万円 | 160万円(2025)→ 178万円(2026) |
| 特定親族特別控除 | なし | 最大63万円(新設) |
2026年分からはさらに控除が拡大されます。給与所得控除の下限が74万円、基礎控除が最大104万円になるため、所得税が発生する年収の壁は178万円まで引き上げられます。
節税という言葉は難しく聞こえますが、実態は「申告すれば引けるものを確実に引く」というだけのことです。制度の理解が手取りに直結します。結論はシンプルです。
参考:2025年度の税制改正による所得税への影響は国税庁の公式ページで詳しく確認できます。
令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁